第百三十四話 ルフトル女王との面会

「あっちが食材を売っている所でー、こっちが家具を売っている所だよー」

キャローネに町の上空を運んで貰いながら、町の様子を説明して貰っている。

町の上空を飛ぶことは俺達の所だと禁止されているが、ここは結界の中でエルフしか居ないから問題無いのだな。

お店にも、上空から分かるようにと屋根に看板らしきものがあるし、ここは俺にとっても住みやすい所では無いだろうか?

でも、結界の外に出られないのは不便なのかもしれないな…。


「あれがお城だよー」

キャローネが指さした先に見えたのは、町の外れにあるとても大きな樹だった。

近づくにつれて、その樹がお城なのだと言う事が徐々に分かって来た…。

「樹の幹にお城が?」

「お城から樹が生えているのでしょうか?」

山のような大きな樹の幹に、お城の一部分が各所に付いている感じで、超巨大なツリーハウスと言った方が良いのだろうか?

しかし、樹と一体化した造形は非常に美しく見惚れてしまう程だ。

「とうちゃーく」

お城の広いテラスのような場所に、キャローネと一緒に俺達もふわりと降り立った。


「キャローネさん、ありがとうございます」

「うんうん、じゃぁまたねー」

俺がキャローネにお礼を言うと、笑顔で手をぶんぶん振りながら走ってお城に入って行った。


「エルレイさん、女王様がお待ちですので私に着いて来て下さい」

「はい!」

女王との面会は気が重いが、ラノフェリア公爵に託された役割はしっかりと果さないといけない。

俺は気を引き締めて、ソフィアの後に続いて行く事にした。


「中も木で出来ているのね!」

「そうですね。とても落ち着ける感じがします」

お城の中も全て木製で所々樹の幹が剥き出しになっている所もあり、樹の中に入っているような錯覚を覚える。

しかし、扉や廊下の柱などには昨日泊まった屋敷と同じ…いや、それ以上に精巧で美しい彫刻や絵が描かれていた。

エルフはこの様な繊細な物を作るのが得意なのだろうか?

良い物があったら、皆に買って帰りたいなと思ってしまうが、それは女王との会談が上手く行った後の話だな…。

多くのエルフ達とすれ違いざまにじろじろ見られながら木の廊下を進み、やっと大きな扉の前へと辿り着いた。


「皆様、女王様にはくれぐれも失礼の無いようにお願いします」

「はい、分かりました」

ソフィアは俺達に釘を刺した後、大きな扉に手を触れた。

すると、大きな扉はひとりでに開き、俺達は中に入って行った…。

部屋の中は大きな広間となっていて、奥には樹の根が大きく張り出していた。

そして、その樹の根の傍にと言うより樹の根の中に、一人の美しく若々しいエルフが佇んでいた…。

そこは穢れの無い清らかな空気に満ち溢れていて、俺が前に進んでいいのか躊躇ってしまうほどだ…。

「さぁ、前へ」

ソフィアさんに促されて俺は前へと歩みを進め…美しいエルフの前に跪いた。


「セシリア女王様、ソートマス王国の使者エルレイをお連れ致しました」

「ソフィア、ご苦労様でした」

鈴の様な澄んだ美しい声の女王から労われたソフィアは、頬を少し赤らませうっとりとした表情で女王を見ていた。

そしてそれは俺も同じで、この世の物とは思えないほど美しく可憐な少女の姿をした女王に見惚れてしまっていた…。

女王の視線がソフィアから俺に移り、見惚れていたことに気付かれまいと慌てて視線を落とした。


「私はエルフの長セシリア。

女神の加護を受けし者にお会いできて光栄に思います」

女神の加護と言われて一瞬びくっと反応してしまい、失敗したと思ったが既に遅い…。

動揺は隠せないが、とにかく今は挨拶をしなければならない!

「僕はエルレイ・フォン・アリクレットと申します。

セシリア女王陛下に…拝謁はいえつたまわり…きょ、恐悦至極きょうえつしごくに存じます!」

ソートマス国王とやり取りで慣れていたと思っていたが、他国の…しかも女王の前で緊張して噛んでしまい非常に恥ずかしい…。

難しい言い回しを普段使わないから慣れていないのもあったし最悪だ。

女王の表情も、少し笑っているようにも見えるし…穴があったら入りたい気持ちだ。


「エルレイ、普段通り話しても構いません」

「はい、お気遣い感謝いたします。

では失礼して、セシリア女王陛下、ソートマス王より親書を預かって来ております。

どうか、お受け取り下さいませ」

俺は収納魔法から親書を取り出し両手で差し出すと、何処からともなく白いローブに身を纏ったエルフの人が俺の所にやって来て親書を受け取り、セシリア女王の所に持って行ってくれた。

セシリア女王は親書を受け取り、すぐに読み始めてくれた…。


セシリア女王は五分程親書に目を通し、俺へと視線を上げた。

「エルレイは親書の内容を知っていますか?」

セシリア女王はそう尋ねて来たが、俺が親書の内容を知っているはずもない。

それは、ラノフェリア公爵に預けられた物で、この様な場所に来るのは俺では無かったのだからな…。

「いいえ、知りません」

「そうですか、簡単に説明しますと二国間の不可侵条約の締結及び、私の国が他国に攻められた際の支援となっています。

この支援と言うのが、エルレイを貸し出すと言う事になっています。

ですがその事をエルレイには知らされておらず、ここに書かれている内容は嘘と言う事になるのでは無いですか?」

「そ、それは…」

セシリア女王に問い詰められ言葉を詰まらせてしまった…。

俺にとっても寝耳に水の事だったから仕方が無いが、すぐに肯定しないと不味い事になりそうだ…。

しかし、ルフトル王国は今まで自国の戦力だけで敵国を撃退して来ていたのに、俺の助けが必要とも思えない。

なのになぜ、国王はそんな無駄とも思える様な事を書いたのだろう?

うーん、俺が撃退すればルフトル王国の犠牲は少なくて済むだろうが、先程見た精霊魔法は俺の魔法より優れていたからな…。

でも、よくよく考えて見ると、少しでもルフトル王国に恩を売る事が出来れば精霊魔法を教えて貰えるかもしれない!

教えて貰え無くとも、エルフとお近づきになれるのは良い事なのでは無いか?

うん、そうだな!


「確かに、僕が今その事を知ったのは事実です。

ですが、僕の助けが必要かどうかは分かりませんが、協力を惜しむつもりはありません。

必要な際は、遠慮なく呼び出していただいて結構です」

「そうですか、それはとてもありがたい申し出です」

セシリア女王は少しだけ微笑を見せてくれていた。

なんとか好印象を与えることが出来たのかもしれないと安堵した…。

「返事は明日にでも用意します」

「はい、よろしくお願いします」

これでセシリア女王との会談は終わりかと思った所に、グールが俺に声を掛けて来た…。


「マスター、会話の許可をくれ!」

「グール、ちょっとお前は黙っていてくれ!」

セシリア女王の前で魔剣グールを見せる訳にはいかないし、失礼な言動しかしないグールに話させると面倒な事になりかねない!

そう思って、慌ててグールに黙る様に言ったのだが時はすでに遅し、隣に居るソフィアには当然グールの声を聞かれたし、セシリア女王の耳にも届いたみたいだ…。

「その声は確かグールですか?」

「おうよ!久しぶりだが覚えてくれていたか!」

そして、セシリア女王はグールの事を知っていたみたいで、グールも返事をしてしまった。

仕方が無いので、俺は懐からグールを取り出てセシリア女王に見せる事にした。

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