第百四十八話 リアネの街へ その一

俺は皆から贈られた机の席に座り、溜まっていた仕事に励んでいた。

「「エルレイ様、お待たせいたしました」」

俺の前にアドルフとカリナが並んで立ち、そろってお辞儀をしてくれた。

二人には休日の事で相談するために来て貰ったが、上手く説得できる自信はない。

リアネ城に勤める使用人達は、毎日休まず仕事を頑張ってくれているが、俺が領地を手に入れたばかりで安定していない事もあり、相当無理をしているはずだ。

疲れていてはいい仕事も出来ないし、何としても休日の導入しない事には、そのうち倒れる者が出て来るだろうからな…。


「相談なのだが、皆に休日を与えたいと思っている」

「休日でございますか?」

「うん、週に一日は必ず休めるように出来ないだろうか?」

「そうですね…」

俺の提案にアドルフとカリナはお互いを見合わせ、どうしたら良いのかと目で相談していた。

相談がまとまったのか、カリナが俺に説明して来た。


「エルレイ様、現在ギリギリの人数で従事しており余裕がない状況です。

休みまで与えてしまうと、業務に支障が出てしまいます」

「そうか…アドルフ、新しく雇うことは出来ないのか?」

「はい、誰でもいいと言う訳ではありませんので、急に雇うことは出来ません。

しかし、徐々に増やして行く予定にはしております」

財政的にも余裕がある訳では無いし、ルリア達の身の安全を考えると、アドルフの言う通り簡単に増やすことは出来ないか…。


「そうか、ではカリナ、掃除をする範囲を限定してはどうかな?

例えば、使われていない部屋の掃除を一週間に一度くらいにするとかしたら、仕事が減るんじゃないかな?」

「そうですね。エルレイ様がご不快で無いのであれば、その案は採用可能です」

「うん、不快もなにも、僕が使われていない部屋に入る事は無いからな…」

「確かにその通りです」

この広いリアネ城において、俺の行動範囲は極端に狭い。

自室と執務室と食堂しか行ってないからな…。

一応リアネ城の見取り図は見た事があるから、ある程度は把握している。

休日にでも、一度リアネ城内を見回ってみる事にするかな。


「後は、夜の当番を少なくするか、無くしても良いと思う。

襲撃者があったとしても、僕達が眠っている部屋には魔法で入れないようにしているし、城の警備はトリステン達がやってくれているから、アドルフたちまで起きている必要は無いだろう?」

「その通りでございますが…」

「そうですね…」

アドルフとカリナは再び顔を見合わせていた…。

俺達が眠っている部屋の窓は、寝る前に魔法で開かないようにしているので、余程の事が無い限り外から侵入してくることは不可能だ。

廊下側の扉には普通の鍵が掛けられているから魔法での施錠はしていないし、扉の前には城の警備兵が常駐しているから、何かあった場合は対処してくれるだろう。

更に、メイド達も数名起きて扉の前で待機してくれている。

俺は不要だと言ったのだが、二人が納得してくれなかったんだよな。

この機に、夜の当番も無くしてもらおうと思う。


「分かりました。すぐには無理ですが、出来るだけ早く実行できるように調整を行ってまいります」

「そうか!頼んだぞ!」

「「はい」」

何とか二人を納得させることが出来たので、使用人たちに休日を与えることが出来る。


「話は変わるが、使用人達は結婚しているのか?」

ルフトル王国への旅のに着いて来たメイドのハンナ達は結婚していると言う事だったが、他の者もそうなのだろうかと思って聞いて見た。

「はい、まだ少数結婚していない者もおりますが、私が責任を持って相手を探しますのでご心配無用です」

「それなら安心だな。それで先程の休日の話に戻るのだが、出来るだけ夫婦で一緒の日に休めるようにしてやってくれ」

「はい、ご配慮感謝いたします」

「後は、僕の休日に関してだが、日程はアドルフに任せる」

「承知しました」


アドルフに日程を調整して貰い、俺達の休日を迎えた。

「エルレイ様、おはようございます。

今日はエルレイ様の休日ですが、どこかに出かけられたりするのでしょうか?」

いつもの様に、部屋の前にはアドルフが待機していて、朝の挨拶と共に予定を聞いて来た。

「出かける予定だが、護衛の必要はないぞ」

折角の休日なのに、護衛が居てはゆっくり出来ないからな。先手を打たせて貰った!

俺の答えに対し、アドルフは渋い表情をしながら反論して来た。

「エルレイ様を襲った暗殺者はまだ捕まってはおりませんし、エルレイ様を良く思わない貴族様も大勢いらっしゃると思います。

万が一に備えて、最低限の護衛は付けさせて頂きます!」

しかし、アドルフも一歩も引く事は無い。

「確かにその通りだが、僕が今日出掛ける事を知っている者は少ないはずだし、何処に行くかはアドルフさえ知らない。

そんな僕を襲う事など不可能だとは思わないか?」

「そうかも知れませんが、ラウニスカ王国の暗殺者は油断できませんし、エルレイ様に万が一の事が起こってからでは遅いのです!」

廊下を歩きながらアドルフとの攻防が続いて行き、それに見かねたルリアが口を挟んで来た。


「エルレイ諦めなさい!どのみち案内人は必要よ!」

「うっ、そうかな…」

ルリア達には、昨日の内に何処に行くのかは知らせていたし、ルリアの言う通り案内人が居た方が良いのかも知れない…。

「アドルフ、護衛の人数は最小限にして、普段着で来るように伝えなさい!」

「普段着でございますか…承知しました」

アドルフはルリアの命令に首を傾げつつも了承してくれた。

今日はリアネの街を見学する予定にしていて、俺達も目立たないように服を着替えて行く事にしているからな。

適当に見て回れればいいかと考えていたが、リアネ城の警備兵達が居てくれれば、色々案内して貰えそうだ。


朝食を終えて、自室に戻って皆で服を着替える事となった。

「エル、この服地味だが似合っているか?」

「うん、良く似合っているよ!」

ヘルミーネが着替え終えて、早速俺に見せに来てくれた。

ヘルミーネが来ている服は俺が商人に頼んでいた平民の服で、白のブラウスに緑のロングスカートといった感じで、普段派手めな衣装を着ている事が多いヘルミーネにとっては、かなり地味な見た目だ。

髪も服装に合わせて後ろで束ねているだけにしている。

この服装なら、誰も王女だとは思わないだろう。


「エルレイ、お姉ちゃんはどうかしら?」

「アルティナ姉さんの美しさは損なわれていませんよ!」

「そう?」

アルティナ姉さんの平民の服も、スカートの色が茶色と言う以外はヘルミーネと同じだ。

ルリアとリリーの服も似たような感じだったはず。

まぁ、俺達貴族が贅沢な暮らしをしているだけで、平民は服にこだわるだけの余裕が無いのだろう。

俺の服は、グレイの上下で色を染めたような形跡すら見られない、素材そのものの服だ。

男物の服なんてこんな物だよな…。


「エルレイさん、私は大丈夫でしょうか?」

「うん、良く似合っているし、髪があまり見え無いから大丈夫だよ」

リリーは髪を束ねて、つばの広い大きめの麦わら帽子の中に髪を入れて隠し、深々と被っている。

リリーの銀の髪は非常に目立つし、ラウニスカ王国でも珍しい髪の色らしいので、ラウニスカ王国の者に見られるとリリーが生きている事が知られてしまう。

俺としては、それでラウニスカ王国がリリーの事を狙って来るようであれば、ラウニスカ王国を潰しに行く事もやぶさかではないのだがな…。


「ルリアも似合っているよ」

「ふんっ、お世辞は結構よ!」

ルリアもリリーに合わせて大きめの麦わら帽子を被っていて、並んでいると本当の姉妹の様で可愛らしい。


「ロゼとリゼは、僕達のお姉さんみたいだね」

ロゼとリゼも今日はメイド服では無く、平民の服に身を包んでいる。

しかし、ルリア達の服と違って服に多少のアクセントが付いていて、年頃のお姉さんと言う雰囲気が出ている。

「お姉さんでしょうか…」

「アルティナ様に悪い様な気がします…」

二人は俺からお姉さんと言われて嬉しそうにしながらも、アルティナ姉さんの事を気にしていた。

「エルレイのお姉ちゃんは私だけだけれど、今日は二人とラウラにもお姉ちゃんを譲ってあげるわね!」

「「アルティナ様、ありがとうございます」」

「様なんか付けては駄目よ!ロゼとリゼはお姉さんなんだからね」

「「はい、アルティナ…」」

ロゼとリゼはアルティナ姉さんから様付けを止めるように言われ戸惑いつつも、アルティナ姉さんに返事をした。

「そうだね。今日はロゼお姉さん、リゼお姉さん、ラウラお姉さんは僕達を呼ぶときは呼び捨てにするように!」


「ラウラ姉さんも良く似合っていますよ!」

「エルレイさ…エルレイ、ありがとうございます…」

ラウラの服もロゼとリゼと同じだが、違いはブラウスの上にもう一枚羽織っている事だな。

ラウラの大きな胸が目立たないようにと言う配慮だろうか?

ラウラは大きな胸を気にしているのか、俺の前では時折隠すような仕草しぐさをしている。

まぁ、俺もラウラの胸には視線を奪われてしまうからあれだが、ラウラからすれば見られたくは無いのだろう。

ラウラを傷付けない為にも、俺も出来るだけ見ないように心掛けないといけないな…。


準備が整い、俺達はリアネの街に出掛ける事になった!

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