第百五十一話 リアネの街へ その四
トリステンの案内で市場にやって来たのだが、予想以上の人混みに驚いてしまった。
「どうする、このまま進むか?」
「そうだな…」
流石にこの人混みの中を進むのは不味そうだが…。
「せっかくここまで来たのだから、見に行くわよ!」
「うむ、当然だ!」
俺が進むのを止めようかと思っていると、ルリアとヘルミーネが率先して進みだした…。
「仕方が無い、大変だとは思うが守りは任せた」
「分かった」
トリステンはすぐさま部下達に指示を出し、俺達を取り囲むような形で守りについてくれた。
「市場とはこの様なものなのだな…」
「あぁ、近隣より集まって来た者達が、持ち寄った物を無料で自由に売り買いできる場所だ」
建物があって、その中で商売しているのは想像していたのだが、青空の下で行われるフリーマーケットだな。
売っているのは野菜、果物、穀物などの食料品だけでは無く、服や日用品と言った様々な物が売られていてかなり賑わっていた。
俺達は人混みの中を、護衛が掻き分けてくれた隙間を通って進んで行く。
お陰で人とぶつかる事無く進めていて、護衛に来てくれた者達には後で特別に褒美を与えたいと思った。
「ここは俺達の縄張りだ!商売したければ場所代を払うんだな!」
「止めてください!お金なんてありません!」
人混みの中を歩いていると、遠くから罵声と悲鳴が聞こえて来た。
「トリステン、あの声は?」
「あぁ、この市場を縄張りにしているゴロツキどもだな」
「そうか、捕まえたりはしないのか?」
商売をしている人の邪魔をしているのであれば、捕まえて当然だと思ったのだが…。
トリステンは頭をかきながら、困った表情で話し始めた。
「まぁ、エルレイが捕まえろと言えば捕まえるが、あいつらはあれで結構役に立っているんだ…。
この市場は誰でも自由に商売が出来るが、場所の取り合いで揉めたりする事もある。
あいつらに金を払っていれば、その揉め事や他のいざこざもも解決してくれるから、やり過ぎないのであれば放置している」
「なるほど…」
やり口が完全にあれだが、必要悪といった感じなのかもしれない…。
俺があいつらを捕まえろと言うのは簡単だが、それをやってしまうと明日から市場の管理を街の警備隊の方でやらなくてはならなくなる。
警備隊からは人員の増強を要望される事になるだろうが、そんな余裕は無いよな?
一応確認してみるか…。
傍に居るアドルフを呼んで耳打ちした。
「アドルフ、警備隊の増強は可能か?」
「残念ながら、その余裕はございません」
「そうか…」
不本意だが、この場は見て見ぬふりをするしかないと思ったのだが…。
「ちょっと貴方達、その人の商売の邪魔をするのはやめなさい!」
「そうだ!弱い者いじめするんじゃない!」
…。
「行くぞ!」
「お、おう!」
俺は慌てて駆け出し現場に向かうと、三人のゴロツキに噛みついてるルリアとヘルミーネの姿があった…。
二人の守りを頼んでおいたロゼは二人の後ろに控えていて、ゴロツキが手出ししてくれば即座に対応に当たる事だろうが、この様な事にならないようにとロゼを付けたのだがな…。
しかし、ルリアとヘルミーネの暴走をロゼ一人に任せるのは無理があったか…。
ルリアとヘルミーネを組ませたのは俺だし、もっと注意しておかなくてはならなかったな…。
「ガキは引っ込んでな!」
「俺達は商売の話をしてるんだぜ!」
ゴロツキ達は、ルリアとヘルミーネに文句を言われて怒ってはいるが、手を出して来る事は無さそうだな。
周囲に人垣が出来ていて見守っているから、子供相手に暴力は振るわないだろう…。
しかし、ルリアの方が先に手を出しそうな雰囲気で危険だ!
ルリアが剣を持っていれば、ゴロツキ三人相手にしても戦えるとは思うが、今は持っていないから厳しいだろう。
ルリアが手を出す前に止めなくては!と思い前に出ようとした。
「エルレイ、ここは任せてくれ!」
「分かった…」
俺が出る前にトリステンが駆けだし、間に割って入った!
「なんだこいつは?」
「流石に見ていられなくてな。子供相手に粋がっても良い事無いだろ?
新参者に決まり事を教えるのは分かるが、やり過ぎるのはどうかと思うぜ。
ここは俺の顔を立てて、大人しく引き下がってくれないか?」
トリステンはおどけたような口調で話しながらゴロツキ立ちに近づき、ゴロツキの手に何かを握らせた…。
「ま、まーそう言う事なら仕方ねぇ。おいお前、次からはちゃんと金を用意しておけよ!
おら!見せもんじゃねーぞ!」
ゴロツキ達は見物人達をかき分けながら、どこかに去って行った。
「助けて頂き、ありがとうございます!」
「お礼を言うならあっちに言いなさい!」
ゴロツキ達に襲われていたのは若い女性で、ルリアとヘルミーネにお礼を言った後トリステンにもお礼を言っていた。
身なりは貧しそうだが礼儀正しくて顔立ちも良かったから、お礼を言われたトリステンは照れながら、この市場での決まり事を若い女性に説明している…。
「待たせたな」
「いいや、元はと言えばあの二人の暴走が悪い。上手く静めてくれてありがとう」
「あーうん、これが仕事だからな…」
トリステンは若い女性の方を気が気になるのか、俺に話しながらもチラチラと様子を窺っているな。
若い女性の方は、ゴロツキ達に荒らされた商品を一生懸命並べなおしていてるな…。
「トリステン、手伝ってあげなさい!」
俺が言う前にルリアに言われ、トリステンは行って来ると言って直ぐに若い女性の手伝いに向かって行った。
俺も困っている女性を見かければ手助けしてあげたいと思うし、そこから恋が芽生える事もあるだろう。
トリステンの恋が上手く行く事を願っている。
「メリエット!襲われていると聞いて慌てて戻って来たが大丈夫か!?」
「あなた!この方達が助けてくれたのです!」
何処からともなく現れた男によって、そんな願いは儚く消えた…。
女性が一人でこれだけの商品を運んで来られるはずも無いか…。
商品を並び終えたトリステンが、引きつった笑みを浮かべながら戻って来た。
「ご苦労…」
「あぁ…」
何とも言えない空気が漂っているが、どんな言葉を掛けても慰めにならないよな…。
ここは黙っているのが一番だろう。
気を取り直して、改めて市場を見て回る事にしよう。
「泥棒だ!誰かそいつを捕まえてくれぇ!」
今度は泥棒か…俺の街は治安が良く無いらしい…。
「エル、捕まえに行くぞ!」
「駄目だ!ルリアも行っては駄目だからな!」
「わ、分かってるわよ!」
ルリアは泥棒を捕まえに行く気だった様だが、今度は止められてよかった…。
「カリナ、二人を見張っていてくれ」
「承知しました!」
カリナなら二人の暴走を止めてくれるだろう。
後は、泥棒を捕まえるかどうかだが…。
「エルレイ、捕まえて来なさい!」
ルリアが俺を睨みつけながら命令して来た。
領主の俺が捕まえに行くのはどうかと思うが、放置すると言う選択肢は無いな。
「分かった、トリステンとロゼ姉さんは俺に着いて来てくれ!」
「おう!」
「はい!」
俺はルリアにラウラを預け、声のした方向へ走って行った!
人混みの中をすり抜けながら走って行くと、大声を張り上げながら泥棒を追いかけている男性がこっちに向かって来ていた。
泥棒は俺の方向に来ているみたいだな…。
俺は立ち止まり、注意して人混みの中を凝視した。
「あいつか!?」
人混みの中を器用にすり抜けて走って来る者を発見した!
手には少し大きめの袋を抱えている事から、あいつが泥棒で間違いなさそうだ。
「トリステン、あいつだ!」
「任せとけ!」
俺が泥棒を指差すと、トリステンが勢いよく飛び掛かって行ってくれた!
「くそっ!」
泥棒は飛び掛かったトリステンをひらりと躱し、方向を変えて逃げ出してしまった。
「追いかけるぞ!」
俺は逃げる泥棒を捕まえるために追いかけていった!
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