第百十九話 ネレイトの結婚式 その三
「ルリア、僕とダンスを踊って頂けませんか?」
俺が優雅に手を差し伸べると、ルリアは
「ダンスは苦手なのよ…」
「僕も得意では無いから気にしなくていいよ」
「そこは上手くリードすると言う所では無いの?」
「嘘を吐いても仕方が無いからね…」
「それもそうね…」
ルリアは少し頬を膨らませて文句を言いつつも、表情は笑顔だった。
俺はルリアを踊っている人達の所に連れて行き、多少ぎこちないながらもルリアとダンスを踊り始めた。
ダンスは母やアルティナ姉さんから教わってはいたが、その時は貴族になるつもりなんて無かったから真面目にやっていなかったんだよな…。
ルリアの足を踏まない程度には踊れているけれど、こんな事になるなら真面目に練習しておけば良かったと思った。
ルリアも下を向いて、俺の足を踏まないようにと気を付けている様子だ。
「ルリア、足元は気にしなくて良いから僕の方を見てダンスを楽しもう」
「え、えぇ、そうね…」
せっかくルリアと踊っているのだし楽しまないとな。
俺は恥ずかしがるルリアの表情を楽しみながら、ルリアとのダンスの時間を過ごす事が出来た。
一曲が終わり、ルリアをリリーの所までエスコートして、次はリリーをダンスに誘った。
「リリーはダンスがとても上手だね」
「エルレイさんもお上手です」
元王女だけあって、リリーのダンスは洗練されておりとても優雅だ。
俺のつたないダンスをリリーが上手くリードしてくれている。
男としては情けなく思うが、リリーのお陰で周囲からも注目を受けるほど上手く踊れているのは間違いない。
今後もまたリリーとダンスを踊る機会があるかも知れないので、今度は俺がリードできるように練習しようと思った…。
リリーとのダンスを終えて戻ると、アルティナ姉さんとヘルミーネが戻って来た居た。
「ヘルミーネも僕と踊りたいのか?」
「むっ、私は甘いデザートを食べていたかったのだが、アルティナがうるさく言うので仕方なく…だ…」
「そうか、ヘルミーネ王女様、僕と踊って頂けませんか?」
「そこまで言うのであれば踊ってやらなくもない!」
ヘルミーネは言葉とは裏腹に、笑顔で俺とのダンスを受けてくれた。
大方、俺がルリアとリリーと踊っているのを見て羨ましく思ったのだろう。
「エル!楽しいな!」
「そうだね!」
ヘルミーネは終始ご機嫌で俺とのダンスを楽しんでいてくれて、俺も一緒になって楽しむ事が出来た。
そして意外な事に、ヘルミーネもダンスはかなり上手だった。
やはり、王女としてパーティーで踊って来たのだろうな…。
俺もルリアとリリーと踊って来て多少はましになっていたのか、ヘルミーネから下手だと言われる事が無かったのだ救いだった…。
「もう終わりか…」
「時間があればリアネ城でも踊る事は出来るよ」
「そうだな、約束だぞ!」
音楽が終わると、ヘルミーネが残念そうな表情をしていたのでそう言ったのだが、ちょっと失言だったと後悔した。
ヘルミーネが毎日踊ろうと言って来ない事を願うばかりだ…。
「アルティナ姉さん、踊りましょう!」
「エルレイ、お姉ちゃんもきちんと誘って頂戴!」
「ごめんなさい…。アルティナお嬢様、僕と踊って頂けませんか?」
「はい、喜んで!」
姉と言う事もあって軽く誘ったのだが、やり直しをさせられてしまった。
ヘルミーネに対して丁寧に誘ったのだから、アルティナ姉さんに対して手を抜けば怒られるのは当然の事だと反省し、ダンスを精一杯頑張る事で謝罪とした。
「アルティナ姉さんのドレスは、踊る事でより映えて綺麗に見えますね」
「あら、ドレスだけなの?」
「勿論アルティナ姉さんはより美しいですよ!」
「エルレイは今日も凛々しく見えるわよ。ダンスの途中でなければ抱きしめてしまいたくないほどだもの!」
アルティナ姉さんは終始ご機嫌で、俺も踊っていて一番楽しいと思えた。
四人とのダンスを終え、やっと食事にありつけると思ったのだが…。
「エルレイ、皆が待っているのでお相手をしてあげなさい。気に入った子が居てもメイドくらいに留めておきなさいよね!」
「はい…」
ルリアはそう言うと、皆を連れて食事をしに行ってしまった…。
「エルレイ様、私と踊って下さいませ!」
「エルレイ様は私と踊るのよ!」
「エルレイ様とはこのわたくし、エイド子爵家の四女シスターニャが踊りますのよ!」
アルティナ姉さんとのダンスを終えた俺を待ち構えていたのは、大勢の女性達だった…。
昨日の貴族との挨拶の時にも娘を紹介されていたが、やんわりと断ったはずなのだがな…。
ルリアにも相手をしてやれと言われたし、踊るのは構わないのだが、順番で揉めている女性達をどうにか出来る自信は無いな…。
「時間の許す限り全員と踊らせて貰うから、喧嘩はしないでくれないかな…」
声を掛けて見たのだけれど、揉め事が収まりそうにはない…。
仕方ないので手前にいる女性から誘おうと手を伸ばそうとした所で、一人の女性が争っている女性達の間を割って俺の前に進んで来た。
割ってと言うより、他の女性達が道を譲ったと言った方が正しいな。
「ユーティアお嬢様、僕と踊って頂けますか?」
俺の前に来たのは、ラノフェリア公爵家の三女ユーティアだった。
ユーティアは以前、家庭教師アンジェリカの結婚相手を見つけて貰った時にお世話になったし、ラノフェリア公爵家で食事をする時は顔を見ていたのでよく覚えている。
そのユーティアが、なぜ俺とダンスを踊りに来たのはか不明だが、誘わないと言う事は出来ない。
俺がユーティアに手を差し出すと、無言で手を乗せて来たのでユーティアとダンスを踊る事となった。
ユーティアは終始無言で無表情だから、楽しんでくれているかは分からない。
しかし、ユーティア自身が俺の前に来たのだから、俺と踊る理由があったのだろう。
そして、一曲が終わろうかとしていた時に、ユーティアが顔を寄せて来て耳打ちして来た。
「命を狙われているから注意して」
ユーティアの声を始めて聞いた事に驚いたが、それ以上に伝えて来た内容に驚いた!
「だ…」
誰から狙われているのか聞こうとしたのだが、ユーティアが軽く首を振ってので俺は慌てて口をつぐんだ。
そうだよな。こんな場所で聞ける内容ではない。
後でユーティアの部屋を訪れて聞くのがいいのか?
いや、親切に教えてくれたユーティアを巻き込む様な事は出来ないな…。
音楽が終わり、ユーティアは無言で俺の元から立ち去って行った。
誰から狙われているのかは不明だが、結婚式の最中に襲われる様な事は無いだろう。
いや、油断は出来ないな…。
注意深く周囲を見渡そうとした所で女性から声を掛けられ、ビクッと反応してしまった…。
「エルレイ様、わたくしと踊って下さいまし」
「は、はい」
そうだった。
ユーティアと踊っている間に順番が決まったのか、女性達が並んで待っているのが見えた。
俺は誰かに狙われていると言う緊張感のなか女性達全員と踊り、肉体的にも精神的にも疲労する事となった…。
「エルレイさん、お疲れさまでした」
「リリー、助かったよ、ありがとう」
女性達と踊っている最中にリリーが飲み物を持って来てくれなかったら、本当に倒れていたのでは無いかと思う。
「お集りの皆さん、本日は僕の結婚式を祝って頂きありがとうございました。
僕はまだ未熟でラノフェリア公爵家を支えて行く事は叶いませんが、クレメンティアと協力し、ラノフェリア公爵家とソートマス王国を支えて行けるよう努力を続けてまいります。
しかし、僕とクレメンティアだけでは限界があり、皆さんの協力が必要です。
僕も皆さんの力になれる事があれば全力で協力致しますので、どうかよろしくお願いします」
ネレイトの挨拶で結婚式も無事に終わった…。
俺はルリア達を集め、ルリアの部屋に移動してからユーティアに伝えられた事を話す事にした。
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