第百四十話 ルフトル王国から帰国

「エルレイさん、転移してくる際はこの場所をお使いください」

「はい、ありがとうございます」

ソフィアに相談して、俺が転移してくる場所を決めて貰った。

転移の場所は、結界から少し離れた森の中で人目に付く事は無く安心出来るし、次からは一瞬で来れるようになるので楽になるな。

皆が待っている屋敷まで送って貰い、ソフィアと別れた。

何時呼び出されるかは不明だが、セシリア女王に約束したので準備をしておかなくてはならないだろう。


屋敷の中に入り、ラノフェリア公爵の所にやって来た。

「ルフトル国王から親書を預かって参りました」

ラノフェリア公爵に預かった親書を手渡し、会談が上手く行って俺がルフトル王国の支援を決めて来た事を話した。

「うむ、よくやってくれた!

エルレイ君を再び戦争に向かわせてしまうのは心苦しいが、頼れるのはエルレイ君しかいないのだ」

「はい、承知しております」

戦争に参加したくない気持ちに変わりは無いが、セシリア女王と一度だけという約束をしてきたので、気持はそこまで重くはない。

それに、また日本食を食べられるかも知れないという期待もある。

しっかり準備を整えて挑もうと思う。


「ただいま、帰国の準備は終わっているだろうか?」

ラノフェリア公爵の部屋を後にして、ルリア達が居る部屋へとやって来たのだが…。

「見ての通りよ…」

ルリアが疲れた表情をしながら、奥のソファーで泣き叫んでいるヘルミーネを指差していた…。


「嫌だ嫌だ嫌だ!帰りたくない!帰りたくない!帰りたくない!私はここに残るんだからな!」

「ヘルミーネ様、我儘わがままを言わないで下さいませ…」

ラウラを中心として、リリーとアルティナ姉さんが説得しているみたいだが、ヘルミーネが泣き叫ぶのを止める事は無いみたいだな…。

ヘルミーネにとってこの旅は、初めて自由に出歩けた旅であって、またリアネ城から出られない状態に戻るのは嫌なのだろう。

一度自由を得たのだから、それを手放したくは無いと言う気持ちは良く分かる。

しかし、ヘルミーネの我儘を聞いて帰国を延期する事は出来ない。

俺はヘルミーネの前に行ってしゃがみ込み、優しく声を掛ける事にした。


「ヘルミーネ聞いてくれ!」

「エル…何と言われようとも帰らないからな!」

「うん、分かっている。ヘルミーネがここに残る事を許すよ!」

「ぐすっ、エル、本当にいいのだな?」

「勿論だよ!」

俺が残っていいと言うと、ヘルミーネの表情に少し笑みが戻って来た…。


「ちょっとエルレイ!予定を変更するつもりなの!」

「エルレイ、ヘルミーネの我儘を許さない方が良いとお姉ちゃんは思うわよ…」

ルリアは早く帰りたいのか俺に文句を言って来たし、アルティナ姉さんも困惑気味に意見を言って来た。

「いいからいいから」

二人を手で制して、俺はヘルミーネに話しかけた。


「ヘルミーネ、よく聞いてくれ。

僕は国王陛下に報告しなくてはならないので、ヘルミーネと一緒に残る事は出来ない。

そして、ルリア達も同じく僕と一緒に帰る事になるだろう。

そうなれば、ヘルミーネを守る者が居なくなるので、ヘルミーネには結界内部にいて貰う事になる。

ヘルミーネはキャローネさんと仲良くなったみたいだし、一人でも大丈夫だよな?」

ヘルミーネは大人しく俺の話を聞いてくれていたが、徐々にまた機嫌が悪くなって行った。

「むっ、残りたいのは私だけなのか?」

ヘルミーネが皆を見渡していたが、誰一人としてヘルミーネと一緒に残ると言う者はいなかった。

「ラウラも私と一緒に残ってはくれないのか…」

「わ、私は…も、申し訳ございません…」

ラウラは非常に言いにくそうにしながらも、はっきりと断ってくれた。

ラウラが一緒に残ると言えば、俺も困る所だったんだがな…。


「ヘルミーネには申し訳ないが、一人で残ってくれ」

「それは嫌だ…」

ヘルミーネは俯いてぽつりとつぶやいた…。

ラウラに拒絶されるとは思ってもいなかったのだろう。

ヘルミーネにとってラウラは常に傍に居てくれる存在で、誰よりも信頼しているのだろう。

そのラウラに裏切られた衝撃は大きかったみたいだ。

ラウラも断った事を後悔しているみたいで、ヘルミーネをどうやって慰めてよいのか迷っているみたいだな…。

「帰る…帰ればいいんだろ!」

「うん、僕達と一緒に帰ろう」

俺は立ち上がってヘルミーネに手を差し伸べると、ヘルミーネは少し迷いながら俺の手を掴んで、勢いよく立ち上がった。

そして、その勢いのまま俺に抱き付いて来た。

俺は少し困惑したが、優しく抱きしめて頭を撫でてあげた…。


「エル、我儘を言ってすまなかった…」

「うん、だけど、謝る相手が違うぞ」

「分かっておる…皆には後で謝る…」

「そうか…なぁヘルミーネ。

これからもまたこの様な機会は訪れると思うし、出来る限り皆と一緒に外に出掛ける機会を作ろうと思う」

「約束だぞ…」

「うん、仕事が忙しい時は無理だけれど、暇な時にはその様な機会を作ると約束するよ」

俺とヘルミーネを周囲で見守ってくれている皆が、そんな約束して大丈夫なのかと心配そうにしているが、俺も考え無しに言っている訳では無い。

まぁ、アドルフを説得しなくてはならないが、なんとか約束を果たせるよう頑張って見ようと思う。


ヘルミーネの説得も終わり。屋敷を出て馬車へと乗り込み帰路に着く事となった。

「あっという間なのね!」

「うむ、時間を節約出来る素晴らしい魔法だ!」

「エルレイ君は自慢の息子ね!」

ルフトル王国の首都ストアクスを出て人気の無い場所を見つけ、そこから一気にラノフェリア公爵邸の玄関前へと空間転移魔法で移動して来た。

アベルティアは周囲を見渡し、自分の屋敷前にやって来た事を驚いていて、ラノフェリア公爵は自分の事のようにアベルティアに自慢していた。

まぁ、ラノフェリア公爵家秘蔵の魔法書だったし自慢するのは一向に構わないが、俺に構うのはやめて貰いたい…。

アベルティアにとって俺は既に息子になっているみたいだし、その豊満な胸で抱き付いて来てくれるのは嬉しいが、ルリアとリリーから睨まれているので止めて貰いたい…。

それに、まだ残して来ている人達もいるから、急いで戻らなくてはならない。

俺はアベルティアに断りを入れて離れ、残った人達の送迎に向かって行った。


「エルレイ君、帰ったばかりだが陛下に会いに行く事にしよう」

「はい、分かりました」

面倒事は早く終わらせた方が良いし、また後で呼び出されるよりかは遥かにましだ。

俺はラノフェリア公爵を連れて王都の屋敷に空間転移し、そこから馬車に乗って王城へと向かって行った。


王城では、出掛ける前と同じく狭くて窓が無い部屋へと通され、そこで国王に報告する事となった。

と言っても、報告してくれるのはラノフェリア公爵だから俺が特に話す必要は無い。

と思っていたのだが、そう甘くは無かった…。

「ほう、エルレイは結界内部に入れて貰えたのだな」

「はい、ですが、結界内部の事を他言するなときつく言われており、情報が漏れた場合にはソートマス王国を滅ぼすと脅されております。

そして、ルフトル王国がその気になれば、ソートマス王国を滅ぼすだけの力があると断言できます」

「そ、そうか…エルレイがそこまで言うのであれば無理には聞かぬ」

俺が断言した事で、国王はルフトル王国に関して追求して来る事は無かった。

エルフは全員精霊魔法を使えると言う事だったので、ソートマス王国を滅ぼすのは容易い事だろう。

実際にルフトル王国が攻め込んで来る事になれば、俺は情報を漏らしたという事でルフトル王国と敵対する事になる。

そうなってしまえば、俺はリアネ城を守る事しか出来ないので、このミエリヴァラ・アノス城を守る事は不可能だ。

そして俺も、ルフトル王国から一斉攻撃を受ければ守り切れず死ぬ事になるだろう。

グールが居るからある程度は抵抗できるとは思うが、未知の精霊魔法にどれだけ対抗できるかは不明だし、数で押されればどう考えても勝てる見込みは無い。

帰ったら、改めて皆にも情報を漏らさないように注意しないといけないな!


「エルレイ、リースレイア王国に関しての情報は、詳しい事が分かり次第ロイジェルクを通じで伝えるのでな。

ルフトル王国に協力し、リースレイア王国を必ずや退けるのだぞ!」

「はい、承知致しました!」

リースレイア王国を退ける事が出来れば、ルフトル王国との条約締結に一歩前進する。

両国の為にも失敗は許されないので、前回の戦争以上の責任が重くのしかかって来るが、気を張り過ぎても行けないので出来るだけ気を楽にして挑もうと思う…。

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