第百十六話 高級住宅

「魔法の訓練時間を要求する!」

あまり休めなかった休日の次の日。

俺は執務室に籠り、決裁書類にサインする作業を続けていた。

街道整備から帰って来た後に、少しずつでもやっていたからそこまで書類が溜まっている訳では無い。

あらかたサインし終えた所で、俺はアドルフを呼んで要求を突き付けた!


「エルレイ様の魔法は完成された物だと思っておりましたが、まだまだ上を目指されると言うのですね。

流石でございます。私もエルレイ様と同じく上を目指し頑張らせて頂きます。

喫緊きっきんの案件はございませんので、エルレイ様の御自由になされて構いません」

「そ、そうか…それなら僕は魔法の訓練へと向かうぞ?いいのだな?」

「はい、頑張って下さいませ」

アドルフに見送られ執務室を後にした…。

アドルフが素直に訓練の時間をくれるとは思っていなかったので仰々しく言ったのだが、恥ずかしいだけだったな…。

ともあれ、自由時間は手に入れたので、今まで出来なかった事をやろうと思う。


リアネ城の魔法の訓練場に行くと、早速ヘルミーネに捕まってしまった。

しかしこれは想定内だ。

ラウラの魔法も見てあげないといけなかったから丁度いい。

ヘルミーネの魔法を指導しつつ、ラウラに魔法を使わせてあげた。

ラウラは水属性魔法と風属性魔法が使えるのが判明し、ヘルミーネが風属性魔法を使えたラウラの事を恨めしそうに見ていたが、こればかりは本人の適正によるものだから仕方がない。

ラウラもヘルミーネの手前素直には喜んではいなかったが、両手を握りしめて軽く振っていたので嬉しかったのは間違いなさそうだ。


ヘルミーネから解放されると今度はルリアに捕まる。

ルリアには剣の指導と言うより、相手の体勢の崩し方を教え様に言われた。

昨日散々ルリアを地面に転がしたからな…。

ルリアの指導で汗を流した後はアルティナ姉さんとリリーと木陰で会話をし、その後やっと俺の自由時間となった。


ロゼとリゼを呼んで、昨日作りかけていた家を三人で完成させていく…。

「エルレイ様、もう少し大きくしませんか?」

「う~ん、あまり大きくしすぎると置く場所を選んでしまうんだよな…」

リゼとロゼは部屋数を増やしたいみたいだが、俺としては何処にでも設置出来るように家を小さくしたい。

開墾作業と街道整備で平地を作る技術は上がったから、大きな家でも設置するのは問題は無いのだが、誰の土地かもわからない場所を勝手に変形させるのは良い事では無いと思う。

「いっそのこと二階建てにするか?」

「そうしましょう!」

二階建てにするには材料の粘土が足りないので、ルリア達に出かける事を伝えた後、ロゼとリゼを連れてルドボーン山へとやって来て作業を開始した…。


「一応完成だな」

「はい、完璧です!」

「私達の要望を聞き入れてくださり、ありがとうございました」

内装はアドルフに頼んで作って貰わなくてはならないが、リゼとロゼも満足しているみたいだし、いい家が出来たと思う。

「水回りの確認をするから、台所、風呂、トイレを確認してくれ」

俺は屋根裏に設置した貯水槽に水を貯めて、ロゼとリゼに水を流して貰った。

「エルレイ様、風呂とトイレは問題ありませんでした」

「台所も大丈夫です」

「水漏れもしていないみたいだし、大丈夫のようだな」

風呂を広くしたし、トイレも一階と二階に設置した事で、下水の量が増えたのが問題だ…。

いっそ水を火の魔法で蒸発させるか?

匂いが酷い事になりそうで止めた方が良いか…。


「マスター、困りごとか?」

俺が家の地下で流れてきた水の確認をしていると、胸元から声が掛って来た。

「グール、許可なく話すなと言っただろ!」

「誰もいないからいいじゃねーか!つーかもっと話させろ!」

「そうしてやりたいのは山々だが、グールの下品な言動は周囲を怒らせるから却下だ!」

「チッ!だがいいのか?下水を何とかしたいんじゃないのか?」

「何かいい方法を知っているのか?」

「知ってるぜ!でもマスターが黙れと言ったから話せねーな!」

グールは英雄クロームウェルが作った魔剣で、もしかしたら魔法書に載っていない魔法を知っているのかも知れないな!

しかし、機嫌を損ねてしまったのかグールは沈黙しやがった…。


「何が望みだ?許可するから話せ!」

「…俺様の望みはただ一つ!もっと話させろ!」

ちょっと意外な要求だったが、魔剣のグールにしてみれば話す事くらいしか楽しみが無いのかも知れないな。

「分かった。ただし、人前では許可出来ない」

「分かってるぜ、マスターの女たちの前でならいいんだろ?」

「あぁ、喧嘩を売るような真似はするなよ?」

「おう、俺様も燃やされたくはねーからな!」

「それで、この下水を処理する方法があるのか?」

「浄化の魔法を使えば簡単に処理できるぜ!」

「浄化の魔法?それはどの様な物なのだ?」

やはりグールは魔法書に載っていない魔法を知っている様だな。

「アンデットを倒す魔法だが、クロームウェルは下水処理にも使っていたぜ!」

「なるほど…」

英雄クロームウェルが大陸から魔物を排除してしまったので不要となり、今に伝わっていないと言う事なのかもしれないな…。


「穢れ無き清らかな水よ、我が魔力を糧として清らかな水を作り出し、穢れし物を包み込み浄化せよ、ピュアリファ」


グールから教わった呪文を唱えると、下水がキラキラと光輝く水で覆い尽くされて徐々に浸透していき、やがて光が収まった。

「上手く行ったみたいだな」

土色になっていた下水が無色透明な水に変わっていたので、上手く魔法が作用したのを確認出来た。

「これは水属性魔法なんだよな?」

「そうだぜ!」

「グール、良い魔法を教えてくれてありがとう!」

「おう!もっと褒めてくれても良いぜ!」

「そうだな。他にも俺が知らない魔法を教えてくれるのなら、いくらでも褒めてやるぞ!」

魔力を貯めておけるだけの存在だと思っていたが、俺の知らない魔法を知っている事が分かり幸運だと思った。

新たな魔法を作り出せない俺としては、グールは最高の存在だな!

「嫌だね!俺様の言う事を聞いてくれるのなら教えてやらねー事も無いが、今は特にねーから黙っておくぜ!」

だと思ったのに、グールは沈黙して俺に魔法を教えてくれる事は無かった…。

しかし、グールが俺に要求がある時には教えて貰える可能性があるのは分かったから、焦らず聞き出して行く事にしようと思う…。


家が完成したので、ロゼとリゼを連れてリアネ城へと戻って来た。

邪魔にならない場所に家を取り出し、アドルフを念話で呼び付け内装工事を頼んでみる事にした。


「アドルフ、お金に余裕がある時で良いので、内装工事をお願いできないだろうか?」

「これはまた立派な家をお作りになられましたな」

俺はアドルフに家の中を案内し、各部屋の用途を伝えて行った。

「承知致しました。エルレイ様の威厳をお示しになられる様な立派なお屋敷に仕上げてさせて頂きます!」

「いや、普通ので良いんだが…」

「いいえ、その様な訳には参りません!」

アドルフはやけに気合が入っている様子で心配になるが、家の内装工事はやってっくれるみたいなので任せる事にした。


それから一週間後、アドルフから内装工事が完了したとの知らせを受け、皆で見学にやって来た。

「前のより立派になったわね!」

「そうですね。真っ白な外壁で清潔感を感じます」

家の外壁は真っ白に塗装されており、土を焼いたままの壁では無くなっていた。

家の中に入って見ると、床には高級そうな絨毯が一面に敷かれており、土足で上がるのを躊躇してしまう…。

「早く入らぬか!」

「あっ…」

流石王女と言うか、ヘルミーネは高級な絨毯など気にする事無くどかどかと入って行き、ルリア達もそれに続いて中に入って行った。

「エルレイ、お姉ちゃん気に入ったわ!」

アルティナ姉さんは部屋を見て回り、二階のベッドに寝ころんでご満悦の様子だ。

二階は全て寝室になっていて、全員がここで寝てもまだまだ余裕がある。


「ここから魔法が撃てそうね!」

「うん、一応そのつもりで作ったのだけれど、使う様な事にならない事を願うよ…」

二階にはテラスがあり、壁に隠れながら魔法を撃てるようにはしていた。

この家を使う機会が無い事が一番いいのだけれど、最悪の状態は想定していないといけないからな。


「エルレイさん、お風呂がとても広いです!」

「うん、ロゼの要望で皆で入れるくらいの広さにしたんだが、僕が一緒に入るのでは無いから安心してくれ…」

「あっ…そうなんですね…」

俺がリリーに説明すると、リリーは恥ずかしそうに両手で顔を覆ってしまっていた…。

リリーは俺と一緒に入る事を想像したのだろうが、結婚するまではそんな事をするつもりは無い!


皆でリビングに集まり、新しいキッチンでリゼが嬉しそうな表情で用意してくれた紅茶を頂きながらくつろでいた。

想像以上に豪華な家となってしまったが、出来ればこの家を使う様な事態にならない事を願いたいと、皆の楽しそうな笑顔を見ながら思った…。

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