第百二十五話 説得交渉
ラノフェリア公爵とポメライム公爵の静かなる戦いの幕が下ろされた。
ポメライム公爵は葉巻をふかせながら、余裕の表情を見せている。
ラノフェリア公爵の方は、平常心で臨んでいる様子だ。
俺はと言うと葉巻の煙に少々
俺の周囲に愛煙家は居なかったし、分煙を希望したい所だ…。
「トラウゴット、お前の配下の貴族が兵を集めルフトル王国に侵攻しようとしている。
今なら国王陛下も目を瞑って下さる。
悪い事は言わぬから、直ちに暴挙を中止させよ!」
ラノフェリア公爵は強い口調で言い放ったが、ポメライム公爵は葉巻をふかしながらニヤニヤとした余裕の表情は崩してはいない。
そして葉巻の煙を大きく吐きだしながら、ラノフェリア公爵に反撃した。
「暴挙、暴挙か…。お主の仕掛けた戦争は暴挙とは言わぬのか?」
「私が仕掛けた?妙な言いがかりはやめて貰おうか!」
「儂が知らぬと思うておるのか?
エルレイ侯爵良く聞け!
ロイジェルクはな、アイロス王国の貴族を
ロイジェルクに付いておれば、この先もずっとこき使われる事になるのだぞ!
今からでも遅くない、儂に付き、ソートマス王国の繁栄に貢献しようではないか!」
ポメライム公爵は自信満々に言い放ち、その度に俺の顔に葉巻の煙が吹きかかってかなり不快だ…。
ラノフェリア公爵が仕組んだ戦争なのかは後で本人から聞くとして、今はポメライム公爵に返答しなくてはな。
「ポメライム公爵様がおっしゃる通り、僕は今後もラノフェリア公爵から使われて行くのでしょう。
今回も連れ回されておりますし、その事に間違いはありません。
ですが、僕がポメライム公爵様に付いたとしても同じ事になるのではないでしょうか?
現にポメライム公爵様配下の貴族達は、無謀な戦争に駆り出されている様子。
どちらかについても同じ結果になるのであれば、僕はラノフェリア公爵様に付いて行きたいと思います」
「そうか、それとても残念だな…。
ロイジェルクはよほど良い餌で手懐けたものだ…」
ポメライム公爵は俺の説得を諦めてくれたのか、葉巻を置き、一息ついてから真面目な表情で俺達の事を見据えた。
「ルフトル王国へ侵攻しようとしている件だったな。
あれは儂の思い知る所では無いが、中止する様に言い伝えよう。
要件が終わったのなら帰ってくれ。
儂も忙しいのでな!」
ポメライム公爵はやけにあっさり侵攻の中止を言うと、さっさと退室して行ってしまった。
「エルレイ君、私達も帰ろう」
「はい」
俺とラノフェリア公爵はポメライム公爵邸を後にし、馬車に乗って皆が待つ宿屋へと帰って行く事になった。
「本当に中止してくれるのでしょうか?」
俺は疑問に思ったので、帰りの車内でラノフェリア公爵に尋ねて見た。
「いいや、あの発言は責任逃れのためのものであって、侵攻が中止される事は無い」
「そうですか…」
中止になれば、ここで仕事の半分は終わりかと思ったのだが、そう簡単にはいかないよな…。
やはり戦いは避けられないのか…。
ポメライム公爵の説得が不発に終わり、沈んだ気持ちのままその日を過ごす事になってしまった…。
翌日から再び豪奢な馬車での旅が続き、俺はラノフェリア夫妻との旅にもようやく慣れて来てた。
だからと言って、気疲れするのは変わりは無い。
そんな状況でも、俺の知らないルリアの事を色々教えて貰えた事は良かった。
ルリアは恥ずかしがり、俺に聞かないようにと睨んだり時折頭を叩いて来たりしていたが、そんな行動も可愛いと思えるくらいにはなったな。
アベルティアが、俺にルリアの事を好きになって貰おうと話してくれた結果で、まんまとアベルティアの思惑にはまった感は否めない。
でも、ルリアとはいずれ夫婦になるのだし、アベルティアの思惑通りルリアを今まで以上に可愛がって行こうと思う。
具体的にキスをしたりとかはまだ早いと思うが、抱擁するくらいは許されるだろう。
アベルティアから洗脳されたとは思わなくもない旅が続き、侵攻部隊の集結している街へと到着した。
「かなりの数を揃えているみたいですね…」
「うむ、強敵ルフトル王国に対するのであればこれでも少ないのかも知れぬがな」
街の外には多くのテントが張り巡らされていて、そこに武装した者達が多く見られた。
軍とは違い装備はバラバラだが、威圧感は半端なくあるな…。
道を通っている人達も、少し離れた場所を恐る恐る通過している状況だ。
「この馬車襲われたりしないのでしょうか?」
「その心配は必要あるまい。ソートマス王家の紋章入り馬車を襲う間抜けはいないだろうからな」
「確かに…」
「エルレイは心配し過ぎなのよ!それより、どの様な手段で止めるか考えたの?」
「いや…説得が上手く行けばいいなと…」
俺がそう答えると、ルリアは呆れた表情でため息を吐いていた…。
一応考えてはいるのだけれど、効率のいい案が浮かんでないんだよな…。
魔法で脅して退いてくれればそれでいいのだが、退いてくれない場合は実際に魔法で攻撃しないといけない。
しかも、相手を殺さないように注意しながら…。
魔法使いも当然いるだろうし、障壁を破壊した上で相手を殺さないのは相当難しいんだよな。
結局、その場で相手の数や構成したいで対応を変えないといけないから、決められないと言うのもある。
「貴族の説得にはこれから向かうが、期待はしないでくれたまえ」
「はい…」
そして俺とラノフェリア公爵はこの街を治める貴族の屋敷へとやって来た。
俺達を出迎えた執事は、ラノフェリア公爵の突然の訪問に驚愕しつつも、冷静に対処し俺とラノフェリア公爵を応接室へと案内してくれた。
「ラノフェリア公爵様、僕達が来る事を知らなかったのでしょうか?」
ソートマス王家の紋章入りの馬車で、堂々とここまで旅をして来たのだから、当然その情報を得ているはずだ。
しかし、執事はその事を知らなかったみたいな感じだったのが不思議でならない。
「恐らく、トラウゴットの奴が情報を伝えないようにしていたのだろう」
「なるほど、そこまでしても侵攻の中止をさせたくは無いと言う事なのですね」
「うむ」
ポメライム公爵に着いて行けば、この様な扱いを受けると言う事なのだろう…。
あまりにも貴族が可哀想だと思い、ラノフェリア公爵の説得に応じてくれる事を願うばかりだ。
そしてこの街を治める貴族が慌てて応接室へと入って来て、俺達の前で頭を下げた。
「ラノフェリア公爵様、アリクレット侯爵様、私はこの地を任されております、マイラス・シトラ・アラントン子爵と申します!
本日はお迎えに伺えず誠に申し訳なく存じます!」
「よい、私達が突然訪問したのだから気にするな。
それより、街の周囲が慌ただしい様子であったが何事だ?」
「そ、それは…」
マイラスは額から汗を流しつつ、必死に言い訳を考えている様子だ。
「こ、国境警備隊より、ルフトル王国がソートマス王国に侵攻の疑いありとの報告がありまして、急遽周辺の貴族にも協力を求め集めたものであります!」
「なるほど、私にはその様な報告は届いておらぬが、それならばまず王国に報告し、軍を動かして貰うのが先決であろう」
「は、はい、ですが、軍の到着を待っていては民に被害が出てしまいます!
ですので、軍の到着まで持ちこたえる為のものであります!」
「そうか、だがもう心配はいらぬぞ。
私達は王命により、ルフトル王国へ向かう途中だ。
そして、ルフトル王国が侵攻して来ていると言うのであれば、ここにいるエルレイ侯爵が止めてくれる。
貴殿も、エルレイ侯爵がアイロス王国を一人で撃退した話は聞いておるだろう?」
「は、はい、それはもう…」
マイラスの必死の弁明にもかかわらず、ラノフェリア公爵が完全に言い負かしてしまった…。
俺はマイラスがあまりにも可哀想だと思ったが、無謀な侵攻をしようとしているのだからこれくらい追及されてしかるべきか…。
「私達は明日にもルフトル王国に向けて出立し、貴殿の不安を払拭するのでな。
集まった兵を解散させるのだぞ!」
「しょ、承知しました!」
マイラスはラノフェリア公爵の説得に応じ、兵の解散を約束してくれた。
俺はほっと息を吐いて安心し、ラノフェリア公爵と共にマイラス邸を後にした…。
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