第百七話 開墾作業 その二
「エルレイ様、あの場所になるかと思われます!」
「分かった」
迷わないように道沿いの上空を飛び続けて一番近い場所にある開墾予定地へと辿り着いた。
飛んでいる間、終始機嫌のよかったロゼを降ろして手を繋ぎ、空間転移魔法を使ってリアネ城へと戻って来た。
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
俺を待ち構えていたのはカールハインツだけではなく、アドルフとカリナ率いるメイドが四名いた。
「アドルフ、もしかして着いて来るのか?」
「はい、私もエルレイ様の魔法を一度目にしておきたいと思いまして」
「分かった、着いて来る者は手を繋いでくれ」
そこにいた全員が手を繋いだのを確認し、開墾予定地へと空間転移した。
「これは驚きだな…」
カールハインツは景色が一瞬で変わったことに大層驚いていたが、説明するのは面倒だし時間は限られているからな。
俺は家を取り出し中に入って排水用の穴を掘り、屋根裏に水を溜めた。
その間にロゼがカリナ達に家の使い方を説明し終えたみたいだ。
「カリナ、俺とロゼは作業に向かうので、カールハインツに飲み物とかを用意してやってくれ」
「承知しました」
開墾作業だが、カールハインツには指示を出してもらうだけで、この場で見ているだけになるだろう。
かと言って、一日中外に立たせておくのは大変だろうし、俺も休憩に使いたいと思ったので家を用意した。
カールハインツとアドルフにも家の中に入って貰い、テーブルの席に座って打ち合わせを始めた。
「カールハインツ、この範囲を開墾するのだが、どの様にしていけばいいのか教えてくれ」
「領主殿、まずは草木や岩を取り除き、土地を出来る限り平坦にして貰いたい。
「分かった。草木は燃やした方が良いのか、それとも一カ所に集めておいた方が良いのか?」
「集めて貰えると助かる。後に肥料として使えるからの」
「そうしよう。アドルフ、家も俺が作った方が良いのだろうか?」
「いいえ、大工を大勢手配しておりますのでその必要はございません」
「そうか、では作業に取り掛かるが、魔法に巻き込む恐れがあるから近づかないようにしてくれ」
「承知しました」
家を作らずに済むのは助かったな…。
開墾自体は簡単に終わるだろうが、家を作るとなると時間が掛かってしまうし結構疲れるんだよな。
俺はロゼと外に出て来て、簡単な打ち合わせをする事にした。
「ロゼ、草原の方は任せても大丈夫か?」
「はい、お任せを!」
「俺は木が多い方の伐採を行い、土地を平坦にする作業に移る。
水路作成はロゼに任せるからな」
「はい、承知しました」
手前の草原はロゼに任せ、奥の方の雑木林の方に飛んで行って作業を開始する事にした。
先ずは木の伐採から始めて、根っこは後で掘り返す事にしよう。
一応人が居ないか確認し、それから風属性魔法を使用して木々を根元から切り倒して行く!
バキバキと激しい音を立てながら次々と倒れて行く木々を、収納魔法で回収して行った…。
切り倒すのは簡単だが、問題は残っている切り株と所々にある岩だな。
雑木林があった所は丘になっているから、掘り返しつつ切り株と岩の回収を行えばいいか?
その前に、収納の中に入っている木々をどこかに置かないといけないな。
カールハインツに木々を置く場所を聞き、そこに回収した木々を置いて行った。
切り株や岩を一個ずつ掘り返しては収納して行く…。
「時間が掛り過ぎるな…」
効率よくやる方法は無いかと考え、ルリアが以前俺の壁を破壊していた方法を思い出した。
あれなら丘を削りつつ、切り株と岩の回収も行えるな。
問題があるとしたら切り株が粉々になってしまうと言う事だが、どうせ使い道は無いだろうから強行する事にした。
俺は竜巻を発生させ、丘を削りやすくするために竜巻の中に鋭く尖らせた小さな石を無数に投入した。
ギャリギャリと工事現場よりも激しい音を立てつつ、竜巻が丘を少しづつ削り取って行く。
竜巻の威力が落ちないように常に魔力を注ぎ込んで行く必要があるが、一個ずつ掘り出すよりかは楽だな。
ルリアでは無いが、何かを破壊していくのも楽しいと思ってしまい、調子に乗ってどんどん丘を削り平坦な土地へと変えて行った…。
『エルレイ様、昼食の準備が整いましたので、作業を中止してお戻りください』
『分かった』
アドルフから念話で連絡があり、ふと上空を見上げれば太陽は真上に来ていた…。
「いつの間にか昼になっていたのだな…」
やっていることは大変地味な作業だが、魔法を使っての作業は結構楽しく時間を忘れて没頭してしまったみたいだな…。
ロゼも呼んで一緒に家に戻り、手を洗って用意された食事を頂く事にした。
「領主殿は大変変わっておるのですな」
「そうか?」
カールハインツは一緒に食事を摂りながらそんな事を尋ねて来た。
変わっていると言うのは、俺が使用人達と同じテーブルに座って食事をしている事だ。
「ソートマス王国ではこれが普通と言う訳ではあるまい?」
「そうだな、こんな事をしているのは僕くらいな物だろうし、僕も他の貴族の目がある場所ではこの様な事は出来ない。
でも、せっかく頑張って侯爵と言う地位を貰ったから、少しくらい僕の好きにさせて貰っても構わないだろう。
それに、こうして使用人達と一緒に食事をし同じ目線で会話をする事で、使用人達から
まぁ、まだ始めたばかりでその様な事にはなっていないが、続けて行く事でそうなってくれると確信している」
「ふむ、儂は農家の生まれで、運よく軍のトップにまで上り詰める事が出来たのだが、農民出の儂でさえ部下と気軽に食事を共にする機会は無かった…。
領主殿ともう少し早く出会えていたのであれば、儂も部下達と気楽に会話出来る間柄になっていたのかも知れぬな…」
カールハインツは眉間にしわを寄せて、少し後悔したような表情を見せていた。
「いいえ、カールハインツそれは違うと思います。
軍は上下関係をきっちりしておかないと、戦いになった時に命令を聞かない者が出て来るでしょう。
僕も軍人だったとしたらこの様な事は出来ないと思います」
「そうかも知れんな。だが断言しよう!
領主殿は軍人となったとしても同じ事をしたはずだとな!」
「私もそう思います。エルレイ様はお優しすぎますから」
「うっ…」
カールハインツの言葉にアドルフも同意し、ロゼを含めたメイド達も大きく頷いていた…。
確かに同じ事はやりそうな気もするので言い返せないな…。
「こほんっ、さて、食事も終わったし作業に戻る事にする…」
俺は逃げる様に席を立ち、作業へと戻って行った。
午後も切り開いた土地を平坦にしていく作業に集中する。
ロゼの方は草の刈り取り作業を終え、水路の作成に入っている。
「少し急いだ方が良いな…」
ロゼより俺の方の作業が大変とは言え、遅れている事に焦りを覚えた…。
単にロゼに負けたくないと思っただけだが、何となく二人で似たような作業をしていれば競争意識が芽生えて来るのは仕方が無い事だよな…。
俺は気合を入れなおし、竜巻に送る魔力を多めにして作業を早めて行った!
「エルレイ様、お手伝いいたします」
「う、うん、お願いします…」
結局、ロゼが水路を作り終える方が早く、俺の作業をロゼに手伝って貰う事になってしまった。
その甲斐あって、夕方には開墾予定地を切り開いて平坦にする作業を終える事が出来た…。
「領主殿の魔法は戦場において非常に恐怖を覚えたものだが、この様な便利な使い道があったのだな…」
「まぁ、僕としては日常で使うためと自身を守るために頑張って覚えた魔法なのだけれど、使い方によっては恐怖を与えてしまうのは間違いありません。
今後も、皆の助けになるためだけに魔法を使えて行けたらと思っています」
「領主殿の考えは立派で儂もそうなる事を願っておる。
しかし、周囲がそれを許さぬであろうな…」
「そう…ですね…」
ラノフェリア公爵は戦争をしないとは言っていたが、相手が攻めてくる場合もある。
俺には争いに巻き込まれない事を、願う事しか出来ないんだよな…。
皆を連れてリアネ城へと戻り、自室で一人女神クローリスに祈りを捧げた…。
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