第百三十九話 セシリア女王との会談
翌日、ソフィアが迎えに来たので、俺は一人で結界内部へと行く事になった。
今日はセシリア女王から返事を貰うだけだから、ルリア達には留守番して貰っている。
これが終わればやっと帰る事が出来るから、気分も軽い。
ソフィアと結界内部に入り、昨日と同じく元気なキャローネに送られて大きな樹のお城へと到着し、そのままセシリア女王の待つ広間へと通された。
セシリア女王は、昨日と同じ広間の奥の樹の根が張り出ている場所に佇んでいた。
「エルレイ、昨日はルフトルの町を楽しんで貰えましたか?」
「はい、エルフが作る物はどれも素晴らしい物でしたし、英雄が伝えたとされる料理も美味しかったです!」
「それは何よりでした」
セシリア女王は優しく微笑み、俺がエルフの町が気に入った事を喜んでいる様だった。
セシリア女王の思惑にはまったみたいな感じになってしまったが、そんな事が気にならないほどエルフの町は俺にとって魅力的だったからな。
「エルレイに私たちエルフの秘密を教えたのには理由があります。
薄々は感ずいているとは思われますが、説明しておきます」
セシリア女王の話は、昨日ラノフェリア公爵から教えて貰った内容とほぼ同じだった。
「今までであれば私達だけで追い返せていたのですが、今回は少し事情が違って来ています。
リースレイア王国の作り出した魔剣に問題があるのです」
「それはもしかして、このグールと同じ能力を持っている魔剣が作り出されたと言うのでしょうか?」
「はい、その通りです」
キャローネが使う精霊魔法しか見ていないが、それだけでも俺を凌ぐような力を持っていた。
そのエルフが脅威と感じる魔剣と言えば、グールの能力の一つである魔力吸収だろう。
いくら魔法が優れていようとも、吸収されてしまえば意味が無い。
アイロス王国との戦いで、俺とルリアも苦戦を強いられたから良く分かる。
「俺様と同じ能力を持つ魔剣とは聞き捨てならねーな!」
「グール、お前は黙っていろ!」
「いいのかよ!魔剣の情報が欲しいんじゃねーのか?」
「それはそうだが…」
昨日と同じように女王に対して失礼な言動をしかねないので黙っていて貰いたいが、情報を知りたいのも事実だ…。
「エルレイ、構いません。グールには私からも聞きたい事があります」
「そうですか…グール、失礼な言動は厳禁だからな!」
「わーったよ!」
一応グールに釘を刺したが、女王の機嫌を悪くさせない事を願うばかりだ…。
「グール、貴方と同じ魔力吸収能力を持った魔剣を作り出す事は可能なのですか?」
セシリア女王はグールに何を言われても良いようにと思ってか、表情を引き締めてからグールに問いただした。
「セシリア…女王…様も知ってるだろうが、クロームウェル並みの魔力の持ち主じゃないと俺様を作る事は不可能だ!」
ふぅ、グールは危なっかしくも、一応女王様を付けて言ってくれた…。
セシリア女王の表情に変化は無いので、ひとまずは安心していいみたいだ。
「そうですか、では魔力吸収能力に限定した場合はどうなのですか?」
「あー、それなら知識だけあれば普通の魔法使いでも作れるぜ!」
「知識ですか…」
「おうよ、クロームウェルは俺様を作り上げるまで長い年月を研究に費やしたのはセシリア…女王…様も知ってるだろ?」
「はい、私がクロームウェルと会ったのは、クロームウェルが高齢の時でした…」
セシリア女王はグールの事を知っているとは言っていたが、英雄クロームウェルの事も知っているのか!?
エルフが幾ら長寿だろうと、英雄クロームウェルが生きていたのは二千年以上前の話だぞ!
でも…嘘を吐いているはずも無いし、二千年の間あの美しく若々しい体を維持しているなんてズルいと思ってしまった…。
「俺様が作られたのも、クロームウェルがセシリア…女王…様達と魔物を滅ぼす旅に行く直前だったぜ。
つまり、俺様に到達するまで様々な試作品が作られては捨てられて来たつー事だ。
その中に魔力吸収するだけの欠陥品があった。
もしかするとクロームウェル自身か弟子が、その欠陥品の作成方法を売り払ったのかもしれねーな。
何せクロームウェルは研究費を得る為に、様々な技術を売り払っていたのはセシリア…女王…様も知ってるだろ?」
「はい、私も様々な技術と引き換えに支援しました…」
なるほど、ラノフェリア公爵家にあった空間属性の魔法書も、研究費を得るために売られた魔法書だったのだろう。
そして、俺とルリアが殺されかけた魔法が効かない砦とゴーレムも、研究費を得るために作られた物だったに違いない…。
俺は、英雄クロームウェルが残した物で恩恵を受けると同時に、被害も受けているのだと言う事が分かり、何とも言えない複雑な気持ちになってしまった…。
「グール、欠陥品でも魔力吸収は出来るんだよな?」
「おうよ、ただし、欠陥品だから弊害がある」
「弊害?それは何だ?」
「魔石に魔力を吸収させるんだが、許容量を超えると暴走しちまうんだぜ!」
「暴走とは穏やかでは無いな…」
「つまり、その魔剣を使われたら許容量を超えるような魔法を撃ち込めばいいと言う事なのか?」
「そーだな。欠陥品の所持者は無事では済まねーぜ!
それと許容量は、使われてる魔石の大きさに左右されるから今は分からねーな」
「そうか…」
魔剣が爆発したりするのだろうか?
魔石の許容量次第だろうが、全く魔法を受け付けなかった砦とゴーレムよりかはましなのかな?」
ゴーレムと同じように、石を飛ばして攻撃すれば吸収されないだろうし、対処のしようはあるかな。
「エルレイ、今までの話を通じて理解できた事でしょう。
リースレイア王国に魔力を吸収する魔剣があるのは分かっています。
私達だけで対応するには厳しく、エルレイの協力を望みます。
幸いな事に、エルレイは一度アイロス王国との戦争で経験済みでしょうし、グールを所持しているため対処は可能でしょう。
もし協力して頂けるのでしたら、ソートマス王国の親書に書かれていた内容を受け入れます。
それに加えて、エルレイの願いを私が叶えられる範囲で一つ叶えて差し上げましょう」
セシリア女王は真剣な表情でお願いをして来たので、俺も真剣に答える事にした。
「僕の答えは昨日と同じく、協力を惜しむつもりはありません。
ですが、僕は争い事を好みませんので、出来れば今回限りにさせて貰いたいのです。
その代わりに、魔力を吸収する物に対しての対処法を教えたいと思います。
それが僕の願いです」
本当の願いは別にあるが、何度も呼び付けられて戦わされたくは無いからな…。
セシリア女王は俺の答えに対し、優しい笑みを浮かべて軽く頷いてくれた。
「私もエルレイと同じく争いを好みませんので、気持ちは良く分かりました。
エルレイ、一度だけ協力をお願いします」
「はい、承知致しました!」
こうして俺は、ルフトル王国に協力する事となった。
セシリア女王との会話が一段落すると、何処からともなく白いローブを着たエルフが俺の所にやって来て、包みを手たわして来た。
「ソートマス王に渡して下さい」
「はい、承りました」
セシリア王女との会談が終わり、広間から退出した…。
「ソフィアさん、色々お世話になりましたし、グールがご迷惑をおかけしましたこと誠に申し訳ございませんでした」
俺はソフィアに頭を下げて謝罪した。
セシリア女王に対して、グールが失礼な事を言った時に激怒していたからな…。
少なくとも、もう一度はここを訪れる事になるだろうから、関係を良い物にしておかないといけないからな。
「頭を上げてください。魔剣グールの事はセシリア女王様からお聞きしましたので、もう気にしておりません」
俺が頭を上げてソフィアさんの表情を見ると、微妙に笑顔が引きつっていた…。
幾らセシリア女王が許したとしても、ババア呼ばわりは許せる物では無いよな…。
二千年以上生きているとは言え、あの若々しい姿だったし、俺もババアは言い過ぎだと思う。
帰ったらグールに、再度言い聞かせなくてはと思った…。
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