第百三十七話 英雄が伝えた料理 その一
俺は人数分の指輪を購入し、支払いを済ませた。
指輪を七個も買ったのだから、店主からは嫁が多くて羨ましいと言われたが、結構大変なんだと言いたい…。
それに、まだ婚約者であって嫁ではないから手を出してもいない。
いっそのこと手を出してしまえば、その大変さは気にならなくなるのかもしれないな…。
アベルティアからもルリアを可愛がるように言われたし、少し関係を進展させていってもいい頃合いなのかもしれないな…。
「エルレイ、家具屋に戻るわよ!」
一通りお店を見て回った後、ルリアは買う物が決まったのか家具屋へとやって来た。
エルフが作る家具はどれも繊細に作られていて、見た目も美しい上に丈夫で長持ちするそうだ。
その分値段も高くなっているのだが、一生使えると考えれば安いのかもしれない。
でも、俺が渡した銀貨一枚で買えるような品物は無かったように思えるが…。
そう思いつつ、ルリアとリリーの後ろに着いて行った。
「この机と椅子に決めたわ!お金が足りない分は後で支払うから立て替えていて頂戴!」
「えっ!?」
ルリアが指定した机と椅子は、木目が美しい濃い茶色で、どこかのお偉いさんが使っているかのようなどっしりとした机だった。
値段も金貨十枚…約一千万円とかなり高い…。
公爵令嬢のルリアなら小遣いで支払えたりするのか?それともラノフェリア公爵に出してもらうのか?
アドルフから預かったお金で十分支払えはするが、もう少し安いのにした方が良いのではないだろうか?
「ルリアが普段使うのであれば、向こうの安い机の方で十分なのではないか?」
「駄目よ!この机は…贈り物にするのだから!」
「あぁ、分かった。それならこの机を買う事にするよ」
ラノフェリア公爵に贈るのであれば、これくらいの物でないと駄目だな。
ルリアは自分の物を買わずに、ラノフェリア公爵に贈り物をするなんて可愛い所もあったのだなと感心してしまった。
俺も両親に何か買って行った方が良いのだろうか?と思ったが、余裕がない時期に無駄なお金を使うんじゃない!とか言われて怒られそうな気もする…。
両親には領地経営に余裕が出て来てから、改めて贈る事にしようと思った。
「リリーは買わないのか?」
「はい、私とルリアで贈る事に決めましたので…」
「そうか、それならばいいんだ」
リリーが俺にお金を返して来たので聞いて見ると、その様に応えてくれた。
娘二人からの贈り物に、泣いて喜んでいるラノフェリア公爵の姿が容易に想像できるな。
「この机は名工 マルコの作品で、大樹の枝を材料にして丹精込めて作られた名品だ!
この机と椅子に座って作業すれば疲れ知らずなこと間違いなしだぜ!」
「そんなに素晴らしいものなのですね!」
「そうだぜ!ただし、高価になり過ぎて誰も買い手が付かなかったんだが、坊ちゃんが買ってくれて助かったぜ!」
「坊ちゃん…」
金貨十枚もする机だからな…そう簡単に買う事は出来ないのは分かる。
しかし、ソートマス王国に輸出すれば、こんな高級な机など貴族が喜んで買いそうなものだがな…。
「ところで坊ちゃんは、この机と椅子どうやって持って帰るんだ?
結界の外まで運んでやる事は出来ないぞ」
店長から説明を受け代金を支払った後に、どうやって持って帰るのかを聞かれた。
俺は収納魔法に入れて持って帰るつもりだったが、ソフィアから事前に魔法を使わないように言われてたのを思い出した。
そこで、ソフィアに収納魔法を説明し使用許可を求めた。
「その魔法でしたら使用されて構いません」
「ありがとうございます」
意外とあっさりと許可を貰えたし、机と椅子を収納した際も店長は驚いていたのに、ソフィアが驚いた様子は見られなかった。
そう言えば、ルフトル王国に入ってから色々試されたりしていたし、俺の事を調べていたんだろうな…。
そうで無ければ、魔法使いの俺を結界の中に入れようとは思わなかっただろう。
ロゼもいつの間にか買い物を済ませていたみたいで、お釣りを俺に手渡してくれた。
「ロゼは何を買ったんだ?」
「秘密でございます!」
ロゼが何を買ったのか興味があったので聞いて見たのだが、教えてはもらえなかった…。
深く追求するつもりは無いし、あまり自分の要求をしないロゼが買い物をしてくれた事を喜びたいと思う。
「エル、ここの食べ物は美味しくて楽しかったぞ!」
俺達の買い物も終わり、ヘルミーネ達と合流したのだが…。
「うん、その様だね…」
ヘルミーネの服には、食べこぼしの染みが幾つもついていた…。
ヘルミーネの横で、申し訳なさそうに頭を下げているラウラが哀れに思えて来る。
ラウラに責任は無いと思うのだが、ヘルミーネにはもう少し行儀よくなって貰いたいものだと思う…。
「エルレイ、これはお姉ちゃんとリゼからの贈り物よ!」
「アルティナ姉さん、リゼ、ありがとう」
アルティナ姉さんから、葉っぱに包まれた白い餅が手渡された!
そう…これはまごう事無き餅だ!
行儀が悪いが、俺は我慢できずにその場で口にした…。
「美味い!」
口に含んだ柔らかい餅の中にはあんこが入っていて、懐かしい味わいに思わず涙が出て来そうになる…。
「変わった食感だけれど美味しいわね!リリーも食べて見なさいよ!」
「しょうがないですね…」
ルリアは美味しそうに食べ、リリーはお行儀が悪いと言いつつも餅を食べていた。
「キャローネ、これは何と言った食べ物だったかしら?」
「それはねー、えーゆーが伝えた
「そうだったわね、かしわもちらしいわよ」
「変わった名前のお菓子ですね」
アルティナ姉さんが聞いてくれたけれど、俺はこれが柏餅だと言う事を知っている。
そうか、英雄が伝えたのなら納得だ。
でも今はそんな事はどうでもよくて、餅、つまりエルフの所にはお米があると言う事だ!
これは何としてもお米を買って帰らなければならないな!
「ソフィアさん、この柏餅の材料が欲しいのですけれど、売って貰えないでしょうか?」
「そうですね…。
ここで作られている作物は、私達が食べる分だけしか作っておらず多くはお渡しできませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「はい、僕達が食べる分だけあれば十分です!」
「そのくらいならお分けする事が出来ると思います」
ソフィアさんは俺達を食材が売られている市場に案内してくれた。
そこで俺は、お米、もち米、小豆を購入した。
「作り方はお分かりになりますか?」
「あっ、いや…」
俺は料理などやった事無く、柏餅の作り方なんか分からない…。
リアネ城の料理人に渡しても作れないだろうし、これは困った事になったな…。
「それでしたら、作り方を書いて差し上げます」
「ありがとうございます!」
「エルレイは、余程気に入ったみたいね!」
「うん、そうなんだけれど、留守を守ってくれている使用人達にも食べて貰いたいと思ってね」
「それは良い事だと思うわよ!」
俺の本命はお米の方だからな!
ついでにお米の焚き方もソフィアさんに教えて貰う事にした。
「エルレイさんは、英雄が伝えた料理を気に入られたみたいですので、昼食はそちらに致しましょう」
ソフィアが気を利かせてくれて、俺達を和食の料理店へと連れて行ってくれた。
「私達の間でも好みが分かれる料理ですので、お口に合うと良いのですけれど…」
ソフィアさんが少し心配そうにしながら、メニューを開いて見せてくれた。
「エルレイ、どんな料理か良く分からないわね…」
「そうだね…」
ルリアとリリーがメニューを見ながら困惑した表情を見せている。
勿論俺は分かっているが、分からない振りをしなくてはならない。
「甘いのを頼む!」
ヘルミーネはメニューなど見ずに希望を言っている。
ヘルミーネにしてみれば、料理屋に来たのも初めての事だろから仕方のないのだが、甘いのばかり食べさせる訳にはいかないよな。
「ソフィアさん、すみませんが料理が分からないので、ソフィアさんのお勧めを頼んで貰っても良いでしょうか?」
「分かりました」
ソフィアさんに頼むと、真剣な表情でメニューを見て考えてくれていた…。
「生ものは好みが大きく分かれるから…」
ブツブツと独り言を言いながら考えてくれているのには少し申し訳なく思う…。
ソフィアさんが注文をし、料理が出来上がって来るまでの間、俺はそわそわしながら待つ事となった…。
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