第百五話 グール その二

「エル!その魔剣は戻って来るだけで、魔法を使ったりは出来ないのか?」

ヘルミーネがお菓子を食べながらまともな事を聞いて来た…。

グールのお陰で話が全く先に進まなかったが、その事を聞いておかなくてはならないんだよな。

グールの言葉は汚くてうざいが、魔剣としての能力は凄いのかも知れない!


「グール、お前の能力を分かりやすく説明してくれ」

「マスター了解したぜ。俺様の能力は形態変化、魔力吸収、魔力保存の三つだ!」

「それは凄いな!」

「なんだ、魔法は撃てないのか?」

「俺様は特別なんだよ!」

俺はグールの能力は素晴らしいと思ったのだが、ヘルミーネはお気に召さなかったらしく、興味が失せたのか再びお菓子を食べる事に集中してしまっていた。


「魔力吸収って事は、魔法を吸収出来るって事なの?」

「あたりめーだぜ!」

「それならなぜ私の魔法を吸収しなかったの?」

ルリアの疑問は当然だし、俺も同じ事を考えたからな。

「そりゃー赤いおちびちゃんの魔法が、吸収するまでの事は無かったつーことだ!」

「ば、馬鹿!」

「そう、それなら吸収しなくてはならない位の魔法を撃ち込んでやるわ!」

俺は止めたが、ルリアは再びグールを掴んで窓から放り投げ、更なる高火力の魔法を撃ち込んでいた…。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

グールは再び絶叫を上げて、また俺の前に戻って来た…。


「アドルフ、もう遅いかも知れないが兵士に異常は無いと伝えてくれないか?」

「はい、ですがすでに念話で連絡済みです」

「そうか、ありがとう」

アドルフは仕事が早い上に魔法が使えたのか…。

魔法が使えるのは、俺ともすぐに連絡を取れるので便利で良いな。


グールだが、またルリアの魔法を食らったという事は本当に魔力の吸収が出来るのか疑問が生じたな。

でも、形態変化は便利そうだし、魔力保存も使えそうなのでその二つがあれば構わないな。

これ以上グールに構ってはいられないし、黙っていて貰う事にしよう。

「グール、ナイフに変化してくれ!」

「マスター了解!」

俺が命令するとテーブルにあったグールは小さなナイフに変形してくれた。

「グール、これ以降は僕の許可なく話す事を禁ずる!」

「またかよ!仕方ねーな…了解してやるぜ…」

グールは渋々俺の命令を聞いてくれた。

グールと契約した覚えは無いが、グールにしてみれば俺がマスターで命令には背けないみたいだな。

俺はナイフに変化したグールを取り、懐にしまい込んだ。


「この魔剣グールの事は秘密にしておいてくれ」

「分かったわ!」

ルリアとリリーとアルティナ姉さんは他の誰かに話すような事は無いだろうが、ヘルミーネは話しそうだな…。

「ヘルミーネ、誰にも話さないでくれよ」

「むぅ、分かっておる!それよりエル!私に魔法を教えてくれ!」

「あーそうだな…」

ヘルミーネに無詠唱は教えたくは無いのだが、仲間はずれにもしたくは無い…。

その理由で行くと、ラウラにも魔法を教えた方が良い様な気もするが、生憎俺にはやる仕事があって時間が取れない。

ルリアとリリーにお願いするしか無いな。

「ルリア、リリー、僕はまだ忙しくて時間が取れないから、ヘルミーネの魔法を見てやってはくれないか?」

「仕方ないわね…」

「エルレイさん、任せてください!」

「頼むよ。ヘルミーネは二人の言う事をよく聞いて安全に訓練してくれ」

「仕事では仕方が無いな…。エル!時間が空いた時はちゃんと私にも教えてくれよ!」

「うん、約束するよ」

ヘルミーネには申し訳ないが、まだ書類の決裁作業が残っている。

俺としても魔法の訓練に時間を割きたいのは山々なのだが、侯爵としての務めを優先しないと三人の婚約者を養っていけなくなるからな…。

あっ、そう言えばアルティナ姉さんがどの様な扱いになるのか聞くのを忘れていたな…。

アルティナ姉さんはずっと俺の傍に居ると言っていたが、俺の婚約者になった訳では無いはずだよな?

夜にでも直接聞いて見るとするか…。


俺はアドルフと共に執務室へとやって来て、また書類の決裁作業を続ける事となった。

内容を読んでサインをする作業は意外と疲れるが、真面目にやらないとサインをするだけの状態にしてくれた皆に悪い。

何枚か処理していると気になる書類があったため、アドルフを呼んで聞いて見る事にした。

「アドルフ、このアリクレット侯爵私設軍の創設とは一体どう言う事だ?」

「はい、ソートマス王国軍は任務を終え、近い内に撤退して行く予定にございます。

ですので、ソートマス王国軍に代わりアリクレット侯爵領を守る私設軍となります」

「いや、まぁその事は理解できるのだが、私設軍二万人は幾らなんでも多過ぎだと思うし、ソートマス王国に対して反乱を起こすと思われても仕方のない数なのではないか?」

「エルレイ様の御指摘の通りですが、この私設軍はアリクレット侯爵領全土を守るために必要な最低人数でございます。

現在、アリクレット侯爵領を治めておられる貴族様達には私兵を持つ余裕は無く、その代わりをエルレイ様がなさらねばなりません。

私設軍と銘打ちましたが、実際は街の治安維持のための警備兵でございます。

仮にラウニスカ王国が攻め込んで来たとしても、私設軍が対処する事はございません」

「そうなのか?」

「はい、それとソートマス王国に対しても問題はございません。

エルレイ様お一人いればソートマス王国軍を滅ぼす事が可能である以上、私設軍の数は関係御座いませんので」

「…」

言われてみればそうかも知れないが、流石に一人で軍を滅ぼしたりは出来ないと思うぞ。

その事はどうでもいいとして、私設軍二万人雇用する事には納得し、サインをした。


「私設軍と関連した事なのですが、エルレイ様は農地の開墾作業を行えますでしょうか?」

「農地に関しての知識は無いが、開墾作業をする事は恐らく可能だ。

しかし、なぜそれが私設軍と関係して来るのだ?」

「はい、私設軍を構成する人達は旧アイロス王国軍の兵でして、私設軍に参加を希望されない方々の為に新たな農地を用意しなくてはなりません。

他の仕事を希望する方々もいらっしゃり、全員が農民になると言う訳では無いのですが、それなりに広い土地が必要となります」

「あーそうだったな…」

降伏したアイロス王国軍の兵士達が仕事を求めているのを完全に忘れていた…。

あの時はラノフェリア公爵が何とかしてくれると思っていたし、ここが俺の領地となる事は知らなかったからな。

でも約束した事だし、農地を用意しないと不味いという事か。

「分かった。開墾する場所の選定が終わり次第行う事にしよう」

「すでに選定し終えております。こちらがその場所になります」

アドルフはさっと俺の前に地図を差し出して来た…。

仕事が早い事は良い事だが、最初から俺に開墾作業をさせる気満々じゃ無いか…。

まぁ、戦争で壁や落とし穴を作った実績があるから、開墾作業も魔法で簡単に出来ると思ったのだろう。

「さっきも言った通り農地に関しての知識は全く無いので、現場で指示してくれる人が居れば助かるのだけど?」

「そちらの人選も既に済ませております」

「そ、そうか…それなら準備が出来次第開墾作業に取り掛かる事にする」

「よろしくお願い致します」

開墾した土地は俺の領地内だから、頑張れば頑張っただけ俺の収入につながるのでやりがいはあるな。

あっ、収入と言えば俺が自由に使う事が出来るお金はあるのだろうか?

今の内に聞いておくとしよう。


「アドルフ、僕が自由に使う事が出来るお金はあるだろうか?」

俺の質問に、今まで表情を崩す事が無かったアドルフの表情が僅かに歪んだ…。

「エルレイ様、大変申し上げにくい事なのですが、現在アリクレット侯爵領の予算に関しまして全く余裕が無い状態でございます」

そうだよな…宝物庫の中身を売ると言っていたから、大体の予想はしていた。

でも、俺の小遣いくらいはあってもいいのでは無いだろうか?

「少しで構わないのだが…」

「エルレイ様、一年程度は辛抱なさってくださいませ」

「うっ…」

一年か…農地を開墾した所で直ぐ収入があるはずも無いし、私設軍を二万も抱えれば出費も大きいのは分かる。

だがしかし、ロゼとリゼに贈り物をする程度のお金くらいは欲しいものだ!

「ですが、エルレイ様がどうしても必要な物だと言うのであれば、内容によってはご用意いたします」

「そうか!高価な物でなくていいのだが、戦争の際に共に苦労し、俺、ルリア、リリーを助けてくれたロゼとリゼに贈り物をしたいのだ」

「そう言う事でしたら商人を呼びつけますので、その時に贈り物を選んであげてください」

「いや、街に買いに行きたいからお金を少し貰えれば…」

「いいえ、エルレイ様が街に行くのは危険ですので許可出来ません!」

「そ、そうか…それなら服とアクセサリーを贈りたいのでお願いする」

「畏まりました」

街の様子も見に行きたかったのだが、アドルフは許可してくれなかった…。

でも、これでロゼとリゼに贈り物は出来そうなので安心だな!

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