第九十一話 ヴィクトル第一王子との会談

馬車は王城に着き、ラノフェリア公爵と共に城内へと入って行った。

俺への謝罪だけでは無く、王城での用事もあったのだな…。

廊下を歩いていると、ラノフェリア公爵に挨拶して来る貴族が後を絶たない…。

何処に向かっているのかは分からないが、一向に前に進む事が出来なくなっている。

「これはラノフェリア公爵様、ご健勝そうですな」

「うむ、ルースレム伯爵も元気そうで何よりだ」

「はい、ところでそちらの方は…」

「アリクレット男爵だ」

「おぉ、そうでございましたか!アリクレット男爵の活躍は聞き及んでおります!

お一人でアイロス王国軍を撃ち滅ぼしたとか、誠の素晴らしい事ですな!」

「ありがとうございます…」

挨拶から始まり、俺の事を褒めて会話は終わるのだが、少し歩くと次の貴族が待ち構えていて終わりが見えない…。

階段の前に着いた所でを貴族が居なくなり、階段を上がった所では完全に貴族の姿が消えて静かになった。


「この先は王族の住まう場所で、余程の者でもない限り入れぬからな」

「そうでしたか…」

俺の気持ちが伝わったのか、ラノフェリア公爵が説明してくれた。

そう言えば、以前来た時にもここだけは静かだったな。

という事は、今日の目的はこの前と同じヴィクトル第一王子との面会と言う事かな?

ヴィクトル王子は表情を読んでくるので出来れば会いたくは無かったが、俺に拒否権は無いんだよな…。

そんな事を思いながら静かになった廊下を歩いていると、正面から若い男性と横幅の広い中年の男性が歩いて来ていて、ラノフェリア公爵が廊下の端に移動して道を譲ったので俺もその後ろへと急いで移動した。

ラノフェリア公爵が後ろにいる俺に目配せしながら頭を少し下げたので、俺も同じ様に頭を下げて通り過ぎるのを待つが、若い男性は立ち止まってラノフェリア公爵に話しかけてきた。


「ロイジェルク、その子供は見かけぬな。貴様の隠し子か?」

「イクセル様、この者はアリクレット男爵にございます」

「お初にお目にかかります。エルレイ・フォン・アリクレットと申します」

ラノフェリア公爵から紹介されたのでイクセルと呼ばれた若い男性に挨拶をしたのだが、男爵などに興味は無い様で無視されてしまい、イクセルはそのまま歩きだしてしまった。

「イクセル様、この者は今話題の魔法使いですぞ」

面倒な事にならずに済んだと思ったのだが、横幅の広い中年の男性の一言でイクセルは再び足を止めてこちらを見た。

「ほう、貴様が例の魔法使いか?とても強そうには見えぬが…」

以前に王族の前で魔法を披露したがイクセルは見ていなかったのか、俺の事を知らないみたいで上から下まで値踏みするような視線を向けられた。

イクセルは顎に手を当てて暫く考えた後、口角を上げてニヤリと笑った。

「貴様はヴィクトル兄さんの所に挨拶に行くのだろうが、その後私の所に来て戦争の話を聞かせろ!良いな!」

「…はい、承知しました」

突然の申し出に困惑しラノフェリア公爵に視線を向けたが、目で頷いたので仕方なく了承した。

イクセルは満足そうな笑みを浮かべて、横幅の広い中年の男性と共に去って行った…。


「あの、よろしかったのですか?」

「第二王子の誘いを断る訳にはいかんからな」

ラノフェリア公爵は苦笑いをしてそう言った。

あの人がヴィクトル第一王子の王位継承を脅かしている第二王子だったのか…。

そんな人と会わないといけないかと思うと胃が痛くなってきそうだ…。

やはり王城はストレスしか溜まらない場所だと再認識し、俺がここに来ることを拒否できない立場なのが更にストレスを増加させる。

俺の胃に穴が開かないうちに王城を出て行きたいと願うばかりだ…。


「魔法使いのお兄ちゃん!」

ヴィクトル王子の部屋に入るなり、前回と同様に息子のストフェル王子のタックルを受ける事になった。

「魔法使いのお兄ちゃん!戦争のお話を聞かせて!」

「エルレイ君、ストフェル王子の相手は任せたぞ」

ラノフェリア公爵はそう言って俺を置いてヴィクトル王子の方へと向かって行ってしまった。

どうやら俺は子守りの為にここに連れて来られたらしい…。

でも、ヴィクトル王子と会話するよりかは気が楽でいいな。

俺の手を引くストフェル王子に連れられてストフェル王子の部屋に向かい、そこで戦争の話を聞かせてやる事にした。

勿論、血生臭い話は抜きにして、ルリアと俺が魔法でアイロス王国軍を蹴散らして行った事を多少話を盛って聞かせた。

「すっごいね!魔法ってどんなことも出来るんだね!」

「努力次第ですけど、色々な事が出来る可能性はあると思います」

「そっかぁ、僕が魔法を使えないから魔法使いのお兄ちゃんが羨ましい…」

今まで笑顔だったストフェル王子が落ち込んでしまった…。

ストフェル王子に魔法を使わせてあげる事は出来るが、そんな事をすれば大騒ぎになるのは明らかだ。

可愛そうだけれど、ストフェル王子に魔法を使わせてあげる事は出来ないだよな…。

俺は心の中でストフェル王子に謝罪し、代わりにストフェル王子を元気づけられるような話をした。


「魔法使いになれるのは十人に一人と言われていて、残念ですがストフェル王子はその一人には選ばれませんでした」

「うん…」

「ですが、ストフェル王子はソートマス王国で一人しかなる事が出来ないものになれます」

「僕だけがなれるもの?」

「ソートマス王国の国王様です」

落ち込んでいたストフェル王子は笑顔を浮かべて俺に力ず良く頷いてくれた。

「そうだね!僕は魔法使いにはなれないけれど王様になれるんだね!」

「頑張って勉強しなくてはなりません。ストフェル王子が努力を続けて行けば必ず成れる事でしょう」

「うん、僕頑張る!」

ヴィクトル王子の息子が何人いるのか、ストフェル王子が何番目の王子なのかは知らないし、少し無責任な発言だったかもしれないと後悔したが、何十年も先の話だし気にする事も無いだろう…。


ストフェル王子から解放され、ヴィクトル王子とは挨拶だけ交わして部屋を後にした。

この後、イクセル第二王子の所に行かないといけないんだよな…。

少し憂鬱になったが、会話はラノフェリア公爵に任せてしまおうと心に決めた。

「エルレイ君、これからイクセル王子との面会に行って貰うが私は同席出来ない」

「えっ!?」

あの王子の所に一人で行けと?

「私はイクセル王子から嫌われているからな…」

「そうでしたか…」

「しかし案ずる事は無い、イクセル王子の話は単純だ。

金と女をくれてやるから仲間になれと言って来るだけだ。

エルレイ君はそんな物欲しがらないだろう?」

「そう…ですね!」

「面会が終わり次第私の所に来てくれ」

ラノフェリア公爵は笑顔で立ち去って行った…。

正直、金も女も欲しいです!

と言いたかったが、俺が本当に欲しいのは魔法書だと言う事はラノフェリア公爵も知っている。

金は自分で稼がないと意味が無いよな。

今の所金の使い道と言えば、ルリアとリリー、それにロゼとリゼに何か買ってあげる事しか無い。

でもそれは、きちんと自分で稼いだお金で無いと意味が無いと思う。

誰かから貰ったお金で贈り物をされても、皆喜んではくれないだろうからな。


女はルリアとリリーの二人も居る。

ルリアは多少暴力的だが、将来巨乳になる事はアベルティア様で約束されているし、たまに見せる笑顔は可愛らしい。

リリーは元王女らしく清楚で可愛らしいが…最近怒るとルリアより怖いのが分かって来た。

それでもリリーは俺にとって理想の女性と言えるだろう。

ルリアも俺の隣で一緒に戦えると言う意味では、理想の女性なのかもしれない。

勿論、ルリアを二度と危険な場所に連れて行くつもりは無いが、素直に俺の言う事を聞くルリアでは無いしそこは諦めている。

そうだな!

ルリアとリリーが居るので、これ以上の女性は不要だとと言う事が理解できた。

よし!

俺はイクセル王子の誘惑に惑わされないように気を引き締め、イクセル王子との面会へと挑む事にした!

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