第百二十七話 鎮圧 その二

ラノフェリア公爵とアベルティアとの相談で、俺が兵を止める場所が大まかに決まった。

地図上で見ただけで、実際にその地に行ってから最終決定をするのだが、街から離れていて周囲に畑などが無い場所を選んだ。

街道を行き交う人達は居るだろうが、戦闘が始まれば逃げ出してくれるだろうし、兵を通過させないように一時的に街道を封鎖するつもりだからな。

後はルリア達の説得だが、俺は面倒だから黙って行こうかと考えていた…。

しかし、アベルティアが後から喧嘩になるから説明してから出掛けなさいと言われ、仕方なくルリア達が居る部屋の前へとやって来た。

上手く説得できる自信が無いが、やるしか無いか…。

俺は覚悟を決めて扉を開け、部屋の中に入って行った。

部屋の中では旅の疲れを癒すべく、それぞれ寛いでいる所だったが、話があると言って集まって貰った。


「エルレイの話って兵の鎮圧の事なのでしょう?」

「うん、そうなんだけれど、ルリアは連れて行かないよ」

「えぇ、手加減は苦手だからエルレイに任せるわ!」

ルリアは意外とあっさり引き下がってくれた事には拍子抜けしたな…。

一番着いて来ると言うと思っていたのたんだけれど、説得する手間が省けて良かったと思う。


「エル!私が行って静めて来てやるぞ!」

「いや、それは危険すぎる…」

「何故だ!王女の私が行けばみんな言う事を聞いてくれるはずだぞ!」

「例えそうだったとしても、ヘルミーネに危険な事をさせたのなら僕が国王陛下から怒られてしまう」

「むぅ、それは不味いな…」

ヘルミーネは俺が国王に怒られるのを想像したのか、大人しく引き下がってくれた。

そもそも、ヘルミーネが説得できるのであれば、ラノフェリア公爵も苦労はしないはずだからな。


「お姉ちゃんは役には立てそうにないから大人しくしておくね」

「エルレイさん、私もお役には立てません」

アルティナ姉さんとリリーは、俺の役に立てない事を残念そうにしながらも、ルリアとヘルミーネが暴走しないように見ていてくれる事だろう。

その事が一番俺の役に立ってくれるのだけれど、今この場では言えないな…。


「エルレイ様の護衛は私にお任せください!」

リゼが自信満々の表情で俺の護衛を申し出てくれた。

しかし、今回は俺一人で行きたいと思っているので、何とか説得しなくてはならないな。

「リゼの申し出は嬉しいが、僕一人で行こうと思っている。

理由としては、今回の目的が討伐では無く鎮圧だと言う事で、魔法が使えないからだ。

当然僕も魔法を使って攻撃する様な事はせず、今回はこいつに頼ろうと思っている」

俺は懐からナイフを取り出して皆に見せた。

「やっと俺様にも出番が回って来たつー事だな!」

「うん、グールの力を借りるよ」

「任せときな!」

俺がグールを使おうと思った理由は、こいつの魔力吸収能力を使おうと考えたからだ。

グールは魔法の魔力を吸収するだけでは無く、斬りつけた相手の魔力も吸収する事が出来る。

多少は怪我をするだろうが、死ぬ事は無いだろうからな。


「それなら尚の事、エルレイ様のお傍で守らせてください!」

俺の説明をした後も、リゼはしつこく言い寄って来た。

リゼの気持ちは嬉しいが、飛んで逃げる事が出来ないリゼを連れて行くのは危険すぎるんだよな…。

リゼにどうやって納得して貰おうかと考えていると、ルリアが口出しして来た。

「エルレイ、剣で戦うのであればリゼの言う通り護衛は必要よ!」

「でも、どんな危険があるか分からないので、リゼは連れて行けない!」

ルリアの援護射撃でリゼが嬉しそうな表情を見せたが、俺は心を鬼にして断った!

「それならロゼを連れて行きなさい。ロゼなら危険があれば飛んで逃げられるから文句は無いわよね?」

「し、しかし、それではリリーの護衛が居なくなってしまうぞ」

「リリーは私が守っているから大丈夫よ!それに、私達は宿屋から出られないんでしょうから、ロゼが居る必要は無いはずよ!」

「うっ…分かった、ロゼを連れて行く事にするよ…」

俺の護衛として、ロゼに着いて来てもらう事になったのだが、その事でリゼが非常に落ち込んでいた…。

まぁ、いつもリゼを俺の護衛として連れて行っていたし、今回ばかりは留守番して貰おう。

逆に、ロゼの方は若干喜んでいるようにも見えなくは無いが、リゼの事を考えてか平静を保っているみたいだ。

「リゼ、皆の守りを任せたからな!」

「はい、承知しました!」

落ち込んでいるリゼを元気づけ、ロゼと共に出掛ける事となった。


馬車で街の外まで送って貰い、そこからロゼとの約束通り、ロゼを抱きかかえて空へと飛び立った。

「エルレイ様、あの辺りでは無いでしょうか?」

ロゼに地図を渡して見て貰いながら街道沿いに飛び続け、兵たちを迎え撃つ地点へと辿り着いた。

俺は街道より少し離れた平原へと下り立ち、ロゼを地面に降ろした。


「今日は遅いからここで泊まり、明日作業をしよう」

「承知しました」

俺は最初に作った方の家を取り出し地面に設置し、周囲に魔法で高さ三メートルの壁を作り家を取り囲った。

わざわざ壁を越えて侵入して来る者はいないだろうし、侵入して来る者がいたとすればそれは俺を狙う敵だと言う事だ。

俺とロゼは家に入って俺は水回りの準備をし、ロゼは家に問題が無いか確認した。

俺が戻って来た所で、ロゼから重大な事を知らされた。


「エルレイ様、食事を作る者がおりません!」

「あぁ~そうか…」

いつもはリゼが一人で作っていたからな…。

「俺が何とかしてみよう!」

「エルレイ様、失礼ですが料理の経験がおありなのでしょうか?」

「いや、無いな…」

鍋料理くらいなら出来ると思うが、勇者時代に作った俺の料理は不評だったんだよな…。

転生してからも料理した事は無かったし、はっきり言って自信はない。

「でしたら、私が料理をしますので、エルレイ様は火をお願いします」

「分かった、お願いする」

ロゼがやってくれると言う事なので、俺はロゼに言われた通り魔法の火で鍋を温めるだけに集中した。

「リゼは一人でよくやっていたな…」

「私も火属性魔法が使えれば良かったのですが…」

俺は火力の調整に集中するだけなので何とか上手くやれたが、料理をしながらだと結構大変な作業になっていたに違いない。

今度からは今まで以上に、リゼの料理には感謝しなくてはならないな。


「御馳走様、ロゼの料理は美味しかったよ」

「ありがとうございます」

ロゼの作ってくれた料理も、リゼに負けないくらい美味しく出来上がっていてとても美味しかった。

お腹も膨れて満足したし、ロゼとお風呂に入って、ロゼと一緒に寝る事となった。

「静かな夜ですね…」

「そうだね。たまにはいいこう言うのもいいのかも知れないな…」

普段は周囲に皆が寝ているからそこまで意識した事は無かったが、俺の事を好きでいてくれるロゼと二人きりと言う状況に興奮しないはずがない…。

だからと言って、ロゼに手を出すのはルリア達に申し訳なく思うし、ロゼも望んではいないだろう。

転生した時はハーレムを目指していたのだが、いざその状態になってしまうと結構大変な事だと思い、ロゼに手を出したい気持ちを抑えて眠りにつく事にした…。


翌朝からは、兵を迎え撃つための準備を始めて行った。

「エルレイ様、このくらいの高さでよろしいでしょうか?」

「うん、大丈夫!」

ロゼと二人で街道脇に壁を作っていく。

壁自体は大した強度も無く、普通の魔法を当てれば壊れる程度にしている。

この壁は単に相手を威圧し、通行できなくするためのもので、直ぐに解体する物だから頑丈に作る必要もない。

街道は、兵が来た時にだけ一時的に魔法で壁を作る事にしている。

全て塞ぐと、街道を通行している人の邪魔になるだけだからな…。

街道を通過している人達は、何事かと壁を作っている俺達の事を見て来ているが、近づいて来る者はいないな。

一応、いつ襲われても良いように警戒はしていたのだが、杞憂だったみたいだな…。


へスタンスの街から繋がる三つの街道全てに壁を作り、こちらの準備は整った。

俺はルリアを通じてラノフェリア公爵から情報を受け取り、進軍状況を確認しつつ待つ事となった…。

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