第百四十一話 贈り物 その一

「帰って来たわね!」

「そうですね。やっと落ち着けます」

「そうだな」

「お姉ちゃん、当分馬車の旅は遠慮したいわ…」

「そうか、私は楽しかったぞ!」

リアネ城の前に着き、我が家に帰って来たと言う実感が湧いて来た。

まだそう長くは住んでいない場所だが、自分の住まう場所だと言う安心感があるな…。


「「「「「エルレイ様、奥様方、お帰りなさいませ!」」」」」

でも、大勢の使用人達に出迎えられるのにはまだ慣れない…。

ルリア達は流石と言うか慣れたもので、気にせず素通りしていく。

俺はと言うと、一人ずつ感謝の意を込めて軽く手を上げて行く。

偉そうな感じがして嫌だったが、頭を下げたら使用人に頭を下げるものでは無いと怒られたからな…。


「アドルフ、準備は整っているかしら?」

「はい、整えております」

「それでは、このまま向かうわね!」

「承知致しました」

使用人達の前を歩いている中、珍しくルリアがアドルフに声を掛けていた。

何の準備が整ったのかは不明だが、ルリアは俺について来て、と言いうだけで理由を説明はしてくれなかった。

ルリアに連れて来られたのは、俺やアドルフ達が何時も働いている執務室だった。

しかし、いつも忙しそうに書類仕事をしている使用人達が、珍しく仕事の手を止めて俺達を出迎えてくれた。

そして、一番奥にある俺の席へとやって来ると、そこにある俺の机が無くなっていた…。

えっ、これってまさか俺は書類仕事しなくて良いって事か?

ちょっと嬉しいと思いつつも、俺は役に立たないから不要だと言われたみたいでショックを受けた…。


「エルレイ、この前買った机を出して頂戴!」

「えっ?あれってラノフェリア公爵様に贈るのでは無かったのか?」

「違うわよ!」

「私達からエルレイさんへの贈り物です」

「そうよ、お姉ちゃんも少ないけどお金を出したんだからね」

「うむ、私一人でも払えなくも無いが、全員で出し合って買ったのだぞ!」

「あ、ありがとう…」

この机を買った時のお金は、俺が国王に面会した後、ラノフェリア公爵家に戻った際にルリアから渡されていた。

そんな大金すぐに用意できたのにも驚いたが、皆で出し合ったと言う事で更に驚いてしまった…。

まぁ、ルリアは公爵令嬢だし、ヘルミーネは王女だ。

リリーは元王女だけど、お金はあまり持っていないだろうし、アルティナ姉さんも似たような物だろう…。

金額では無く、俺に贈り物をしてくれたと言う気持ちがとても嬉しく、涙が出て来そうになってしまった…。


「エルレイ、良いから早く出しなさいよ!」

「う、うん、すぐ出すよ」

ルリアに急かされ、ルフトルの町で買った高価な机と椅子を収納魔法から取り出して設置した。

「見たのは初めてだけれど、とても綺麗な机ね!」

「うむ、エルレイには勿体ないくらいだ!」

アルティナ姉さんは俺への贈り物の机を見て回り、ヘルミーネは俺より先に椅子に座って座り心地を確認していた…。


「エルレイ様、これは私とリゼとラウラからになります」

ロゼはニ十センチほどの木箱を俺に手渡して来た。

「ありがとう、中を見てもいいかな?」

「はい」

俺はロゼから受け取った木箱を空けて中身を見ると、そこには木で作られたペンが三本入っていた。

「ロゼ、リゼ、ラウラ、大事に使わせて貰うからな!」

「「「はい!」」」

皆から贈られた机とペンで仕事が出来るなんて、とても嬉しく幸せな事だと思う。

今直ぐにでも、たまっているはずの書類仕事に取り掛かりたい所だ。


「アドルフ、今日の俺の仕事は?」

「エルレイ様は長旅でお疲れでしょうし、仕事の準備も整っておりませんので今日は休み下さい」

「そ、そうだな」

言われてみればその通りだよな。

せっかくやる気にはなったのだが、今日は休ませて貰う事にしよう。

「アドルフ、旅に付き添ってくれたダリエル、ハンナ、リュリュ、レイラ、シンシアもゆっくり休ませてやってくれ」

「畏まりました」

彼らも慣れない旅で疲れただろうし、ゆっくり休ませてあげたいと思う。


自室に戻ると、皆も疲れていたのだろう、着替えもせずにそれぞれ好きな様に寛ぎ始めた。

俺もソファーにドサッと座り、頭もソファーに預けて目を瞑った…。

皆から贈り物を貰ったので俺が買ってきた指輪を手渡したいが、皆も今はゆっくりしたいだろうし、もう少し時間を置いてからにした方が良いだろう。

今は忘れないうちに、これからやらなくてはならない事を纏めておこうと思う…。


一番重要な事はルフトル王国に協力し、リースレイア王国との戦争に勝利する事だ。

これはグールと相談しながら対策を考えつつ、毎日魔法の訓練をするしか無いな。

問題は、誰を連れて行くかという事だ…。

これまでの事を考えると、リゼは俺の護衛として着いて来ると主張するだろうし、俺が一人で行くと言っても納得してくれないので連れて行くしかない。

ルリアは、アイロス王国との戦争で危険な状態に陥ったので、俺としては連れて行きたくはない!

でも、着いて来ると言うのだろうな…。

何とか説得してみるつもりだが、あまり自信はない。

仮に、ルリアを連れて行くとすれば、リリーも着いて来ると言い出すのは間違いないだろう。

そうなれば、ロゼも連れて行く事になるな。

アルティナ姉さんは、戦争について来るとは言わないだろうから安心していいと思う。

ヘルミーネが着いて来ると我儘を言っても絶対に連れて行かない。

と言うより、ヘルミーネはソートマス王国の王女だから連れて行けないと言った方が正確だな。

一応、ルリア、リリー、ロゼ、リゼは戦争に連れて行くと言う事で考えておいた方が良さそうだ。


次にやる事は、リアネ城で働く使用人達に休日を与える事だな。

これはアドルフとカリナに相談して、必ずや実現させなくてはならない。

恐らく、俺が率先して休まなければ、アドルフ達は休んでくれないだろう。

ヘルミーネにもどこかに連れて行くと約束したし、出来るだけ早く実現させようと思う。


最後に俺の領地の発展についてだが、先ずは自分の領地の事を知る事から始めなくてはいけない。

決裁書類に目を通しているから、リアネ城にどのような物品が搬入されているかは知っている。

しかし、その他の事は何一つ知らないからな。

アドルフに頼んで教えて貰い、その上でどうすれば発展して行けるかを考えなければな…。

ポメライム公爵に負けているのは悔しいので、頑張って行こうと思う!


俺はいつのまにか寝ていたみたいで、リゼから夕食だと起こされた…。

指輪を渡しそこなったが、寝る前に渡せばいいか…。

二か月ぶりにリアネ城で頂く夕食は、料理人が頑張ってくれたのか、とても美味しく感じられた。

ルフトルの町で食べた日本食は懐かしくて美味しかったが、今のこの体にはリアネ城で作って貰った食事の方が合っているのかも知れない。

食事を終えてゆっくりとお風呂に入り、自室に戻って皆がお風呂から上がって来るのを待つ事となった。


少し緊張して来たな…。

今回皆に贈るのは、エルフの所で結婚指輪として使われている指輪だ。

まだ婚約者なのだから贈るには早いと思われるが、購入する際にルリア、リリー、ロゼが居たからな。

ルリアとリリーは、自分で好きな指輪を選んだがまた渡してはいない。

こういう大切な贈り物は、平等に渡さないと喧嘩の元になるんだよな…。


「エルレイ様、お顔が赤いようですが、お風呂が熱すぎましたでしょうか?」

「い、いや、そんな事は無いぞ…」

皆に結婚指輪を手渡す所を想像して恥ずかしくなっただけだとは言えないな…。

リゼに頼んで水を一杯入れて貰い、火照った顔を冷やす事にした…。

皆がお風呂から上がって来たのでソファーに座って貰い、指輪を渡す事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る