第百三十一話 ルフトル王国の試験
ルフトル王国に入ってからの旅は、順調とは言い難いものとなっていた…。
街道はソートマス王国程整備されておらず、土が剥き出しで
「ラノフェリア公爵様、前日の雨で
「ふむ、エルレイ君ならどうにか出来るだろう?」
「はい、少し時間を頂ければ…」
「頼んだぞ!」
自分の領地でも無いのに街道整備をさせられるとは思っても見なかった…。
でも崖が崩れた程度ならまだ楽な方だったな。
別の日には、川の橋が流されてしまったと言われ、橋を作る羽目になったからな…。
街道整備で手慣れていたとはいえ、無償で橋を作らされるのはたまった物では無い!
だから、橋の欄干に名前を彫るくらいは許されるだろう…。
「ロゼっと!」
「エルレイ様、恥ずかしいので止めて頂けないでしょうか?」
欄干には手伝ってくれたロゼの名前を彫ったのだが、不評だったみたいだ…。
仕方ないので、反対側には俺の名前を彫り込んだ。
「これなら良いだろう?」
「はい、ですが…」
ロゼは一瞬だけ嬉しそうな表情を見せたが、直ぐに申し訳なさそうにしながら俺達の背後を見た…。
「エル!私の名前も刻みつけろ!」
「お姉ちゃん、エルレイの隣でいいわよ!」
俺とロゼが橋を作る間、使用人達が用意したテーブルの席に座って休憩していた皆が揃って並んでいた…。
「はいはい、同じ場所には彫れないけどかまわないよな?」
という事で、全員の名前を欄干に彫り込んで橋の完成となり、旅を再会する事となった。
俺達が泊まる事になる町に着くと、何やら町民が集まって相談をしていた。
執事のダリエルが聞いて来た話によると、今朝から急に井戸の水が出なくなり困っているとの事だった…。
「エルレイ君」
「はい、行って参ります…」
ここまで来るとラノフェリア公爵も慣れたもので、俺に問題解決して来るようにと申し付けて来た。
俺は馬車を降り、町民が集まって場所へと向かって行った。
「井戸の水が出ないで困っていると言うお話でしたが、僕の魔法でどうにかしてみましょうか?」
「どなたか知りませんが、よろしいのでしょうか?」
「はい、構いません。困っている時はお互い様ですので…」
俺は町民に案内されて大きな井戸がある場所へとやって来た。
「こちらでございます」
「魔法を使いますので、皆さん少し離れていてください」
俺は井戸を覗き込み、魔法で炎を作り出して井戸の底を確認してみたが、やはり水は枯れて底の土が見えていた…。
昨日までは出ていた水が急に出なくなったという事は明らかに異常だよな…。
俺は懐からグールを取り出し、小声で聞いて見る事にした。
「グール、魔力に異常があったりするか?」
「マスター、魔法が使われている形跡があるぜ!」
「やはりそうか…」
ここに来るまで様々な問題に直面して来れば、これが人為的な物だと推察できると言う物だ。
ルフトル王国に入る前に、監視されていて犯罪者は直ぐに捕まると言う事を知らされていた。
つまり、俺達も監視されていて、問題をどの様に解決するかを見られていたという事だ…。
俺の魔法は見られても構わないが、あまり気分の良い物では無いな…。
ともあれ、この井戸の問題を解決するのが先だな。
「グール、どうすればこの井戸から水が出て来るように出来る?」
「放置しておけば明日には出て来るると思うが、マスターは今出してーんだよな?」
「そうだ」
「水は井戸の底より下を流れる様に曲げられているから、もう少し掘ればいいだけだぜ!」
「分かった、それなら簡単だな」
井戸の底を掘りつつ、崩れないように補強しながら十メートルほど掘ると、水が湧き出て来た。
「水が出てきましたが暫くは濁っているかと思います」
「ありがとうございます。非常に助かりました。
何かお礼を…」
「いえ、大したことではありませんので、お気になさらないで下さい」
俺は、お礼をしたいと言う町民たちを何とか振り切り、馬車へと戻って来た。
「エルレイ君、ご苦労であった」
「いえ、それで井戸の事ですが…」
「やはり、ルフトル王国の仕業か?」
「はい、僕達を試すのが目的かと思われます」
「それならば、今後も適時対処していくしかあるまい」
「はい…」
ラノフェリア公爵も気付いている様だし、問題を放置して進む事は出来なくなったという事だ…。
もし、俺達が問題を放置して進めば、交渉に支障が出て来るのは間違いない。
面倒ではあるが、これもソートマス王国の為でもあるし、ルフトル王国との交渉が上手く行けば俺としても喜ばしい事だ。
何故なら、ルフトル王国とは俺の領地とも繋がっていて、和平交渉が上手く行けば注意すべき国はラウニスカ王国のみとなる。
そう考えれば、これまでの行いも無駄ではなかったのだと思えて来る。
この調子で、降りかかる問題を解決して行こうと思った。
しかし、俺の思いとは裏腹に旅は順調に進んで行き、気が付けばルフトル王国の首都ストアクスに到着した。
「長い旅も終わりね!」
「そうだけれど、ラノフェリア公爵様にとってはこれからが本番なのでしょう」
「うむ、その通りだ。エルレイ君の努力を無駄にしない様頑張らせて貰う」
俺達の乗った馬車がストアクスの入り口に到着すると、待ち構えていた人達に先導されて町の中を移動し、少し古びた感じのする大きな屋敷へと連れて来られた。
「ソートマス王国の代表者の方々、ルフトル王国へようこそいらっしゃいました」
俺達が馬車から降りると、すらっとした細身で長い金髪がとても美しい女性に出迎えられた。
服装は街の人と変わらないような感じだったけれど、素材が違うのか光を反射してキラキラと輝いて見えた。
だからだろうか?どことなく彼女からは神秘的な感じがした…。
「私はソートマス王国国王の代理人を務める、ロイジェルク・ヴァン・ラノフェリアと申す者。
此度はルフトル王国との対話を通じ、これまで敵対関係にあった両国の関係改善に一歩でも近づけられればと思い参じた。
可能であれば、ルフトル王国の代表者との対話を希望する」
「そちらのお考えは理解出来ました。
ですが、私ではその判断は出来かねますので、今日の所はこの屋敷で長旅の疲れを癒して頂き、明日にでも返答させて頂きます」
「よろしくお頼みします」
ラノフェリア公爵と女性の会話は終わり、俺達は屋敷の中へと案内された。
「とても趣のある感じね!」
「落ち着きます…」
「地味だな!」
「お姉ちゃんももう少し派手なのが好みかな…」
「そう?僕はこの感じは好きだけどな」
ルリアが感心しながら飾られている物を見ていた。
木彫りの置物や、綺麗な絵柄が描かれた花瓶など、どれ一つ取ってもとても精巧に作られている物だと言うのは、素人の俺の目から見ても分かる程だった。
そして、与えられた部屋の内装にも精巧に作られた品々が贅沢に使われていて、一見すると地味だけれど、何故か安心して過ごせる落ち着いた空間となっていた。
「はぁ~、暫くはゆっくり過ごせそうだな…」
「そうね。お父様の交渉が何日続くかは分からないけれど、暫く馬車に乗りたくは無いわ…」
「はい、馬車の旅は初めての事で楽しかったのですが、流石に疲れました…」
「元気が無いな!私はまだまだいけるぞ!」
「お姉ちゃんも疲れたわ~、エルレイ、お姉ちゃんをいたわって頂戴!」
俺達はソファーに座り、それぞれ自由に長旅で疲れた体を癒す事となった…。
その日の夕食は、とても豪華な食事が用意されていた。
「エル、これも美味いぞ!」
ルフトル王国はソートマス王国の隣とは言え、収穫される野菜が多少違っている上に、味付けも違っていてとても美味しい。
何より、豪華な食事に慣れているはずのラノフェリア公爵夫妻やヘルミーネも大満足している様子。
「香辛料が違うみたいだな。独特の風味で食が進む」
「そうですね。私は少し辛めで苦手ですけれど、こちらの甘めのソースを付けると美味しく頂けます」
そうか…この料理は俺が久しく食べていなかった和食に近いものがあるな…。
「エルレイも辛いのが苦手なのかしら?」
「いや、辛いのは好きだけれど?」
「そう?涙が出ているわよ?」
「エルレイさん、拭いてさしあげますね」
リリーが優しく俺の涙を拭いてくれた…。
そうか、俺は泣いていたのか…。
なんだか急にご飯が食べたくなって来たな…。
この世界のパンが主食でお米を見かけた事は無いが、この大陸を探せばどこかにあるかも知れないな。
帰ったらアドルフに頼んで、お米を探して貰おうと思った…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます