第九十九話 お城に引っ越し

「ヘルミーネ、元気そうね…」

「うむ、ルリアも元気そうで何よりだ!」

ルリアとリリーが部屋に入って来て、ルリアは俺とヘルミーネが仲良くお菓子を食べているのを見て呆れた表情を見せていた。

お菓子は嫌いでは無いが、ルリア達の前では今日の様に大量にお菓子を食べている姿を見せた事は無かったからな…。

ヘルミーネはルリアの表情を気にしないのか元気よくルリアに挨拶をし、再びお菓子を食べ始めた。

「はぁ、エルレイ!お菓子を食べていないで行くわよ!」

「はい!」

甘いお菓子で俺の疲れた心もかなり癒された。

「ヘルミーネ、移動しますので立ってください」

「うむ…あと一個だけ…」

名残惜しそうにお菓子を頬ばるヘルミーネを立たせ、ルリアとリリーの前に連れて行った。


「ヘルミーネさん初めまして。私はリリー・ヴァン・ラノフェリアです。

私もヘルミーネさんと同じくエルレイさんの婚約者ですので、よろしくお願いします」

「うむ、私はヘルミーネ・フェリクス・ド・ソートマスだ。よろしく頼む!」

リリーとヘルミーネの挨拶も問題無く終わった。

三人が仲良くしてくれるか心配していたが、今の所は大丈夫みたいだな。


「ラノフェリア公爵様、一ヶ月間お世話になりました」

「うむ、落ち着いたら遊びに行かせて貰う」

「はい、来て頂ける事を楽しみに待っております」

一か月間、俺も食事と寝る時だけはこの屋敷でお世話になったからな。

ルリアとリリーはゆっくりと過ごす事が出来たみたいだし、良い休息になってよかったと思う。

俺達が転移する部屋へと移動すると、ラノフェリア家全員がルリアとリリーの見送りに来ていてくれた。

リリーが養女になる事を認めていなかったルノフェノとマルティナの姿があったのは意外だったが、この一ヶ月の間で和解出来たのだろうと思う。

俺はルリア達全員と手を繋ぐと、空間転移魔法を使用して旧アイロス王国のお城へと転移してきた。


「凄い!凄いぞエル!」

荷物の運搬作業に使っていた場所に転移し、明らかに景色が変わった事でヘルミーネが興奮していた。

気持ちは良く分かるが、こんな場所にいつまでも居る訳にはいかない。

「ルリア、リリー、ヘルミーネ、俺達の家に入ろう!」

「そうね!」

「はい、エルレイさん!」

「うむ、参ろう!」

俺、ルリア、リリー、ロゼ、リゼの五人が戦争で苦労して手に入れた家…いや、城だ!

そこにヘルミーネとラウラが加わった七人で城の玄関へとやって来た!


「「「「「エルレイ侯爵様、お帰りなさいませ!」」」」」

城の玄関には使用人達が左右に並んでいて、俺の帰りを出迎えてくれた。

今日から俺達がここに住む事は知らせていたが、この様な歓迎を受けるとは思ってもみなかった…。

お陰でボーっとその場に立ちすくみ、ルリアから肘で小突かれてしまった。

「えー、あー、皆さんよろしくお願いします」

俺は思わず頭を下げてしまい、ルリアから下げた頭を叩かれる事になってしまった…。

まぁ、侯爵の俺が使用人に対して頭を下げたのは不味かったと気が付いたが、俺は自分が偉い人格者だとは思っていないから仕方が無い…。

と言うより、いまだに貴族制度に慣れて無いんだよな…。

ロゼとリゼは俺のメイドだが、ルリアとリリーと同じように大切な存在で平等に扱いたいと思っている。

リゼには命も助けてもらったし、ロゼはリリーを何時も守っていてくれるから俺が自由に動けている。

だから、使用人と言った差別はしたく無いんだよな…。

でもこの場面では俺が言葉を掛けてあげないと、頭を下げたままの状態で固まっている使用人達が可哀想だな。

「今日から僕がここの主です。よろしく頼みます!」

「はぁ、エルレイにはそれが限界よね…頭を上げなさい!」

ルリアが俺に代わって使用人に命令してくれた。

「私達の部屋に案内なさい!」

「はい、承知致しました!」

執事が俺達の前に出て来て胸に手を当てて軽くお辞儀をし、俺達は使用人達が立ち並ぶ中を進み城内へと入って行った。


「使用人の数が多くくないか?」

俺が最初にここに送った使用人は五十人だったはずだ。

その後で送った使用人達は、父やヴァルト兄さんや他の男爵の領地へと行くと聞いていたのだけれどな。

「エルレイ様の御指摘の通り、使用人の数は増えております。

ですが、増えた使用人は仮採用の段階でございます」

「なるほど」

俺の疑問に俺達を案内してくれている執事が答えてくれた。

まぁ、この城を維持するには五十人の使用人では大変だろうなとは思っていた。

俺はこの城の一部しか見ていないが、ソートマス王国の城と同じくらいの大きさだと考えれば、掃除をするだけでも大変だろう。


「綺麗になっているわね!」

「そうだね」

俺達が最初にこの城に来た時は酷い状況だったが、使用人達が一生懸命掃除と飾り付けをしてくれたみたいで城内は立派になっていた。

「こちらがエルレイ様と奥方様の部屋となります」

城内の廊下を歩き、階段を何回も上った所に俺達の部屋は用意されていた…。

「すまないが、もう少し下の階には出来ないのだろうか?」

流石に毎日の上り下りを考えると面倒でしか無い。

なので、部屋を替えて貰えないか執事に尋ねたのだが…。

「この部屋で良いわよ!」

「エルレイさん、私もこの部屋で構いません」

「うむ、良い部屋ではないか!」

俺より先に部屋に入った三人が、部屋の中を見渡しながらそう言って来た。

「エルレイ様、いかが致しましょう?」

「うん、このままでいいです…」

「承知しました」

俺は諦めて部屋の中に入り、中の様子を見て回る事にした。

入った所にある部屋はとても広く、皆がくつろげるリビングになっていた。

扉が幾つもある事から、他にも部屋があるみたいだな。

全部の部屋を回るのは後で良いとして、俺はソファーにドサッと座り大きく息を吐いた…。


「ふぅ~やっと落ち着けるな…」

この一か月間はラノフェリア公爵家で生活していたし、お城に行った疲れはお菓子で癒されたものの、気を抜く事は出来なかったからな…。

目の前に執事とメイド達が居るが、俺の部屋だと言う事なので気を抜いても問題無いはずだ。

執事も気を利かせてか何も話して来る事は無いし、メイドは俺の前に紅茶を用意してくれていた。

俺は紅茶に手を伸ばして一口飲んだ…。

何も言わずとも紅茶が用意されるとは贅沢な事だが、暫くこうやってゆっくりと過ごすのもいいかもしれない…。

ルリア達は部屋を見終わったのか、俺の所にやって来てソファーに腰掛けた。

ルリアは足を投げ出してソファーに深く座っているが、俺の今は似たような感じなので咎めようとは思わない。

そうか…ルリアも俺と同じように家以外では気を抜けないのだとこの時初めて気が付いた。

リリーは相変わらず行儀よく座っているが、性格の違いによるところもあるだろうし、無理に姿勢を崩して休めと言うのも変だよな。

ヘルミーネは場所を問わず我儘し放題みたいで、今も初めて会ったはずのメイドにお菓子を持ってくるように言っている。

さっきもお菓子をいっぱい食べていたからやめさせた方が良いのかも知れないが、今日の所は何も言わずにおこうと思う。

ヘルミーネも息苦しい王城から解放されたばかりだからな。

皆の所に紅茶が行き渡った所で、執事とメイドが俺達の前にやって来た。


「エルレイ様、奥方様、私は執事長を務めさせて頂くアドルフと申します」

「私はメイド長を務めさせて頂くカリナと申します」

「「エルレイ様、奥方様、よろしくお願いします」」

「アドルフ、カリナ、よろしく」

アドルフと名乗った執事長は見た事のある顔だな…。

「間違っていたなら謝るが、アドルフはヴァイスさんの息子になるのだろうか?」

「はい、その通りでございます」

アドルフはラノフェリア公爵家に仕えるヴァイスさんの息子で間違いなかった。

よく似た顔立ちをしていて、これで他人だと言われたら驚くくらいだ。

ラノフェリア公爵が一番の信頼を置いている執事がヴァイスさんだったので、その息子を俺に預けてくれたという事なのだろう。

アドルフに任せておけば、領地経営に無知な俺は何もしなくて良さそうだな!

いい従者を付けてくれた事をラノフェリア公爵に感謝し、安心して紅茶を飲みながらくつろぐことにした…。

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