第百十二話 ルリア その一
私はリアネ城の自室で、珍しく一人でぼーっと紅茶を飲んいたわ…。
リリーとアルティナは、ヘルミーネに食堂での作法を教える為に部屋を出て行ったのよね。
リゼとラウラはその付き添いで、エルレイとロゼは外の仕事に出掛けているわ。
メイドのハンナとベルタが傍に着いていてくれてるけれど、ロゼやリゼの様に話しかけて来る事は無いわ。
私もリリー達に着いて行こうとしたのだけれど、ヘルミーネからうるさいから来るなと言われてしまったわ…。
私がうるさくなってしまうのは、王女のヘルミーネの作法があまりにもなっていないのがいけないのよ!
私もリリーに比べると作法が出来ている方では無いと自覚しているけれど、ヘルミーネは作法以前の問題なのよ!
でも、久しぶりにゆっくり出来る時間が出来たのは良い事なのかもしれないわね。
ここに来るまで、毎日が刺激的で休む暇なんて無かったのですからね。
私は窓からの景色を眺めつつ、これまでの事を思い返してみる事にしたわ…。
・・・。
私はラノフェリア公爵家の四女として生まれ、両親からとても大切に育てられたのだと思うわ。
幼い頃から優秀な家庭教師が付けられ、優秀な兄姉達に追いつこうと勉強を頑張ったわ!
「ルリアはとても優秀だ!」
「ルリア、よく頑張りましたね!」
勉強をするたびに両親から褒められ、私はより一層勉強を頑張ったわ!
でも、いくら勉強を頑張っても兄姉達には遠く及ばなかったのよね…。
私は末娘で、兄姉達も私と同じように勉強を頑張っているのだから追い付けるはずも無いのに、当時の私はそんな事も分からずに兄姉達に追いつこうと必死に努力を続けたわ…。
負けず嫌いだったのよね…。
勉強で勝てないのであれば剣術を鍛えて勝てばいいと思い、お父様におねだりして剣術の家庭教師も付けて貰ったわ。
その甲斐あって、剣術では兄姉達に勝つ事が出来る様になったわ。
でも、姉達は元々剣術は護身程度にしか考えておらず、兄達は手を抜いてくれていたのよね…。
兄姉達は、無理に背伸びをして来る妹の相手をしてやっていた、と言うくらいの気持ちだったのだと思うわ。
その事に気が付いた時には無性に腹が立って、メイドに辛く当たってしまったり、物を壊したりもしたわ。
あれは今思い出して見ると、とても恥ずかしいわね…。
だけど私にも、兄姉達に出来ない事が出来る事が分かったわ。
それは魔法よ!
使用人を除けば、この家で唯一私だけが魔法を使えるのよ!
必死になって魔法を覚えたわ!
お父様が宮廷魔導士を家に呼んでくださって教えて貰ったりもしたわ。
でもその時に、私が普通以下の魔法使いだと言う事を知らされる事になったわ…。
幾ら呪文を唱えても、少し難しい魔法が成功する事は無かったわ…。
魔法は魔力が幾らあったとしても、本人に才能が無ければ発動しないものなのよ。
エルレイは魔力があれば誰でも使えるものだと勘違いしているし、実際にエルレイが教えれば魔法が発動するのは間違い無いわ。
あれは人に教える天才としか言いようが無いわね。
話がそれてしまったわね…。
当時の私は初歩の魔法しか使えずとても苦労をしたわ。
それでも毎日努力を続けて行き、何とか普通の魔法使い程度には成長したわ。
丁度その頃、珍しくお父様が私の部屋に見知らぬメイドを連れてやって来たわ。
それがリリーとの出会いだったのだけれど、私の印象は良くなかったわね…。
「ルリア、今日からルリアの専属メイドとなるリリーだ」
「リ、リリーです…ルリアお嬢様よろしくお願いします…」
リリーは、私に聞こえるか聞こえないかの声で挨拶して来たわ。
こんな元気の無さそうな子が私の専属メイドですって?
顔も痩せこけているし、こんな子が私の専属メイドが務まるのか疑問だわ。
でも、お父様が選んで連れて来たメイドを追い返す事は出来ないわね。
仕方なくこの子と付き合って行くしかなさそうだわ…。
「ルリア不満そうだね?」
「いいえ、そんな事はありません。
リリー、これからよろしくね」
「はい…」
気持が表情に出ていた事をお父様に指摘され、慌ててリリーに手を伸ばして握手を交わしたわ。
やはり手の肉も落ちて痩せていたわ…。
「ルリア、リリーには特別な事情があって、それを今から説明する」
お父様と私はテーブルの席に着いて、お父様からリリーの説明を受ける事となったわ。
お父様の説明によると、リリーはラウニスカ王国の元王女で命を狙われて逃げ出して来たそうよ。
もう二度とラウニスカ王国には戻らない事と、私のメイドになる事を承諾したのでお父様が保護なさったと言う事だったわ。
お父様もリリーを使ってラウニスカ王国と交渉するつもりもなく、ラウニスカ王国の情報と交換に身の安全を保障したに過ぎないわ。
そうして、私とリリーの生活が始まって行ったわ。
リリーはメイドとしてほとんど役には立たなかったわ…。
元王女なのだから当然よね。
私もまったく気にしていなかったわ。
でも、一応私のメイドと言う事なのだから最低限の事はやって貰っていたわ。
「リリー、紅茶を淹れて頂戴!」
「はい!」
唯一出来た事は、紅茶を淹れる事だったわ。
王女の時から趣味でお茶を淹れていたらしいので、メイド顔負けの腕前で他のメイドが教えを乞うていたくらいよ。
リリーが元気が無く痩せ細っていたのは辛い逃亡生活のせいで、私のメイドとなってからは日増しに元気になって行き、私とも仲良くなって行ったわ。
元王女だからリリーとは話が合ったのよね。
リリーがメイドとしても仕事を一人前に出来るようになった頃、再びお父様が私の部屋へとやって来たわ。
「ルリアの婚約者が決まったぞ」
「そうですか、それでどなたなのでしょう?」
兄姉達の婚約者は決まっており、残るは私だけとなっていたわ。
「うむ、アリクレット男爵家の三男で名をエルレイと言い、ルリアより一つ年下だ」
私も公爵令嬢としてお父様のお役に立つべく、どの様なお相手でも受け入れる覚悟はしたのだけれど、流石に男爵家三男とは思っても見なかったわ…。
言葉を失うのも当然よね。
「ルリアが驚くのは当然の事だ。私としても可愛いルリアを男爵家三男に嫁がせるのは気が重い。
しかし彼はとても優れた魔法使いで、英雄の生まれ変わりでは無いかと私は思っている」
「英雄?」
「うむ、英雄クロームウェルの話はルリアでも知っているだろう」
「はい、様々な魔法を駆使して、この大陸から魔物を排除したとされている人物です」
「その通りだ。そしてその英雄が四属性魔法全てを使っていたのも有名な話で、その男爵家三男も四属性魔法全てを使える」
「そうですか…分かりました。私はお父様の望む通りに致します」
「うむ、ルリアには暫く辛い思いをさせる事になるが心配する事は無いぞ。
私は今アイロス王国との戦争を計画していて、そこで彼には活躍して貰い、爵位と領地を国王陛下から賜るつもりだ。
彼の活躍次第だが、最低でも伯爵には私の力でしてやるつもりだ」
「お父様の事を疑う訳ではありませんが、私より年下の男の子が戦争で活躍できるものなのでしょうか?」
幾ら英雄の生まれ変わりだとしても、一人で戦争をする訳では無いのよ!
敵にも沢山魔法使いが居て、魔法だけでは勝てる筈も無いわ!
そう思ってお父様に聞いて見たのだけれど…。
「私も直接彼の魔法を見た訳では無いが、呪文を使わずに魔法を行使するそうだ」
「呪文を使わない?」
「アリクレット男爵から直接聞いた話なので間違いは無いぞ。
彼は呪文を使わないので、魔法使い相手に敗北する事は無い。
ルリアならこの事の意味を理解できるだろう」
私はお父様に頷いた。
魔法使い同士の戦いは、如何に呪文を正確に速く唱えるかにかかっているわ。
その呪文が必要無いと言うのであれば、魔法使いに負ける要素は一つも無いわね。
複数人相手に戦う事も出来るんじゃないのかしら?
お父様が、戦争で活躍出来ると見込むのも分かったわ…。
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