第百十三話 ルリア その二
「戦争は直ぐに始まる訳では無く、彼にはさらに上を目指して貰う」
お父様はそう言って、私に四冊の上級魔法書を差し出して来たわ。
「彼はルリアと同じく中級魔法までしか使えない。
何故なら、私が上級魔法書を渡さない様にとアリクレット男爵に頼んだからだ。
あの年で上級魔法まで使えるともなれば否応なしに目立ってしまい、他の者たちからも目を付けられる事になるからな。
しかし、今後はそのような事も言ってられなくなる。
彼には一刻も早く上級魔法を習得してもらい、戦争に備えて貰わなくてはならない。
そこで、ルリアには彼の所に行って貰い男爵家で生活して貰う。
彼に魔法書を渡すタイミングはルリアに任せる。
もし、ルリアが彼を英雄では無いと判断したのならば、直ぐに婚約破棄させると約束する」
「分かりました」
どんな相手だとしても、私には断る事は出来ないわ。
でも、条件を付ける事くらいなら可能よね。
「お父様、婚約を受け入れる代わりに一つお願いがあります」
「何だね、言って見なさい」
「はい、私の婚約者がお父様の思惑通り爵位を得られた暁には、リリーを私の妹にして貰いたいのです」
「なるほど、ラノフェリア家の養子として迎え入れと言う事だな」
「はい、お願いできますでしょうか?」
お父様は私のお願いを聞いて、少しだけ難しい表情を浮かべて考え込んでしまったわ。
リリーはラウニスカ王国の元王女で、ラウニスカ王国は今でもリリーの命を狙っているはずよ。
だから私の専属メイドにして出来るだけ表に出ないようにしていたのだけれど、いつまでもメイドのままと言うのは可哀そうよ。
私の婚約者が英雄の生まれ変わりだと言うのであれば、リリーを守る事だって出来るはずだわ。
だからお願いしてみたのだけれど…。
「うむ、約束しよう!」
「お父様、ありがとうございます!」
お父様は笑顔で承諾してくれたわ。
これで私は何としても婚約者に活躍して貰わなくてはならなくなったわ!
「ルリア、ラノフェリア公爵家としてはいきなりルリアを男爵家の婚約者として送り出す事は出来ない。
ルリアには数人と婚約し、破棄して貰う。
それはルリアの評判を下げる行為であり、親としては大変心苦しく思うがやり遂げて貰わねばならぬ」
「分かりました。どの様な方法でも構わないのでしょうか?」
「うむ、ルリアの好きな様にやりなさい」
「はい!」
私の評判なんてどうでも良い事だわ!
元々そんなにいい方では無かったわ。
貴族の集まるパーティーではダンスを断りまくっていたし、お茶会にも参加した事は無かったわ。
それに、剣術で男性以上の実力を持った女性なんて好まれないわ。
私は公爵令嬢で魔法も使えるから、どんなに嫌われようと婚約者には困らなかったはずよ。
今まではお父様が全て断りなかなか決まらなかったのだけれど、英雄の生まれ変わりが居るともなれば決まらなくて当然よね。
英雄の生まれ変わりが変な奴で無い事だけを願うばかりだわ…。
私はお父様に言われた通り、次々と婚約者と会い破棄して行ったわ。
お父様の方でも、私の噂を流してくれていたみたいなのでやりやすかったわね。
そしていよいよ、男爵家の英雄の生まれ変わりに会ったわ。
第一印象は冴えない男の子といった感じで普通だったわ…。
この男の子が英雄の生まれ変わりと言われても、信じる事が出来ないわね。
でも、魔法を見せられれば納得できたわ。
お父様を信じていなかった訳では無いのだけれど、実際に目にするまでは信じられなかったのよね。
四属性魔法全てを使え、呪文を唱えないなんて…。
実は私も、お父様の話を聞いた後にこっそり練習してみたのだけれど、全く出来なかったわ…。
やはり、嘘なのでは無いかと思うのが当然よね。
魔法を見せられた翌日、私はエルレイの正式な婚約者となり、実力を探るために勝負を申し込んだわ。
これまで誰にも負けなかったのに、あっさりと負かされてとても悔しかったわ…。
でも、エルレイがとても家族思いで良い奴だと言う事が分かったのは良かったわ。
その後魔法を教えて貰う事になったのだけれど…今思い出してもとても恥ずかしかったわ…。
エルレイはとてもスケベで女好きだと言うのは良く分かったわ…。
アルティナに甘やかされて育ったのが原因なのでしょうけれど、それにしても行き過ぎていると思うわ!
「ルリアお嬢様、あのくらいの男の子が女の子に興味を持つのは普通では無いかと思います…」
リリーはそう言うけれど、いきなり女性に抱き付くのは普通では無いと思うわよ…。
エルレイがスケベなのはどうにもならないみたいだけれど、英雄の生まれ変わりには違いなかったわ。
剣術も優れていて、魔法の方は本当に凄かったわ。
魔法は私も教わったのだけれど、魔法にこんな使い方があるなんて普通の人では絶対思いつかないと思うわ。
エルレイにはきっと英雄の記憶が受け継がれているんだと思うわ。
その証拠に、私達が知らないような知識を色々持ち合わせているのよね。
貴族の常識に疎い所も怪しいし…。
エルレイは男爵家三男だから知らなかったと言い訳しているのだけれど、普通に教えられる事だと思うわよ!
でもそこは、私が教育してあげればいい所よね。
そしていよいよ、待ち望んだアイロス王国との戦争になったわ!
この日まで魔法の訓練を続けて来て、私も十分エルレイに近づいたのでは無いかと思うわ!
四属性使えるエルレイを追い越すのは絶対に不可能な事だけれど、私が使える火属性魔法と風属性魔法だけならエルレイより威力は勝っているはずよ!
だけど、私の出番は殆どなかったわ…。
エルレイを活躍させないといけないのは分かっているのよ…。
でも、せっかく覚えた魔法を使えないと言うのはストレスが溜まってしまうわ!
そのストレスは、エルレイが作った壁を壊す事で解消されたからよかったわ。
今思い返しても、あの時のエルレイの悔しがった表情はとても良かったわ!
余程悔しかったのか、戦争が終わったあと、エルレイは私でも簡単に壊せない家を作り出したわ。
その家は、アイロス王国との本格的な戦争でとても役に立ったのだし、簡単に壊れない事で安心して過ごす事が出来たわ。
アイロス王国との本格的な戦争では、私とエルレイは死にかけたのよね…。
リゼが助けてくれなかったら、今この幸せな時を過ごせていないと思うと、恐怖を感じてしまうわ…。
でも、死にかけた事でエルレイが怒り、一人で戦争を終わらせてしまったわ。
お陰で両軍の被害が最小限に抑えられ、敵だった兵士達がエルレイの下で働けているのよね。
エルレイが本気を見せた事で、ソートマス王国の貴族達も簡単にエルレイに手出しして来る事は無くなったと思うわ。
結果的に見れば良かったとは思うのだけれど、流石に私も戦争はもう二度とやりたくは無いと思ってしまったわね。
戦争が終わり、エルレイは侯爵となってアイロス王国全土を与えられたわ。
国王陛下も余程エルレイの事が怖いのだと思えるわ。
エルレイには王国を乗っ取ってやろうとかと言った野心は全く無いのだけれど、エルレイに十分な褒美を与えなかった場合、お父様を始めとして周囲の貴族が黙ってはいないはずよね。
最悪、エルレイを担いで国王陛下を倒す事も考えられるわ。
お父様がそうならないように国王陛下に進言したのでしょうけれどね。
でも、ヘルミーネが付いて来たのはお父様も予想外だった筈よね…。
ヘルミーネの事は嫌いでは無いのだけれど、もう少し行儀よくして貰いたいと思うわ…。
だから今、リリーとアルティナから猛特訓を受けさせられているのよ…。
そう言えば、エルレイはロゼとリゼとラウラの事はどう思っているのかしら?
ロゼとリゼの事はエルレイも大事にしているのは分かるのだけれど、ラウラもこの部屋で寝泊まりしているのだから同じように扱わないといけないのにね。
その辺りの事は、はっきりと説明しないといけないのかも知れないわね…。
「ルリア様、紅茶のお代わりはいかが致しますか?」
「えぇ、頂くわ」
気が付けばカップの中身は空になっていたのね…。
ベルタが新しいカップに紅茶を淹れて差し出してくれたわ。
私は紅茶を一口飲み、エルレイにどうやって説明すればいいのか考える事にしたわ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます