第百三十二話 代表者会談

落ち着きのある部屋で一夜を明かし、旅の疲れもすっかり癒えた感じがした…。

若い体のせいか、それともこの部屋のせいかは分からないが、元気になった事は良い事だ。


「エルレイ、街を見に行けないかしら?」

以前は、決してそんな事を言わなかったルリアからそう言われて驚いたが、断る理由は無いな。

「うん、ラノフェリア公爵様の許可が貰えればね」

「それは何とかしてみせるわ!」

ルリアは自信に満ち溢れる笑みを浮かべてそう言った。

まぁ、アベルティアも居るし、ラノフェリア公爵もルリアの我儘を許してくれるだろう。

そう思って朝食へと向かって行ったのだが…。


「今日は許可出来ない。理由はエルレイ君にも対話の席に同席して貰うからだ!」

俺の役目はもう終わったのかと思っていたのだが、ルフトル王国との対話の席に参加しないといけないみたいだ…。

ルリアも、それならば仕方無いわねと、素直に諦めてくれていた。

ルフトル王国は犯罪者が少なく比較的安全だとは言え、ルリア達だけで行かせるには不安がある。

ルフトル王国側がルリア達を人質に取る、何てことも無いとは言えないからな…。


朝食を終えた俺は、ラノフェリア公爵と共に長いテーブルの置かれた部屋へと案内されて行った。

正面には大きな樹が描かれた旗が壁に掲げられている。

あれがルフトル王国の国旗なのだろう。

俺とラノフェリア公爵が並び、正面には昨日出迎えてくれた金髪の女性が立っていた。


「初めまして。私はルフトル王国の代表を務めさせて頂いているソフィアと申します」

ソフィアは優雅にお辞儀をして俺達に挨拶をしてくれた。

「初めまして。私はロイジェリク・ヴァン・ラノフェリア。ソートマス王国の代表としてルフトル王国との対話をしにやってまいりました。

こちらは私の補佐でエルレイ」

「エルレイ・フォン・アリクレットです。よろしくお願いします」

お互い挨拶を交わし席に着いた。


「さて、今回はどの様なご用件でいらしたのでしょうか?」

ソフィアが、やや冷たい口調で言い放って来たので、あまり歓迎されていないように思える…。

二国間の歴史を考えれば仕方のない事なのかもしれない。

これまで、幾度となくソートマス王国が一方的に攻め込んでいるからな。

対話が上手く行くかどうかは、ラノフェリア公爵の手腕にかかっているという事で、俺は黙って推移を見守るしかない。


「まず最初に、ソートマス王国を代表して、これまでの歴史において貴国に多大なご迷惑をおかけした事を謝罪する」

ラノフェリア公爵が頭を深く下げて謝罪したので、俺も慌てて同じように頭を下げた…。


「勿論、いくら謝罪した所で今までの罪が消える事は無いのは承知している。

それは今後ソートマス王国としての行動で示していく他にはない。

今後は貴国に攻め込まないことを約束する」

「今回も侵攻しようと兵を集めていた国の言を信じろと?」

ソフィアは冷たい眼差してラノフェリア公爵を睨んでいた。

あれだけの兵を集めていれば、気付かない方がおかしいよな。

何時も堂々としているラノフェリア公爵にも焦りが見え隠れしているし…。


「兵を集めていたのは事実でその事を否定はしない。

しかし、ここにいるエルレイが侵攻を止めた事はそちらも承知のはず。

ソートマス王国に侵攻の意思が無い事は理解して頂きたい。

そして、今後も似たような状況に陥った場合は、ソートマス国王並びに私とエルレイが全力をもって阻止する事を約束する」

俺まで侵攻阻止を約束した事にされてしまったが、ルフトル王国との戦争に参加はしたく無いし、今回の様に阻止するだけなら楽なので良いと思う。


「分かりました。争いを望まないのはこちらも同じです。

ですが、次にそちら側からの侵攻があった場合は、二度と対話には応じないとソートマス王にお伝えください」

「承知した!」

対話には応じてくれそうな感じだが、今回が最後になる可能性はあるみたいだな…。


「ソートマス国王から親書を預かって来ていて、出来ればルフトル国王陛下に直接渡したい。

よろしければその機会を作っては頂けないだろうか?」

ラノフェリア公爵がルフトル王への面会を申し出たが、ソフィアさんは沈黙し暫く考えている様子だった…。

「……分かりました。ルフトル王への面会を許可します。

ですが、そちらのエルレイさんのみ許可致します」

「えっ!?」

思わず俺は声を上げてしまった…。

なぜ俺だけと言う気持ちはあるし、俺が面会した所で交渉なんて出来ないんだけど…。

そう思いつつ、ラノフェリア公爵に視線を向けると、俺に任せたと言わんばかりに頷いていた。


「ルフトル国王陛下と面会を承諾して頂き感謝する」

「では、エルレイさんの準備が整い次第出立致します」

ソフィアとの会談は終了し、俺のラノフェリア公爵は退出しててラノフェリア公爵の部屋へと戻って来た。


「エルレイ君、これが陛下からの親書だ。間違いなくルフトル国王に渡してくれたまえ!」

「分かりました。しかし、僕だけ行っても何の役に立たないと思うのですが…」

「それは気にする事は無い。そもそも、ルフトル国王との面会が出来た者は今まで居ないのだからな」

「そうなのですね…」

「ルフトル王国に入る前にアベルティアから説明を受けただろう。

ルフトル王国の首都には結界で守られた場所があり、誰一人としてその結界内部に入った者は居ないと」

「そうでした…という事は、僕はその結界内部に入れると言う事なのですか?」

「恐らくそうなのであろう。

そして、道中に起こった事は、エルレイ君にその資格があるのかを見極めるための物だったに違いない」

「なるほど…」

…。

結界内部に入れて貰えると言うのはとても名誉ある事なのだろう。

しかし、そこに捕らわれて二度と出られないと言う可能性も否定は出来ない。

ロゼかリゼを護衛として連れて行くのを考慮した方が良いのか?

取り合えず、ルリア達にその事を話してから考える事にするか…。

ラノフェリア公爵から親書をお預かりし収納魔法に収めた。

ここに入れて置けば、どんな事があっても取られる事は無いだろうからな。


俺はルリア達が居る部屋へと行き、ルフトル国王と面会する事を説明すると…。

「エルだけずるいぞ!私も連れて行け!」

「面白そうね!私も着いて行くわよ!」

「お姉ちゃんはちょっと怖い気もするけれど、エルレイだけ危険な場所に行かせる訳にはいかないわね…」

「エルレイさん、私も…」

皆着いて来ると言って聞かなかった…。


「いや待ってくれ!ラノフェリア公爵様も入れないのに、ルリア達が入れるわけが無いだろう?

僕はロゼかリゼのどちらかを護衛に連れて行こうと思っていただけで…」

「エルレイ様は私がお守り致します!」

「リゼ、抜け駆けはズルいです!エルレイ様、緊急時には一緒に飛んで逃げられる私をお供としてお連れ下さい!」

リゼとロゼが言い争いを始め、収拾がつかなくなってきてしまった…。


丁度その時、部屋の扉がノックされたので出て見ると、ソフィアが迎えに来ていた。

「えーっと、すみませんが、僕の家族を連れて行く事は可能でしょうか?」

丁度よかったので、駄目元でソフィアに聞いて見た。

ここで断られれば、ルリア達も納得してくれるだろうからな。

「そうですね………許可致します」

「えっ?結構な人数いますけれどよろしいのでしょうか?」

「はい、構いません」

ソフィアから許可を貰えたので、ルリア達も連れて行く事となった…。

ラノフェリア公爵は駄目で、ルリア達が良いという基準が分からない。

でも、ルリア達を俺の傍に置いて置けると言うのは安心出来ていいのだけれどな。

結界内部で何が起ろうとも、ルリア達を守り切らなければな!

いざとなれば、グールもあるし何とかなるだろう。

少し甘い考えかも知れないが、俺だけ結界内部に捕らえられるような事になれば、ルリア達が暴走するのは目に見えている。

そうなってしまえば、ソートマス王国とルフトル王国の関係は修復不能となるのでそれだけは避けたい所だ。

何も起こらない事を願いつつ、ルリア達の準備が整うのを待つ事となった…。

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