第百五十九話 トリステンとニナ その二
≪リゼ視点≫
「ニナ、元気にしていたみたいで安心しました…」
「リゼとロゼが元気だったのは、あたいも嬉しかったのさね」
エルレイ様が気を利かして下さり、ニナと二人っきりで話す機会を得ました。
ニナと再会できるとは思っても見なかったので、非常に嬉しいです!
エルレイ様と私を襲った件に関しては許しがたい事ですが、エルレイ様が許すのであれば私もそうするしかありません。
「積もる話は色々ありますが、本当に逃げ出して来たのですか?」
「本当さね。あたいが二人に嘘を吐く事は無いのさね。
それに、リゼとはもう二度と戦いたくは無いのさね…」
「信じますよ」
ニナの目は嘘を言っていませんし、私達三人はお互いを信じ合う事で生き延びて来たのですから…。
「所で、リゼとロゼはお城で働いているのではなかったのさね?」
「色々あって、ニナと同じようにあの国から逃げ出してきたのです」
「そうだったのさね…でも、こうして再会できたのだかよかったのさね!」
「そうですね…今ではあの国を出て来て本当に良かったと思っていますし、ニナとも会えたのですから…」
私はニナを抱き寄せ、力一杯抱きしめました…。
「痛いのさね…」
「ニナ、本当に…本当に…無事でよかったです…」
「あたいもリゼとロゼが無事に生きていたことが、本当に嬉しいのさね…」
ニナも私を強く抱きしめて来て、お互いの体温を感じ取り、生きている事を実感しました…。
ニナとロゼとは、こうしてお互いを抱きしめ合う事で生き延びて来ましたから…。
「これからはまた三人で暮らして行けるのさね」
「そうしたい思いは私にもありますが、今の私とロゼはエルレイ様にお仕えしていますので一緒に暮らすことは出来ません」
「それは残念さね…」
私はニナとの抱擁を解いてニナと向き合うと、ニナは凄く落ち込んでいました。
「ニナ、一緒に住むことは出来ませんが、近くにいる事には変わりありません」
「そうさね…」
「時間が空けば、このように会う事も出来ますし、これからは一緒にエルレイ様をお守りして行きましょう!」
「それがあたいの仕事のようだし、頑張って行くのさね!」
ニナともう一度抱きしめ合い、エルレイ様が来るまで二人でこれまでの事を話し合いました…。
≪トリステン視点≫
俺はエルレイ様と一緒に詰め所を出ると、ニナとリゼが楽しそうに会話しているのが遠くからも良く分かった。
邪魔しては悪いかと思ったのだが、エルレイ様が気にせず近づいて行ったので俺も仕方なく続いて行った。
俺としては、出来ればもう少し時間を置きたかったのだがな…。
俺の心臓は今までにないくらい激しく鼓動している!
戦場で死線を潜り抜けた時も、ここまで激しく鼓動した事はなかっただろう…。
なぜなら、俺はこれからニナに告白しなければならないのだからな!
エルレイ様の前で格好いい事を言ってしまったのを後悔している…。
俺は今まで女性に告白した事など無い。
酒場で女性から告白された事はあったが、その時はまだアイロス王国軍に所属していて、いつ死んでもおかしくない状況だったから断っていた。
今思うと、こんな想いをしながら告白してくれた女性には非常に申し訳なく思う。
エルレイ様にニナの恋人になれと言われて真っ先に頭に浮かんだのは、昨夜のニナの風呂上がりの姿だった。
ニナはあのような場所にいたせいで薄汚れていたが、風呂上がりのニナは色っぽくて可愛かった…。
「隊長!あの女可愛いっすね!」
「あれは隊長の恋人ですか?」
「俺好みの女だ!」
「散れ散れ!見世物じゃないぞ!」
独身男性ばかりのここに住まわせるのは危険すぎる!
暗殺者だったニナなら襲われても抵抗できるかもしれないが…いや、むしろそっちの方が危険で隊員の命を保証できない。
俺が守らなくてはいけないな!
「あたいが寝る部屋は何処なのさね?」
風呂上がりのニナが俺に近づいて来ると、ニナからはとてもいい匂いが漂って来て、俺までも襲いたい衝動に駆られてしまう。
いかんいかん!俺は気を引き締め直し、ニナから半歩離れて指示を出した。
「この部屋を使ってくれ。警備隊の制服はベッドの上に置いてあるから、明日の朝にはそれに着替えてくれ」
「ありがとうさね!」
ニナはにっこりと微笑んでくれた後、部屋に入って行った…。
あの笑顔は反則だろう…。
今思えば、あの時から俺はニナに
それならば、俺はその気持ちをニナに伝えるだけだ!
一歩一歩とニナに近づいて行く。
心は決まったが、どの様に話していいのかが分からない。
戦場では常に冷静な判断をし、的確な判断を下していたはずだが、こと恋愛においては新兵もいい所だな…。
しかし、戦火はもう間もなく切り開かれる。
新兵らしく、勢いに任せて突っ込むしかない!
「リゼ、ニナ、楽しく話しているみたいだが少しいいか?」
「はい、大丈夫です」
「なにさね?」
エルレイ様が二人の会話に割って入り、ニナが会話を邪魔されて少し嫌そうな表情をしていたが、エルレイ様はそんな事は気にせず話を続けた。
「ニナには警備隊で働いて貰うのだが、知っての通り男しかいない。
問題が起きてからでは困るので、その前に手を打ちたいと考えている」
「あたいなんかを好きになる男なんていないから、問題は起こりえないのさね」
「そうでもないと思うぞ?」
「ふん、それであたいはどうすればいいのさね?」
エルレイ様の話を聞いて、ニナの機嫌がみるみるうちに悪くなっていく。
その状況でエルレイ様は俺に目で合図して来た!
せめて、もう少しニナの機嫌をいい状態にして貰いたかった…。
だが、迷っている時間は無い!
俺は息を大きく吸い、ニナに気持ちを伝えた!
「ニナ!俺と結婚してくれ!」
「……」
ニナは俺の告白を聞いて固まってしまっている。
いきなり結婚は不味かったか…?
だが、新兵の俺には回りくどいやり方は似合わないし、後悔もしていない!
「ニナ、おめでとう!」
リゼが、固まっているニナに抱き付き祝福をしていた。
「あ、あたいが結婚?」
「そうですよ!」
ニナは突然の事に驚いている様子だが、俺との結婚を嫌がっていないよな?
「ニナ、改めて言う。俺と結婚してくれ!」
「…あたいはこれまで多くの人を殺して来たのさね。
そんな女は気持ち悪いと思わないのさね?」
「思わない!」
俺だってこれまで多くの人を殺して来た。
人数だけ言えば、敵も味方も俺の命令一つで殺して来た俺の方が圧倒的に多いだろう。
兵士と暗殺者の違いはあれど、死んでいった人の命には変わりは無い。
「…こんなあたいでよければ、よろしく頼むのさね」
ニナは顔を赤らめながら上目遣いでお願いして来た。
その姿がとても可愛らしく愛おしい!
「こちらこそよろしく頼む!」
俺が手を差し出すと、リゼがニナを俺の前に押し出してくれて、ニナが俺の手を取ってくれた。
ニナの手は小さくとても暖かかった。
俺もそうだが、殺めて来た罪は消える事無く自分に重くのしかかって来る。
ニナの罪も、俺が一緒に背負う事が出来る様な関係になれるように努力していくと心に決めた!
≪エルレイ視点≫
トリステンの男気溢れる告白により、ニナとの結婚が決まってしまった。
まさか、いきなり結婚の申し込みをするとは思っていなかったし、それを昨日会ったばかりのニナが受け入れるとも思っていなかった。
二重に驚かされたが、よくよく考えて見ると、俺も似たような感じだったな…。
「トリステン、今日はニナにリアネ城の周囲を案内してやってくれ。
それから、名前の件も二人で考えて決めてくれ」
「はい、分かりました」
「リゼ、僕達は退散する事にしよう」
「はい、ニナ頑張って下さいね!」
「な、何を頑張るのか、わ、わからないのさね…」
リゼの言葉に、ニナは顔を真っ赤にして答えていて、それと同様にトリステンの顔も真っ赤になっていた。
あの様子なら何も心配する事は無さそうだな。
俺はリゼを連れて二人から離れ、エリオット達の勉強を覗き見しに行く事にした…。
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