第百十五話 皆と過ごす休日 その二

「エルレイ、手加減は無しよ!」

「分かった。全力で戦うと誓う!」

ラウラの体調が戻り、暫くは休んで今日は魔法を使わないようにと注意をした後、ルリアと剣の勝負をする事となった。


ルリアと一番最初に勝負をした時の様に、リリーが審判を務めてくれている。

ルリアはいつも通り正面に剣を構え、俺は下に剣を下ろして構えた。

「それでは始め!」

リリーの白い手が振り下ろされると同時に、ルリアが斬り掛かって来た!

俺はルリアの剣を躱しつつ、ルリアの懐に入り込もうとした。

「甘いわよ!」

ルリアは剣を斬り返しつつ、後ろに下がって俺を懐に入らせないようにして来た。

やはり簡単にはいかないか…。

ルリアはアンジェリカとの訓練で着実に実力を上げていて、普通に戦えは五分くらいだろう。

だが、全力で戦うと言ったからな。

正面から戦うつもりは無い!

俺は身をかがめて重心を低くし、一気にルリアに突っ込んで行った!

「はっ!」

ルリアの鋭い剣が俺の頭上に迫って来る。

俺は剣を振り上げルリアの剣に当てる。

キンッ!

お互いの剣がぶつかり合い火花を散らす。

俺は勢いを殺さずそのままルリアに体当たりをし、足を払ってルリアを押し倒した。

「痛っ!」


「そこまで!」

リリーが止めて勝負が終わった。

「いつまで乗っているのよ!」

「あ、ごめん」

ルリアに覆いかぶさっていてお互いの顔が非常に近く、ルリアは恥ずかしかったのか顔を背けているな。

俺も少し恥ずかしかったので素早く起き上がり、ルリアの手を引いて起き上がらせてやった。

「怪我はしてないか?」

「大丈夫よ!それよりまだやるわよ!」

「うん、分かった…」

ルリアとは何度も勝負をし、俺は全身を使いルリアを地面へと引き倒して行った…。

「はぁはぁはぁ…良く分かったわ…」

「俺の戦い方はルリアには向いて無いと思うけれど、それでも構わないのであればルリアにも教えるよ…」

「そう…お願いするわ…」

俺は自ら地面に転がっていたし、ルリアは俺が転がしたのでお互い土で汚れていた。

一度城内に戻って水浴びして汚れを落とし、着替えてからまた戻って来た。


「お姉ちゃんと二人でと言いたい所だけれど、リリーを入れた三人でおしゃべりしましょう!」

「アルティナさん、ありがとうございます」

アルティナ姉さんとリリーと俺は木陰にあるテーブルの席に座り、メイドが用意してくれたお菓子と紅茶を楽しみながら話をする事となった。

ルリアは戻って来るなり、俺との戦いを思い出しながら剣を振っていた。

ロゼとリゼはヘルミーネと一緒に魔法の訓練をしてくれていて、ラウラはその近くで椅子に座って見学している。

ラウラの体調に問題は無さそうなので安心した…。


「エルレイ、お姉ちゃん結婚式にはどの色のドレスを着て行けばいいと思う?」

どの色でも似合うとか言ったら怒られるだろるから、ここはきちんと色を言ってあげないといけない。

結婚式だから派手目な色でも構わないだろうけれど…。

「うーん…アルティナ姉さんは明るくて美人だから、今日の晴れ渡った空の様な青い色のドレスなんかいいと思います」

「そう!エルレイが決めてくれた青色にするわね!」

アルティナ姉さんは俺が褒めた事でとても喜び、空を見上げて自分のドレス姿を想像しているみたいだ。

アルティナ姉さんのドレスを決めたのなら、一緒に居るリリーのドレスの色も決めてあげた方が良いよな。

リリーも期待の眼差しを俺に向けて来ているし…。

「リリーは美しい銀髪が映える様に赤…だと派手すぎるかもしれないのでピンクが良いかも知れないね」

「はい、ルリアとも合わせなければいけませんが、エルレイさんが選んでくれた色にしたいと思います」

リリーも喜んでくれたけれど、ルリアと合わせる事を考えていなかったな…。

ルリアは赤い髪だから、似たような系統は似合わないか?

まぁ、ルリアが俺に着るドレスの色を聞いて来る事は無いだろうから考えるだけ無駄かな。


「エルレイさん、明日からはまた外にお仕事に出掛けられるのでしょうか?」

「どうだろ?街道整備は終わったし、アドルフがまた別の仕事を言って来なければ出掛ける事は無いと思う」

「そうですか、私もエルレイさんのお役に立てれば良かったのですが…」

リリーは、俺が出掛けないと言うと安心した表情を見せたが、直ぐに少し落ち込んだ表情になってしまった。

リリーは水属性魔法しか使えなく、ロゼとやった土木作業には向いていない。

そもそも、リリーを危険な外での作業に連れて行ける筈も無いんだがな。

たまに忘れることもあるが、リリーはラウニスカ王国の元王女で、今でも命を狙われている可能性は高い。

そして俺の領地は、ラウニスカ王国と隣接している。

ラウニスカ王国にリリーがまだ生きている事を知られると、直ぐにでも暗殺者を送り込んで来るだろう。

なるべくリリーを表には出したくはない。

その事はリリーが一番良く分かっていて、自分から外に行くとは決して言わないだろう。

だけど、何処にも出さずにリアネ城に籠りっぱなしにさせて置くのも可哀想だよな。

何とか機会を作って、外に連れ出してあげる事にしようと思う。


「お姉ちゃんもエルレイの役に立てないのは同じよ。でもね、エルレイを可愛がるのはお姉ちゃんにしか出来ない事なんだけれど、リリーも一緒にエルレイを可愛がりましょう!」

アルティナ姉さんはそう言うと、俺の横に椅子を寄せて来て抱き着いて来た。

そしてリリーも、少し遠慮がちに俺の横に椅子を寄せて来て反対側に抱き付いて来た。

「エルレイ、二人に抱き付かれて幸せよね?」

「うん、とても幸せだし安心する…」

「エルレイさん、私も幸せです…」

アルティナ姉さんとリリーに抱き付かれていると本当に安心出来る…。

この安心をずっと感じていたいと思うと同時に、守って行かなくてはならないとも思う。

明日からアドルフにまたこき使われるかもしれないが、この安心を守るために必要な仕事なのだから頑張って行けるな!

「元気が出て来たよ!」

「お姉ちゃんは、エルレイが元気になるのならいつでも抱きしめてあげるからね。リリーもそうよね!」

「はい!」

メイドがお昼だと呼びに来るまで、アルティナ姉さんとリリーの抱擁を続けてくれた。


午後は、ロゼとリゼを連れて外へとやって来た。

「エルレイ様、どちらに向かわれるのでしょうか?」

「三人でゆっくり過ごせる場所だ」

リアネ城に居てはルリア達に邪魔されてしまうので、空間転移魔法を使って粘土を採取したルドボーン山へとやって来た。


「リゼは始めて来たと思うが、ここはロゼと一緒に街道に敷設するレンガを作った場所で誰にも邪魔はされない」

「ここが…」

リゼは土が剥き出しになった場所を見回していた。

人は誰も来ないが、何も無い場所で寛げるような場所も無い。

そこで俺は家を出し、三人で家の中に入って寛ぐ事にした。


「なんだか懐かしく感じます…」

「そうだな、戦争の時は皆で過ごした場所だからな」

リゼは紅茶を淹れに台所に行き、ロゼはテーブルの上を綺麗に拭いてくれていた。

紅茶の用意が整い、三人でソファーに座ってゆっくりと寛ぐ事にした。


「エルレイ様、一つお願いがございます」

俺が紅茶を飲み一息ついた所で、珍しくロゼがお願いをして来た。

「一つと言わず、僕に願いがあるのであれば何個でも言って来てくれて構わないぞ」

「はい、ありがとうございます。

お願いと言うのは、この家を大きくして頂きたいのです。

ヘルミーネ様、アルティナ様、ラウラが加わりましたので、少々手狭になってしまいました」

「あぁそうだな…この家を大きくするより新しく作った方が早いかな。

ロゼも手伝ってくれるよな?」

「はい、勿論です」

「ロゼは羨ましい…私もエルレイ様のお手伝いがしたいのに!」

俺がロゼと家を作る話をしていたら、リゼが頬を膨らませて不満を言って来た。

普段見せないそんな仕草が可愛かったが、リゼを除け者にするのも可哀想だな。

「リゼにも手伝って貰おう!」

「本当ですか!」

「うん、リゼには僕が固めた粘土を焼しめて貰う、それならリゼでも出来るだろう」

「はい、頑張らせて貰います!」

「私とリゼが一緒に作業できるのは恐らく今日だけですので、今から作業を始めませんか?」

「折角の休みが台無しになってしまうぞ…」

「いいえ、私達はエルレイ様の傍に居られればいいのです」

「ロゼの言う通りです。早速作業に取り掛かりましょう!」

「分かった」

今日はゆっくりと休みたかったが、ロゼとリゼは笑顔を見せてくれていたし、三人一緒に作業をするのはやはり楽しい事だからな。

三人で作業を分担し、新しい家を作っていく事となった。

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