第百三十五話 女神の加護

「セシリア、まだ生きていたとはしぶといババアだな!」

グールに話させた途端これだ…。

女王をババア呼ばわりするとは、俺が罰せられても文句は言えない…。

隣に居るソフィアさんも、眉間にしわを寄せて激怒している!


「申し訳ございません!

この魔剣グールは話す事可能なのですが、下品な言動しか出来ません。

直ぐに黙らせますので、どうかご容赦ください!」

俺は頭を下げて、誠心誠意謝罪した。


「エルレイ、頭を上げてください。

グールとは旧知の仲ですので気にしていません」

俺はゆっくりと頭を上げて女王の表情を見ると、本当に怒っていないのか元の微笑みのままだった。

俺が罰せられることは無さそうで安心したが、このままグールに話させていいものか迷ってしまうな。

「グールとの話は後にして、ソフィア、皆さんを案内して差し上げてください」

「セシリア女王様、承知いたしました」

てっきり、女王とグールが会話をするのかと思っていたが、女王は俺達の退出を命じた。

ババア呼ばわりに内心激怒していたと言う事か…。

グールには後で厳しく言い聞かせておかないと、俺の命が危ない…。


俺達はソフィアに連れられて城内を歩き、テーブルの置かれた部屋へと案内された。

「皆様、この後ルフトルの町をご案内いたしますが、準備に時間が掛かりますので少しお待ちください」

「はい、分かりました」

ソフィアさんはそう告げると、俺達を残して部屋を出て行ってしまった。

グールのお陰で無事とは言い難いが、女王との謁見を終えて一安心と言った所だろう…。

俺は椅子に力なく座り、両手を枕にしてテーブルの上に頭を伏せた。


「エルレイさん、何処か具合が悪いのですか?」

「ううん、ちょっと気疲れしただけだから大丈夫」

リリーが心配して声を掛けて来てくれたので、俺は頭を上げて心配させない様に笑顔を見せた。

「気疲れして当然よね。私もエルレイが処罰を受けるのでは無いかとハラハラしたわ!」

「お姉ちゃんもよ!」

「うむ、私だったら打ち首にしておったぞ!」

皆が心配してくれていたみたいで、申し訳なく思うと同時に嬉しい気持ちにもなり、幾分気が楽になった気がする。

それにしても、グールには厳しく注意しておかないといけないな!

俺はグールをテーブルの上に置き、言い聞かせる事にした。


「グール、話し方は丁寧にならないのは諦めるとして、相手に失礼の無いように気を付けてくれ!」

「わーったよ。ババアとか言うなつーんだろ?」

「そうだ、僕は偉い人と会う機会が多いから、どうしても話す必要がある時はきちんと相手の名前を言ってくれ」

「マスター了解したぜ!」

口だけは了解したと何時も言うが、絶対また失礼な言動をしそうだな…。

「次また失礼な事を言ったら、私が燃やしてあげるわ!」

「うん、ルリア頼んだ!」

「げっ、それは勘弁してくれ!マスター、俺様復活は出来るが痛みを感じるんだぜ!」

「約束を守ればいいだけの話だ」

「チッ!努力するぜ…」

今度失礼な事を言ったら、絶対ルリアからお仕置きして貰おうと思った。

それでもグールの言動がまともになるとは思えないが、何もしないよりかはましだろう…。


「所でエルレイ、聞きたい事があるのだけれど?」

「何かな?」

グールの事が一段落し、気を抜いた所にルリアが質問を投げかけて来た…。

「女神の加護って何?」

「うっ…」

「あっ、それお姉ちゃんも気になってたのよね!」

女王に女神の加護があると言われた事を忘れていた…。

俺に加護があるのかは不明だが、何も知らないはずの女王が女神の事を言い当てたと言う事は、女王には俺に女神の加護があるのが見えているという事なのだろう。

実際に俺は、女神クローリスにお願いしてこの世界に転生したのだから、加護が付いていても不思議ではない。

普通の人は二属性魔法しか使えないのに、俺だけ四属性魔法を使えるのは女神の加護があるからだと考えるのが正しいだろう。

しかし、その事を皆に説明するのは難しい…。

俺が転生者である事は話せないし、話そうとも思わない。

信じて貰えるとかそう言うのでは無く、前世の記憶が残っていると言えば普通に気持ち悪いとか言われそうで怖いんだよな…。

ここは何も知らないと言い張るのが良いだろう…。


「ラウラ、女神とは何だ?」

「ヘルミーネ様、女神様とは北のミスクール帝国で信仰されている女神リース様の事では無いかと思われます」

「そうか、エルはその女神の加護を受けているという事だな?」

ヘルミーネはラウラに説明を求め、ラウラが女神に関して話しているのが聞こえて来た。

ミスクール帝国では女神信仰があるのか…。

しかし、女神の名前がリース?

俺が知っているのは女神クローリスだが、最後の二文字は合っているのかな?

女神も一人では無いだろうし、似たような女神がいるのかもしれない。


「そう言えばエルレイは、たまに何かに祈っていたのを見かけた事があったわね…」

「それは私も見た事があります」

女神クローリスに祈りを捧げている姿を、アルティナ姉さんとリリーに見られていたとは…。

これは言い逃れが出来ないか…。

俺は諦めて、女神クローリスの事を話す事にした。


「これから話す事は僕自身もあまり信じていない事だから、誰にも言わないで貰いたい。

僕はたまに女神様の夢を見る事がある。

しかし、その内容はよく覚えていないし、神託と言ったものを託されたりもしていない。

ただ、夢を見た後には良い事がよくあり、その度に感謝の祈りを捧げていた。

それだけの事だったのだけれど…。

今日セシリア女王様に女神の加護がある事を言われ、夢で見ていた女神様が本物だったのだと信じる事が出来た。

その女神様の加護で僕が四属性魔法を使えるのは間違いなさそうだ」

殆ど作り話だが、女神クローリスから神託を受けた訳でも無いし、感謝の祈りを捧げていたのも事実だ。

信じようと信じまいと構わないが、引かれるのだけは勘弁願いたいものだ…。

俺はそ~っと皆に視線を向けて見た。


「ふーん」

ルリアは腕組みをして疑惑の視線を向けて来ている。

突然女神の夢を見ていると言われれば、俺だってルリアと同じ反応をした事だろう。

「エルレイさん、凄いです!」

リリーは、尊敬の眼差しを向けて来ている。

いや…凄いのは加護をくれた女神クローリスであって、俺では無いのだがな…。

「エルに加護があろうがなかろうが、エルには変わりは無いな」

ヘルミーネは良く分かっていないのか気にしていない様子だ。

「エルレイには、お姉ちゃんの加護も付けてあげる!」

アルティナ姉さんはそう言うと、俺を強く抱きしめて来た…。

アルティナ姉さんの加護はとても嬉しいが、ここはエルフのお城だと言うのを考えて貰いたかった…。

アルティナ姉さんが抱きしめて来た時に、丁度ソフィアが戻って来たんだよな…。


「こほん、皆様お待たせいたしました。

ルフトルの町を案内させて頂きます。

ただし、人がこの町を訪れたのは初めての事ですし、町で生活している人々から奇異な視線を向けられるかも知れません。

事前に皆様が町を訪れる事は通達していますから、その様な事は無いと思いますけれど、留意して頂けると助かります」

「はい、分かりました」

俺達がエルフを見て珍しがるように、結界から出た事のないエルフ達も俺達の事を珍しいと思うのは良く分かる。

俺達もエルフに同じ様な視線を向けないようにしないといけないと思い、皆に注意を促した。


ソフィアさんに連れられて来た時と同じテラスにやって来ると、俺達を運んでくれたキャローネが待ち構えていてくれた。

「やっほー、また送ってあげるねー」

「よろしくお願いします」

「アル、お仕事の時間だよー」

キャローネが黒猫の精霊アルに命令をすると、俺達全員まとめて宙へと浮かび上がった!

俺はその飛行魔法を盗めないかと魔力の流れに注意を向けていたが、良く分からなかった…。

キャローネと精霊アルの間で魔力の受け渡しは確認出来たのだが、その先が全く魔力の動きが見えなかった。

やはり、俺に精霊魔法の真似事は出来ないと知り、落胆する事になってしまった…。

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