第百三話 宝物庫 その二
「アルティナ姉さん、ヘルミーネと一緒に見て回って貰えませんか?」
「エルレイと一緒に見て回りたかったけれど、お姉ちゃんに任せておきなさい!」
「お願いします」
ヘルミーネにはメイドのラウラが着いてはいるが、ヘルミーネの悪さを止めることは難しいだろうと思い、アルティナ姉さんにヘルミーネと一緒に居て貰う事にした。
ルリアとリリーにはリゼが着いてくれているし、俺にはロゼが着いていてくれている。
危険な物は無いとは思うが、用心しておいて損は無いからな。
「ガラクタばかりでは無いか!」
ヘルミーネが中に入るなり文句を言っていた…。
王女のヘルミーネが見ればガラクタにしか見えないのかも知れないが、それとなく良い物も置いてある。
この花瓶なんかは、綺麗な絵柄が書かれていて高そうなのは分かる。
しかし、どれも埃をかぶっていて、一見するとヘルミーネが言った様にガラクタにしか見えない。
「エルレイ、気に入った物があれば貰ってもいいわよね?」
「良いと思うけれど…アドルフ、構わないか?」
「はい、ここにある物は全てエルレイ様の物です。ご自由になされて構いません。
ですが、出来れば売り払って財政の足しにしたいと思っております」
「分かった。皆気に入った物があれば一品だけ許可する。ただし、物に触れる前に安全かどうか確認して貰ってくれ」
俺が許可を出すと、ルリア達は喜んで良い物が無いか探しに行った。
どうせなら俺も何か貰おうと思い、ロゼと一緒に棚に飾られている物を見て回る事にした…。
「使えそうな物は無さそうだな…」
豪華な装飾品等は色々置かれているが、俺が欲しいと思えるものは何一つなかった。
魔法書があれば一番良かったのだが、それらしい本は置かれてはいない。
それか、アイアニル砦の説明書があるかとも期待したのだがな…。
一番奥までやって来て、戻ろうかと思っていた所でふと目に留まる物があった。
それは奥の壁際の床に捨てられるようにして置かれていた。
他の物は埃はかぶっているものの棚に綺麗に陳列されていたのだが、それだけが床に置かれている事に違和感を覚えた。
「ロゼ、あれは危険では無いよな?」
「折れた剣ですか?特に危険な感じは致しませんが、念のために私が拾ってみましょうか?」
「いやいいよ。かなり良い剣だったのかもしれないが、折れて価値が無くなったので置かれているだけだろう」
「はい、私もそう思います」
途中から折れた剣は鞘の中にも納められず、折れた剣先も一緒に放置されていた。
俺の剣も折れ曲がったままで収納魔法内に同じように放置されている…。
だからだろうか…。
せめて棚に戻してあげようと思い、折れた剣を拾い上げた。
「っ!?」
「エルレイ様、大丈夫ですか!」
折れた剣を拾い上げたとたん大量の魔力を剣に吸い取られてしまい、俺は驚いて剣を手放して床に落としてしまった。
ロゼが俺の手が剣で傷ついていないかと、俺の手を取って心配そうに確認してくれている。
「ロゼ大丈夫だ。ちょっと魔力を吸い取られて驚いただけだ…」
「魔力を吸い取られたのですか?」
「あぁ、魔道具だったのかもしれないな。ロゼも触れないようにしてくれ」
「承知しました」
皆に注意したにもかかわらず、俺が魔道具に触れてしまうとは何とも間抜け話だ…。
しかし、魔道具を見つけられたのは運が良かったのかもしれない。
今は
「あれ?」
「どうかなさいましたか?」
「いや…あの剣は折れていたよな?」
「えっ!?」
ロゼも俺が落とした剣を見て驚いている。
何故なら、折れていたはずの剣が元通りに戻っていたからだ。
俺から魔力を吸い取った事で元の状態に戻ったのか?
非常に気になるが、また拾い上げるのは不味い気がする。
アドルフに言って厳重に保管して貰った方が良いのかもしれないな…。
「ロゼ、アドルフを呼んで来てくれ。俺は誰も触れない様に見張っておく」
「承知しました」
ロゼがアドルフを呼びに行こうとした所で、剣が浮かび上がって来た。
「エルレイ様お下がりください!」
ロゼが慌てて俺の前に出て、浮かび上がった剣から俺を守ろうとしてくれた。
浮かび上がった剣は同じく浮かび上がった鞘に収まると、柄を俺の方に向けて来た。
何となく害は無いんじゃないかと思えて来て、ゆっくりと剣に手を伸ばした。
「エルレイ様、お止めになった方がよろしいかと思います…」
「ロゼ、大丈夫だ!」
ロゼが止めて来るが、俺は構わず浮かんでいる剣の柄を握った!
また魔力を吸われるかと思ったがそんな事は無く、俺の手に良く馴染んで来る様な感じがした…。
剣は普通のロングソードで俺には少し長くて重いと思ったのだが、剣は非常に軽かった。
「ロゼ、特に問題は無さそうだし、棚に戻そうと思う」
「安心致しました…」
最初に魔力を吸い取られたのは、単にこの魔導具に魔力が無かったせいなのだろう。
魔力を補えば元通りになる自己修復機能付きの剣と言う事で、俺にとって便利そうな機能を持った剣だと思うが、よく調べてから使った方が良いな。
「一度アドルフに預けて調べて貰う事にしよう」
「はい、それがよろしいかと思います」
俺は剣を棚に置いて、入り口に待機しているアドルフの所に行こうとした。
「待て!俺様を置いて行くな!」
「ん?」
背後から声が聞こえて振り返ったがそこには誰も居なかった。
と言うより聞き覚えの無い声だったので、俺とロゼは最大限の警戒を取る事となった!
「剣だ剣!俺様無害だから敵意を向けるんじぇねー!」
声は剣から発せられているという事が分かったが、剣が話すものなのか?
ちょっと不気味な感じがするが、話が出来るのであれば交渉の余地はあるかな?
「エルレイ様、やはりあの剣は危険です!即刻破壊いたしましょう!」
「ロゼ待ってくれ、一応あの剣と話をしてみようと思う」
「おっ、話が分かるねー!俺様全くこれっぽっちも危険な存在じゃねーから、なっ!」
剣は俺達を安心させようとしているのだろうが、その話し方だと逆に警戒してしまう。
ロゼは俺の身を守ろうと前に出てくれているし、剣が少しでも動けば攻撃を仕掛けるのは間違いなさそうだ。
「剣、先程僕から魔力を抜き取ったのは意図した物か?」
「あーそりゃー俺様魔力が枯渇してたから仕方なくつーか、まーお陰で元通りになれたし話せるよーにもなったから許せ!」
剣は全く悪びれるそぶりも見せずにそう言いやがった!
ちょっと…いや、かなりイラっと来たが、壊すのはいつでもできるから落ち着いて話を聞き出そうと、俺は大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
「それで、お前は一体何なのだ?」
「いい質問だぜ!良く聞け!俺様の名はグール!全てを食らい尽くす最強の魔剣だ!」
魔剣か…何となく想像は出来るが、この世界で魔剣と言う物がどんな存在なのかは知らない。
魔導具とはまた違っているのだろうが、今はその事を考えている暇は無いな。
「お前がグールと言う名で魔剣だと言う事は分かった。取り合えず安全が確認するまで厳重に保管する!
勝手に動いたりするなよ!
ロゼ、行こう」
「はい!」
危険な物だと言うのは理解できたし、ルリアやヘルミーネが触る前に箱にでも詰めて厳重に保管しようと思った。
「待て!マスター待ってくれ!動かねーってのは無理だ!」
「何故だ?」
「俺様、マスターと契約しちまったから、マスターから離れられねーんだ!」
「ん?マスターってのはまさか僕の事か?」
「そのとーり!俺様マスターが死ぬまで離れねーからよろしく頼むぜ!」
グールはそう言うと、再び浮き上がって俺の所まで飛んで来た…。
「エルレイ様、許可頂ければ直ぐに破壊いたします!」
ロゼは本気でグールを破壊するつもりのようだが、恐らく破壊は不可能なのでは無いかと思う。
また俺から魔力を奪い取って元に戻ると思うんだよな…。
魔力を奪い取られたくは無いので、ロゼを止める事にした。
「あーうん、破壊するのは何時でも出来る事だし、しばらく様子を見る事にするよ」
「承知しました」
仕方なく俺はグールを手に持つことにした。
「グール、今後僕が許可しない限り話す事を禁止する!」
「ちょっ!俺様に死ねと!」
「いや、話すなと言っているだけだ!僕をマスターだと言うのであれば命令には従ってくれ!」
「チッ!しゃーねーな、黙っててやるよ!」
グールは俺の言う事を聞いて静かになってくれた…。
話す魔剣がどの様な物なのかは今のところ不明だが、アドルフに調べて貰うしかなさそうだな…。
「ロゼ、ひとまずは安心して良さそうだ」
「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「危害を加えるつもりは無さそうだし、何となくグールと魔力の繋がりを感じるから契約したと言うのも嘘ではなさそうだ。
後で皆にも話すし、魔剣についても色々調べて見なくてはならない。
その後で危険だと判断したらすぐにでも処分する事にするよ」
「承知しました」
不安がるロゼと共に、皆と合流するため宝物庫から出て行く事にした…。
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