第百十四話 皆と過ごす休日 その一

侯爵となってから初めて得た休日の朝、いつもの様にロゼがメイド服に身を包みベッドの横で待機してくれていた。

「ロゼ、今日一日はロゼも休みなのだから着替えは他のメイドにやって貰っても良いのだが?」

「いいえ、これは私達の仕事ですので誰にも譲りません!」

「そ、そうか…それなら頼む」

「はい!」

ロゼは喜んで俺の着替えを手伝ってくれている。

俺には使用人の気持ちは良く分からないが、大切な人の手伝いをしてあげたいと言う気持ちなら分かる。

昨夜ルリアから、ロゼとリゼが俺の事を大切に想っているという事は教えられたからな…。

だから余計に、ロゼから寝間着と下着を全て脱がされて裸を見られると、今まで以上に恥ずかしい気持ちになるのは仕方ない事だろう。

一方ロゼはいつも通り無表情で淡々と着替えさせてくれている。

いいや、視線が合った時にわずかだが微笑んでくれたので、俺も笑顔で返した。

何だろう…このむず痒いほどの恥ずかしい状況は…。

恐らく俺の顔は真っ赤になっているに違いない。

ロゼやリゼの事を単なるメイドとして見る事はもう出来ないな…。

ロゼとリゼの事は俺の中で大切な人だと言うのは今までと同じだが、その気持ちは異性としてではなく家族に向けるのと同じだったんだよな…。

だが、昨夜からそれが異性…恋人として大切にしたいと思うように変わった。

婚約者が三人も居る状況で普通なら許されない事だと思うが、ルリアがロゼとリゼの気持ちを教えてくれたと言う事は許されたと考えていいんだよな?


ロゼとリゼを恋人として見れるのは、ルリア達と違って大人の女性だからだな。

二人の年齢を聞いた事は無いが、恐らく十五、六くらいだと思う。

貴族は正妻の他に愛人を抱えている人も居る。

今の俺はお金持ちでは無いが、数年もすれば領地経営が安定し、収入も増えて来るのは間違いないはずだ。

ロゼとリゼを養っていくのには全く問題は無い。

色々苦労をし続けて来たが、やっと報われて来たような気がして来た。

今日一日ロゼとリゼと一緒に過ごし、三人で今までの疲れを癒そうと思った…。


「今日一日、僕とロゼとリゼはお休みします。緊急の用事以外は明日に回して下さい」

俺は朝食の前に皆に伝えた。

アドルフとカリナには伝えていたので問題無く受け入れられた。

そして朝食後自室に戻り、三人でテーブルの席に座って今日は何をして過ごそうかと相談する事にした。


「エルレイ様のお好きな様になさってください」

「私達はエルレイ様のお傍に居るだけで十分でございます」

「そう言われてもな…」

俺としては、休みを貰ったからと言って一日中部屋でごろごろして過ごすつもりは無い。

どこかに出掛けるなり、魔法の訓練をするなりして過ごしたいと思う。

街に出掛けるとしたら、ロゼとリゼは俺の護衛に集中して休む事は出来ないだろう。

かと言って、魔法の訓練して過ごすのは俺にとっての休暇にはなるが、真剣に訓練に励むロゼとリゼには休暇にならないだろう。

どの様に休暇を過ごすのかを考えていると、ルリア達が俺達が座っているテーブルに近づいて来た。


「エル!今日は休みだと言ったな。私の魔法の訓練を見てくれる約束であったろう」

「あ…」

確かに、仕事が休みになったらヘルミーネの魔法を見てやるとは言った覚えがある…。

しかし今日は、ロゼとリゼの為に時間を使いたいから断りたいが、ヘルミーネとの約束も果たしてやらないといけないよな。

また明日からはアドルフにこき使われて休みが取れないだろうし、ロゼとリゼには悪いが、少しヘルミーネに付き合ってやるしかなさそうだ。


「エルレイ!私と剣の勝負をする約束もあったわよね!」

「う、うん…」

ルリアともそんな約束をした気がする…。

確かあれは、戦争でカールハインツと剣で勝負したからだったな。

勇者時代に使っていた自己流の剣技で勝ち取り、それを見ていたリゼが皆に詳しく説明した事で、ルリアに手を抜いていたと言われた。

だから、ルリアとも一度勝負をしてあげないといけないし、俺も侯爵になってから剣の訓練をやれていなかったんだよな…。


「エルレイ、お姉ちゃんずっと相手をして貰えず寂しかったんだから、お姉ちゃんとも一緒に休日を過ごしましょう!」

「そ、そうですね…」

アルティナ姉さんがリアネ城に来てから、一度も相手をしてあげられなかったのは事実だ。

アルティナ姉さんにはヘルミーネの教育を任せていたし、何かしらお礼をしないといけないだろう。


「エルレイさん…」

「リリーを仲間はずれにはしないよ」

リリーにもアルティナ姉さんと同様に、ヘルミーネの教育と魔法を教えるように頼んでいた。


「ロゼ、リゼ、すまないが午前中はルリア達に付き合わなくてはならなくなった…」

「はい、それがよろしいと思います」

「そうしてあげてくださいませ」

ロゼとリゼに謝罪し、ルリア達の相手をする事にした。


先ずはうるさいヘルミーネからにして、魔法を教えているリリーに状況を聞いて見た。

「リリー、ヘルミーネは無詠唱が出来る様になったのか?」

「はい、呪文を唱えない所までは出来る様になっています」

「そうか、ヘルミーネ頑張ったんだな!」

「うむ、当然だ!」

俺が褒めてやると、ヘルミーネは満面の笑みを浮かべて喜んでいた。

ヘルミーネの性格を考えると、この先を教えるのは危険にも思えて来る。

しかし、教えないと機嫌を悪くされるだろうし、仲間はずれにもしたくはない。

だから、危険な事をしっかり理解させないといけないだろう。


「ヘルミーネ、これから教える事はとても危険を伴う。

身の危険が無い限り、訓練場以外で魔法を使わないようにしてくれ。

これが約束できないと言うのであれば、教える事は出来ない」

「うむ、分かった、みだりに魔法を使わないと約束する」

「どうしても使わないといけない場合でも、ラウラに許可を求めるんだぞ」

「分かっておる!」

俺がしつこく注意した事でヘルミーネの機嫌は悪くなってしまったが、これでヘルミーネが城内で魔法を使う事は無くなるだろう。

そう言えば、リアネ城でヘルミーネが魔法を使ったという事は聞いていないな。

もしかして、そこまで注意する必要も無かったのかも知れないな…。

ヘルミーネに少しだけ悪いと思いながら、魔法を教えて行く事にした。


「一回で出来るなんて、ヘルミーネは天才だな!」

「当然だ!」

ヘルミーネは俺が教えた通り水球を作り出し、それを直径一メートルくらいまで大きくする事に成功した。

俺の教え方が良いのか、それともヘルミーネが天才なのか…どちらでも構わないか。

この分なら、ヘルミーネが無詠唱を習得するのは意外と早そうな気がする。

「今日はその訓練を続けてくれ」

「うむ、分かった」

ヘルミーネの事はリリーに任せ、俺はラウラに魔法を教える事にした。

リリーも魔力の受け渡しが出来てラウラに魔法を教える事が出来るのだが、何かあった時が怖いとリリーには断られた。

リリーは治癒魔法が使えるから何かあっても対処できると思うが、やはり人命が掛るともなれば怖いよな…。

先ずはラウラが魔法を覚えたいかの確認からだな。

俺はヘルミーネの魔法を少し離れた場所から見ているラウラの元へと向かって行った。


「ラウラ、知っているかも知れないが僕は他人に魔法を使えるようにする事が出来る。

今までリリーやアルティナ姉さんを魔法使いにして来た。

そこで、ラウラが希望するなら魔法使いにしてあげようと思っている。

どうだろうか?」

「えっ、私も魔法を使えるようになるのでしょうか?」

ラウラは知らなかったのか、とても驚愕していた。

「うん、一番最初は魔力切れで倒れてしまうけれど、危険は無いから安心して欲しい」

「よ、よろしくお願いします!」

ラウラは真剣な表情で俺の手を両手で握り、必死にお願いして来た。

誰でも便利な魔法を使って見たいと思うだろうから気持ちは良く分かる。

俺はラウラをベンチへと連れて行って座らせ、ラウラが倒れてしまわないようにとロゼとリゼを両側に座らせ支えて貰った。

俺はラウラの手を握り、魔力を少しずつラウラに流し込んで行き呪文を唱えさせた。


「凄い…」

「うん、見事な魔法だったね」

ラウラは自分が魔法を使えたことに驚き、喜ぶ前に魔力切れで気を失った。

「エルレイ様、ラウラの体調は問題無ありません」

「そうか、一応治癒魔法を掛けておくよ」

ラウラに魔法で失われた魔力を補充し、さらに治癒魔法を掛けてあげた。

ラウラは十分もしないうちに目を覚まし、魔法を使えたことに涙を流して歓喜していた…。

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