第百三十六話 ルフトルの町
キャローネの精霊魔法で俺達はルフトルの町へと降り立った。
キャローネまで入れると十人同時に運んでいるにもかかわらず飛んでいる間は安定していて、着地する際も衝撃が殆どなかったな。
この飛行魔法を習得できれば便利になるから、帰ったら色々試してみたいと思う。
ただし、その時間があればの話だけれどな…。
旅行の間に決裁書類は貯まっているだろうし、アドルフがまた俺に何か仕事を押し付けて来るかも知れないと思うと、気分が落ち込んでくる。
でも今は、ルフトルの町を見学できるまたとない機会だから、落ち込んでいる暇はないな!
「エルフ達が集まって来たわね…」
「そうだな…」
町に来た俺達の事を一目見ようと集まって来たのか、大勢のエルフ達に囲まれる事になってしまった。
囲まれているとはいえ十メートル程離れていて、見知らぬ俺達の事に興味と恐怖が入り混じっているかのようだった。
「すみません、結界を張って以来、人がこの町を訪れたのは初めての事でして、すぐに解散させますので少々お待ちください」
ソフィアは俺達に謝罪した後、集まっていたエルフ達の所に行って解散するように言いに行ってくれた。
別に見られるくらいかまわないが、なぜ俺達が求めてもいないのに町を見せてくれるのだろう?
俺としては、エルフの町を見られる事は非常にありがたく願っても無い事なのだけれど、エルフ側に利点は無いと思うのだけれどな…。
まぁ、もう二度と無い事かも知れないから、じっくりと見学させて貰う事にしよう。
「お待たせしました」
ソフィアがエルフ達を解散させて戻って来てくれた。
「皆様、私とキャローネが町の案内をしますので、行きたい所があれば遠慮なく申し出ください」
突然行きたい所と言われても、この町に何があるのか知らないからな…。
「美味いものが食べたい!」
「それじゃー案内するよ!」
俺が悩んでいるとヘルミーネが遠慮なく声を上げ、キャローネがヘルミーネの手を取って連れて行こうとしていた。
「ヘルミーネ、ちょっと待って!」
「なぜだ!エルも着いて来ればいい!」
「そうじゃなくて、お金も持たずに行ってどうする!」
「エルが支払えばいい!」
ヘルミーネは…と言うより、ここにいる皆が自分でお金を支払って買い物をすると言う事をした事が無い。
そう言う俺も、買い物をしたのは贈り物を買った一度だけだ…。
この町はエルフしかいないし、俺達を襲う様な者もいないだろう。
こんないい機会は二度とないかも知れないので、皆にはお金を支払って物を買う事を覚えて貰おうと思う。
買い物を通じて物の大切さを知って貰うとか、贅沢をしないようにして貰いたいとか言う意図は全くない。
貴族としては、入って来たお金を使わない事にはお金が回らないからな。
かと言って、過剰な贅沢をしろと言うつもりはないし、皆も今の所はそこまで贅沢を言う事は無いので安心している。
「ソフィアさん、このお金は使えるのでしょうか?」
俺はソートマス金貨を取り出し、ソフィアさんに見せた。
この大陸では、それぞれの国でお金は作り出されているが、硬貨の重さなどはある程度統一されていて、どの国でも通用するとは教えられていた。
しかし、ここはエルフの国だから、もしかしたら使えないかも知れないと思い聞いて見た。
「はい、使えます。ですが、支払いは私達の方で行います」
「いいえ、そこまでお世話になる訳には行きません」
必要以上に借りを作れば、後で何を言われるかは分からないし、エルフ達からお金を持っていないと思われたくも無いしな。
俺は銀貨を一枚ずつ皆に手渡して行った。
勿論、ロゼ、リゼ、ラウラにも手渡した。
三人は不要だと言ったが大した金額でも無いし、好きな物を買って貰えればと思い強引に手渡した。
硬貨は七種類あり、下から小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨、金板となっていて、ソートマス王国で銀貨の価値は一万円程度となっている。
余程贅沢をしない限り、銀貨を使い切る事は出来ないだろう。
「ヘルミーネ、それ以上欲しいものがあっても買ってやらないから大事に使うんだぞ!」
「むっ、わ、分かっておる!」
ヘルミーネは初めてお金を貰ってご機嫌だ。
一方、ルリア達は少ないと文句を言いたそうにしているが、ヘルミーネが納得した事で言い出せないでいるみたいだな。
俺の狙い通りだが、どうしても欲しいものがあれば買ってやるつもりだ。
アドルフから旅費として預かったお金の中に、俺達の小遣いも含まれていて余裕はあるからな。
だからと言って、全額使っていい事にはならないし、厳しい財政の中で出してくれたお金だから無駄遣いは出来ない。
「アルティナ姉さん、ヘルミーネの事をお願いします」
「エルレイは一緒に行かないのかしら?」
「はい、お菓子の食べ歩きはちょっと避けたい所です…」
「しょうがないわね。お姉ちゃんも美味しいものは食べたいし、ヘルミーネの事は任せておいて!
ラウラとリゼを連れて行くわね!」
「お願いします」
アルティナ姉さんはヘルミーネを連れて、キャローネの案内で美味しい物を食べに行ってくれた。
「エルレイは何か見たい所があったの?」
「これと言ったのは無いけれど、どんなものが売っているのかを見たいかな」
「そうね。お菓子の食べ歩きよりはましかしら?リリーは何か見たい物があるのかしら?」
「そうですね…お部屋に飾る物があれば見たいです」
ルリアが俺とリリーの意見をまとめてソフィアに伝え、ソフィアさんお案内で商店街の方へとやって来た。
俺達は一軒一軒お店を周り、売っている商品を見て回った。
お店の中にはエルフの店主やお客がいたが、俺達の事を排除して来る様な事は無く、むしろ何か買ってくれと品物を勧められたくらいだ。
人なんかに売る品物は無い!とか言われるかも?と考えていたのが恥ずかしくらいだ…。
せっかく勧めてくれる商品だが、予算には限りがあるので他の店を見てから検討する事にした。
ルリアとリリーも同じ気持ちの様だが、ロゼは遠慮して買うつもりが無いのかも知れない…。
「ロゼ、欲しいものがあれば遠慮せずに買っていいのだからな」
「ありがとうございます。エルレイ様の欲しいものはお決まりになりましたでしょうか?」
「ん?僕はまだ決まって無いな…」
欲しいと思った品物はあったが、良い物はやはりそれなりの値段がするんだよな…。
最初に銀貨一枚と言ったから、俺がそれを超える様な買い物をする訳にはいかず、十枚ぐらいにしておけばよかったと後悔している所だ…。
ロゼは俺が買うのを待っているみたいだから、早めに決めてしまう事にしようと思う。
「ソフィアさん、あの指輪は人気商品なのですか?」
木工細工の店に入った所、カウンターの一番目立つ場所に木製の指輪が展示してあった。
しかし、ソフィアさんは指輪をはめていないので、気になって聞いて見た。
「あの指輪は大樹、ルフトル城の樹の枝から作られていて、エルフの結婚指輪として使用されている物で、夫婦円満と子宝に恵まれます。
エルレイさんは多くの奥様をお連れの様ですし、買って行かれてはいかがでしょうか?」
「そ、そうですね…」
まだ奥さんでは無いが、結婚指輪と言う事なら買って行ってもいいのかも知れない。
だけど指のサイズもあるし、まだ成長もするだろう…。
でも、また買いに来る事が出来ない事を考えると、今買っておいた方が良さそうな気もする。
ルリアとリリーの方を見ると、ルリアはプイッと横を向いてしまい、リリーは顔を真っ赤にさせて両手で顔を覆っていた…。
ふむ…買って行かないと、ルリアからリリーを悲しませるんじゃないと殴られそうだし、ルリアも欲しがっている様子だ。
しかし値段が銀貨七枚なんだよな…。
アドルフから渡された予算内で余裕で買う事は出来るが、銀貨一枚に制限したのは俺なんだよな…。
しかし、買わないと言う選択肢は無さそうだ…。
「ルリア、リリー、指に合う指輪を選んでくれないか?」
「エルレイさん、嬉しいです!」
「ふんっ、リリーとお揃いだから仕方なくよ!エルレイとはまだ結婚して無いのだからね!」
ルリアは文句を言いつつも、リリーと嬉しそうに指輪を手にして指にはめていた。
「その指輪は指に合うように変化しますので、どれを選んでも大丈夫です」
ソフィアからそう説明を受け、俺はリリーとアルティナ姉さんの指輪を選ぶ事にした。
「エルレイ、ロゼ、リゼ、ラウラのも選ぶのよ!」
俺が指輪を選んでいると、ルリアが耳打ちして来た。
確かに、ロゼとリゼには贈らないと不味いと思ったが、ラウラにも贈る必要があるのだろうか?
ラウラはヘルミーネのメイドで、俺のメイドでも愛人でもないはずだ…。
ラウラとも夜に一緒に寝ているのは間違いないが、手は出していないし出すつもりもない。
しかし、ロゼとリゼに贈り物をして、ラウラだけ仲間外れにするのも可哀想な気もする…。
でもこの指輪はエルフの結婚指輪で、簡単に贈って良い物では無いはずだが、ルリアが買えと言っているし、問題は無いと言う事なのだろう!
俺は考えるのを止め、ラウラの分の指輪も購入する事にした…。
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