第八十七話 アイロス王国との戦争終結 その一
リゼに体を綺麗に洗って貰い、ロゼに体を拭いて貰って着替えさせて貰った。
二人に裸を見られるのは毎日の事だから慣れた…という事は無く。
やはり異性に裸を見られるのは恥ずかしいものだ…。
今度こそ、ルリアの看病をリリーと交代するべく寝室へと向かって行った。
寝室に入るとルリアは目覚めていて体を起こしており、リリーがルリアに抱き付いて泣いている所だった…。
ちょっとタイミングが悪く、一度寝室から出て行こうかと思ったが、ルリアと目が合ってしまったのでそのままルリアとリリーの傍まで行く事にした。
「ルリア、体の調子はどうだ?まだ痛い所があったりしないか?」
「えぇ大丈夫よ!どこも痛くは無いわ!」
「そうか…良かった…」
ルリアの無事が確認できたことが非常に嬉しく、俺はルリアとリリーの二人を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、エルレイまで大袈裟なのよ!」
「だ、だってなぁ…」
「そうです!二人共大怪我をして戻って来て、心配しながら待っている私の気持ちも考えてください…。
でも、二人とも無事で本当に良かったです…」
「そうね、リリーごめんなさい」
「うん、僕もごめん…」
ルリアは泣きながら怒っているリリーの頭を優しく撫で、俺は抱きしめている手に少しだけ力を込める事でリリーに謝罪した。
「エルレイまで泣く事無いじゃない…」
ルリアに言われて始めて俺が泣いている事に気が付いた。
ルリアが無事に元気になった事が本当に嬉しかったからだと思う。
ルリアが倒れていたのを治療した時に気付いたのは、ルリアの頭蓋骨にひびが入っているという事だった。
もしかしたら、ルリアはこのまま目を覚まさないんじゃないか…とも思ったほどだが、その事は決して口には出さなかった。
傍に居たリゼ、救出しに来たロゼ、家で待っているリリーに余計な心配を掛けたくは無かったからな。
しかし、元気に目覚めたルリアを見て安心して気が緩んだから出た涙なのだろう…。
ルリアに涙を見られて恥ずかしいと言う気持ちより、嬉しい気持ちが勝ってそのまま泣き続けてしまった。
「紅茶を用意しました。こちらにお持ちした方がよろしいでしょうか?」
ロゼが、俺達が離れたタイミングを見計らって声を掛けてくれた。
「テーブルに行きましょう!」
そう言って、ルリアはベッドから元気に飛び出した。
俺とリリーに体の異常が無い事を見せたかったのだろう。
「ロゼにも心配かけてしまったわね!でもこの通り元気になったわ!」
「はい、しかし、無理はなさらぬようお願いします」
「分かっているわ!」
ルリアはロゼに元気な姿を見せ、その後リゼの所に行って助けてくれた事に感謝していた。
五人でテーブルの席に座り、紅茶とお菓子を頂きながら皆に状況を報告した。
「戦争が終わったですって!」
「う、うん…まだ正式に決まった訳では無いんだけれど…」
ルリアがバンッとテーブルを両手で叩きながら立ち上がり、俺の事を睨みつけて来た…。
ルリアとしては、やられたまま戦争が終わった事に対して怒っているのだろう。
俺としても、危険を排除しようとしてやっただけの事で、まさかアイロス王国軍が敗北を認めるとまでは思っていなかったからな…。
「この後、お互いの軍の上層部が話し合いによってどの様な形で終えるのかを話し合う事になっている」
「はぁ…最悪だわ!」
ルリアはため息を吐きながら椅子に座り、活躍の場が無かった事を嘆いている様子だ…。
俺はルリアがそのまま殴って来るのかと思って身構えていたのだが、そうならずに済んでよかったと安堵した。
「ルリア、被害が少なく済んで戦争が終わるのですから、とても良い事だと思います」
「それはそうなんだけど、納得がいかないわ!」
リリーに諭されるもルリアの機嫌が直る事は無かった。
「戦争が終わり、この砦がソートマス王国の物となった後には俺もこの砦の事を調べたいから、その時はルリアに協力して貰うからさ」
「…分かったわ!約束よ!」
「うん、約束するよ!」
ルリアはようやく機嫌を直し、お菓子に手を伸ばして食べ始めた。
約束したからには、アイアニル砦の調査を陛下にお願いし忘れないようにしないといけないな。
俺はその事を忘れないようにと心に刻んでおいた…。
ソートマス王国軍とアイロス王国軍の話し合いの時間となり、俺はリゼと共にアイアニル砦の前へとやって来た。
ルリアは話し合いには興味が無いのか、すんなりと留守を承諾してくれた。
リリーが厳しい目でルリアを睨んでいたからかも知れないが…ルリアには暫く大人しくしていて貰おうと思う。
アイアニル砦の前は、リゼが降らせた雨がまだ残りぬかるんでいて、俺が落とした玉で埋まったゴーレムもそのままの状態だった。
そのゴーレムを避けるような形で大きなテントが設置されており、俺はその近くへと下り立った。
「お待ちしておりました。中へお入りください」
テントの前に立っていた兵士に案内されて中に入ると、集まっていた人達の視線が一斉に突き刺さって来た。
どうやら俺が一番最後みたいで、両陣営のお偉いさんが長テーブルに向かい合って着席していた。
皆真剣な表情をしていて緊迫した空気に包まれている中を、俺は兵士の後に着いて歩いて行く。
「こちらにお掛け下さい」
案内された席は何故か一番奥の正面の席で、しかもちゃんと俺の身長に合わせたかのように一段高い椅子が用意されていた。
俺はソートマス王国軍の方だと思うのだが、なぜ両陣営の中央に?という疑問が浮かんで来るが、俺が座らない事には始まりそうに無いので大人しく着席した。
「これよりソートマス王国軍とアイロス王国軍の終戦交渉を開始いたします」
進行役の兵士が、やや緊張気味の震えた声で開始を宣言した。
そしてそのまま、出席者の紹介を行って行った。
ソートマス王国軍からは、ダニエル第一軍団長、ローベルト第三軍団長の二名。
アイロス王国軍からは、カールハインツ第一軍団長、トリステン第二軍団長、ヴァロド第三軍団長、オドアス第四軍団長、ブルクハルト魔法師団長、コルライド近衛騎士団長の六名。
ソートマス王国軍の方は二人しかいないが、まだ戦争が終わった訳では無く、軍の指揮を疎かにする事は出来ないため仕方が無い。
一方、敗北を宣言したアイロス王国軍側は全軍団長が出席しているのだろう。
そして最後に俺の紹介が終った。
それにしてもアイロス王国側の一部の人達からの殺気が凄い…。
はっきり言えば、ブルクハルト魔法師団長とコルライド近衛騎士団長の二人で、上空に上がってきた魔法使いは倒したし、意図してやった訳では無いがアイロス王国の国王を殺害したのだから当然と言えば当然なのだが…。
俺の後ろに控えているリゼも負けじと殺気を飛ばしているし…。
こんな事でまともな話し合いが出来るのだろうかと心配になってしまう。
「ブルクハルトにコルライド!邪魔するようなら追い出すぞ!」
カールハインツが二人に怒鳴りつけると、ブルクハルトは舌打ちしながら、コルライドは歯を食いしばりながら殺気を放つのを止めた。
「リゼも落ち着いてくれ」
「承知しました」
俺もリゼを窘めた事で殺気を出すのを止めてくれた。
「アイロス王国軍側からの条件をお伝えいたします」
アイロス王国側の兵士が紙を手に、アイロス王国軍の降伏条件を提示してきた。
一つ、アイロス王国軍の兵士の安全の保障を求む。
一つ、アイロス王家と貴族の安全を求む。
一つ、アイロス王国王都への侵攻は一ヶ月の猶予を求む。
一つ、アイロス王国の民と財産の保証を求む。
一つ、戦争終結後の兵士達の仕事を求む。
アイロス王国側からの要求は俺としては当然の事だと思ったが、ソートマス王国軍の二人はいい表情を見せていないな。
そして、ソートマス王国軍からの条件を伝えた。
一つ、アイロス王国軍の即時武装解除。
一つ、軍団長クラスの身柄の引き渡し。
一つ、アイロス王国国王の身柄の引き渡し。
一つ、各所の砦の無条件解放及び、アイロス城の引き渡し。
一つ、各貴族領の無条件解放及び、貴族の身柄の引き渡し。
ソートマス王国軍からの要求にも、アイロス王国側は渋い表情を見せていた。
特にコルライド近衛騎士団長は歯を食いしばり、怒りを我慢しながら恨みのこもった言葉を俺に向けて吐き出した。
「国王陛下は
俺が破壊した塔から死体が見つかったのだろう…。
アイロス王国側の人達は顔を下に向けて目を瞑り、ソートマス王国側の人達も目を瞑ってご冥福を祈った。
殺害した俺が祈るのは違うと思い、時が過ぎるのを待つ事しか出来なかった…。
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