第百十八話 ネレイトの結婚式 その二

貴族達の挨拶攻勢から一夜明け、ネレイトの結婚式当日を迎えた。

「エルレイ様、今日はオレンジの服に致しましょう!」

「いやいやいや、結婚式なのだから大人しめの色にしてくれ…」

「そうですか?こちらの黄色に致しましょうか?」

リゼは相変わらず、俺に派手な服を着せたがる。

普段なら構わないが、今日はネレイトの結婚式だから目立つような色は避けた方が良いはずだ。

リゼに文句を言われつつも、俺は紺の服を選んで着せて貰った。

紺の服だが、所々に銀糸で刺繍が施されていて意外と目立つ…。

侯爵となった今では、その地位に見合う服装をしなくてはならないらしく、地味な服は無いんだよな。


「エルレイ様、ルリア様達の所に参りましょう」

「そうだな」

ルリア達も着替え終わっている頃だろうし、晴れ姿を見ないとな!

俺はリゼと共に部屋から出て、ルリアの部屋へと向かって行った。

廊下では多くの使用人達が忙しそうに行きかう姿が見られた。

まだ他の客も室内で準備の真っ最中なのだろう。

使用人達にご苦労様と心の中で声を掛けつつ、他の貴族と鉢合わせになる前にルリアの部屋へと急いだ。


ルリアの部屋に着き、少し待たされてから部屋の中へと入れて貰った。

中に入ると、アルティナ姉さんが近づいて来たのだけれど、リゼがスッと前に出てアルティナ姉さんが俺に抱き付くのを阻止した…。

「リゼ、ちょっとくらいいいじゃない!」

「駄目です!結婚式が終わるまでは我慢してください!」

「アルティナ姉さん、綺麗なドレス姿に皺が寄ってしまうのは僕としても残念に思うので我慢してください」

「エルレイに言われては諦めるしか無さそうね…。それで、お姉ちゃんのドレス姿はどうかしら?」

アルティナ姉さんはその場でくるっと回ってドレス姿を見せてくれた。

アルティナ姉さんのドレスは、透き通るような青い空色と少し濃いめの青色のグラデーションが綺麗で、アルティナ姉さんの美しさをより際立たせている。

「はい、とても良く似合っていて美しいです!」

「エルレイ、ありがとう!」

俺が褒めると、アルティナ姉さんは珍しく頬を少し赤らめながら微笑みかけてくれた。

普段のアルティナ姉さんは可愛らしいのだが、今日はドレスのせいか大人の女性としての美しさがある様に思えてきて、俺も正面からアルティナ姉さんの笑顔を見る事が出来なかった…。

危うく本気でアルティナ姉さんの事を好きになってしまう所だったからな…。

でも、そうなっても良い関係になってしまったんだよな…。

父にも確認したのだが、アルティナ姉さんはやはり俺の婚約者と言う事になっているそうだ。

一人娘のアルティナ姉さんを俺の婚約者にしていいのかと思ったのだが、男爵の頃とは状況が異なり、こちらから関係を強化する必要が無くなったと言う事らしい。

それに父としては、アルティナ姉さんの望む通りにさせてやりたかったと言うのが本音だと、マデラン兄さんがこっそり教えてくれた。

俺としてもアルティナ姉さんの事は嫌いでは無いし、両親の許可も得られているのであれば問題は無いはずだ…。

最近はルリアとも仲良くやっている様だし、後は俺がアルティナ姉さんの事を姉では無く婚約者として接していくだけだろう。

直ぐには切り替えるのは難しいので、徐々に慣れて行くしかなさそうだ。


「エルレイさん、私とルリアのはどうでしょうか?」

リリーがルリアの手を引いて、俺の所にやって来てくれた。

リリーは、ピンクに白い花が幾つも飾られているドレスを着ていてとても可愛らしい!

ルリアもリリーと同じくピンク色のドレスだが、リリーとは色違いの赤い花が飾られていた。

「二人とも良く似合っていて可愛らしく、誰が見ても姉妹に見えると思うよ」

「エルレイさんもそう思いますよね!」

「ふんっ、私とリリーは同じドレスを着なくても姉妹なのよ!」

ルリアはドレスが同じで姉妹と見られるのが嫌なのか、少し拗ねている様子だ。

「ルリア、誰が何と言おうと二人が姉妹なのは間違いない事なのだからな。

俺の言い方が悪かったのなら謝るよ」

姉妹を強調して言う必要も無かったのだが、同じドレスと着ていたから、つい言ってしまったんだよな…。

俺は反省しつつ、ルリアに謝って機嫌を直してもらう努力をした。

拗ねたままで結婚式に出席して欲しくは無いからな…。


「所で、ヘルミーネの姿が見え無いが…」

何時もなら真っ先に俺の所に来ていてもおかしくは無いのだが、ヘルミーネだけ他の部屋で着替えているのだろうか?

「ヘルミーネならあそこよ!」

そう思って尋ねて見ると、ルリアがソファーを指差してヘルミーネの居場所を教えてくれた。

ソファーの傍まで行くと、ドレスを着たままラウラに膝枕されて寝ているヘルミーネの姿があった…。

「朝早くから準備のため起きられましたから…」

「なるほど…」

女性は準備に時間が掛るのだろうから、俺より早起きしたに違いない。

結婚式場で寝ない為にも、今はそっとしておいた方が良さそうだ…。


それから結婚式が始まるまでの間、椅子に座って待つ事となったが、ドレスを汚さないために飲食は禁止された…。

起きてから何も食べて無いのでお腹が空いて来ていたが、結婚式が始まれば豪華な食事にありつけるだろうし、それまでの我慢だな。

メイドが呼びに来てくれたので、ヘルミーネを起こして急いで衣装を整えさせ、皆でホールへと向かって行った。


昨日と同じホールに来たのだが、昨日とは違って美しい飾り付けが施されていて、結婚式に相応しい厳かな雰囲気のホールとなっていた。

ホールにはすでに多くの着飾った貴族達が集まっており、俺達もその中へと進んで行くと、俺達に気が付いた貴族達が道を空けてくれて一番前まで来る事が出来た…。

目立たない後ろの方に居たかったのだが、ルリア、リリー、ヘルミーネが居る以上その様な訳にはいかないか。

俺達がホールに入った後から、ラノフェリア公爵家の人達が入って来て俺達の横へと進んで来た。

兄さん達の結婚式の時には家族全員で来客達を迎え入れたのだが、公爵家ともなるとその様な事はしなくて良いんだと羨ましく思った…。


ラノフェリア公爵家の到着と同時に楽隊による生演奏が始まり、新郎新婦が入場して来た。

「ルリア、新婦が誰なのか知っているか?」

「クレメンティア王女様よ」

俺は小声で隣に居るルリアに尋ねると、そんな事も知らなかったのと呆れた表情を見せながらも教えてくれた。

ネレイトも王女様を貰った事を知り、俺と同じなのだと少し嬉しく思った。


「ネレイトの結婚式に大勢集まって貰い、とても嬉しく思う。

戦争が終わり、ソートマス王国に平和の時が訪れた。

この平和は、ここに集まりし者達の努力の賜物であり、戦争に参加した兵士達がもたらしてくれたものだ。

ソートマス王国を代表して皆に感謝を伝えたい。

ラノフェリア公爵家はクレメンティア王女様を迎え、今まで以上に王家を支え王国の発展に尽力していく所存だ。

そして、ここに集まりし皆の協力も必要だ。

ソートマス王国の発展と安寧の為、皆で支え合い共に繁栄を築き上げて行こう!」


ラノフェリア公爵の挨拶が終わり、結婚した新郎ネレイトと新婦クレメンティアのダンスが披露されて会食が始まった。


朝から何も食べていないから、先ずは腹ごしらえをしなくてはな…。

「エル!お腹が空いた、食べに行っても良いよな!」

ヘルミーネも朝早くから起こされてお腹が空いているのだろう。真っ先の許可を求めて来た。

「構わないが、ドレスを汚さないようにするんだぞ!」

「分かっておる!」

普段ならラウラにヘルミーネの事を任せるのだが、結婚式の為使用人達はホールには入れない。

貴族達と給仕をする使用人達でホールは埋め尽くされているから仕方が無い…。

「アルティナ姉さん、ヘルミーネを見ていてくれませんか?」

「お姉ちゃん、エルレイと踊りたかったのだけれど…後で一緒に踊ってよね!」

「はい!」

ヘルミーネをアルティナ姉さんに任せて、俺はルリアとリリーを連れて食事を摂りに行こうと思い声を掛けた。

「ルリア、リリー、僕達も何か食べに行こう」

「エルレイは食事をする暇なんて無いわよ!」

「えっ…」

「ほら、リリーと踊って来なさい!」

新郎新婦のダンスが終わった後には、各々が好きな相手とダンスを楽しそうに踊っている。

それをリリーが羨ましそうに見ているからな…。

しかし、ダンスを踊るのならルリアの方が先だな。

「リリー、ルリアと先に踊るから少し待っていてくれないか?」

「はい、ルリアと楽しんで来て下さい!」

リリーに断りを入れ、ルリアとのダンスを楽しむ事にした。

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