第百二十九話 鎮圧 その四

「くそっ!どうなっている!」

カールは火属性魔法と風属性魔法を駆使して俺に次々と攻撃を仕掛けて来ていたが、俺の想像通り、呪文を唱えない事を無詠唱だと勘違いしているみたいだ。

その事を教えてやるつもりは無いので、俺も通常の魔法だけを使って対処している。


「どうと言う事は無い。僕が君より才能があったと言う事じゃないかな?」

「そんな事は決してない!ありえない!貴様はただ四属性魔法が使えるだけの凡人だ!自惚うぬぼれるじゃない!」

まぁ、四属性使えるだけで才能が無いのは俺が一番よく理解している。

火属性魔法に関してはルリアに勝てないし、水属性魔法に関してはリリーに勝てないからな…。

だが、それを他人から言われるのは少々むかつくが、ここで怒るほど子供ではない。


「そうか、では天才の魔法と言うのを見せて貰えるかな?」

「くっ!」

まだ隠している魔法があるかも知れないと思い、カールを挑発して見たのだが…。

「マスター、奴の魔力は尽きかけているぜ!」

「もう魔力切れなのか…」

カールの魔法を全てさらけ出してやりたかったが、ここまでのようだな…。

カールは俺に背を向け、仲間の魔法使いの所へと逃げて行った。


「お前達、全員で奴を攻撃しろ!」

どうやら、俺をどうやっても殺したいみたいだ…。


「マスター、俺の出番だな!」

「あぁ、殺さない程度に魔力を吸収してやってくれ!」

「了解!」

俺はグールを構え、呪文を唱えている五十人の魔法使い達に突っ込んで行った!


「馬鹿が死ねぇ!」

一斉に放たれて来る魔法をグールを盾にして突き進む!

「俺様の名はグール!全てを食らいつくす最強の魔剣!覚えておけ雑魚ども!」

グールは撃ち込まれて来る魔法を吸収し、驚いて逃げ惑う魔法使い達に襲い掛かって行く!

実際には俺が魔法使いをグールで斬りつけているだけだが、斬りつけられた魔法使い達は魔力を失い地上に落ちて行っている。

落ちていく魔法使いは風で包んでおいたから、死にはしないだろう。

魔法使いは五十人はいて、一人一人の無事までは確認している暇はない。


「何なのだ…それは何なのだ!」

五十人の魔法使いを処理した後、残ったカールが怯えながら尋ねて来た。

「あぁ、これは偶然拾った魔剣だ。お前との戦いで魔力を消耗していたし、魔法で全員倒すのは大変だったからな…」

「魔剣…魔剣だと!貴様それでも魔法使いか!」

どうやらカールには、俺が魔剣で戦った事がお気に召さなかった様子。

これはあれか?魔法使いは剣を使う必要が無いとか思っている輩だな。

別に俺はそれを否定する気は無いし、魔法使いは絶対剣術を修めなければいけないとも思ってはいない。

人にはそれぞれ得手不得手があるし、リリーみたいな可憐な少女を前衛に出して戦わせたくは無いからな…。

「魔法使いだろうと、剣で戦ってはいけないと言う事は無いはずだが?」

「卑怯者め!次は必ず俺が貴様を倒すからな!覚えていろよ!」

カールはそう言って逃げ出そうとしたけれど、逃げられないように先回りしてカールに剣を突き付けた!

「お前、次があると思っているのか?

侯爵の僕を殺そうとしておいて、無事でいられるとでも?」

「なっ、い、いや、そ、それは…」

「それは?」

「う、う、上に、そ、そう、ルフティン男爵に命令されて仕方なく…」

「なるほど、仕方なくであろうと何であろうと、僕を殺そうとした事には変わりない。

どの様な処分が下るから分からないが、大人しく罰を受けるんだな!」

「…」

カールはがっくりと肩を落とし、俯いてブツブツと何かを言っているみたいだ…。


「マスター来るぜ!」

「あぁ、分かっている」

カールは残された魔力を使い、最大限の攻撃を仕掛けて来た。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

近距離で魔法をぶっ放せば自身も無事では済まないのは分かっているだろうにな…。

まぁ、捕まるくらいなら俺を巻き込んで死のうかと思ったのかも知れないが、残念ながら通用しない。

「グール頼んだ」

「任せろ!」

カールが放った魔法の効果が発動する前に、グールが全て吸い尽くしてしまった…。

カールは驚愕に目を剥きつつも、魔力切れで意識を失い地上に落ちて行った…。


「グール、よくやった!」

「おう、俺様が凄い事が理解できただろ!」

「あぁ、こんな事はそうそうないだろうけれど、次もまたお願いするよ」

「任せときな!」

二度とこのような事が無い事を願いたいが、カールに俺の魔法を見せずに済んだし、グールが戦闘で十分役に立つ事が分かったのは良かった事だろう。


『エルレイ様、後続の兵がやって参りました』

『分かった、ロゼ、すまないが僕が落とした魔法使いの回収を手伝ってくれ』

『承知しました』

ロゼが念話で後続の到着を知らせてくれ、俺はロゼに手伝って貰って倒した魔法使い達を街道脇に集めた。

俺が魔法で守っていたが、落ちた際に怪我をしている者も居て治療は済ませてやった。

グールによって与えられた傷は皮膚を切り裂いた程度だったので、グールが上手く手加減してくれたのだと言う事だ。

グールに魔力を吸われて魔力切れになっているから、当分起きる事は無いだろう。

起きたとしても、魔力が回復していない魔法使いは脅威では無いので放置する。


中央の街道から来ていた兵は四千人と一番多かったのだが、俺が先行して来た五十人を倒した事を告げると、あっさりと逃げ帰ってくたので非常に助かった。

もう一回くらい戦闘があるかとも思っていたが、俺の顔を見ただけで魔法使い達が逃げ出したからな…。

もしかして、エレマー砦の戦いに参加していた傭兵部隊の者達だったのかもと思ったが、俺の顔は知らないはずだよな?

まぁ何にしても、戦いが無く終わった事は良かったと思う。


「エルレイ様、これからどう致しますか?」

「そうだな。作った壁を壊さないといけないから、帰るのは明日にしよう。

リゼに念話でそう伝えておいてくれ」

「承知しました」

無理をすれば今日中に帰れない事も無いが、俺が追い返した兵がへスタンスの街に到着するのは明日以降になるだろうし、急ぐ必要もない。

ここ数日、ラノフェリア公爵と顔を合わせずに済んでいて気が楽だったんだよな…。

戦闘で疲れた今日まで気を抜いて過ごしても罰は当たらないだろう…。


そして翌日、皆が待つへスタンスの街へと帰って来た。

宿に到着し、ロゼには皆の所に報告しに行って貰い、俺はラノフェリア公爵に報告しにやって来た。

「ただいま戻りました」

「エルレイ君、ご苦労であった」

「エルレイ君、お帰りなさい」

ラノフェリア公爵夫妻に出迎えられ、労をねぎらわれた。

「全て上手く行ったようだな」

「はい、ですが、数名の者に襲われました…」

「そうか、その者達は厳重に処分する様に伝えておこう!」

「よろしくお願いします」

俺を襲って来た奴らに同情はしない。

しっかりと罰を与えて貰わなくては、今後も俺を襲おうと考える馬鹿が出て来る可能性が高くなるからな。


「エルレイ君、明日にはこの街を立ちルフトル王国に向かう。

ルリア達にはもう伝えてあるので、今日はゆっくりと休んで明日からの旅に備えてくれたまえ」

「分かりました。では失礼します」

俺が追い返した兵はまだこの街に到着していないが、俺が留守中にラノフェリア公爵がアラントン子爵と話を付け、今度こそ侵攻の中断を確約させたとの事だった。

アラントン子爵としても、この状況でポメライム公爵に付いているより、ラノフェリア公爵に鞍替えした方が良いと判断したのだろう。

ラノフェリア公爵も、こちら側についてくれるのであれば悪いようにはしないはずだろうしな。


さて、侵攻を無事阻止できたし俺の役目は終わった。

後は、ルフトル王国までラノフェリア公爵の護衛を努め、観光を楽しむだけになるだろう。

肩の荷が下り、少しは旅を楽しむ余裕が産まれて来ればいいなと思いつつ、行った事のないルフトル王国がどんな所なのかを想像しながら、ゆっくりと休む事にした…。

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