第百五十話 リアネの街へ その三

「次はどこに行けばいいか?」

「そうだな。適当に近くの店を見て回る感じかな」

「分かった」

リアネの街に来た理由の一つは、何が売られているのか知るのが目的だからな。

アドルフに調べろと言えばすぐに調べてくれるのだが、実際に見て街の雰囲気とかも感じたかったからな。

特に何か買う訳でもなく、店に入っては商品を眺めては出ていく事を繰り返し、ある程度の店を見て回った。


「エル、疲れた…もう歩けないぞ!」

「そうだな…」

ヘルミーネはあまり運動してないからか、相当疲れているみたいだな。

ルリアとリリーは平気そうだが、アルティナ姉さんとラウラも口には出さないが疲れている様子だ。

普段あまりで歩けないから無理もない事だが…。


「トリステン、休憩できるような所は無いか?」

「そうだな…少し早いが昼食にするのはどうだ?」

「うん、そうしてくれ」

ヘルミーネにはもう少し頑張って歩いて貰い、トリステンの案内で近くにある食堂へとやって来た。


「いらっしゃーい、適当に座ってね!」

食堂に入ると若い女性の元気な声で迎えられ、俺達は空いてる席に適当に座った。

「酒場みたいだな?」

「夜は酒場だが昼は食堂だ。注文はどうする?」

「トリステンに任せるが、辛すぎる物と量が多い物は避けてくれ」

「分かった」

トリステンが注文をしに行っている間に、食堂の様子を窺う。

建物自体は古いが、よく清掃が行き届いて清潔感を感じる。

夜は酒場だと言うのに、お酒の匂いもあまりしないしな。

お客の数はまだお昼に少し早いからか少ないが、厨房の方からは調理をする様々な音が聞こえて来ているので、準備に追われているのかもしれない。

ルリア達もキョロキョロと見回していて、これではまるで田舎者みたいな感じだな…。

丁度その時、若い女性が三人で料理を運んで来てくれた。


「お待ちどうさま!」

俺達の前に料理が並べられて行く。

「今日は新鮮な魚が入ったからね。焼き魚の方がお勧めだよ!」

肉の野菜炒め物に焼き魚が大皿に入れられていて、どちらも美味しそうだな。

「頂きます!」

ラウラに料理を取り分けて貰い、早速食べる事にした。

お勧めだと言う事だって、焼き魚の方は美味いな!

肉の野菜炒めの方は、肉が少し硬めで食べにくく濃い味付けだな。

俺は美味しいと思うが、ヘルミーネとアルティナ姉さんは少し苦手のようで魚の方を主に食べている。

ルリアとリリーは、戦争の時にリゼが作った料理を食べているから大丈夫そうだな。


俺達が食事をしていると、若い女性店員の子がトリステンに近づいて来て話しかけて来た。

「トリステン、この子達は貴方の子供?」

「ぶっ!俺は独身だ!この子達は…あーあれだ、知り合いの子供だ!」

「ふーん、そうなんだ。ところで、トリステンは今は新しい領主様の所で働いてるって聞いたんだけれど本当なの?」

「本当だ。城の警備を任されている」

「へぇー凄いじゃん。でも、前はアイロス王国の軍団長だったよね。

それなのにアイロス王国を倒した人の下で働いていいの?」

「まぁな…俺には剣を振るう事しか出来ないからな…」

「そうだよねー」

トリステンは若い女性店員の容赦ない問いに対して、答えにくそうにしながらもしっかり答えていた。

俺としては優秀なトリステンが城の警備をしてくれていて安心出来ているが、よくよく考えて見ると、アイロス王の仇とか言って斬り掛かってきても不思議では無いよな…。

まぁ、トリステンにその気があるのなら、街道整備をやっている時に襲われてただろうから気にするだけ無駄だな。


「ねぇ貴方、ちょっと聞きたい事があるのだけれどいいかしら?」

ルリアがトリステンと話していた若い女性店員に話しかけると、若い女性店員はルリアの所に近づき少し屈んで目線をルリアに合わせて、ルリアが話し様にしてくれていた。

「はい、何でしょうか?」

「新しい領主の評判はどうなのか聞きたいのよ!」

ルリアが俺の評判を質問していた!

俺としても気になるので聞きたいが、悪い評判を言われそうで聞きたくない気もする…。

ルリアの質問を受け、若い女性店員は首を傾げて少し考えてから話し始めた。


「新しい領主様の評判ですか?お店でお客様が話しているのは、良い評判と悪い評判が半々と言った所ですね。

良い評判としては、綺麗な街道を作ってくれた良い領主様と言う事ですね。

悪い評判としては、顔をまったく見せない領主様で何を考えているのか分からない言う事でしたね。

それに、街道を作った事で税が上がるのでは無いか?と言う不安を訴えているお客様もいましたね」

「そう、貴方個人としてはどう思っているのかしら?」

「私はですね…綺麗な街道が出来た事でお客様も多くなったし、新鮮なお魚や野菜も手に入りやすくなったので良い領主だと思うかなー?

あーでも、税を上げられるのはちょーっと嫌かなーと思いますね!

あっ、お客さんも増えて来たみたいだから、仕事に戻りますね!」

若い女性店員は、慌てて入って来たお客の所に向かって行っていた。


「だそうよ?」

「うん…」

ルリアはニヤニヤしながら、俺の反応を楽しんでいた。

俺が顔を見せていないのは、アドルフに止められているからだ。

普通は領地を治める領主は民達の前に顔を見せるらしいのだが、まだ俺の命を狙って来る者が居るかもしれないし、子供が領主だと知られれば不安に思う人も多いだろうと言う事だった。

街道整備した時に俺は見られているが、俺が領主だと言いふらしてはいないからな。

税に関しては今は何とも言えないかな?

財政が苦しいのは事実だし、絶対に上げないとは言えない。

その辺りはアドルフが上手くやってくれるだろうし、俺としては税を上げないように頑張るだけだ。


「エルレイ、あの娘は悪気があって言った訳では無いからな?」

俺が評判について考えこんでいると、トリステンが焦って若い女性店員の弁護をしていた。

「いや、別にあの女性店員をどうしようかと考えていた訳では無いからな」

「それならいいんだ…」

俺は不評を言われれば、平民を処分する様な貴族と思われているのだろうか?

そう言う貴族が多いのは間違い事だし、トリステンが若い女性店員を庇う気持ちは分からなくも無いか…。


「御馳走様でした、美味しかったです!」

「あらそれは良かったわ。気に入ったのならまた来て頂戴ね!」

お客が増えて混んで来たし、俺達は長居する事無く食堂を後にした。


「これからどうする?そろそろ帰った方が良いんじゃないのか?」

トリステンがヘルミーネ達の事を心配そうに見ながら尋ねて来た。

確かにもう帰った方が良いのかも知れないな。

「そうだな…」

「むっ、私はまだ帰らないぞ!」

俺達がヘルミーネの体力を心配して帰ろうかと思っていた所で、ヘルミーネの我儘が発動した…。

「歩けなくなっても魔法で帰る事は出来ないんだぞ?」

「うむ、昼食を食べて元気になったからな!」

「そうか…アルティナ姉さんも大丈夫ですか?」

「お姉ちゃん、先程魔法で回復したから大丈夫よ!」

なるほど…ヘルミーネも元気に歩いている所を見ると、こっそり魔法を使ったのだな。

呪文を唱えないから気付かれてはいないだろうけれど、街で魔法を使わないように注意するのを忘れていた…。

まぁいいか、俺もまだ見たい所はあるし、今日は大目に見ようと思う。


「トリステン、すまないが午後も案内を頼む」

「分かった。それで何処に行こうか?」

「そうだな、普段トリステン達が娯楽として行っている場所とかあるか?」

俺はこの世界で貴族の子供として生まれたから、どんな娯楽があるのか知らなかった。

それをトリステンに尋ねたのだが…。

「娯楽か…ちょっとお前達集まってくれ」

トリステンは何故か護衛の部下達を集めて、ひそひそと小声で相談し始めていた。

俺は気になって、こっそり近づいて聞き耳を立てて見ると…。


「娯楽って言えばあれっすよね?」

「だが、あそこに連れて行くのは不味い!」

「そうっすね」

「他に何か知っている物はいないか?」

「ないな」

「ないっすね」

娯楽施設はありそうだが、子供が行ける場所では無いと言う事なのだろうか?

「賭け事か?」

「うわぁ!」

俺が声を掛けると、トリステンは異常なほど驚いていた。

「賭け事じゃ無いが…」

「気持ちよくなれるとこっす!」

「あっ!馬鹿!」

「あ~」

トリステンの部下が気持ち悪い笑みを浮かべながら教えてくれた…。

この街にも娼館があるんだな…。

娼館も立派な商売だし咎めるつもりは一切ないが、皆を連れて行ける所では無いな。


「市場に連れて行ってくれ」

「分かった。市場は人混みが激しいから今まで以上に気を付けてくれ!」

俺は行先を伝え、皆にはぐれないように注意してから、午後も街を見て歩く事となった。

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