第九十話 家族と王都へ
自室に戻って考えようとしたが、やはり疲れていたのでベッドに寝転がって夕食の時間まで寝てしまった。
俺が考えた所で事態が変わるはずも無く、ラノフェリア公爵が上手くやってくれるはずだと考えるのを止めた…。
そして翌日、家族全員で王都に向かう事となった。
「エルレイと旅行に行けるなんて嬉しい事だわ!」
「アルティナ姉さん、僕もそう思います」
この世界に生まれ変わってから、家族全員で出掛けた事など無かった。
俺は領内の見学に父や兄達と出掛ける事はあったし、アルティナ姉さんは母と貴族のパーティーに出席したりもしていたが、家族全員と言う事は無かったからな。
それに、ヴァルト兄さんとイアンナ姉さんも来ていて本当に家族全員がそろっていた。
「三回に分けて送りますので、後の方は廊下で待っていてください」
一度に全員転移魔法で送る事は可能だと思うが、俺の部屋に全員入れないのと安全の為に三回に分けて送る事にした。
送る先は王都にあるラノフェリア公爵家の別邸で、無事に全員の転移が完了した。
「本当に一瞬なのだな」
「エルレイの魔法とは言え驚きですね」
「流石私のエルレイ、凄いわ!」
豪華な廊下を歩きながら家族全員が周囲を見て驚きの声を上げていた。
「奥方様とお嬢様方はこちらです」
案内役の執事が母達を俺達とは別の所に案内していく。
父、マデラン兄さん、ヴァルト兄さんは俺達と一緒にラノフェリア公爵との面会に向かう事になる。
父も少し緊張しているし、マデラン兄さんとヴァルト兄さんはガチガチに緊張している。
俺はもう何度も会っている為そこまで緊張してはいないが、兄さん達の緊張が俺にも伝わってくるみたいだ。
俺達は応接室に通されソファーへと腰掛けた。
中央に父、その左隣にマデラン兄さんとヴァルト兄さんが座り、父の右隣りに俺とルリアとリリーが座った。
それから少しも待たされる事無くラノフェリア公爵とネレイトが入室して来てたので、俺達は立ち上がって二人を迎えた。
ラノフェリア公爵は一秒でも早くルリアの顔を見たかったのだろう。
しかし父達が居るから、ラノフェリア公爵も澄ました表情を見せながら俺達の前へとやって来た。
「ラノフェリア公爵様、本日はお招きに頂き誠にありがとうございます」
「堅い挨拶は抜きにしよう、それより座ってゆっくりと話しをしようじゃないか」
「はい、失礼します」
父が挨拶をするも、やはりラノフェリア公爵の意識はルリアに向けられている。
一刻も早く俺達との会話を終了させて、ルリアとの会話を楽しみたいのだろう。
ソファーに座り、メイド達が紅茶を用意してくれる間もずっとルリアの事を見ているからな…。
「先ずはエルレイ君、ルリア、リリー、戦争での見事な活躍はこちらにも届いている。
そして早期の終戦によりソートマス王国の負担も軽微で済んだ、感謝する」
「ありがとうございます」
ルリアは活躍と聞いて少し顔を背けていたが、ルリアも十分活躍してくれたと俺は思っている。
「ゼイクリム男爵と息子達には、明日王城に行って貰う事になる。
詳しい話はネレイトから聞いてくれ」
「はい、分かりました」
ネレイトが父達に明日の事を説明し始め、俺もその話に聞き耳を立てる。
やはり、ヴァルト兄さんも貴族となり領地を与えられる事になるらしい。
マデラン兄さんは父の跡取りの為領地を与えられる事は無いが、後学の為に一緒に着いて行って貰うそうだ。
一方ラノフェリア公爵はルリアとの会話を楽しんでいるが、ルリアは話しずらそうにしていた…。
ルリアの中では、戦争で活躍出来ていないと思っているみたいだからな。
グリバス砦では一番活躍していたし、アイアニル砦でゴーレムに殴られたのは俺の不注意でルリアの失態ではない。
しかし、ゴーレムに殴られて負傷したなどとラノフェリア公爵に話せるはずも無く、ルリアもどの様に説明していいのか迷っているみたいだ。
ダニエル軍団長にも、ルリアが負傷した事を報告しないで欲しいと頼んだからラノフェリア公爵には伝わっていないと思いたい。
もし伝わっていたのならば、この場で俺を思いっ切り叱責していただろう。
叱責で済めばいいが、最悪ルリアとの婚約解消!何て話にもなっていても不思議ではないくらいの出来事だったからな。
このままラノフェリア公爵の笑顔が冷めない事を願うばかりだ…。
話しも無事に終わり、ラノフェリア公爵から解放されるのだと安心したのだったが、そうはならなかった…。
「エルレイ君はこれから私に着いて来てくれたまえ」
「はい…」
やはり、ルリアが負傷した事を知っているみたいだ…。
俺は覚悟を決めて大人しくラノフェリア公爵の後に着いて行く事にした。
俺とラノフェリア公爵は馬車に乗り込みお城へと向かっていた。
正面には、ルリアと話していた時の笑顔が消えたラノフェリア公爵が座っている。
そのラノフェリア公爵が気持ちを落ち着かせるためなのか目を閉じ、ゆっくりと目を開いたのちに口を開いた。
「ルリアが怪我被ったのは聞いている。
今日ルリアの無事で元気な姿を見て安堵した…。
エルレイ君、詳しい状況を教えてくれないか?」
「分かりました…」
俺は覚悟を決め、ラノフェリア公爵に当時の状況を詳しく説明した。
「そうか…」
ラノフェリア公爵は俺の説明を真剣に聞き、ルリアがかなり危険な状態だったことを知って震えていた…。
「僕の不注意でルリアお嬢様に大怪我被わせてしまい申し訳ございませんでした。如何なる処分も受ける覚悟です!」
俺は馬車の席から立ってラノフェリア公爵の前に跪いて頭を下げた。
殴られようと蹴られようと構わないし、どんな罰をも受けるつもりだ。
ただし、ルリアとの婚約破棄だけは思い止まって貰いたい!
今の俺に出来る事はラノフェリア公爵に頭を下げ続ける事だけしか無い…。
ゆっくりと進んで行く車内で時間だけが過ぎて行く…。
「頭を上げなさい」
ラノフェリア公爵の許しを得て顔を開けると、ラノフェリア公爵は怒りや後悔がにじみ出ている様な複雑な表情をしていた。
「エルレイ君、謝罪しなくてはならないのは私の方だ、済まなかった」
怒りをぶつけられるのかと思いきや、謝罪されて困惑してしまう。
ラノフェリア公爵に座るように言われて俺は席に着いた。
それから、ラノフェリア公爵は大きく息を吐き気持ちを落ち着けてから語り始めた。
「ラノフェリア公爵家に伝わる古い文献で、アイアニル砦の城壁が動く事は知っていたのだ。
エルレイ君にその事を故意的に伝えなかったのは、エルレイ君がどの様に対処してみせるのか興味があったからだ。
私の興味本位でルリアとエルレイ君を失っていたかも知れないと思うと、私自身が許せない!
罰を受けるのは私の方であってエルレイ君では無い!
本当に申し訳ない!」
ラノフェリア公爵は声を震わせながら俺に謝罪してくれた。
そうだよな。
ソートマス王国とアイロス王国は幾度も戦争を繰り返して来ていて、様々な情報を知っているはずだ。
その中にアイアニル砦の城壁が動くと言う情報が無いなんてありえない。
ラノフェリア公爵としては俺の事を試すつもりで教えなかったのだろうが、それでルリアが死にかけたともなれば俺でも自分が許せないだろう。
あの時リゼが助けてくれなければ、俺とルリアは間違いなく死んでいた。
その事実を知り、ラノフェリア公爵はルリアを失ったかもしれない恐怖に怯えているのだ。
俺も未だにあの時の事を思い出すと体が震えて来る。
戦いの中で自分が死ぬ覚悟は出来ているつもりだ。
勿論死にたくは無いし、死なないための努力を日々続けている。
だが、ルリア…身内が死ぬことに対しての覚悟は出来てはいない…。
ラノフェリア公爵もきっと俺と同じ気持ちなのだろう。
「ラノフェリア公爵様、僕はルリアお嬢様の間近にいながら守れませんでした。
その責任はきちんと負い、これからルリアを守っていく事でその責任を果たして行きたいと思います。
ラノフェリア公爵様も僕と同じように責任を果たして頂けませんか?」
「そうだな…エルレイ君に諭されるとは思っても見なかった」
ラノフェリア公爵は俺の言葉にうなずき少しだけ笑顔を見せてくれた。
「あぁそれと、リゼ…僕とルリアお嬢様を助けたメイドに何か褒美を頂けませんか?」
「むっ、それはエルレイ君の仕事だ!よその家の者が使用人に褒美を渡すとなると買収と思われるぞ」
「あっ、そうですね…今のは無かった事にしてください」
「うむ、これからそんな事が起きる可能性は高い。注意しておくのだな!」
「はい…」
リゼには俺から何か買ってあげないといけないが、今はまだお金を持ってないんだよな…。
だからラノフェリア公爵にお願いしてみたのだが、どうにかして稼ぐしか無いか…。
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