第百五十七話 孤児達の仕事
俺はリアネ城に戻り、真っ先に孤児達の状況を確認した。
衰弱しているアンナについては、メイドを一人付けて容体に変化が無いか見て貰っていて、何か異常があればリリーに連絡が行く事になっている。
アンナの食事に関しては、スープを少し飲んでくれたと言う事で少しだけ安心した。
食事を全く受け付けないのであれば、対処のしようがなくなっていたからな…。
エリオット達には、男女別々の部屋が与えられ、入浴と食事をした後は直ぐに眠ってしまったとの事だ。
食事をお腹いっぱい食べられて満足したのだろうな。
今日はゆっくりと休んで貰い、明日からはその食事に見合うだけの仕事をして貰わなくてはならない。
しかし、どんな仕事を与えればいいのかはまだ考えついてはいないが、ルリアに殴られない内に考えようと思う…。
俺達も入浴と夕食を終え、自室に戻った後に皆をソファーに座らせた。
「今日一日リアネの街を見て回ったが、それぞれの感想を教えてくれ」
「そうね…色々あって楽しかったけれど、私達の街にしては犯罪が多すぎると思ったわ!
エルレイ、もっと安全な街にしていきなさい!」
「うん、努力するよ」
ルリアの意見には俺も同意するし、改善して行かなくてはならない!
でもすぐには無理なので、地道に少しずつやって行くしかないのだがな…。
「エルレイさん、他にも困っている人達がいたら助けてあげたいと思いました」
「うん、僕も助けたいと思うけど、全員を助けるのは無理だ。
せめて子供達だけも救える様に、何らかの手段を早急に手配するよ」
「はい、お願いします」
どうすれば子供達を救えるのか?
これはアドルフ達に相談するしか無いな…。
「エル、もっと美味いお菓子を作れる店を多くしてくれ!
王都にはその様な店が多くあったし、お土産としていつも誰かが持って来てくれておったぞ!」
「あーうん、それはすぐには難しいな…。
でも、ここの料理人が作ってくれるお菓子は美味しく無いのか?」
「いや、ここの料理人が作るお菓子は美味いぞ!
だが、毎日だと飽きてしまうのだ!」
「なるほど、でも今日連れて来た子供達は、お菓子どころか食事も満足に食べられない状況にいたのだ。
ヘルミーネに…いいや、僕達全員にとって食事を食べられる事は当然の事でも、そうでは無い人達がいる事を知る事が出来た。
贅沢をするなとは言わないが、感謝を忘れない様にしなくてはな!」
「そ、そうだな…今日食べたおばあさんのお菓子も美味しかったぞ!
でも、あの子達はあのお菓子ですら食べられないのだな…」
「うん、でもヘルミーネ安心してくれ。リリーにも言った通り、あのような子供達がいなくなるように僕が頑張るからな」
「うむ、私も手伝うぞ!」
ヘルミーネは王女として生まれたのだから、我儘を言って贅沢な暮らしをするのは当然の事だ。
俺もそれを否定して質素に暮らせとは言わないが、エリオット達の様な子供がいるのをヘルミーネは知ったのだから、感謝を忘れないようにして貰えればいいと思う。
「お姉ちゃんは楽しかったけれど疲れたわね…。
また行きたいとは思うけれど、当分先にして欲しいわね」
「うん、行きたいと言ってもアドルフが許してくれないと思うよ…」
「確かにそうよね。でも、エルレイが活躍して格好いい姿が見られたのはとても嬉しかったわ」
俺が格好良かったかは置いておくとして、インドア派のアルティナ姉さんは歩き回るのを大変そうにしていたからな。
次行く機会があれば、行く場所を決めて短い時間で周ろうと思った。
ロゼとリゼは最後に聞く事にして、先にラウラに聞いて見たのだが…。
「私は、エルレイ様とご一緒させて頂き、皆様に申し訳なく思いました…」
「ラウラ、そんな事は気にしなくて良いのよ!
それより、今日はエルレイと一緒で楽しかったのかしら?」
「はい、それは勿論…あっ、いえ…楽しかったですし…その…幸せでした…」
「そう、良かったわね!」
ルリアがラウラに強引に言わせたような気もしなくも無いが、ラウラが顔を伏せつつ、上目遣いでチラチラと俺の顔を見て来ると言う事は楽しかったという事でいいのだろう。
ラウラは俺の横、つまり先頭にいて怖い思いをさせてしまい悪かったと思っている。
次があれば、ラウラを安全な位置にいさせるような配置を考えなくてはな。
それと、ルリアとヘルミーネを組ませない事も忘れずに覚えておく事にしよう…。
「最後になったがロゼとリゼ、俺達の護衛で大変だった事だろう。
皆を代表して感謝を伝えたい、ありがとう」
俺が二人に感謝を伝えると、ルリア達も一緒に感謝を伝えてくれた。
二人は当然の事をしたまでですと言っているが、人通りの多い場所での護衛ともなると、かなり神経を使い相当疲れたはずだ。
休日を楽しむために街に行ったのだが、二人には休日にはならなかったな…。
次の休日は、何処かゆっくりできる場所に行こうと思う。
「エルレイ様、私達も感謝を伝えたい事があります」
ロゼとリゼは真剣な表情で見て来たので、俺も背筋を伸ばして真剣に話を聞く事にした。
「あの子供達を助けて下さった事を感謝します」
ロゼとリゼが子供達の事で感謝を伝えて来る理由は、何となく想像できている。
しかし、その話はしない方が良いのでは無いだろうか?
ニナとの話の中で出て来た際も、良い表情を見せていなかったしな…。
「いいや、あれは僕が助けたいと思っただけだから気にしなくて良いぞ」
「いいえ、エルレイ様の行動で私達も助けられた気分になりました」
「そうか、アドルフやトリステンとも今後話を詰めて行かなくてはならないが、あのような子供達は保護していきたいと思っている。
出来る限り早く実行できるように努力する」
「「ありがとうございます」」
ロゼとリゼは視線を合わせて喜び合い、俺に深々と頭を下げてくれた。
二人に失望されない様に、出来る限り早く実行しなくてはいけないな。
皆から感想を聞き終え、少し早めに就寝する事となった。
色々あり過ぎた休日だったが、皆が満足してくれたみたいで良かったと思う。
翌朝、朝食を食べた後、真っ先にアンナの容体を見に行って見た。
「昨夜はぐっすり眠られたみたいで、今朝はスープのお代わりもしてくださいました」
「それは良かった!」
アンナの面倒を見てくれているメイドから、アンナの状態が良くなっていると教えられて安心した。
リリーにアンナの魔力を確認して貰ったが、病気が再発している事も無かったし、この調子ならすぐにでも元気を取り戻せるだろう。
その次に訪れたのは、エリオット達が集められていた部屋だ。
先ずは皆にアンナの容態が良くなっていることを報告すると、皆飛び跳ねて喜んでいた。
エリオットはアンナの傍にいたかったみたいだが、傍にいると無理をするだろうと思って分けさせて貰った。
エリオット達も、決して健康だとは言えない状態だからな…。
それでも、まともな食事をしたおかげか、昨日よりかは顔色が良いように思える。
さて、厳しい様だが、その食事に見合うだけの仕事を与えなくてはならない。
エリオット達を遊ばせておくと、俺がルリアとアドルフに叱られてしまうからな…。
俺は姿勢を正し、喜んでいるエリオット達に仕事を与える事にした。
「皆聞いてくれ。僕は君達との約束通り、美味しい食事を食べさせてあげた。
その事はこれからも変わらないので安心してくれ。
しかし、何もしないで食事が食べられるほど甘くないのは、君達が良く知っている事だろう。
僕は君達に食事を与える代わりに、仕事を要求する。
仕事と言っても非常に簡単な事だ。
君達は働いた事は無いだろうから、いきなり難しい仕事は与えないので安心してくれ。
仕事内容は文字の読み書きと計算を覚えて貰う事だ!」
…。
エリオット達は俺の話が理解できなかったのか、固まったまま動かなくなってしまったな…。
それとも、文字の読み書きは出来るのだろうか?
昨日街を回った際に、店の看板や商品に文字は書かれていたし、食堂で食事をした際にも壁にメニューは書かれていた。
市場では文字を見る事は無かったが、あれはフリーマーケットのような物だったからな。
識字率は意外と高いのかも?
「それが仕事なの?」
「そうだ!」
「物を売ったり作ったりするのが仕事なんじゃないのか?」
「そう言う仕事もあるが、君達にはそれは出来ないだろう?」
「うん…」
「なんだ、簡単そうだな!」
「そうね!」
エリオット達は簡単な仕事だと喜んでくれていた。
最終的にはリアネ城の執事とメイドになって貰おうと考えているが、その為には最低限の知識を学んで貰わなくてはならないからな。
「君達に文字の読み書きと計算を教えてれる先生を紹介する!」
俺は手招きをし、三人を俺の横に並ばせた。
「ヘルミーネ先生、アルティナ先生、ラウラ先生だ。
今日から先生たちの言う事をよく聞いて頑張ってくれ!」
俺は三人にエリオット達の事を任せて、部屋を後にした…。
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