第百四話 グール その一

「エルレイ、騒がしかったけど何かあったの?」

宝物庫の入り口に戻り皆と合流すると、ルリアが声を掛けて来た。

あれだけ騒げば気付かない方がおかしいよな…。

「まぁ心配する事のことでもないが、自室に戻ってから話すよ」

「分かったわ」

「ルリアも何か良い物が見つかったみたいだね」

「えぇ、これよ!」

ルリア、リリー、ヘルミーネ、アルティナ姉さんはそれぞれ気に入った物を持って来たみたいで、ルリアは自分が選んだものを見せてくれた。

「これは宝石?」

「そうよ!エクセア姉様に贈ろうと思ったのだけどどうかしら?」

「うん、良いと思うよ!」

ルリアの手の平には大き目の青い宝石が乗っていて、ランプの光を反射させて輝いていた。

俺に宝石の価値は分からないが、宝物庫の中にあったくらいだから高価なのだろう。

エクセアに贈る物として問題は無いと思う。


「エル!私のも見てくれ!」

ヘルミーネがラウラに持たせた置物らしきものを見せて来た。

「これは魔物?」

「良く分かったな!これは竜だ!英雄が倒す前は最強の存在だと言われていたのだ!格好いいだろう!」

「う、うん…」

ラウラが少し重そうに抱えているのは、五十センチほどの竜の置物に間違いは無かった。

今は存在しないと思われる竜の置物は珍しいかも知れないが、高価な物とは言い難いのではないだろうか?

まぁ、ヘルミーネが気に入ったのであれば構わないが、部屋に飾るつもりなのだろうか…。

あまりいい趣味だとは思わないが、寝室以外に置いて貰う事にしよう。


「エルレイ、お姉ちゃんが選んだのはこれよ!」

アルティナ姉さんは俺に見せる為に、重そうな花瓶を抱えて持って来てくれた。

「アルティナ姉さん、床に置いて」

俺はアルティナ姉さんを手伝って、花瓶を床に置いてあげた。

「エルレイありがとう。ちょっと重かったのよね。でもいい花瓶でしょう!」

「うん、とても綺麗だと思う」

「エルレイの為に、この花瓶に毎日綺麗な花を飾ってあげるからね!」

「それは楽しみです」

アルティナ姉さんは、自室にも花を飾るくらい好きだったからな。

その花を育てていたのはメイドのリドだったが、男爵とは言え貴族令嬢には変わり無いので花壇でも触る事はさせて貰えなかったみたいだからな。


「エルレイさん、私はこれを選びました」

ヘルミーネの置物を見た後は、リリーが遠慮がちに選んだ木箱を持ってきてくれた。

木箱のふたを開けて見ると、中にはティーカップがセットで入っていた。

「可愛いティーカップだね」

「はい、ピンクの花柄がとても気に入りました。これで紅茶を飲むとより美味しく感じられると思います!」

「うん、それは楽しみだ!」

テーカップの内にも花が描かれていて、紅茶と入れた時と飲み終えた時で花の色が変わるのだろうな。

今からそのティーカップで紅茶を飲むのが楽しみになってくるので、リリーらしい良い物を選んだと思う。


「アドルフ、中の物の処分を頼む。それから、この剣に関して話したい事があるから自室まで来てくれないか?」

「畏まりました」

アドルフは部下にこの場を任せて、俺の部屋まで付いて来てくれた。


自室に戻り、皆がテーブルの席に座った所で魔剣グールについて説明する事にした。

「僕が宝物庫で手に入れたのはこの剣なのだが、どうやら魔剣だったみたいだ」

「魔剣?確かリースレイア王国で作られていたはずよね?」

ルリアは魔剣についての知識があるみたいだが、リリーとヘルミーネは首をかしげている。

「ルリアは魔剣について詳しく知っているのだろうか?」

「いいえ、それ以上の事は知らないわ。アドルフが詳しく知っているのではないのかしら?」

「アドルフ、知っている事があれば教えてくれないか?」


「承知しました。現在ある魔剣には二種類ございます。

一つ目はルリア様が仰いました通り、リースレイア王国で極少数作られております。

その魔剣には各属性魔法を付与されており、魔剣の魔力が続く限り魔法が撃てる仕組みとなっております。

二つ目は英雄クロームウェルが存在した時代に作られたもので、各属性魔法が付与されているのは同じなのでございますが、強力な魔法が撃てるようになっております」

「なるほど、アドルフに質問なのだが、魔剣と会話が出来たりするものなのだろうか?」

「いいえ、その様な魔剣があるとは聞いたことがございません」

「そうか…」

先程この魔剣グールとは会話が出来たし、他の魔剣とは違う物なのかも知れない。

分からないから本人に聞いた方が早いのだろう。

俺はグールが暴走しない様に柄と鞘を両手でしっかり握って、俺の目の高さまで上げた。


「グール、僕が許可するから話せ!」

「やっとしゃべれるぜ!俺様の名はグール!よろしくな!」

「なっ!?」

魔剣グールから声が聞こえて来た事に皆が驚いていた。

突然剣が話せば誰だって驚くだろう。

「エルレイが話しているのではないのよね?」

「僕はこんな下品な声をしていないよ…」

ルリアは俺が腹話術でもしていると思ったのだろうか?

いや、普通剣が話すとは思わないからそう思うのが当然か…。

「マスター、俺様下品じゃねーぜ!それから赤いおちびちゃん、現実から目を背けるのは良くねーと思うぜ!」

「赤いおちびちゃんとは、私のことなのかしら!?」

「おう、赤い髪はおちびちゃんしかいねーだろ!」

あっ…ルリアがグールに赤いおちびちゃんと言われて激怒している…。

まぁ、公爵令嬢に失礼な物言いをした上に侮辱すれば怒って当然のことだろう。

どうにか静めない事には、この部屋が大惨事に見舞われる事になってしまう!

「ル、ルリア…」

「エルレイ!その剣を私に寄こしなさい!!」

「は、はい…」

俺はルリアの気迫に押し負けてしまい、グールをルリアに手渡してしまった…。

グールがどんな運命をたどるのかはルリア次第だが、グールを手渡さなければ俺が殴られる事になっていただろうから仕方がない…。

「リゼ、窓を開けて頂戴!」

「承知しました!」

リゼが素早く近くの窓を開けると、ルリアは窓際にグールを持ったまま移動した。

「ちょ、ちょっと落ち着いて話し合おうぜ!」

グールが必死にルリアを説得しようと試みるが既に遅い…。

ルリアは振りかぶってグールを思いっきり窓の外に投げ捨てた!

「燃え尽きなさい!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ルリアが投げ捨てたグールに火球を当てて燃やし尽くしてしまった…。

魔剣は勿体なかったが、ルリアを怒らせたのだから仕方がない…。

「ふんっ!」

ルリアは手を叩きながら満足そうな表情で戻って来た…。

貴重な魔剣だったとはいえ、ルリアの機嫌を損ねてしまったのが運の尽きだな…。


「いやー、酷い目に遭ったぜ!」

俺の目の前のテーブルの上に、ゴトリと音をしながら真っ黒になった剣が転がり落ちて来た…。

「エルレイ!まさか魔法で守ったりしたんじゃないでしょうね!」

「い、いや、違うぞ!僕は何もしていない!」

ルリアが戻って来た剣を見て俺を睨みつけて来た!

全くの誤解だし、グールが俺から離れられないと言っていた意味を今理解したが、上手く説明できる自信はない…。

「それならなぜこの剣がここにあるのよ!」

「それは…」

どうにかうまく説明しない事には、俺がルリアから殴られる事になるのは目に見えている。

グールが勝手に戻って来たと言っても信じては貰えないだろうし、グールに説明して貰うしかない!


「グール、どうして戻って来れたのかルリアに説明してくれ!」

「チッ!めんどくせーが、マスターの頼みならば聞くしかねーな。

俺様はマスターと契約したつー事で、マスターが死ぬまで離れられねーんだ!

そして俺様をいくら傷つけようと、マスターが生きている限り不死身だ!

残念だったな赤いおちびちゃん!」

グールはそう説明すると、真っ黒になっていたのが一瞬でも元の剣の姿に戻ってしまった。

それは良いのだが、またルリアを挑発するような事を言ったのは不味かったな…。

「理解したわ!つまり何度でも燃やしてあげる事が出来るって事よね!」

「あっ、ちょ、ちょっと待て!元に戻れるが痛みは感じるんだぞ!」

「それはいい事を聞いたわ!その痛みをじっくりと味わいなさい!」

ルリアはニヤリと笑い、グールを力一杯窓から投げ捨てて魔法で燃やし尽くしていた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

しかし、グールは再び真っ黒な状態で俺の前に戻って来た…。

自業自得だろうが流石に可哀想だし、何度も俺の城と言えども魔法を窓から放つのは良くないので、仕方なくグールを助けてやる事にした。


「ルリア、もうそのくらいで許してやってくれないか?」

「仕方ないわね!エルレイ、今後失礼な事を言わないように徹底的に教え込むのよ!」

「はい、分かりました!グール、余計な事を話すんじゃないぞ!」

「わーったよ!」

今後はグールがルリアを赤いおちびちゃんと言うたびに俺が殴られる危険性が出て来たが、一応言う事は聞くみたいなので何とかなるだろう…。

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