第八十四話 アイアニル砦へ侵攻 その七

≪アイロス王国軍 トリステン視点≫

少年の魔法使いの攻撃によって国王陛下がいる沈黙の塔が完全に破壊されてしまい、近衛騎士を中心として近くにいた兵士たち総出で国王陛下の救出を行おうとしている。

俺も仕事をしなくては!


「建物内にいる者達を即座に外に避難させろ!」

「はっ!」

次に狙われるのは、司令室のある建物になるのは間違いないだろう。

外に出た所で安全ではないかもしれないが、建物内にいるよりかはましだ。

俺はカールハインツを探しに建物近くへとやって来た。

「誰か、カールハインツ軍団長を見かけた者はいないか!」

逃げ出す兵士達をかき分けながらカールハインツを探すが見つからず、建物に近づいたころでやっと見つけることが出来た。

「カールハインツ軍団長は最後まで残ると言って建物内に…」

「あの馬鹿が!おいそこのお前、カールハインツを殴ってでも連れ出してこい!」

「はっ!了解しました!」

俺でもカーツハインツと同じ判断をしただろうから文句を言う筋合いはないが、国王陛下の安否が不明の今、奴を死なせるわけにはいかない!

カールハインツが出て来るまで、頼むから建物に攻撃しないでくれよ!


「トリステン軍団長!例の魔法使いがこの建物に近づいて来ています。即座に離れてください!」

「ちっ!待ってはくれないか!」

上空を見上げると、メイドを抱きかかえた少年の魔法使いが、今まさに建物に魔法を撃ち込もうとしている所だった!

俺は大きく息を吸いこみ、出せる限りの大声で少年の魔法使いに向けて訴えかけた!


「俺はアイロス王国軍第二軍団長トリステン!君と話し合いをしたい!

こちらは君に攻撃を仕掛けないと約束をするので、下りて来ては貰えないだろうか!」

どうか聞き届けてくれ!そう願いつつ部下に命令を下す。

「絶対にこちらから攻撃を仕掛けるな!特に仲間をやられて殺気立っている魔法師団と、国王陛下の安否が不明な近衛騎士には俺の名前を出してでも徹底させろ!」

「「「「「はっ!」」」」」

部下達が命令の通達に走って行き、俺は上空に停滞している少年の魔法使いに向けもう一度訴えかけようとした。


≪エルレイ視点≫

「リゼ、俺が建物を破壊する間、守りを固めておいてくれ」

「承知しました!」

建物近くまで下りて来ると、地上にいる多くの兵士達が俺達の事を見上げていて、何時攻撃仕掛けられてきてもおかしくない状況だ。

上空に上って来た魔法使いはリゼが倒したが、地上にいる魔法使いはまだまだ大勢いる事だろう。

それらから一斉に魔法を撃ち込んで来られては、防ぐ物が何も無い空中では逃げ出すしかない。

リゼに攻撃を任せて俺が防御に回った方が良いのだが、リゼではあの建物を壊すのは大変だろうと思い、今回は俺が壊す事にした。

周囲の兵士達の士気を下げさせるためには、派手に壊した方が良いだろう。

そう思って、ルリアが得意な火属性魔法で一気に破壊しようと決めた。

まだ意識が戻らないルリアの事が心配だし、ルリアをあんな目に遭わせた敵に遠慮など不要だ。

ルリアがやられた事で冷静ではいられない自分に気が付いているが、怒りを抑える事などできはしない!

俺は建物に向け魔法を放つために魔力を込め始めた。


「俺はアイロス王国軍第二軍団長トリステン!君と話し合いをしたい!

こちらは君に攻撃を仕掛けないと約束をするので、下りて来ては貰えないだろうか!」


俺が魔法を建物に撃ち込もうとしていた時、眼下から大声で叫んで来るのが聞こえて来た。

「エルレイ様、いかがなさいますか?」

「そうだな…」

俺は魔法を一時中断し対応を考える…。

叫んで来た人が第二軍団長と言う事で、軍の中では地位が高い方だろう。

俺がその話を無視して破壊行動に移れば、相手は徹底抗戦せざるを得なくなるよな。

ここで俺が相手の要求通り下りて行ったとして、攻撃を受けないと言う保証は全く無い。

更にこのアイアニル砦は、魔法が効かない素材で作られた城壁があり、ゴーレムなんかも出て来る危険な砦だ。

最悪、地上に降りると魔法が使えなくなる可能性も否定は出来ない…。

俺だけなら地上に降りて話し合いに応じる事も出来るが、リゼまで危険に巻き込みたくはない。

しかし、話し合いの内容次第ではお互いの犠牲者を減らす事が出来るかも知れない…。


「リゼ、危険だと思うが下に降りて見ようと思う。背中の守りは任せたぞ!」

「はい、承知しました!」

リゼを巻き込んでしまう事にためらいがあったが、どこかに置いて来ようとしてもリゼは着いて来ると言うだろうしな…。

俺は覚悟を決めて、ゆっくりと地上に下りて行く事にした。


大声で叫んでいた男性の三メートルほど前に下り立った。

ここまでゆっくり下りてきたにもかかわらず、魔法や弓で攻撃される事は無かった。

しかし油断はせず、いつでも攻撃できる体制を整えておかないといけない!

リゼを地面に立たせ俺の背後に回って貰った。

何せこの場所はアイアニル砦の中心部で、俺達の周囲を取り囲むように兵士達が詰め寄って来ている。

一応十メートルほど距離は離れているが、一瞬で間合いを詰められボコボコにされるのは目に見えている。

よくまぁこんな場所で話し合いをしようと言って来たものだと思うが、降りて来た俺もたいがいだなと思う…。

勇者として様々な危険を潜り抜けて来ていなければ、決して下りようとは思わなかっただろう。

今は勇者では無いし年も若いので力は無いが、魔法と言う存在がこの判断を後押ししてくれたのは間違いない。

今も俺とリゼを障壁で守っているから、この場で怖がらずに立っていられる。

俺は胸を張り堂々とした態度を見せながら、目の前の人に話しかけた。


「僕はエルレイ・フォン・アリクレット男爵。

話し合いの為に下りて来たが、少しでも敵意を向けて来た場合は容赦無く攻撃する!」

「俺はアイロス王国軍第二軍団長トリステン・ダーリングだ。

先程も言った通り手出しはしないように厳命はしてあるので安心してくれ。

とは言え、俺も全員を掌握している訳では無い、暴走する奴が居たら俺の部下が全力で止めるので容赦して欲しい。

さて、先ずは話し合いに下りて来てくれた事に感謝を伝える」

トリステンは軍団長と言う立場にありながらも、子供の俺に頭を下げてくれた。

その事で周囲にいた兵士達がざわめくが襲い掛かって来る者はおらず、ひとまずは安心しても良いのかとも思った。

トリステンはゆっくりと頭を上げ、真っすぐと俺を見ながら口を開こうとしていた。


「待てトリステン!話なら儂がする!」

そこに横幅の広い屈強の男が割って入って来た。

「カールハインツ、ここは俺の責任で話を付ける」

「お前はそれで良いかも知れんが、この場の責任者は儂だ!良いから黙って下がれ!」

俺と話をしようとしていたトリステンは、カールハインツと言う者に言い負かされて渋々と下がって行った。

俺としても、ここの責任者だと言う者と話した方が話は早い。

「待たせたな小僧、儂はぐだぐだと話をするのは苦手でな。

この儂と剣で勝負して小僧が勝てば、アイロス王国軍の敗北を認めてやろう!

どうだ、悪い提案ではないであろう?

儂一人を倒すだけで、アイロス王国全軍を相手にしなくてよくなるのだからな!

それとも、魔法だけが得意で腰に下げた剣はただの飾りか?」

カールハインツはにやにやとした笑みを浮かべながら、俺を挑発してきた。

そんな見え透いた挑発に乗るほど俺も馬鹿では無いが…。

カールハインツの言葉に嘘が無いとすれば、この男を剣で倒すだけで戦争が終わるのであれば儲けものだ。

それに、剣で負かしてやって恥をかかせてやろうと言う気持ちが沸き上がって来ている。

なんだかんだ言って、俺は魔法も好きだが剣で戦うのも大好きなんだよな。

この男になら、俺は全力を出して戦ったとしても文句を言われる事は無いだろう。

俺はゆっくりと腰に下げている剣に手を伸ばし、戦う意思を示すために剣を抜いた。

「潔し!」

カールハインツも俺に合わせて剣を抜き、敵兵に囲まれる中で俺は剣で一対一の勝負をする事となった。

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