第百四十六話 ラウラ その四

ヘルミーネ王女様が、エルレイ侯爵様のお住まいに移り住む日がやって来ました。

国王陛下、王妃殿下を始めとする王族の方々がお見送りに来てくださっております。

日頃、ヘルミーネ王女様と懇意にされてない方々の姿もございますが、迎えに来てくださるエルレイ侯爵様の影響力が大きいと言う証拠なのでしょう。

私も今日まで毎日のように、同僚たちからエルレイ侯爵様を紹介して下さらないかと言われ続けました…。

エルレイ侯爵様と面識はありますが紹介できるほど親密ではありませんし、ましてやヘルミーネ王女様のお手を煩わせるようなことも出来ませんので、お断りし続けてまいりました。

気が重くなるような毎日でしたが、それも今日でおしまいです。

私もヘルミーネ王女様に付き添い、エルレイ侯爵様の下へ向かう事になります。

初めてミエリヴィラ・アノス城を出ることに不安もありますが、それはヘルミーネ王女様も同じ事ですので、私が不安を表情に出す事は出来ません。

出来る限り表情を崩さぬよう、いつも通りにしていなくてはなりません。


しかし不安と言うより、エルレイ侯爵様の魔法に驚かされて表情を崩してしまいました…。

一瞬で他の場所へと移動できる魔法など聞いた事もございません。

魔法に詳しいヘルミーネ王女様も驚愕しておられますし、普通の魔法では無い事は明らかです。

一人で戦争を終結させられたと言うお話は、嘘では無かったのかも知れません。


ヘルミーネ王女様の新しいお住まいは、旧アイロス王国のお城でリアネ城と新たに名づけられました。

住む場所は変わりましたが、お城と言う事で慣れ親しんだ感じがしてヘルミーネ王女様も暮らしやすい事でしょうし、私も緊張せずに暮らせそうです。

部屋に案内され、皆様が落ち着かれた所で、新しい同僚のロゼに声を掛けられました。


「ラウラ、ここでの生活を説明します」

「はい、よろしくお願いします」

「エルレイ様は少し変わられていて、私達使用人を見下したり致しませんし、対等な立場を求めて来ます。

ラウラもそのつもりで、エルレイ様と向き合って下さい。

それから、基本的にエルレイ様のお世話は私とリゼで行いますが、時折ラウラにもお任せします。

理由は、エルレイ様が外に出掛ける事が多い事と戦いに向かわれる事が多い事で、私とリゼもそれに同行し負傷する可能性もあるからです。

ルリア様、リリー様、アルティナ様のお世話も同様ですので、時折交代して貰います。

今までの様に、ヘルミーネ王女殿下だけを見ていればいいと言う訳では無い事を理解してください」

「はい、承知しました」

ロゼからの話に驚きつつも、しっかりと理解して行きました…。


「後の事はその都度説明して行きますが、最後に一つだけ重要な事があります。

エルレイ様の夜のお勤めについてです」

「はい!」

私はその言葉を聞いて、思わず声が上ずってしまいました…。

一応そのような事がある事は知っておりましたし、母から教えられもしました…。

エルレイ侯爵様はまだ子供ですし、その様な事は無いだろうと思っておりましたので予想外の事に驚いてしまいました。

私は唾を飲み込み、覚悟を決めてロゼの話を聞く事にしました。


「エルレイ様は毎晩添い寝を求められます。

それはルリア様達や私達が日替わりで勤めており、ヘルミーネ王女殿下とラウラも含まれます」

「ヘルミーネ王女様もですか!?」

私は思わず声を少し張り上げてしましました。

将来的には婚約者であるヘルミーネ王女様もそうならなければならないのですが、今はまだヘルミーネ王女様にそのお役目は早すぎると思ったからです。

それを止めさせることが出来ないかとロゼに聞こうとしましたが、私が話す前にロゼが話し始めました。


「ラウラ、エルレイ様はお一人で寝るのが寂しいとの事で手を繋ぐ事しかしません。

私も今までずっと添い寝させて頂いて来ておりますが、手を出された事はありませんので安心してください」

「えっ!?そ、そうなのですか…」

「はい、ですので、ラウラの方からも決して手出ししないよう注意してください!」

「は、はい!それは勿論です!」

ロゼは私を睨みつけ、恐ろしい視線を向けて来ました!

エルレイ侯爵様に手を出しては殺されてしまう!

そう思わせられました…。


「呼称についてですが、ヘルミーネ王女殿下の事はヘルミーネ様とお呼びしますがよろしいですか?」

「はい、それで構いません」

「エルレイ侯爵様の事もエルレイ様とお呼びください。

話は以上です。一緒にエルレイ様と奥方様をお守りして行きましょう!」

「はい、精一杯頑張らせて頂きます!」

ロゼの表情が緩み、少しだけ微笑んでくださいましたが、その微笑が恐ろしいと思った事は黙って置く事にします…。


そして実際に皆様が、エルレイ様と毎晩交代で添い寝をしており、ヘルミーネ様の番がやって来て私も一緒に添い寝させていただく事になりました。

そして私一人でも、添い寝をする事になりました。

前回はヘルミーネ様と一緒でしたので、ヘルミーネ様の事が心配で気にはならなかったのですが、一人で添い寝する際はかなり緊張しました。

可愛らしいエルレイ様の寝顔にドキドキしてしまいます…。

なるほど…ロゼが睨みつけてまで注意してくる理由が分かりました。

これは恐ろしく可愛いです。

今まで男性と間近に接した事が無い私にとっては刺激がかなり強く、思わず柔らかそうな頬に触れて見たくなります。

エルレイ様は眠っておられますし、少しだけなら触っても良いですよね…。

エルレイ様の頬に手を伸ばそうとした時に、ロゼの表情を思い出しました。

いけません!ロゼに殺されてしまいます!

私は伸ばしかけた手を戻し、目を瞑って必死に眠るように努力いたしました…。

結局あまり眠れずに、朝を迎える事になってしまいました。


「「ラウラ、おはようございます」」

「ロゼ、リゼ、おはようございます」

私はエルレイ様を起こさないように注意しながらベッドからそっと抜け出し、急いで身支度を整えました。

「今日はエルレイ様の着替えを任せます」

「えーっと、下着もですよね?」

「当然です。もう少し慣れてからの方がよろしいですか?」

「いいえ、やらせて頂きます!」

ロゼからエルレイ様の着替えを受け取り、エルレイ様が目覚めるのをお待ちします。

エルレイ様の寝顔を眺めている時間は、何とも言えない幸せを感じます。

ロゼとリゼも、チラチラとエルレイ様の寝顔を見つめては表情を緩めていますし、お城で聞いた噂話の様な恐ろしい魔法使いとは思えません。


「エルレイ様、おはようございます」

「ラウラ、おはよう」

エルレイ様が、まだ眠たそうに目を擦りながら挨拶をしてくださる姿に幸せを感じつつ、起きて来たエルレイ様の寝間着を脱がせて行きます、

初めて拝見するエルレイ様の鍛えられた裸にドキドキしながらも、平静を装いつつ服を着せて行きます。

「エルレイ様、気になる所はございますか?」

「いや大丈夫、ラウラ、ありがとう」

エルレイ様からの感謝の言葉に喜びつつ、他の方の着替えを手伝いました。


「ラウラ、今夜はエルレイ様の入浴を手伝って貰います」

ロゼからそう伝えられて、私は困惑してしまいました。

今まで父以外の男性と入浴した経験は無く、どうしていいのか分かりません。

「心配しなくとも大丈夫です。今日は私がエルレイ様を洗って差し上げますので、ラウラは隣で見ていてください」

「はい、ありがとうございます」

横で見ているだけならまだ何とか大丈夫だと思いますが、エルレイ様に裸を見せるのはとても恥ずかしく思います。


「これを着てください」

「あっ、はい…」

そうでした…。

今までヘルミーネ様と一緒に入浴していたため裸でしたが、男性を洗って差し上げる際は入浴着を着衣するのでした。

思い違いをしていた事を恥ずかしく思いながら、入浴着に着替えました。

「あのロゼ、少し苦しいのですが…」

「エルレイ様を刺激しない為の処置です。我慢してください」

「承知しました…」

私の胸は大きいですので、確かにこのままだとエルレイ様を刺激してしまうのは間違いありません。

しかし、あまりにも胸の締め付けがきつくて息苦しいです…。

少し緩めたいのですが、ロゼが許してくれそうにありませんので我慢するしかなさそうです。

ロゼがエルレイ様の服を脱がせて、私も一緒にお風呂に入って行きます。

エルレイ様はロゼから体を洗われている最中に、私の方をチラチラと見て来ます…。

ロゼが言った通り、私の胸は締め付けていてもエルレイ様を刺激してしまうみたいです…。

私は少し体を横に向け、エルレイ様を刺激しないようにしながら、洗い方を学んで行きました。

基本的にヘルミーネ様を洗うのと変わりはありませんが、体を密着させないように注意してくださいとロゼにきつく言われました。

エルレイ様を刺激して私に手を出されても困りますし、そうなってしまったらロゼに殺されてしまいますので、私もその事は注意しようと思いました。

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