第百三十八話 英雄が伝えた料理 その二

「エル、食べていいよな!」

「うん、頂こう!」

俺達の前に美味しそうな料理が運ばれて来て、俺達はそれを頂く事となった。

ソフィアは色々悩んだ挙句、一人ずつ違う料理を選んでくれたみたいだ。

「好みに合わなかったら言って下さい」

ソフィアはそう言ってくれているが、今の所は皆美味しそうに食べているので問題なさそうだ。


「リリー、一個交換して頂戴!」

「もう、お行儀が悪いですけれど…仕方ないですね…」

ルリアにはエビフライ定食、リリーにはから揚げ定食が来ていて二人で交換し合っていた。

俺にはトンカツ定食で、エビフライとから揚げにも興味があるが、トンカツをあげたくはなかった…。

久々に食べるトンカツと、上にかかったソースが非常に美味い!

それに何と言っても、ご飯があるのがとてもいい!

ただ一つだけ気になるのは、箸ではなくフォークで食べている事だな…。

一応箸も用意されてはいるが、上手に使って食べている姿を皆に見せる訳にはいかないからな…。


「エルレイ、お姉ちゃんに一切れ頂戴!」

「あっ!」

アルティナ姉さんにトンカツを一切れ奪われてしまった…。

代わりに、アルティナ姉さんのてんぷらを貰えはしたが、トンカツと天ぷらでは割に合わない…。

そう思いながら貰ったてんぷらを口にすると、想像以上に美味しくて驚いてしまった。

「アルティナ姉さんのも美味しいですね!」

「そうでしょう!エルレイのお肉も美味しかったけれど、野菜を衣に包んで揚げただけなのに凄く美味しいのよね」

エルフの所で作っている野菜が美味しいのもあるだろうが、衣にも味が付いていて美味しかった。

俺に料理の才能は無いので、この味を覚えてリアネ城に戻って再現する事は出来ないのが残念だ…。


「エル、私のも美味しいぞ!」

「それは良かった」

ヘルミーネはお子様ランチを美味しそうに食べていた。

英雄クロームウェルは、様々な物をこの世界に残したのだなと感心し、それと同時に、俺にはそんな事は出来ないと落胆もした…。

転生者だと打ち明ければ出来ない事も無いが、ルリア達との関係が壊れてしまうのが恐ろしい…。

それに、目立つような事はしたく無いしな。

今まで通り、魔法を使って楽しく過ごす事に集中しようと思う。


懐かしい日本食の昼食を終え、俺達はルフトルの町を後にして結界の外に出る事となった。

ソフィアの説明によると、結界の中にお客が来る事は無く、宿泊施設が無いとの事だった。

言われてみれば当然の事で、俺達はラノフェリア公爵が待つ屋敷へと戻って来た。

「また明日お迎えに上がります」

「はい、よろしくお願いします」

ソフィアはそう言って帰って行った。

そう言えば結界を出る際に、ソフィアの髪の色が金色に変わり耳も短くなっていたのには驚かされた。

ソフィアの説明では、結界に幻覚魔法が付与されているとの事だったが、俺達に反応しないのが不思議に思えた。

今は結界の事を考えるより、ラノフェリア公爵に報告しなくてはならない。

俺はルリア達と別れ、真っ先にラノフェリア公爵に会いに行った。


「ただいま戻りました」

「うむ、それでどうだったのだ?」

ラノフェリア公爵にしては珍しく興奮気味に尋ねて来た。

まぁ、誰も入った事が無い場所に行って帰って来たのだから、中の情報を知りたいと思うのは良く分かる。

しかし、エルフの事は話せないので、女王との会談内容だけを伝えた。


「明日か、それでいい返事は貰えそうなのか?」

「分かりません。ですが、僕達を結界内部に招き入れたのですから、敵対する様な事は無いかと思います」

「そうだろうな…」

ラノフェリア公爵は腕組みをして考え込んでしまったが、親書の事を聞くのは今しか無いだろう。

「ラノフェリア公爵様、一つだけ質問があります」

「何かね?」

「はい、親書に書かれていた内容ですが、ラノフェリア公爵はご存知でしたか?」

「うむ、エルレイ君に黙っていた事は申し訳なく思うが、信用されていないソートマス王国軍を支援としては出せないし、ルフトル王国も受け入れない事はエルレイ君も理解できるだろう?」

俺は黙って頷いた。

「エルレイ君に、ルフトル王国を支援して貰う事を事前に知らせておくと、旅の途中で起こる出来事に対して必要以上にやるのでは無いかと思ったので黙っていた」

「ラノフェリア公爵は、ルフトル王国が僕に対して色々試してくるのを知っていたという事ですか?」

「そう言う事も起こりうる、と思っていた程度だ」

「なるほど…理解しました」

確かに事前に知らされていれば、俺は張り切って余計なことまでやっていただろうし、ルフトル王国側としても俺に良い印象を持たなかったかもしれない。

そうなれば、結界内部に招きいられる事も起きなかっただろうな。

勝手に支援を決められていた事には今でも腹立たしく思うが、ソートマス王国としては仕方が無かったのだと納得するしかない…。


「それと、もう一つ知らせておこう。

トラウゴットが侵攻しようとしていた時と同時に、ルフトル王国の北にあるリースレイア王国も侵攻を計画していた。

それは、こちら側が侵攻しなかった事で一時中断となっているが、リースレイア王国は諦めた訳では無い。

いずれは軍を率いてルフトル王国に侵攻するはずだ。

恐らく、その時にエルレイ君に支援要請が来るはずだ。

エルレイ君を結界内部に招き入れた事から、協力に期待していると予想出来るからな」

「そう…ですね…」

強力な精霊魔法を見た後では、俺の支援など必要無いとも思えるが…。

リースレイア王国はそれほど強い相手と言う事なのだろうか?

ついでに、リースレイア王国の事も聞いておいた方が良さそうだな。


「ラノフェリア公爵様、よろしければリースレイア王国の事を教えて頂けませんでしょうか?」

「うむ、リースレイア王国は魔剣を作る技術を持っている事で有名な国だ」

「魔剣ですか!」

魔剣と言う単語に異常な反応をしてしまい、ラノフェリア公爵も一瞬眉を歪めて俺を見て来た。

そう言えばグールを発見した後、アドルフからリースレイア王国で魔剣が作られている事を説明されていたな…。

ラノフェリア公爵には、まだ俺が魔剣グールを所持している事は知らせていない…。

折を見て説明して置いた方が良さそうだが、それは旅から帰った後にしよう…。


「そうだ。英雄クロームウェルの技術を今でも引き継いでおる。

しかし、魔剣を作る材料が入手困難なため、今ではごく少数しか作られておらぬがな」

「その材料とは何か分かるのでしょうか?」

「うむ、魔石と呼ばれるもので、魔物を倒した際に稀に入手可能な物だと言われている。

エルレイ君も知っての通り、この大陸に魔物は存在せず、当然魔石も手に入らない。

しかし、遺跡から発掘されたり、土中から発掘されたりもするから、全く手に入らないと言う事では無い」

「そうなのですね…」

魔剣とは厄介な代物だな…。

グールのような強力な魔剣が存在すれば、精霊魔法と言えども苦戦を強いられるのは目に見えている。

セシリア女王は俺がグールを所持している事は知っているし、魔剣と戦うのであれば、魔剣を持っている俺に支援要求して来るのも理解出来る。

という事は、明日はいい返事を期待してもいいのかも知れないな。


「エルレイ君であれば、魔剣であろうとも楽に勝てると私は信じておるぞ!」

「はい、楽…では無いかも知れませんが、戦えないと言う事は無いと思います」

戦いたくは無いが、これも仕事だと諦めるほか無い…。

いいや、エルフを守るために戦うのであれば、全力をもって排除しようと思う!

そしてセシリア女王に認められれば、今後も結界内部に入る事を許可して貰えるかもしれない。

そうなれば、何時でも俺は日本食を楽しむ事が出来ると言うものだ!

悪く無いな…。

動機は不純かもしれないが、ルフトル王国から支援要請があれば出来るだけ協力しようと思った…。

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