第百四十七話 ラウラ その五

リアネ城に来てから日が経ち、ロゼとリゼとも仲良くなり、私達を支えてくれるハンナ、ベルタ、リュリュ、レイラ、シンシアとも上手く連携して行けるようになりました。

ルリア様、リリー様、アルティナ様とも親しくして頂いております。

私の知っている常識ではありえないのですが、ロゼが最初に説明してくれた通り、エルレイ様は私達使用人と対等な立場で話して下さいますし、使用人を同じテーブルにつかせて食事をさせて頂けます。

エルレイ様と一緒のテーブルで食事をするのは、最初は緊張してしまいましたが、毎日の事ですので慣れました。


ヘルミーネ様の教育は、アルティナ様とリリー様が手伝って下さるようになってからは劇的に進み、やはり私の教えが悪かったのだと落ち込んでしまいました…。

そしてヘルミーネ様の魔法の方も、ルリア様とリリー様の指導の下で上達し、呪文を唱えなくとも魔法が使える様になりました。

これには魔法に詳しくない私でも驚きを隠せません。

何故なら、ヘルミーネ様の魔法の訓練に付き合っている際に、宮廷魔導士様の訓練も拝見させて頂いておりましたが、誰一人として呪文無しに魔法の行使を行ってはいなかったからです。

つまりヘルミーネ様は、宮廷魔導士様以上の実力を付けた事になります…。

それに、ルリア様、リリー様、アルティナ様、ロゼ、リゼも呪文を唱えてはおりませんし、魔法と言う事においてはソートマス王国一の戦力を誇るのではないかと思われます。

エルレイ様が魔法で侯爵まで上り詰めた理由を思い知らされました。


そして、忙しいエルレイ様にとって大切な休日が出来た際に、貴重な時間を割いて私にも魔法を教えて下さいました。

魔法…私も使える様になりました。

エルレイ様のお言葉を信じていなかった訳ではありませんが、実際に使えるようになるまでは半信半疑でした。

後で聞いた話ですが、ルリア様以外は魔法が使えず、私と同じようにエルレイ様から魔法を使えるようにして頂いたとの事でした。

という事は、私も皆様と同じように魔法が上達すると言う事で、次の日から私も皆様に混じって魔法の訓練をさせて頂く事になりました。


ある程度魔法が使える様になった辺りで、ルリア様に呼び出されました。

ルリア様はエルレイ様の一番最初の婚約者で、ここではエルレイ様に次ぐ権力の持ち主です。

と言っても、エルレイ様が皆と対等な立場でお話ししてくださいますので、ルリア様もそれに従って強制的な命令をしてくることはありませんし、私達使用人にも優しく接してくださいます。

ですが、個別に呼び出されれば緊張してしまいますし、叱責されるのではないかと思考が悪い方に行ってしまいます…。

私は少し委縮しながら、ルリア様の前に立ちました。


「ラウラも座りなさい」

「はい、失礼します」

ルリア様は優しい声で座るように言ってくださいましたので、私がルリア様の正面の席に座ると、ルリア様は真剣な表情で私の目を見て話し始めました。

「ラウラ、ここには私しかいないので正直に話しなさいね。

ラウラには好きな男性、もしくは好意を寄せている男性はいるのかしら?」

「い、いいえ、その様な男性はおりません…」

ミエリヴァラ・アノス城に従事している頃から、私は特に好きになった男性と言うのはおりませんでした。

私はヘルミーネ王女様に仕えておりましたので、他の使用人とは違い、結婚する事は出来ないと諦めていたのもありますし、ヘルミーネ王女様のお世話が大変で余裕が無かったと言うのもあります。

リアネ城に来てからは、ロゼ、リゼ、ハンナ達が手伝ってくださいますので余裕は出来たのですが、周囲にいる男性達は既婚者ですので好きになったりは出来ません。

それに、結婚と言う事にあまり興味が無いと言った方が正確でしょうか。

私達を手伝ってくれているハンナ達には、同様にリアネ城で働いている執事の旦那様がいらっしゃいます。

なので、休憩時間にハンナ達と話している際に、結婚生活はどのような物なのかを聞いたことがあります。


「結婚生活と言われてもねぇ?」

「メイド長から、エルレイ様の領地が安定するまで子供は作るなと厳命されているし」

「夫とは忙しくて挨拶くらいしか言葉を交わせていないし、夜の当番が回ってきた時なんか数日は会話してない事もざらよ」

「夫婦と言っても、同じ部屋で寝ているだけよね」

「「「うんうん」」」

リアネ城に従事している使用人に甘い結婚生活は無いみたいです。

そう言えば、私も両親とは朝起きた時くらいしか会話していませんでした…。

その様な理由で、男性にも結婚にも興味がありませんでした。


「そう、良かったわ…」

ルリア様は私の答えに心底安心した様子で、表情も少し緩んでいました。

もしかして、私に男性を紹介して下さるのでしょうか?

しかし、男性と結婚したとしてもヘルミーネ様のお傍を離れるわけには参りませんし、ハンナ達の様な結婚生活になるのでしたら結婚しない方が良いように思えます。

ルリア様には悪いですが、お断りさせて頂こうと思います。


「ラウラ、回りくどい言い方は嫌いだからはっきりと言うわね!

エルレイの愛人になりなさい!」

「えっ!?」

ルリア様の突然の言葉に、言葉を失ってしまいました。

私がエルレイ様の愛人に!?

貴族様が使用人を愛人として囲う事は良くある話で、私もその様な噂を耳にした事が御座います。

しかし、奥様から愛人に推薦されると言うのは珍しい事だと思いますが、全く無い事もありません。

貴族様のご結婚は親の意向によって決められますので、夫婦仲が悪い事も珍しくなく、その様な場合には奥様の方から愛人をあてがわれる事があると聞きました。

しかし、ルリア様、リリー様、アルティナ様、ヘルミーネ様との仲も非常によろしく思えます。

その上で私に愛人になれとおっしゃられれば、困惑し返答に困ってしまうのも当然です。

私の気持ちを察してルリア様は話を続けてくださいました。


「あくまで名目上の話で、すぐにエルレイの相手をしろという事では無いわ。

将来的にはそうなる可能性が無いとは言わないけれど、ラウラの気持ちを優先させる事を約束するわ。

愛人になる理由を説明するわね。

エルレイは知っての通り、他人を魔法使いに出来るわ。

この事は絶対に秘密にしなければならない事は分かるわよね?

エルレイはラウラを仲間外れにしたくないとか思って魔法を教えたのでしょうけれど、ラウラには悪いけれど私達から離れることは許されないわよ!」

「はい、重々承知しております!」

私はヘルミーネ様付きのメイドですから、元々離れる事は出来ませんし、ルリア様が私に愛人になれと言う理由も理解出来ました。


「エルレイはスケベだけれど、無理やり迫って来る事は無いから安心しなさい。

もしそうなった時でも、私に相談してくれればエルレイにお仕置きしてあげるから遠慮なく言いなさいね!」

「はい、承知しました」

ルリア様はにっこりと笑って下さいました。

突然の話でしたが、よく考えて見ると私にとってはかなりいい話だと思いました。

私はヘルミーネ様付きのメイドですので、男性と結婚する事は無いと思っておりました。

エルレイ様の事は可愛らしいと思っておりますし尊敬もしております。

愛人とは言え、子供を作り育てる事が出来るかも知れません。

将来の事を考えると、思わず表情がほころんできます…。


「ラウラも、エルレイの事は気に入っているみたいね!」

「は、はい!あっ、い、いいえ…」

私の表情を見たルリア様にそう言われて返事をしてしまい、慌てて訂正しましたが遅かったです…。

「いいのよ。エルレイはきっとラウラの事も幸せにしてくれると思うわ!

その分、私達でエルレイをしっかりと支えて行きましょうね!」

「はい、承知しました!」

私がエルレイ様の為に何か出来るとは思えませんが、ルリア様方と共にエルレイ様を支えて行こうと思いました。

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