第百十一話 ロゼとリゼへの休暇

街道整備は順調に進んで行ってはいるが、雨が降れば作業が出来なくなるし、川に橋を架けるのに苦労を強いられた。

橋を架ける為に、護岸を崩れない様に強化して地面深く土台を埋め込み、それから橋の部分を作って行くのだが、橋を作るのは初めての事で上手く行かず、何度か橋を川に落としたりしながら完成するのに三日も掛かってしまった…。

でも、その分頑丈な橋が出来たし、作り方を覚えたので次からはもっと早く橋を架ける事が出来るだろう。

トリステン率いる警備兵達や作業員達とも気楽に話せる様になり、連携もより良くなって作業速度も速くなって来た。

作業員の休みは週に一日あって、俺はその休みをレンガ作成に当てている。

ロゼに全く休みを与えられていないのは心苦しいのだが、作業を遅らせる訳にはいかないので我慢して貰うしかない…。

街道整備が終わったら、ロゼに休みを…それと俺にも休みをアドルフから勝ち取ろうと心に決めた。


「完成だ!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」

街道を整備し始めてから二か月強かかって、リアネの街から東西南北に延びる街道が完成した!

苦労はしたが、地属性魔法による加工も上達したし、皆と一緒に作業するのは結構楽しかったんだよな。


「皆の協力のお陰で、予想より早く街道整備を終えることが出来た事に感謝する。

この街道の完成により、人や物の移動が楽となり、人々の生活はより良い物に変わっていく事だろう。

それはひとえに君達の努力の結果で誇って良い事だ。

君たちの努力に報いるために、今日は特別に近くの街の酒場を貸し切りにしてある。

好きなだけ飲んでくれ!」

「「「「「ひゃほぉーーーーーー」」」」」

アドルフに頼んで作業員達の為に酒場を貸し切って貰った。

ここまで頑張ってくれた作業員達にはもう少し褒美を取らせてあげたい気持ちはあったが、今の財政状況だとこれが限界だ。

アドルフに頼んだ時も、最初は報酬をきちんと支払っているから不要だと断られたんだよな…。

俺と警備員たちは毎日家に帰っていたが、作業員達はそうでは無い。

近くに街があればそこの宿屋に泊まり、なければその場でキャンプをしてくれていた。

その苦労を知っているから、少しだけでも報いてあげたかった。

彼らはこの後、俺が開墾した農地で農業に従事する事になっている。

街道を作る作業よりも大変だろうとは思うが、頑張って貰いたいものだな。


「トリステン達にも世話になったな」

「いいえ、私達はあまり役に立って無かったですけど、何事も無く無事に過ごせた事が何より良かったという事です」

彼らの役目は俺の警護で、誰かが襲って来る事は無かったが、通行人や見物客の排除など色々とやって貰った。

俺も戦争で恨みを持っている奴が襲って来るかもと一応警戒はしていたのだが、誰も襲って来る事が無く肩透かしを食らった感じだ。

まぁ、襲われない方が良いのだが、俺が一人で外出している時に狙われるのであれば、家族を巻き込まなずに済むからな。

二か月強の間外出していて襲われなかったという事は、俺を襲いたいと思っている者が居ないと思ってよさそうで、一安心って所だな。


「ロゼが居なかったらここまで早く終わらせることが出来なかった、本当にありがとう」

「いいえ、私の努力不足を痛感致しました。これからはより一層魔法技術を磨き上げ、エルレイ様のお役に立てるように致します」

ロゼはこう言っているが、十分すぎるほど役に立ってくれたのは間違いない。

ロゼは魔法を覚えてからそんなに時間が経っている訳では無い。

その上に無詠唱と言う制御の難しい魔法を使い、俺の手伝いが出来ているのは本当に凄いと思う。

そして、一番苦労を掛けてしまったのがロゼなんだよな。

城に帰ったら、ロゼとリゼには休暇と、休暇を過ごせるだけのお金を渡そうと思っている。

アドルフとメイド長のカリナさんの許可は既に得ていて、後は俺が二人に伝えるだけとなっている。

今から二人の喜ぶ姿を想像しただけで、ちょっと楽しくなって来た。


リアネ城へ帰って来て執務室に向かい、アドルフに街道整備が終わった事を伝えた。

「エルレイ様、お疲れ様でございました」

「うん、約束通り、明日は一日休む事にするからな!」

「はい、ごゆっくりお休みくださいませ」

流石に俺も疲れたし、決算書類は溜まっているが休みを貰った。

街道整備中も夜に少しずつは消化していたからそんなには溜まってはいないが、一つの事をやり遂げた喜びをかみしめる時間があっても良いと思うんだよな…。

「と言う事で、予定があるのなら今の内に言ってくれ」

「畏まりました。エルレイ様にして頂く急ぎの予定は今の所御座いません。

ですが、二週間後にはネレイト様の結婚式に出席して頂きます」

「後二週間しか無いのか…」

戦争が終わり、俺の引っ越しも終わった事で、ラノフェリア公爵家の長男ネレイトの結婚式が執り行われる事になっていた。

その事は大変喜ばしいのでいいのだが、貴族が集まる場所に参加するのは気が重い…。

しかし、ネレイトにも色々お世話になっているから、出席してお祝いしてあげたい気持ちはある。

面倒ごとに巻き込まれないように、式場の隅で存在を消しておく事にしようと思う…。


その日の夜、寝る前にロゼとリゼに休暇を与えるべく俺の前に来て貰った。

「ロゼ、リゼ、今まで休みなく俺達の世話をしてくれた事に感謝し、二人には休暇を与えようと思う」

「「えっ!?」」

二人は休暇を与えられた事が意外だったのか、とても驚いていた。

何時も表情を崩さないロゼでさえ驚愕している。

もしかして俺は、休暇も与えないような主人だと思われているのだろうか?

まぁ、今まで一日も休暇を与えていなかったのは間違い無いし、戦争にも連れて行った上に暗殺者の相手もさせてしまったからな…。

酷い主人だと思われていても不思議では無いか…。

「二人は着る服が無かっただろうから、ちゃんと出かけられるような服は用意したし、休暇を過ごすためのお金も僅かだが用意した。

二人で出かけて行って、美味しい物でも食べて来てくれ」

二人に喜んで貰おうと、隠しておいた服を取り出しお金の入った袋も取り出して二人の前に差し出した。

しかし、二人は服にもお金にも手を伸ばさず固まったままだ…。


そしてリゼの瞳から大粒の涙が流れ落ち、手で顔を覆って泣き出してしまった…。

よく見るとロゼも瞳に涙を溜めていて、何時泣き出してもおかしくないと思え、俺は二人が泣くほど嬉しかったと思い休暇を与えて良かったと思った。


「エルレイ様は私達が不要だと言うのでしょうか?」

「あ、い、いや、そうは言って無いぞ…」

ロゼが瞳からぽろぽろと涙があふれさせながら訴え、ついにロゼまで泣き出してしまった…。

俺は泣き出した二人をどう慰めていいのか分からず、オロオロしてしまった。


「はぁ、エルレイはほんと馬鹿ね!」

「エルレイさん、流石に今のは酷いと思います!」

ルリアはリゼを、リリーはロゼの頭を抱きしめて慰めていた。

俺はただ二人に休暇を与えたかっただけなのに、ルリアとリリーから非難の視線を浴びせられなければならないのだ…。

解せぬが、ロゼとリゼが泣いているから俺が悪いと言うのだけは分かる…。


ロゼとリゼが落ち着くのを待ち、ルリアが話をしてくれた。

「エルレイ、二人が不要だと思った事は無いわよね?」

「勿論だ!俺にとってかけがえのない存在で大切に想っている!」

「普段の行動を見れば分かるけれど、エルレイはロゼとリゼの事を私たち婚約者と同様に扱っているわ!

その事に気が付いているわよね?」

「「はい…」」

ロゼとリゼはルリアの問いに頷いて見せた。

「そしてエルレイ!」

「はい!」

「ロゼとリゼも、私たち婚約者と同じようにエルレイの事を大切に想っているわ!」

「えーっと、それはつまり…ルリアも俺の事を大切に想ってくれていると?」

俺が聞き返すと、ルリアの表情は見る見るうちに赤くなって行った…。

ルリアが失言してしまった事に気が付き、拳を握り締めるのが見えたが、今はリゼを抱きしめているから俺に殴りかかって来る事が出来無くて安心した…。

「私の事はどうでもいいのよ!今はロゼとリゼの事でしょ!」

「は、はい!」

「とにかく、ロゼとリゼは一日でもエルレイから離れたくないと言う事よ!分かった!」

「わ、分かりました…」

流石にここまで言われればロゼとリゼが泣き出した事の意味を理解できた。


「えーっと、ロゼ、リゼ、休暇は無しで良いんだな?」

「「はい」」

「そうか…明日は俺も休みだから、三人でゆっくり過ごす事にしよう」

「「はい!」」

ロゼとリゼは笑顔になり、ルリアとリリーから離れて俺を抱きしめて来た!

二人から力強く抱きしめられた事で少し苦しかったが、二人の気持ちがこもった抱擁だと理解し、二人が満足するまで抱擁を受け入れ続けた…。

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