第百八話 街道整備 その一
開墾作業を終えたその日の夜、ヘルミーネと一緒のベッドで寝る事になったのだが…。
「ラウラも一緒に寝るぞ!」
「えっ!?私もでしょうか…」
ヘルミーネは二人で寝るのが恥ずかしかったのか、メイドのラウラを入れた三人で寝ようと言い出した。
ベッドは広く、三人で寝ても余裕があるほどだし、胸が大きなラウラと一緒に寝られるのであれば幸せなことこの上ない!
ラウラも覚悟を決めたのか、ヘルミーネをベッドに寝かせた横にラウラも横たわった。
「これで良し!エル、おやすみ!」
「うん、ヘルミーネ、おやすみ…」
ラウラと寝られるかと期待したのだが、ヘルミーネが真ん中に入ったためラウラとは離れた形となりかなり残念に思う…。
まぁ、ラウラとも二人で寝る機会があるはずなので、その時を楽しみにしておくとしよう。
翌朝、寝相が悪いヘルミーネから夜中に何度も蹴られ、寝不足気味のまま開墾作業へと向かって行った。
昨日一日でやり方は分かったので、残りの三カ所も問題なく三日間で終わらせることが出来た。
「カールハインツ、土とかは掘り返したままだが本当にそのままで良かったのだろうか?」
「構わない、柔らかくなっている方がこの後の作業がやりやすいからの」
「では、後の事は任せる。うちの使用人が定期的に進捗状況の確認に来るだろうから、その時に必要な物資があれば言ってくれ」
「承知した」
開墾した土地は、畑とそこに住まう人たちの家が建設される予定で、これから大きな農村になって行くのだろう。
俺も時々様子を見に来て、俺が開墾した土地が変わって行く姿を見てみたいと思った。
さて、一仕事終えたし、明日からは魔法の訓練に取り組もう!
そう意気込んでいたのだけれど…。
朝食の後、アドルフに執務室に連れて来られて、机に広げられたアリクレット侯爵領の地図を見せられていた。
「エルレイ様、街道の整備作業をお願いします」
「…」
地図には黒い線と赤い線が書き込まれていて、アドルフの説明によると黒い線が現在ある街道で、赤い線がこれから作る街道となるみたいだ。
「アドルフ、赤い線が家や畑を横切ってはいないか?」
「はい、ですが領主権限で移動させておりますので問題はございません」
「そうなのか?家は新しいのを立て替えてやればいいだろうが、畑はそう簡単に行くものでは無いだろう?」
「その通りでございます。ですので、旧アイロス王国軍より農民を希望された方々を動員し、畑の土ごと移動させました」
「そ、そうか…」
昨日やっと、農民になる兵士達の為の土地を開墾し終えた所で、それまで兵士達は遊んでいるのかと思っていたのだが、アドルフは遊ばせずにこき使っていたのだな…。
そして、領主の俺もアドルフにこき使われている…。
でも、以前軍と一緒に街道を通ってリアネの街まで来た時には道が悪かったのを覚えている。
リアネの街中と、その近くの街道は石畳になっているが、少し離れると土だけの道で歩きにくい。
俺は馬に乗って来たのだが、それでも馬が揺れて乗り心地が良くなかったからな…。
それに、アドルフが書いた赤い線は、街と街を可能な限り真っすぐ繋ぐように書かれていて、この街道が出来れば移動が格段に楽になるのが簡単に予想できる。
最初に地図を見せられた時にはやる気が無かったが、街道は一度作ってしまえば定期的な補修をするだけで済むし、何より俺の領地の発展に繋がるよな!
しかし、頼まれてばかりなのは癪に障るから、俺からもアドルフに頼んでみよう。
「分かった。だが、直ぐには取り掛かる事は出来ない。
アドルフ、街道に敷設するレンガを作るために大量の粘土が必要となる。
採取に適した場所か、あるいは粘土を売ってくれる場所を調べてくれ」
「はい、このルドボーン山でしたら、エルレイ様が自由に採掘なされて結構です」
アドルフは、地図上のリアネの街から東にある山を指差してくれた。
…。
これは俺の負けだな。
まぁ、街道の整備を考えたら、敷設するレンガが必要になる事は想像できて当然か。
「分かった。今日は粘土を採掘してレンガの作成に当たるが、山にメイドを連れて行くのは可哀想だからロゼと二人だけで行って来る」
「承知しました。昼食は戻って来られますでしょうか?」
「そうしよう」
現場で食べるのもいいが、戻って皆と食べた方がいいよな。
ロゼを呼んで貰い、今日もロゼを抱きかかえてルドボーン山に向けて飛んで行った。
「エルレイ様、どの辺りで採掘致しますか?」
「そうだな…出来るだけ自然が無い場所が良いと思うのだが…」
ルドボーン山は自然豊かな緑に覆われた山だった。
要するに人の手が全く入っていないので、俺の好きにしていいという事だったのだろう。
だが、自然を破壊するのも躊躇われるな。
開墾作業で散々破壊して来ておいて言うのもなんだがな…。
「山頂から採掘して行く事にしよう」
下から採取すれば上が崩れてきてしまうだろう。
そんなに高い山ではないが、山頂から採取して行けば崩れる危険は少ないはず。
俺はルドボーン山の山頂に下り立ち、ロゼを下ろして片膝を付き手を合わせた。
ルドボーン山の神様、街道を作るための材料を採取する事をお許しください。
この異世界に山の神がいるとは思わないが、山は俺達に恵みを与えてくれる存在なので感謝を忘れないようにしなくてはな。
「エルレイ様、何を成されているのでしょうか?」
「これから山の恵みを分け与えて貰う為に祈りを捧げていたんだ」
「そうでございましたか」
ロゼも俺の真似をして山に祈りを捧げてくれた。
俺は山肌にある邪魔な岩を取り除き平坦な作業場所を作り出した。
その近くを少し掘り進めて粘土を取り出した。
出て来た粘土は灰色をしていて、リアネ城に使われていた粘土と同じの様だな。
これなら固いレンガを作れるはず。
街道に敷設するレンガだから、割れにくくする為に少し厚めにした方が良いな。
先ずは基本となるレンガを一個作る事から始める事にした。
粘土を魔法で固めて形を整え、仕上げに高温で焼いて作り出した。
出来たレンガは縦五十センチ、横一メートル、高さ十センチほどだ。
これを、予め地面に広げておいた粘土の上にスタンプを押すように十か所穴を開けた。
そして十か所穴が開いた粘土を魔法で固めて、レンガ作りの型が出来上がった。
「ロゼは、俺が掘り出した粘土をこの上にのせて平らに伸ばし、型を魔法で浮かせて外してくれ」
「承知しました」
一気に十枚の粘土の板が出来上がった後、俺がまとめて焼けば完成だ。
道の幅を馬車がすれ違えるほどにするのであれば、五、六メートルは必要だろう。
横六枚敷くと考えて、一キロ敷いて行くのにレンガが……一万二千枚必要となる。
アドルフの予定通りの街道を作るとなれば、相当な枚数のレンガが必要だと言う事だが、この方法ならそこまで苦ではないはずだ…。
型の枚数を増やすかは、ロゼと相談しながら決める事にしよう。
「エルレイ様、日も暮れてまいりましたので、今日はこれくらいに致しましょう」
「そうだな。つい夢中になってしまい時間を忘れてしまった…。
ロゼも疲れただろうから、今日はゆっくりと休む事にしよう」
「はい」
結局型を十面作り、一気に百枚作れるようにまでした。
型を作ったり、型多く平坦な地面を作ったりしたので、今日は七万枚ほど作って終わった。
明日からは、もっとペースを上げて作れるだろうし、レンガ造りは意外と早く終わるかも知れないな。
城に戻り、アドルフに完成したレンガの保管場所を聞くと、城の裏庭を指定された。
そこは以前騎士達の訓練場として使われていた場所で、今は使われていないと言う事だった。
そう言えば、ソートマス王国の城にも色々な施設があったからリアネ城にあっても不思議ではない。
一応窓から見える範囲はある程度把握していたが、この場所は窓から見えないんだよな。
また一つリアネ城の事が分かって嬉しくなると同時に、自分の城の事を今だに把握できていないのを情けなく思ってしまった…。
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