第八十八話 アイロス王国との戦争終結 その二
お互いの条件が出そろい、そのすり合わせのための激しい話し合いが深夜まで続けられる事となった…。
途中休憩を挟んだものの、子供の俺の体には大変辛い時間となったのは言うまでもない。
そして両陣営とも完全に納得とまではいかないまでも、握手を交わすくらいの物にはなっていた。
出来上がった物が以下となる。
アイロス王国軍は即時武装解除する代わりに、軍団長クラスの身柄の引き渡し免除。
アイロス城、各所の砦、貴族領の無条件解放する代わりに、王族と貴族の身の安全の保障。
ソートマス王国軍のアイロス王国王都への侵攻は五日後とする。
それ以降、各所を不当占拠し続ける者に対しての安全は保障されない。
戦争終結後の兵士達の仕事に関しては、後日再協議の場を設ける。
要は、アイロス王国軍は武装解除し、ソートマス王国軍はアイアニル砦で五日間侵攻準備を整える間に、王族と貴族は逃げ出せと言う事だ。
アイアニル砦からアイロス王国の王都まで十日間掛かるらしいから、実質半月の猶予はある。
それ以降残って抵抗を続ける者に対しては容赦なく攻撃を仕掛ける。
兵士達の仕事に関しては軍で決める事は出来ず、ソートマス王国から新たにアイロス王国を治める貴族と再協議と言う事になった。
恐らく、ラノフェリア公爵が治める事になるだろうから上手くやってくれるはずだ。
会合の後、深夜にも関わらずアイアニル砦の門が開かれて、ソートマス王国軍が中に入ってくことになった。
俺は限界を迎えており、リゼを抱えて家に戻ってすぐに眠った…。
翌日は昼頃に目覚め、リゼに着替えさせてもらった後リビングに出て行ったがそこには誰も居なかった…。
「リゼ、ルリアとリリーはどこに行ったんだ?」
「表にいらっしゃいます…」
「そうか…」
ルリアの大怪我は治療したが、今日くらいまでは安静にして貰いたかった…。
リリーは止めたのだろうが、ルリアが聞かなかったのだろうな。
俺はルリアを家の中に連れ戻そうと思い、玄関から表へと出て行った。
家は俺が作った土壁で覆われているから、訓練するような広さは無い。
だからだろう、玄関から出た先にはルリアとリリーの姿は無く、土壁の外から魔法の音が聞こえて来ていた。
「リゼ、様子を見て来る」
「はい、私は昼食の準備をしておりますので、なるべく早くお戻りください」
「分かった」
俺は一人で飛び上がると、ルリアとリリーとロゼがすぐ近くにいるのが見えたので三人の近くに下り立った。
ここにいたソートマス王国軍は、アイアニル砦に入って行ってもういないな。
「ルリア、安静にしていないとだめじゃないか!」
俺は魔法の訓練をしているルリアに近づいて行って注意したのだけれど…。
「なによ!」
俺の方を振り向いたルリアはぎろりと俺の事を睨みつけて来た。
あぁ…昨日やられた
「怪我も治ったばかりなんだから、せめて今日一日くらいは安静にしていてくれ!」
「怪我はもう完全に治ったわ!それよりエルレイ聞いたわよ!」
「聞いたって何を?」
「昨日剣で一騎打ちをしたんですって?リゼが格好良かったと自慢していたわ!」
「それは…」
ルリアはやられただけでは無く、俺が剣で戦った事にも怒っているのか…。
リゼが、俺とカールハインツの戦いを詳細に説明したのだろう。
昨日の戦い方は、ルリアの前では見せていなかったものだからな。
ルリアの剣の腕も上がっており、俺との訓練では互角に渡り合っている。
でもそれは俺の実力では無く、ルリアとの訓練では手を抜かれていたと判断して怒っているのだ。
だが、貴族としての剣術では手を抜いていないと言いたいが、ルリアは納得しないだろうな…。
「分かった…しかし、ルリアの体調が完全に治り、家に戻ってからにしてくれ」
「なぜよ!」
「剣がこのありさまだからな…」
俺は折れ曲がった剣を収納魔法から取り出してルリアに見せた。
「…仕方ないわね!でも帰ったら勝負よ!」
「うん、約束する」
何とかルリアに納得させ、リゼが昼食の用意をしているからと皆で部屋に戻って頂く事となった。
昼食後は、皆でアイアニル砦に行く事となった。
ルリアには家で大人しくししていて貰いたかったが、俺の言う事に従う様なお嬢様では無いんだよな…。
それに、家をアイアニル砦の中に移動しなくてはならなかったし、ルリアの事は俺とリリーが着いていて体調の変化に気を付けてればいいだけの話だ。
そう提案して来たのはリリーで、リリーもルリアと同様にアイアニル砦の中を見たかったのだろう。
「これが私を殴ったゴーレムなのね!」
「埋まっているけどね…」
昨日の今日と言う事もあり、地面に埋もれたゴーレムはそのままの状態で放置されていた。
ルリアはその場所を睨みつけ、いきなり魔法を撃ち込んだ!
「憎たらしいわね!」
ルリアの放った魔法で俺が落とした玉の残骸は吹き飛んだが、地面に埋まったゴーレムに影響を与える事は無かった。
しかし、玉の残骸の撤去は出来たから、この後軍で回収する際の手間は省けたのかも知れない…。
「ルリア…」
悔しい気持ちは分かるが、いきなり魔法を放つのはやめて貰いたかった。
護衛として着いて来てくれている兵士達が怯えてしまってるし、門を守っている兵士達も何事かと驚いていた。
「ふんっ、行くわよ!」
一発魔法を放った事で気が済んだのか、ルリアは門に向かって歩き始めた。
俺達もルリアに遅れない様に着いて行き、開け放たれた門を通ってアイアニル砦の中へと入って行った。
砦内ではソートマス王国軍の兵士達が、アイロス王国軍から渡された武器や防具の回収を行っていた。
昨日取り交わされた約束は問題無く果たされているという事なのだろう。
ソートマス王国軍の兵士達がアイロス王国軍の兵士達を不当に攻撃している様子も見受けられないし、ここで争いが起こる事は無さそうだな。
俺達が砦内部の見学をしていると兵士一人駆けつけてきて、ダニエル軍団長が呼んでいると知らせてくれた。
「行って来るが、ルリアは砦内で魔法を使わないように!」
「分かっているわよ!」
「リリー、ルリアが暴走しようとしたら止めてくれ!」
「はい、任せてください」
ルリアは俺がリリーに頼んだ事を怒っていたが、先程の魔法を放ったことがあったから俺が殴られる事は無くすんだ。
ルリア達と別れて、知らせに来てくれた兵士の後に着いて行っていたが…、ダニエル軍団長に呼び出される理由が分からずにいた。
もしかして、軍に活躍の場を与える事無く戦争が終わった事を怒られたりするのだろうか?
その可能性は高いかも知れない。
五万の兵を用意したのに、アイアニル砦ではその活躍の場を俺が奪ってしまった。
被害が出ない事が喜ばしいとは思うが、兵士達からは不満の声が上がって来ているのかも知れない…。
ここは素直に謝って置いた方が良さそうだな。
俺が考え事をしていると、いつの間にか目的地に着いたみたいだ。
「アリクレット男爵様、こちらの上の階になります」
これは昨日俺が破壊しようとした建物で、ソートマス王国軍が指揮所として使用しているみたいだ。
壊さなくて良かったと思いつつ、建物の中に入って階段を上って行った。
一番上の階にある扉の前に到着し、兵士が中に声を掛けた後俺は室内に入って行った。
室内の中にはソートマス王国軍の軍団長達が勢ぞろいしていて、更には昨日俺と剣で戦ったカールハインツや俺に声を掛けて来たトリステンと言ったアイロス王国軍の軍団長達も居た。
皆忙しそうに書類仕事や部下達との話し合いをしていたが、俺が部屋に入ると視線が俺に向けられてきた…。
視線を浴びる中、俺は呼ばれたダニエル軍団長の席へと進んで行き、ダニエル軍団長に頭を下げた!
「申し訳ございません!」
謝罪が遅れると印象も悪くなるし、先に謝罪しておけばそれ以上悪化する事は無いと言う打算もあった。
「アリクレット男爵、何の謝罪だ?」
「ソートマス王国軍の活躍の場を奪ってしまった事に対してです!」
俺がそう言うと、それまで騒がしかった室内に静寂が訪れた…。
そして、その静寂を破ったのがダニエル軍団長だった。
「わははははははは!」
ダニエル軍団長が大声で笑うと、他の人達も声を上げて笑っていた。
「誰もそんな事は思っていないぞ!むしろ、お互いの軍に被害が少なく済んだ事を感謝したい!
カールハインツ軍団長もそう思わないか?」
「もう儂は軍団長では無いのだが、その意見には同意する!」
「そう言う事だから気にするな」
「はぁ…」
それなら俺の行動は間違ってはいなかったという事で、ほっと胸を撫で下ろした。
「そんな事よりアリクレット男爵には頼みがある」
「はい、僕に出来る事でしたら構いません」
そして、ダニエル軍団長から頼まれた事は風呂の事だった。
両軍合わせて九万人を超えていて大変だが、活躍の場を奪った罪滅ぼしの為にも俺は頑張る事にした…。
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