第九十五話 ヘルミーネとの再会
「父上は当分戻って来ないだろうから、ゼイクリム伯爵とヴァルト子爵は先に帰っていて貰えるかな?」
ネレイトはそう言って、父とマデラン兄さんとヴァルト兄さんを先に帰してしまった。
俺も一緒に帰りたかったが、俺にはまだ王城でやる事が残っているらしい…。
まぁ、予想は出来ているのだけれど…なるべく考えないようにしていたかったんだよな…。
「行こうか!」
「はい…」
メイド達に囲まれて身だしなみを整え終えた所で、ネレイトが笑顔で俺を部屋から連れ出した。
当然向かい場所は王族が住まう上の階だ。
ネレイトが扉の前に立つ騎士に俺が来た事を告げると、騎士は部屋の中に声を掛けてから扉を開けた。
「僕はここから先は入れないから、父の執務室で待っているね」
「はい、案内ありがとうございました」
「頑張ってね!」
ネレイトは笑みを浮かべたまま去って行き、俺一人だけ残される事となった。
俺は覚悟を決め、部屋の中に入って行った…。
「エルレイ様お待ちしておりました。ヘルミーネ王女様は奥の部屋でお待ちです」
見覚えのあるメイドが迎えに出て来てくれて、俺を案内してくれた。
確か、ヘルミーネ王女が城内で魔法を使用した際に濡れたスカートを必死に拭いていたメイドで、名前がラウラだったと記憶している。
大きな胸が印象的だったので覚えていたんだよな…。
俺の少し前を歩くラウラの丸いお尻も魅力的だな…。
「エル!」
ラウラのお尻に見惚れていると、ヘルミーネから大きな声で名前を呼ばれて視線を上げた。
「ヘルミーネ王女様、お久しぶりにございます」
俺はヘルミーネ王女の前に行き挨拶をしたが、ヘルミーネは頬を膨らませやや不機嫌な表情を見せていた。
「むっ、エルと私は婚約したのだ!私の事は呼び捨てで構わぬし敬語も不要だぞ!」
確かに国王から婚約を告げられたが、本当に呼び捨てにしても構わないのだろうか?
ラウラに視線を投げると軽く頷いてくれたので、呼び捨てにして構わないみたいだ。
俺は改めてヘルミーネに挨拶する事にした。
「ヘルミーネ、この様な形で再会するとは思っていませんでした。
これからよろしくお願いします」
「うむ、エル、よろしく頼むぞ!」
俺が呼び捨てにすると、ヘルミーネの機嫌が直り笑顔で応えてくれた。
機嫌が良くなったついでに、着飾っているヘルミーネを褒めておかなくてはならないだろうな。
「今日のヘルミーネはとても可愛らしいです」
「そ、そうか?ラウラ達が朝早くから頑張ってくれたお陰だな!」
ヘルミーネは満面の笑みを浮かべながら、スカートの裾を少し持ち上げてクルリと回って見せてくれた。
薄いピンクのドレスに花柄の刺繍が幾つも施されていて、ヘルミーネの可愛らしさを引き立ててくれている。
髪は綺麗に編み込まれていて、キラキラと美しい輝きを放つティアラも飾られている。
黙っていれば可憐な王女様なのだがな…。
いつまでも立たせているのも悪いのでヘルミーネにテーブルの席に座って貰い、俺も隣の席に座った。
「エル、私はいつエルの所に行けばいいのだ?」
テーブルの席に座ったヘルミーネは、メイドが用意したお菓子を行儀悪く口に運びながらそんな事を尋ねて来た。
「そ、それは…ヘルミーネが成人してからだと思います」
ヘルミーネとは婚約しただけで結婚はしていないのだから、俺の所に来るのはヘルミーネが成人するのを待ってからになるだろう。
俺は常識的に考えて答えたのだが、ヘルミーネはお気に召さなかったのか頬を膨らませて怒って来た。
「ルリアとは一緒に住んでいると聞いたぞ!私もお城を出てエルと一緒に住むからな!」
口に頬張ったお菓子を俺に飛ばしながら言い放って来た…。
「ヘルミーネ王女様、口に食べ物を入れたまま話すのはお止め下さい」
「むっ、そうであったな…エルすまない…」
ラウラは慌てて俺に飛んで来てお菓子の屑を拭き取りながらヘルミーネを注意し、ヘルミーネも素直に俺に謝罪してくれた。
だから俺も特に怒る気にもなれず、話を続ける事にした。
「確かにルリアとは一緒に住んでいますが、私はまだ父上の家に住んでいてヘルミーネに住んで貰えるような部屋がありません。
それに、国王陛下が結婚前に婚約者の所に行かせるはずも無いでしょう」
実家に空いてる部屋はあるが、流石に王女を住まわせられるような広さの部屋では無い。
ルリアとリリーは部屋の狭さに文句を一切言わないが、不便に思っているのは間違い無いだろう。
それとルリアが婚約前に俺の所に来ているのは魔法の訓練の為であって、婚約者だからと言う理由ではない。
兄さん達のお嫁さんである、セシル姉さんとイアンナ姉さんの様に結婚後に一緒に住むのが基本で、婚前に一緒に住むなど言語道断だろう。
だからヘルミーネも成人後、俺との結婚した後に一緒に暮らす事になるはずだ。
「お父様から、エルの所に行く許可は貰っておるぞ」
「えっ?それは本当なのですか?」
「うむ、ラウラ間違い無いな?」
「はい、国王陛下からエルレイ様のお屋敷に住む許可は頂いております。
ただし、御結婚までは清く正しいお付き合いをして頂くようにと厳命されております」
「そうですか…」
ヘルミーネの言葉だけなら信じられなかったが、メイドのラウラが言ったのだから間違いないのだろう…。
しかし、実際問題としてヘルミーネが住めるような部屋が無いのも事実だから、何とか諦めて貰わなくてはならない。
「ですが、ヘルミーネに住んで頂ける部屋が無いのは間違い無いので、諦めて頂くしかありません」
「それならば問題あるまい。エルは侯爵になったのだろう?
侯爵に相応しい屋敷を与えられるのでは無いのか?」
「あ…う…」
俺はヘルミーネの言葉に言い返せなかった。
ヘルミーネの言う通り、侯爵になったのだから流石に父の家に居続けることは不可能だろう。
父も伯爵になったので、今の家から移り住む事に違いない。
俺も侯爵になったのだから、それなりの屋敷に住む必要があるはずだ。
今日侯爵になったばかりで、俺が治める領地も決まっておらず、当然住む家も決まってはいない。
しかし、ラノフェリア公爵の事だから、直ぐにでも俺の領地と住む家を決めるに違いない…。
不本意…不本意だが…ヘルミーネが俺の所に来るのを承知しないといけないみたいだな…。
「分かりました。僕が住む家が決まり次第ヘルミーネを迎えに来ます」
「エル、なるべく早く来てくれ!」
「はい」
国王がヘルミーネを俺の婚約者にし、俺の所に来る事を許可したのであれば俺に拒否権は無い…。
覚悟を決めてヘルミーネを受け入れなければならない。
それからヘルミーネと暫く話をした後、魔法の訓練を希望するヘルミーネを振り切って部屋を出て来た。
疲れた…。
しかしここは王族が住まう場所で気を抜く事は出来ない!
他の王族に出会う事が無い事を祈りつつ、足早にその場を後にしてラノフェリア公爵の執務室まで戻って来た。
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