第九十四話 ヴァルト兄さんも貴族に その二
父とヴァルト兄さんと俺は、謁見の間の玉座の前に並んで片膝を付き頭を下げていた。
それと今回はネレイトでは無く、ラノフェリア公爵が俺の横に並んでいる。
謁見の間の左右には前回以上の数の貴族達が並んでいて、俺達の事を見て小声で何か言っている様だ。
内容はよく聞き取れないが、良い話では無いのは何となく視線や雰囲気で分かる。
俺が男爵になった時も似たような雰囲気だったのだろうが、あの時は緊張していて周りを見る余裕は無かったからな。
気付かない方が良かったのかも知れないが、俺達に対していい感情を持っていない貴族が多いと分かった事は良かったのかも知れない。
また暗殺者を送って来られないとも限らないから、今後も注意して行かなければならないと言う事だ。
「面を上げよ」
国王が玉座に座って俺達に声を掛けてくれた。
国王の表情はこの前と同じように優しい目で俺達の事を見てくれている。
いや、この前よりかは少し笑みを浮かべているようにも見える。
国王も戦争が終わった事で安堵しているのかも知れない。
国王の優しい目が俺の所で止まり、俺に話しかけてきた。
「エルレイ、ソートマス王国の悲願である、アイロス王国の打破に大いに貢献したエルレイの活躍は見事であった。
私は報告を受ける度に子供のような胸の高鳴りを覚えた。
私も戦場へと赴き、間近でエルレイの活躍を見たい思ったのだが、この通り少々年老いておってそれは叶わぬ願いであったのが残念でならぬ。
しかし、私が生きているうちに英雄の生まれ変わりのエルレイと会えたことは非常に喜ばしい。
これからの活躍も期待しておるぞ」
「はい、努力を続けてまいります!」
国王に英雄として持ち上げられた格好になってしまったのは気に食わないが、否定は出来ない…。
アイアニル砦では、ほぼ一人で戦いを終わらせたような結果になってしまったからな…。
やり過ぎたと反省しているし、英雄として持ち上げられても仕方が無いと思っている。
今後はなるべく目立たないようにして行かないといけないな…。
国王は視線を俺からラノフェリア公爵へと移した。
「ロイジェルクよ、エルレイは見事に貴殿の期待に応えてくれたの」
「はい、ありがたい限りです」
「エルレイは英雄の生まれ変わりかも知れぬが子供でもある。
私達でしっかりと支え、間違った道へ進まぬようにしてやらねばならぬ。
ロイジェルク、今後とも頼んだぞ」
「はい、エルレイを全力で支えて行く事をお約束致します」
国王はラノフェリア公爵との会話を終えると、ヴァルト兄さんに視線を移して声を掛けた。
「ヴァルト、エレマー砦での戦いでは弟のエルレイを陰ながら支え守った事、大儀であった。
この功績を讃え、ゼルギウス・フェリクス・ド・ソートマスの名において、ヴァルト・フォン・アリクレットに子爵位を授ける」
「謹んでお受け致します。ソートマス王国と国王陛下の為に、誠心誠意尽くす事をお約束致します!」
ヴァルト兄さんは少し驚愕するも、しっかりと国王の言葉に返事をすることが出来ていた。
俺もヴァルト兄さんが子爵位を授けられた事には驚きを隠せない!
周囲にいる貴族達からも驚愕の声が聞こえて来る。
ヴァルト兄さんの肩書はエレマー砦の管理者であって貴族では無い。
それがいきなり子爵位を与えられれば、驚きとともに不満の声が上がってくるのは当然の事だろう。
しかし国王の話が終わった訳では無く、近衛騎士が貴族達の声を静めた。
「ゼイクリムは領地経営において見事な手腕を発揮し、領民を増やし領地を豊かにしてきた。
それに加え、優秀な魔法使いエルレイを立派に育て上げた事、大儀である。
この功績を讃え、ゼルギウス・フェリクス・ド・ソートマスの名において、ゼイクリム・フォン・アリクレットに伯爵位を授ける」
「謹んでお受け致します。ソートマス王国と国王陛下の為に、誠心誠意尽くす事をお約束致します!」
父はいつものように堂々とした態度で国王に返事をしていた。
ヴァルト兄さんが子爵位だったから、父はその上の伯爵位を授けられた!
貴族達が一瞬声を上げるも、近衛騎士によって再び静められた。
「エルレイ、アイロス王国との戦争では、我が王国軍の被害を最小限に抑え勝利した事、大儀である。
その功績を讃え、ゼルギウス・フェリクス・ド・ソートマスの名において、エルレイ・フォン・アリクレットに侯爵位を授ける。
そして娘のヘルミーネ第七王女をエルレイの婚約者とする」
「謹んでお受け致します。ソートマス王国と国王陛下の為に、誠心誠意尽くす事をお約束致します!」
ヴァルト兄さんが子爵位、父が伯爵位と来れば、俺が侯爵位を授かる事は予想は出来ていたので、落ち着いて返事をする事が出来た。
しかし、男爵からいきなり侯爵まで上がるのは異例の事なのでは無いだろうか?
貴族達からも今までで一番不満の声が上がって来ている。
…いやいやいや、最後に何かとても重要な事を言われなかったか?
俺の聞き間違えで無ければ、ヘルミーネ王女を俺の婚約者にすると…。
周囲の貴族から王女までも与えるのか、と聞こえて来ているから聞き間違いでは無いらしい…。
ルリアだけでも持て余しているのに、常識しらずのヘルミーネまで押し付けられてはたまったものでは無い!
しかし、既に返事をしてしまったんだよな…。
今更要らないと言う事は出来ないし、諦めるしかなさそうだ…。
「静粛に!」
近衛騎士が静めるも、なかなか静かにならない。
そこで近衛騎士が剣を抜き実力で静めようとした所を、国王が左手を胸のあたりまで上げて近衛騎士を止めた。
「よい!
侯爵ともなれば領地のみならず、多くの貴族をまとめる役目も担う事になり、若いエルレイには荷が重いのは間違いない。
しかし、ソートマス王国建国以来の宿敵であるアイロス王国の打破した者は、長いソートマス王国の歴史の中で誰一人として存在せず、それを成し遂げたエルレイに対する褒美はこれしかあり得ぬ。
若いエルレイに荷が重いのであれば、成長するまで支えるのも我らの役目。
皆で若き英雄エルレイを支え、ソートマス王国の更なる繁栄を皆と共に享受して行こうでは無いか!」
国王の演説により、不満を漏らしていた貴族達も手を叩いて賛同していた。
まぁ、貴族から不満が出ようが俺としては関係無い事だったが、これで堂々と侯爵として振舞えるのは間違いない事だ。
一応国王に対して感謝をしておかなくてはな…。
「今回の戦争で得られたアイロス王国の領地の分配をロイジェルク・ヴァン・ラノフェリア公爵に一任し、一時的に男爵位の授与も認めるものとする」
「謹んでお受けいたします」
ラノフェリア公爵に領地の分配権が与えられた。
そう言えば、父とヴァルト兄さんと俺に与えられる領地の話は無かったな。
ラノフェリア公爵が上手く分配してくれるのだろうから心配する必要は無いか。
長く感じられた国王との謁見は終わり、父とヴァルト兄さんと俺はラノフェリア公爵の執務室へと戻って来る事が出来た。
ラノフェリア公爵は謁見の間を出るなり貴族達に捕まってしまったので、先に戻らせて貰った…。
アイロス王国の領地がラノフェリア公爵の采配で分配されるのだから、貴族達が自分の息子に領地を分け与えて欲しいと嘆願するのは仕方の無い事だろう。
ラノフェリア公爵の事だから、そんな事は戦争前に決めていてもおかしくはなさそうだがな…。
「父上、ヴァルト、エルレイ、おめでとう!」
マデラン兄さんとネレイトも戻って来て、俺達の事を祝福してくれた。
「俺が子爵になったのは完全にエルレイのおまけみたいなものだがな…」
ヴァルト兄さんは頭をかきながら恥ずかしそうにそう言っていた。
「そんな事は無いぞ!お前が真面目にエレマー砦の管理を行ったからだ」
「ヴァルト、父上の言う通りだ!」
「僕もそう思います」
きっかけは俺だったかもしれないが、ヴァルト兄さんは一生懸命エレマー砦を守ろうと頑張っていたから爵位を得て当然だと思う。
「ヴァルト子爵、自信を持っていいよ。国王陛下も無能な者に爵位を与えたりはしないからね」
「そうですね、分かりました!」
ネレイトが後押ししてくれた事で、ヴァルト兄さんも自信を持ってくれたみたいで良かった。
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