第百四十二話 贈り物 その二
「今日は皆から贈り物を貰い、とても嬉しかった。
大切に使い、仕事を頑張って行こうと思う。
僕からも皆に贈り物があるから受け取って貰いたい」
俺はまず最初に、ソファーに座っているルリアの前に跪いた。
「ルリア、僕はまだまだ未熟で失敗するし間違いもするだろう。
その時は遠慮なく叱ってくれて構わないが、出来る事なら殴らないで貰いたい…」
「ふんっ、それはエルレイ次第よ!」
「うん、ルリアに殴られないように気を付けるよ。
ルリア、手を出して」
俺はルリアが差し出してくれた手を取り、ルリアの薬指に指輪をはめた。
「ありがとう…」
ルリアは恥ずかしがりながらも、俺の目を真っすぐ見て感謝を言ってくれた。
アベルティアから洗脳を受けたせいで、ルリアが可愛く見えて仕方が無い!
今直ぐルリアを抱きしめたい衝動に駆られるが、リリー達が待っているのでぐっと我慢した…。
名残惜しいがルリアの手を離し、リリーの前に行って跪いた。
「リリーには心配ばかりさせて申し訳ないと思っている」
「そんなことありません…」
「そうか、これからも俺とルリアの事で心配かけてしまうと思うが見守っていてくれ」
「はい!」
俺はリリーの差し出された白くて綺麗な手を取り、リリーの薬指に指輪をはめた。
「嬉しいです…」
リリーの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
俺がリリーの涙を拭ってあげようとしたら、ルリアに阻止されてしまった…。
理由は分かっているが、時間はあるのだから、もう少しリリーの可愛い姿を見ていても罰は当たらないと思うが仕方ない…。
リリーの手を離し、ヘルミーネの前に行って跪いた。
「ヘルミーネには、もう少し行儀良くなってもらいたいかな」
「むっ、何故私だけ注意されなければならないのだ!」
それは日頃の行いのせいだと言いたいが、機嫌を悪くさせる必要はないな…。
「ヘルミーネが可愛いからだな。行儀よく振舞う事で、ヘルミーネの可愛らしさがより一層際立つ事になり、皆から好かれる事になるだろう」
「そ、そうか?私は可愛いのか?」
「うん、可愛いよ」
「えへへ…」
ヘルミーネは少し恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべていた。
少しやんちゃな妹としての可愛らしさだが、可愛らしいのには変わりない。
俺はヘルミーネの小さくて暖かな手を取り、ヘルミーネの薬指に指輪をはめた。
「エル、ありがとう!」
満面の笑みで微笑むヘルミーネの姿は可愛らしく、頭を撫でてやりたくなるが、それは次の機会にしておこう。
ヘルミーネの手を離し、アルティナ姉さんの前に跪いた。
「アルティナ姉さん、いつも甘えさせて貰ってありがとう」
「エルレイは、もっともっとお姉ちゃんに甘えてくれていいからね!」
アルティナ姉さんには、子供の時から俺は大事にして貰って来たし俺も甘えて来た。
唯一心を許せる存在でもあるし、最近ではヘルミーネの事を安心して任せられるので、俺に取ってアルティナ姉さんは欠かせない存在だ。
俺はアルティナ姉さんが差し出してくれた手を取り、アルティナ姉さんの薬指に指輪をはめた。
「エルレイ、大好きよ!」
アルティナ姉さんは俺を引き寄せて、ギュッと抱きしめてくれた…。
やはり、アルティナ姉さんに抱きしめられると安心出来る…。
これからもアルティナ姉さんの事は守って行かなくてはならないと改めて心に誓った。
「今は独り占めできないのが寂しいけれど、仕方ないわよね…」
アルティナ姉さんは直ぐに俺を解放してくれて、次に行きなさいと言ってくれた。
アルティナ姉さんから離れて、ソファーの脇に立っているロゼとリゼの前にやって来た。
「ロゼ、何時も皆の事を守ってくれてありがとう」
「いいえ、それが私の役目ですのでお気になさらないで下さい」
「うん、それでも皆がロゼに感謝している事を知っておいて貰いたい」
確かに、ロゼの役目は皆を守る事なのだろうけれど、それ以外にも俺やルリア達のお世話もしていて相当大変だと思う。
それはリゼも同じなのだが、ロゼの場合は真面目で手を抜かないからな…。
ロゼには皆も感謝している事だろう。
ロゼには指輪以上の物を贈りたいが、一人だけ多くの物を贈る訳には行かないからな。
別の機会があれば、ロゼには何か贈ってあげようと思う。
「ロゼ、手を出して」
遠慮がちに差し出されたロゼの手を取り、ロゼの薬指に指輪をはめた。
「エルレイ様、ありがとうございます…」
ロゼの声と手はわずかに震えていて、目には涙を浮かべていた。
俺はポケットからハンカチを取り出し、ロゼの涙を拭ってあげようとしたら、今度は泣き止んだリリーに役割を取られてしまった…。
リリーの方が長い付き合いだし、ここは譲ってあげるしか無いな。
ロゼの隣に居るリゼに向き直ると、リゼが期待に満ちた笑顔で迎えてくれた。
「リゼ、何時も僕と一緒に危険な場所に向かってくれて感謝している。
それから、皆を元気づけてくれている事にも感謝している。ありがとう」
「はい、これからもエルレイ様に着いて行きますので、置いて行かないで下さい!」
リゼもロゼと同じように仕事はこなしてくれているが、ロゼに比べると少し雑になる。
しかしリゼは、今のような笑顔を振りまき、時には相談に乗ったりして皆の心にも気を配ってくれている。
俺もリゼの笑顔には救われる事があるからな…。
この笑顔が失われないようにしなくてはいけない。
しかし、リゼには俺と一緒に一番危険な場所に行って貰っているし、俺とルリアはリゼに命を救われている。
もう二度とあのような事態に
「うん、これからもよろしく頼む!」
「はい、お任せください!」
俺は元気に差し出されたリゼの手を取り、リゼの薬指に指輪をはめた。
「エルレイ様、ありがとうございます!」
リゼは元気に返事をし、両手で俺の手をギュッッと握ってくれたので、俺もリゼに笑顔を向け手を握り返してあげた…。
リゼから手を離し、ラウラの前にやって来た。
ラウラは、俺が目の前にやって来た事に困惑しているみたいだ。
俺としても、いまだにラウラに指輪を贈って良い物か迷っている…。
ルリアに言われて指輪を買ったのだけれど、俺から指輪を贈られるとラウラも困るのでは無いだろうか?
ラウラからすれば、俺の事が嫌いでも指輪を受け取らない訳にはいかないだろう。
そして指輪を受け取った瞬間、俺の愛人となる事が確定するはずだ。
ラウラはヘルミーネのメイドであり、常にヘルミーネの傍に居なくてはいけない存在で、恐らく恋愛や結婚という事は出来ないのだろう。
だからルリアは、ラウラにも指輪を贈る様に言って来たのかも知れない。
一応、ラウラの気持ちは確認しておかなくてはならないよな。
俺はラウラの目をしっかりと見て、話をする事にした。
「ラウラには、ヘルミーネの世話を任せっきりで申し訳なく思っている」
「いいえ、ヘルミーネ様のお世話は私の仕事ですのでお気になさらないで下さいませ」
「そうなんだけれど、一人で抱え込まずに周りの皆に相談していいんだからな」
「はい、日頃からアルティナ様やリリー様にお世話になっております」
「そうか、それならばいいんだ」
俺が知らない所で、アルティナ姉さんやリリーがラウラの手伝いをしてくれていたんだと知り、二人に感謝をした。
本来であれば、国王からヘルミーネの事を頼まれた俺が面倒を見なくてはならないのだが、今はそんな時間が無く、ラウラに頼りっきりになっている。
それはこれからも変わる事は無さそうだし、ラウラには心から感謝と謝罪をしなくてはな…。
「ラウラにも指輪を贈りたいと思うのだが、受け取って貰えるだろうか?
もし嫌なのであれば断って貰っても構わない」
「わ、私にも頂けるのですか?」
「うん、ラウラが嫌で無ければ…」
ラウラは両手を頬に当て、信じられないと言った表情を見せつつ、周囲に視線を向けていた。
ルリア達に貰っていいのか確認しているのだろう。
という事は、俺の事は嫌いではない?
ラウラは大人しい性格をしていて胸も大きいし俺好みだ。
ラウラが指輪を受け取ってくれるのであれば、非常に嬉しい!
「はい…私みたいな冴えない女でよろしければ…」
「ラウラは美しいよ!」
俺はラウラの手を少々強引に取り、薬指に指輪をはめた。
「エルレイ様、とても幸せです…」
「うん、僕も幸せだよ」
ラウラは涙こそ流さなかったものの、幸せそうな表情で俺を見つめてくれていた。
「ラウラ、よかったな!」
「はい!ヘルミーネ様ありがとうございます!」
ラウラを抱きしめ、豊満な胸に顔を埋めたかったがヘルミーネに邪魔をされてしまった…。
でも、ラウラは俺の愛人になったのだから焦る必要は無い。
ラウラを祝福するのは、ヘルミーネに譲ってあげる事にした…。
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