第百二十二話 国王陛下からの呼び出し
リアネ城に戻り、ルリアと二人きりで空き部屋へとやって来た。
「話ってユーティアの事なのでしょ?」
「うん、どうして僕が襲われる事を知っていたのか。
それと、ラノフェリア公爵様にその事を伝えなかったかと言う事だね」
ルリアは腕組みをし、しばらく考え込んだ後、言葉を選びながら慎重に話し始めた。
「…ユーティアは縁組の仕事の関係で、お父様とは違う情報網を持っているわ。
エルレイの襲撃はその関係で知り得たのでしょうし、そこで知り得た情報はお父様にも決して話す事は無いわ。
そして、ユーティアにその事を尋ねたとしても、これ以上は教えてくれないと思うわよ。
その上で、エルレイに襲撃される事を知らせてくれたと言う事には、感謝しなくてはならないわね」
ユーティアが誰かを庇って知らせなかったのでは無く、信用を落とせないと言う理由で知らせなかったのか…。
人前で口を閉ざすほど徹底しているから、ルリアの言った事は理解できた。
「そうだね。ユーティアにお礼をしたいけれど、どんなものを贈ればいいかな?」
「お礼は私が考えておくわ。首謀者が捕まらない事にはお礼は出来ないでしょうしね」
「分かった、ルリアに任せる事にするよ」
ユーティアの事はルリアに任せて、俺はアドルフに報告するために執務室へとやって来た。
俺は自分の席に座り、溜まっている書類を見て溜息をついた後、アドルフを呼びつけた。
「アドルフ、僕が留守の間何も問題は無かったか?」
「はい、特に問題はございませんでした」
「それは良かった。僕の方には少し問題が発生したので、詳しい経緯を今から説明する」
俺がアドルフにラノフェリア公爵家でラウニスカ王国の暗殺者に襲われた事を説明すると、アドルフの表情が徐々に険しいものへと変化して行った…。
「承知しました。直ちにリアネ城の警備を厳重に致します!」
「うん、よろしく頼む。それから、侵入者や怪しい人物を発見したとしても、決して戦ったりしないように厳命してくれ!
あれは、常人では対処できない。大声を上げるなりして追い出すよう徹底させてくれ!」
「畏まりました!」
ラウニスカ王国の暗殺者が再び襲って来る可能性はゼロでは無い。
ルリア達にも極力一人で行動しないように言い聞かせないといけないな…。
それと、また出掛ける事を伝えておかなくてはな…。
今の所俺の仕事は決裁書類にサインをするだけだが、またアドルフが俺に何かやらせようと企んでいないとも限らない。
今回は国王に会いに行くので、他の何よりも優先しなくてはならない。
仕事をしたくない訳では無いが、アドルフの予定を狂わせるのも本意では無いからな。
「僕は二、三日中にラノフェリア公爵様から連絡があり次第、俺は再び王都へ向かい国王に会う事になっている。
火急の要件があるのであれば、今日中に知らせてくれ。
それからアドルフは、今王国内で起こっている問題について何か知ってはいないか?」
「そうですね…。
エルレイ様に関係があり、国王陛下からの呼び出しと言う事であれば一つしかございません。
現在のソートマス王国は、ラノフェリア公爵様の率いる派閥と、ポメライム公爵様の率いる派閥にほぼ二分されております。
どちらにも所属していない貴族様もいらっしゃいますが、勢力としては見なされ無いので今は割愛させて頂きます。
ラノフェリア公爵派はエルレイ様も所属しており、戦争で勝利をおさめた事で勢力を増しております。
逆に、ポメライム公爵派は勢力を落としている所でございます。
とは言え、ポメライム公爵派の方は、私達が使用している紙の生産を独占しておりまして、資金を豊富に持っております。
今回問題となっていますのは、その資金を使い戦力の増強を行っております」
あ~、イクセル第二王子と会談した場にポメライム公爵も居て、ルフトル王国との戦争は避けられないとか言われていたのを思い出した。
戦争は望まないと言いつつも、本気で攻め込むつもりだったのだな…。
あの時、女と金に誘惑されなくて良かったとつくづく思った…。
「ルフトル王国か?」
「はい、その通りでございます!
ポメライム公爵派は独断でルフトル王国に攻め込もうと画策しておりまして、恐らくエルレイ様にその阻止をお願いするのでは無いかと思われます」
「僕が阻止?ソートマス王国軍では無く?」
王国の意向に逆らい、勝手に戦力増強をして攻め込もうとしているであれば、ソートマス王国軍を動かして阻止すればいいと思ったのだが…。
「ソートマス王国軍は戦争を終え、一時的に徴兵していた兵を解雇しており数を減らしております。
それに加えて長期休暇も出しており、まともに動ける数は少なくなっております。
それと、貴族の私兵と言えどもソートマス王国民には変わりありません。
軍を動かせば、そのまま内乱へと発展しかねないのです」
「なるほど、そこまで考えてこの時期に攻め込もうとしているのか…。
だが僕もソートマス王国民に変わりないのだけれど?」
「エルレイ様は貴族です。そしてソートマス王国では貴族同士の争いを禁止してはおりません。
兵を率いて戦うのであればソートマス王国も介入致しますが、エルレイ様お一人と言う事であれば何も問題はありません」
「いやいやいや、問題ありまくりだろう!」
アドルフが何に対して問題無いと言っているのか意味が分からなかった。
「勿論、貴族や私兵を殺害してしまえば問題は生じるとは思われますが、国王陛下からのご下命と言う事であれば、多少の犠牲には目を瞑って下さるはずです」
「…」
アイロス王国との戦争では、両軍の犠牲を最小限に抑えて終わらせたからな…。
今回も上手くやってくれるだろうと思われていても不思議ではない。
だがあの時は、カールハインツが一騎打ちで敗北しアイロス王国軍を降伏させてくれたからであって、俺がどうにかした訳では無い。
今回は、貴族を降伏させれば私兵が戦いを止めてくれると言う保証はない。
面倒な事になりそうだと思いつつも、国王からの話が他の事である事に僅かながら期待をするしか無いな…。
それから二日後、ラノフェリア公爵から呼び出しがあり、俺はラノフェリア公爵と共に王城へ向かい馬車の中にいた…。
「エルレイ君、国王陛下との会談の内容を伝えておこう」
ラノフェリア公爵がそう言って話し出した内容は、アドルフに教えられた事とほぼ同じだ。
やはり俺は、ポメライム公爵のルフトル王国侵攻計画を阻止しなければならないとの事を改めて突き付けられ、絶望する事となった…。
そして王城へと着き、ラノフェリア公爵と一緒に入った部屋は意外に狭くて窓さえなかった。
部屋の中にはテーブルと椅子だけ置かれていて、十人も座れば席も埋まってしまうほどだ。
「この部屋は防音に優れていて、他の人に聞かれる心配もない」
「そうなのですね…」
つまりこれから国王とする会談内容は、他人に聞かれては不味いと言う事なのだろう。
俺達が部屋に入ってから少しして、国王一人で室内に入って来た。
俺とラノフェリア公爵は席を立ち、片膝を着こうとした所で国王に止められた。
「よい、この場でその様な事は必要ない。
直ぐに会談を始める事としよう」
「はい」
国王に続き、俺とラノフェリア公爵も着席した。
ランプの明かりのせいか、国王の表情があまり良いようには見えず疲れ切った表情をしていた。
国王は一息ついた後、ゆっくりと話し始めた…。
「ロイジェルク、エルレイに説明は済んでおるか?」
「はい、説明済みです」
「そうか、ならば単刀直入に申す。エルレイ、トラウゴットが進めているルフトル王国侵攻を止めよ!」
「はい、承知しました!」
ここまで来て嫌だと言う事は出来ないよな…。
国王も相当疲れている様子だし、俺が不満を言ってさらに困らせるのは不憫に思えた。
俺としては、こんな面倒な事は受けたくはないが、もしかすると、前回の暗殺者を送って来たのがポメライム公爵側だったのかもしれない。
この事を解決する事で、俺の問題も一緒に解決できるのでは無いかという思いもある…。
「うむ、くれぐれも犠牲を出さぬようにしてくれたまえ!」
「…努力いたします」
犠牲を出さずにと言うのは、かなり難易度が高い。
俺としても人を殺害したい訳では無いが、相手が本気で攻撃して来れば手加減する余裕はない。
だから努力すると言う言葉にしたのだけれど、それを国王が咎める事は無かった。
つまり、アドルフが言った通り、多少の犠牲には目を瞑ってくれるのだろう。
ポメライム公爵が集めた兵がどれほどの数かは知らされてないが、ルフトル王国に侵攻すると言うのだからそれなりの数を用意しているに違いない。
自信は無いが、俺が死なない程度に頑張るしかなさそうだ…。
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