第百話 エルレイ侯爵の初仕事
「エルレイ様、この城と街の名前を決めて頂けませんでしょうか?」
俺が優雅に紅茶を楽しんでいると、アドルフが声を掛けて来た。
確かに旧アイロス城や旧アイロス王国とかはもう言えないので、名前が必要なのは理解できた。
「名前か…ルリアはいい名前を思いつかないか?」
しかし、突然名前を付けろと言われてもすぐには思い浮かばず、隣に居るルリアに聞いて見た。
「そうね…リリーは何か思い浮かばない?」
ルリアも俺と同じでリリーに聞いている。
「そうですね…アルティナ城なんてどうでしょう?」
「それはい…」
「駄目よ!その名前にしたらアルティナがこの城に居つく事になるわ!」
「そう…ですね…」
リリーが俺の顔を見ながらアルティナ姉さんの名前を城の名前として言ってくれたが、ルリアが即却下してしまった…。
俺を可愛がってくれたアルティナ姉さんの名前を付けるのはとても喜ばしいし、アルティナ姉さんも気に入ってくれると思ったのだがな。
でも、ルリアの言う通り私のお城なのねと言って住みつく可能性は否定できない。
俺としては、アルティナ姉さんが結婚するまで住んで貰っても一向に構わないのだが、ルリアと喧嘩になっても困るしな。
「ではヘルミーネ城にするぞ!」
「却下で…」
「何故だ!」
ヘルミーネが口に含んだお菓子を俺に飛ばしながら文句を言って来ている。
ヘルミーネ城にしたら、俺の品位が疑われると言うものだ…。
「それなら、三人から一文字取ってリアネ城よ!」
「ルリア、それが良いと思います!」
「私が最後なのが気に食わないぞ!」
「僕もリアネ城で良いと思う」
ルリアの提案にヘルミーネは文句を言っていたが、俺とリリーが賛成した事でリアネ城で決定した。
「それではリアネ城、リアネの街でよろしいでしょうか?」
「うん、それで頼む」
「畏まりました」
これって一応侯爵になってからの最初の仕事になるのかな?
名前を提案してくれたのはルリアだが決めたのは俺だし、俺の仕事って事でいいよな!
今まで戦争だの運搬作業だのとこき使われてきたが、貴族の仕事としては相応しいものでは無かった!
これからは部下が実働作業をし、俺はそれを決めるだけで良いはずなのだ。
父もその様にしていた事だしな。
「アドルフ、他に僕がやる事はあるのかな?」
自室で気を許していたのもあるし、名前を付ける初仕事を終えて気分が良かった事もある。
だから、つい言ってしまった…。
「勿論ございます。エルレイ様、執務室までお越し願えませんでしょうか?」
「う、うん、分かった…」
俺は一人アドルフに連れられて部屋を出て行く事となった…。
アドルフの言う執務室へと連れて来られた俺は、執務室の一番奥の窓際に設置されていた大きな机の席に座らせられた。
俺の身長に合わせられた椅子はとても座りやすく、机も細やかな細工が施された高級品だと言うのは分かる。
この席に座ると、他の使用人達が忙しそうに書類仕事をしている光景が視界に入って来るはずなのだが、積み上げられた書類がその光景を遮っている…。
「アドルフ、この書類の山は?」
「はい、エルレイ様の決裁待ちの書類でございます」
俺が尋ねると、アドルフは済ました表情でそう言って来た…。
まぁ、侯爵の俺が決裁しないといけないのは分かるのだが、俺の見た目だけは十歳の少年なのだし、ラノフェリア公爵も使用人に任せておけばいいと言っていたはずなのだがな…。
とにかく、俺が判断できるものなのか見て見るしか無いか…。
書類の山から一枚だけ取り眺めて見た。
使用人採用の決裁書だったので、アドルフに聞きながらサインをした。
アドルフが厳選して採用したのだろうから俺が口を挟む必要は無い。
「今日一日で全部確認するのは無理だと思うから、緊急性が高い書類を選んで貰えないか?」
「畏まりました」
アドルフの仕事もあるだろうが、俺一人でこの書類の決裁をするのは無理に決まっている。
なので、アドルフに手伝って貰いながら一枚づつサインをし続けて行った…。
「エルレイ様、お疲れさまでした」
「うん…アドルフも手伝ってくれてありがとう」
結局、メイドが夕食だと告げに来てくれるまで書類に目を通してサインをする事となった。
まぁ、父もジアールとこんな仕事をしていたし分かってはいるのだが、引っ越しして来たその日丸一日中させられるとは思ってもいなかった…。
使用人に任せておけばよかったのでは無かったのかと文句を言いたくなったが、俺がサインをするだけで良いように仕事をしてくれていた使用人達には申し訳なく思う。
一ヶ月の間に荒れ果てていた城内を綺麗にしてくれた上に、領内の管理もやっていてくれたのだからな。
しかし…今日消化できたのは三分の一程度で、俺がサインをしている間にも書類が積み上げられて行っていたんだよな…。
もしかして、毎日書類の決裁作業をしないといけないのか?
ちょっと嫌になったが、戦争よりかはましだと思い頑張ろうと思った。
食堂に入るとルリア達は既に席に着いていた。
「エル!遅いぞ!」
「すまない…」
ヘルミーネはお菓子を沢山食べていたのに、早く夕食を食べたくて仕方が無いみたいだ…。
俺は指定された席へと座ろうとした所で、ロゼとリゼが居ない事に気が付いた。
俺の家でもラノフェリア公爵家でもそうだったが、使用人と貴族が一緒の席に座って食事をする事は決してない。
しかし、ここは俺の家で自由にしていいはずだ。
でも、ルリア達の了承は得ないと不味いよな。
ルリアとリリーは多分了承してくれるだろうが、問題は王女のヘルミーネだな。
とにかく話して見ない事には分からないか…。
「ルリア、ロゼとリゼも一緒に食事を摂らせたいのだが構わないだろうか?」
「構わないわよ!ただし、お客が居ない時に限ってね!」
「うん、それは分かっている。リリーも構わないだろうか?」
「はい、とても良い事だと思います」
ルリアとリリーは気持ちよく了承してくれた。
問題のヘルミーネだが、俺が席に座らずにいる事に苛立っているみたいだな…。
「ヘルミーネも、ラウラと一緒の席に座って食事をするのは嫌か?」
「むっ、別に嫌では無いぞ!それよりお腹が減っているのだ、早く座れ!」
「うん、ありがとう」
俺は席に座り、ヘルミーネに先に食事を持ってくるように頼んだ。
「アドルフ、この食堂には多く席があるし、空いている席に使用人を座らせて僕達と一緒に食事を摂るようにしてくれ」
「そ、それは…」
アドルフは俺とルリア達のやり取りを聞いていたため、即座に拒否はして来なかった。
「今日は無理だろうから、明日の朝食からでも構わない。とは言え、全員一度に座る事は無理だろうから、日替わりで全員が同席できるようにしてくれると助かる」
「承知しました…」
アドルフは渋々承知し、今日の夕食の席にはロゼ、リゼ、ラウラだけ同席し一緒に食事を摂る事となった。
ロゼとリゼは、ルリアの部屋とか戦場の家とかで慣れていたので普通に食事をしていたが、ラウラにとっては初めての事で戸惑っていた。
でも、これから毎日続けて行く事だからいずれ慣れてくれるだろうと思う。
夕食は料理人が頑張ってくれたのだろう、初日と言う事もありとても豪華な料理が並べられてとても美味しかった。
夕食を終えて風呂に入る事になったのだが、お城の風呂と言う事でとても広くて豪華だった。
その風呂に俺とロゼだけと言うのは何とも寂しい事だと思えたが、男と入る趣味は無いし、ルリア達と入るのはまだ先の事になるのだろう。
しかし、書類作業で疲れた体を癒すにはとてもいい…。
ゆっくりと入っていたかったが、ルリア達を待たせるのは悪いと思い早々に上がる事にした。
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