第百二話 宝物庫 その一

父達を空間転移魔法でリアネ城の前に連れて来た後は、ヴァイス兄さん一家を連れて来て、更にラノフェリア公爵家に向かって、多くの男爵とその家族をリアネ城へと連れて来た。

父とヴァルト兄さんの領地までは一日あれば着く所にあるのでリアネ城の見学をして貰っているが、男爵とその家族達は混乱を避けるために、すぐに出立して貰った。

最初は俺が直接領地のある場所まで連れて行こうかと思っていたのだが、ラノフェリア公爵が地理を把握させるためにもリアネ城から移動させた方が良いと言われたので、ここに纏めて連れて来たという事だ。

一番遠い場所に配置された男爵は数日間の旅を強いられる事になるが、我慢して貰うしか無いな。

荷物は事前に送り届けていて、今回は人を連れて来るだけだったから一時間もしないうちに終わる事が出来た。


俺がリアネ城へ入って行くと、見学を終えた父達が戻って来ていた。

俺もまだリアネ城を見学し終えて無いんだよな…。

今の所、自室、風呂、食堂、執務室くらいしか行ってなく、自分の城くらいゆっくりと見学したいと思った…。


「エルレイ、見事な城であるな!」

「はい、僕には勿体ない気がしています…」

父は褒めてくれたが、いまだに俺がこの城に住んでもいいのかと思う事がある。

ルリア達の事を考えるなら城に住むのが最良なのだが、俺としてはもっと小さな屋敷の方が便利で住みやすいと思ってしまう。

ヘルミーネでは無いが、階段の上り下りを飛んで移動したいと思うほどだ…。

そう思っていても実際にはやらないけどな。

「エルレイは侯爵になったのだから、自信を持って堂々としていなくては駄目だぞ!」

「はい、努力します!」

ここが俺の城だ!と自慢する程度にならないといけないのだろうが、それは貴族としての実績をあげてからだろうな…。

父に恥をかかせない為にも、これからは貴族として領地経営に頑張って行かなくてはならない!

とは言え、俺が領地経営の勉強をし終えるまでは、アドルフに任せっきりになるのだけどな。


「エルレイ、落ち着いたら遊びに来てもいいか?」

「はい、いつ来て貰っても構いません」

「悪いな…」

ヴァルト兄さんは俺の頭を撫でながら小声で聞いて来た。

恐らく、ヴァルト兄さんの後ろでにこやかに手を振っているイアンナ姉さんにお願いされたのだろう。

家族が来るのは大歓迎だし、部屋はいっぱい余っているので問題は無いはずだ。

アドルフじゃなくて、この場合はカリナに頼んでおいた方が良さそうかな?

忘れないうちに頼んでおこうと思う。


父達を送るために、再び玄関へとやって来た。

「エルレイ、しっかりと頑張るのだぞ!それから、アルティナの事は頼むからな!」

「はい、父上!」

「エルレイ、アルティナも他の皆と同じように大切にしなさい」

「はい、母上!」

父と母からはアルティナ姉さんの事を頼まれたが、言われずともアルティナ姉さんの婚約が決まるまでは大切にするつもりだ。

ルリアと喧嘩をしないかだけが心配だが、俺がしっかりしていれば大丈夫だろう。


「エルレイ、お互い頑張ろうな!」

「エルレイ君、元気でね!」

「ヴァルト兄さん、イアンナ姉さんもお元気で!」

ヴァルト兄さんとイアンナ姉さんは、俺の頭を力強く撫でてから馬車に乗り込んで行った。

これから大変だとは思うが、父とヴァルト兄さんなら俺よりかは遥かに上手くやるだろうから心配はしていない。

さて、俺は戻って昨日の書類確認を消化してしまう事にするか…。


昼食時に、アルティナ姉さんの事を皆に紹介する事になった。

アルティナ姉さんも俺に着いて執務室に来ていたので、俺がアルティナ姉さんと食堂に入って来た事に気が付いたルリアが驚いていたが、特に文句を言われる事が無かったのは幸いだった。

ルリアも基本的にはアルティナ姉さんとの仲は悪くは無いのだろう。

ルリアが俺に暴力を振るえばアルティナ姉さんが怒り、俺がアルティナ姉さんと抱き付いていればルリアが怒る。

結局は俺が悪いという事だからな…。

「アルティナ姉さんは暫くの間この城に滞在する事になりますので、よろしくお願いします」

「エルレイ暫くでは無いわよ。私はずっとエルレイの傍に居る事になったのですからね!

皆さん、よろしくお願いしますね」

「えっ!?」

アルティナ姉さんは驚く俺を置いてルリア達の所に行き、一人ずつ挨拶をしていた。

「はぁ、エルレイの事だからアルティナにずっとここに住んでいいとか言ったのでしょう?」

「いや、言って無いと思うけど…」

ずっと住んでいいとは言って無いが、ここで生活していいとは言ったと思う。

「アルティナ、これからは姉では無くなるのだから、エルレイを独占しないように!」

「そうね。ルリア、皆でエルレイを可愛がれば良いって事よね?」

「違うわよ!」

ルリアとアルティナ姉さんが言い争いを始め、ヘルミーネがお腹が空いたと叫ぶ…。

アルティナ姉さんの扱いは後にするとして、困惑した表情で同席している使用人達の迷惑にもなるから、昼食を食べ始める事にした…。


ルリアとアルティナ姉さんを何とか静めて昼食を頂き、食後の紅茶を飲んでいる所でアドルフが声を掛けて来た。

「エルレイ様、午後から奥様方をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「ん?何をするのか知らないが、本人たちが良いなら僕は構わないよ」

「実はこの城内に一か所だけ開かない扉が御座いまして、そこを奥方様の魔法で開けて頂こうと思っております」

ルリアならば、どんな扉も開けてしまうとは思うが、壊してしまわないかが心配だな…。

「僕が行ってもいいのかな?」

「はい、エルレイ様に来て頂けれるのであればそれが一番でございます」

「分かった」

城内を見て回る事が出来るし、なにより気分転換になるのがいい!

「私も行くぞ!」

「面白そうね!」

俺一人行けばいいと思ったが、ヘルミーネとルリアが興味を示して来た…。

そうなれば当然リリーとアルティナ姉さんも着いて来る事になり、全員でアドルフに着いて行く事となった。


開かない扉は城の地下の一番奥にあった。

「重厚な扉ね!」

「むっ、これは宝物庫ではないのか?ミエリヴァラ・アノス城でも似たようなのを見た事あるぞ!」

「はい、恐らく宝物庫だと思われます」

ヘルミーネが宝物庫だと言った扉は、縦横三メートルほどある両開きの扉で、中央に鍵穴らしきものもあった。

「エルレイ、私がやってもいいわよね?」

「うん、ただし、部屋の中に何があるか分からないから爆発させては駄目だからな!」

「分かっているわ!」

ルリア鍵穴に右手を翳して、慎重に魔法で熱し始めた…。


「エルレイ、冷やして頂戴!」

ルリアは額の汗を拭いながら、ドロドロに溶けた鍵穴を冷やすように言って来た。

あきらかに溶かし過ぎで、二度と扉の鍵を修復する事は不可能だと思うが、宝物庫なんて使う事は無いだろうから構わないか…。

俺はルリアが溶かした扉を冷やし、扉を開けようとした所でロゼに止められてしまった。

「お待ちください!危険な品物があるといけませんので、私が中に入って安全を確認して来ます!」

「分かった。しかし、ロゼだけ行かせる訳にはいかない。僕も着いて行くからな!」

「…承知しました」

ロゼと俺の二人だけで扉を開けて、部屋の中に入って行った…。

部屋の中にはいくつも棚があり、そこに様々な物が置いてあるのが確認出来た。

「ロゼ、危険は無い様だな」

「はい、ですが、危険な魔導具がある可能性もありますので、置かれている物には触らない方がよろしいかと思います」

「分かった。皆にもそう言い聞かせよう」

魔導具は今は作られていないが、英雄がいた頃には多く作られていた物だと教えられていた。

でもその頃に作られていて、今でも残っている魔導具があるのは間違いない。

恐らく、アイアニル砦のゴーレムも魔道具だったのだろうし、旧アイロス城の宝物庫に他の魔道具が置いてある可能性は高いと思われる。

俺とロゼは一度部屋から出て、ルリア達にも触れないように注意をしてから、皆で中に入って行く事となった。

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