第百十話 街道整備 その二

ロゼとリゼが落ち着くのを待ってから、ルリア達に贈り物を手渡した。

「エルレイにしてはまともね。ありがと…」

「エルレイさん、ありがとうございます!」

ルリアとリリーに贈ったのはティアドロップのイヤリングで、ルリアには白く輝く宝石、、リリーには赤く輝く宝石だ。

またも二人の髪の色にしたので芸が無いかと思ったが、喜んで貰えた様で良かった。

早速メイドを呼んで付けて貰い、二人で見せあいっこをしている姿を見ると俺も嬉しくなって来るな…。


「エル、私のは宝石では無いぞ!」

「お姉ちゃんもそうよ~、でも、エルレイから始めて贈って貰った物だから一生大切にするわね!」

ヘルミーネとアルティナ姉さんにはリボンを贈ったので多少文句は言われが、ルリアとリリーに最初に贈ったのがリボンだったから、他の物にする事は出来なかったんだよな。

ただし、ルリアとリリーに贈ったリボンよりは高級品なのは間違い無いので我慢して貰いたいと思う。


「私が頂いてもよろしいのでしょうか?」

「うん、ラウラにもお世話になっているからな」

ラウラには、ロゼとリゼの時と同じ様に髪留めを贈った。

ラウラは普段から長い髪をまとめているので、何個あっても困る事は無いだろう。


「ロゼ、リゼ、エルレイからの贈り物は何だったの?」

ルリアが、箱を開けて中身を覗き込んだ状態で固まっているロゼとリゼに問いかけた。

「そ、それが…」

リゼがルリアの前に箱を差し出して、中に入っている物を見せていた。

「なるほどね…着けていいわよ!普段は服の中に仕舞っておけばいいのよ!」

「分かりました」

ルリアが許可を出した事で、ロゼとリゼは箱から俺が贈ったペンダントを取り出して装着してくれた。

やはりペンダントを贈ったのは失敗だったのだろうか?

ルリアの言う通り、使用人のロゼとリゼが普段表に出して着けられる物では無い。

その事は俺も分かってはいたのだが、感謝の気持ちを形として贈るにはペンダントくらいしか思いつかなかったんだよな…。


「いい感じで、良く似合っているわよ!」

「ロゼ、リゼ、とても似合っています!」

「まーまーだな!」

「いいわね…お姉ちゃんもあんなのが良かったわ…」

「「皆様、ありがとうございます!」」

皆がロゼとリゼの姿を褒めていて、俺はその光景が見られた事に満足していると、ルリアが近づいて来て耳打ちして来た。


「ぼーっとしてないで、エルレイも褒めてやりなさいよ!」

「あ、あぁ、そうだな…」

俺はロゼとリゼの前に行き、少し恥ずかしかったが二人の目を真っすぐ見た。

「ロゼ、リゼ、良く似合っていて綺麗だよ」

俺が褒めると、二人は俺を抱きしめて来た。

「「エルレイ様、これから一生お守り致します」」

少し痛いくらい強く抱きしめられたが、二人の想いがこもっているのだと言うのが良く分かった。

「頼んだ。僕もロゼとリゼを守り、そして二人が幸せな生活を送れるようにすると約束する」

二人には本当に幸せになって貰いたいと心から思う。

二人にとっての幸せがどの様な物かは俺には分からないが、二人が笑顔で居られるようにしてあげられればいいのでは無いかと思い、その為にはどの様にしていけばいいのか真剣に考えないといけないな…。


今の俺に出来る事は、目の前の課題を一つずつやって行くしかない!

雨も上がり、レンガ造りを再開して行った。

「ロゼ、明日からは街道整備に取り掛かろうと思う」

「はい、護衛はいかが致しましょう?私も作業に集中すると、エルレイ様を十分にお守りする事ができません」

「そうだな…アドルフに相談してみるよ」

俺としては護衛など不要だと思っているが、ロゼやアドルフは承知してくれないよな…。

仕方なく、リアネ城に帰った後アドルフに相談してみた。


「はい、既に護衛の準備は整っております。

それから、レンガを敷く作業員の確保とレンガの隙間を埋める粘土の用意も出来ておりますので、エルレイ様は基礎部分の作成とレンガの運搬をお願い致します。

街道整備はリアネの街からソートマス王国側、ルフトル王国側、ラウニスカ王国側の順番で行ってください」

「分かった…」

アドルフの用意の良さに脱帽するしかない…。

俺はロゼと二人だけで街道整備をやるつもりだったのだが、レンガを敷くだけなら他の人に任せた方が効率は良いのは間違いないな。


そして翌朝、リアネ城の玄関に出て行くと、アドルフが俺の警備担当者達を紹介してくれた。

「この度、アリクレット侯爵私設軍の軍団長に就任致しました、トリステン・ダーリングです。

アリクレット侯爵様、以後お見知りおきの程よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」

俺はトリステンと握手を交わしたが、彼が俺の私設軍の軍団長になっても良い物なのか?

トリステンは俺の記憶が正しければ、アイロス王国軍の軍団長だったはずだ。

戦争が終わり、アイロス王国軍は俺の領民になった訳で、農民になった者も居れば私設軍に入った者も居る。

食べて行く為に仕方なく私設軍に入った者がほとんどだろうし、俺の事を恨んでいる者も大勢いるだろう。

そんな者達に護衛されたとしても全く安心できない…。

しかし、アドルフがそんな危険な考えを持った者を俺の護衛として付ける筈も無いか…。


「空間転移魔法を使いリアネの街の外まで移動する。着いて来る者は手を繋ぎ合ってくれ」

俺はロゼとトリステンと手を繋ぎ、トリステンが他の警備兵と手を繋いでくれた。

そして、空間転移魔法で全員リアネの街の外へとやって来た。


「もう手を離していいぞ」

空間転移魔法を初体験した警備兵達は、驚愕し周囲を見回していた。

大抵そのような反応をするので俺は見飽きたと言うか、相手にしている暇は無い。

リアネの街の外には、アドルフが手配した作業員達が待ち構えていたのだからな。

俺は作業員達の近くに行き挨拶をした。


「僕がリアネの街の領主、エルレイ・フォン・アリクレット侯爵だ。

今日から君達と共に街道整備事業を行っていく。

大まかな説明をするので、代表者数名は僕の所に来てくれ」

数名の作業員が俺の所に来たので作業員にやって貰う事を説明し、時間も限られているのですぐに作業に取り掛かって行った。


リアネの街から繋がる道は既に石畳が敷かれているが、アドルフからはこれもやり替えて欲しいと言われている。

作業員に通行人の整理をして貰い、石畳を魔法で浮かせて剥がし収納魔法の中に入れて取り除いていく。

取り除いて土が剥き出しになった所に、収納から取り出した土を盛っていく。

その土を、事前に用意していた道路工事の際によく見るロードローラーの円筒を転がして圧縮し固めて行く。

「レンガを重ならないように並べて行って、ずれる部分には半分に切ってあるレンガを設置してくれ」

後は作業員がレンガを交互に置いて行き、粘土で動かないように隙間を埋めてくれれば完成だ。


元からある道を舗装しなおすのは簡単で良い。

しかし、家や畑があった場所や森を切り開いての作業は、道の土台となる部分を作らないといけないので大変だ。

ロゼも手伝ってくれているし、作業員達も頑張ってくれているので大変だが頑張れるな。


「野郎ども、飯が出来たぞー!」

作業員達の方から大きな声が聞こえて来た。

振り返って見ると、何人かの作業員が炊き出しを行っていた。

作業に集中していると時間を忘れてしまうな…いつの間にか昼になっていた様だ。

「エルレイ様、私達もお昼に致しましょう」

「そうだな」

お昼と言っても弁当を持って来ている訳では無く、リアネ城に戻って食べるのだが…。


「領主様もいかがっすか?」

作業員の一人が俺達を昼食に誘ってくれた。

「いいのか?」

「へい、材料は領主様持ちっすから」

「あぁそうか…」

作業員達の昼食の材料はアドルフが用意したのか、それなら遠慮する必要は無いな。

「ロゼ、僕達もあの昼食を頂く事にしよう」

「承知しました」

ロゼが止めて来るかと思ったが意外にも了承してくれたので、俺とロゼも炊き出しの列に並び料理を受け取った。

「あの場所に座って食べよう」

「はい」

作業員達が各々道端に座り込んで昼食を食べているので、俺も適当な場所にロゼと座って食べる事にした。

昼食は肉と野菜がたっぷりと入ったスープにパンと質素だが、味は中々美味い。

最近は贅沢な食事が多かったが、父の家にいた頃にはこんな感じの食事だったのを思い出す。


「アリクレット侯爵様は、こんな食事でよかったのですか?」

同じ様に近くで昼食を食べていたトリステンが不思議そうに尋ねて来た。

「あぁ、僕は男爵家の生まれで、普段はこんな感じの食事だったからな。

それと、アリクレットだと父と兄が居て混乱するから、エルレイと呼んでくれないか?」

「承知しました。ではエルレイ様と呼ばせて頂きます」

トリステンとは昼食の間他愛もない話をして過ごす事となった…。

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