第八十三話 アイアニル砦へ侵攻 その六

ゴーレムが動かなくなって五分ほどが経ち、あのゴーレムは完全に破壊出来たものと判断した。

また動き出す可能性は否定できないが、近づいて確認するのは危険すぎるし、放置するしか無いのが現状だ。

とりあえず、ソートマス王国軍の方に状況を念話で知らせる事にした。


『ルサームさん、エルレイです。

ただいま城壁から出てきたゴーレムの一体を破壊し終えました』

『はい、こちらでも確認出来ております。

それで、軍が動いた方だよろしいのでしょうか?』

『いいえ、まだ城壁の上には多数の兵士がおり、門も破壊し終えていません。

それに、ゴーレムがあの一体だけとは限りませんし、他の仕掛けもあるかも知れません。

ですので、僕はこれからアイアニル砦内に侵入して、仕掛けを破壊して来ようと思います』

『砦内に!危険ですのでお止め下さい!』

『危険なのは承知しておりますが、仕掛けを破壊しない限り、またゴーレムが出て来る可能性があります。

あのゴーレムを軍で破壊するのは不可能でしょう?』

『それはそうですが…分かりました。定期的に情報をお知らせください。万が一の際には魔法師団を動かし救援に向かいます!』

『その時はお願いします』


ふぅ、何とか納得して貰えたが、俺も危険なのは承知の上だ。

しかし、アイアニル砦の外から幾ら攻撃を仕掛けようと、ゴーレム、もしくは他の未知なる兵器が出て来た場合は一方的にやられてしまうのは間違いない。

多少危険でもアイアニル砦内に侵入して内から破壊する方が確実だし、まだ隠されている兵器があれば出してくるだろう。

問題は危険な場所にリゼを連れて行くかどうかだが…。

どう言いつくろったとしても、リゼは着いて来ると主張するよな…。

仕方が無い、リゼを危険に巻き込みたくは無かったが連れて行くしか無いだろう。


「リゼ、これからアイアニル砦内に侵入し、内部の破壊を行おうと思う。

危険だが着いて来てくれるか?」

「はい、何処までもお供いたします!」

リゼは笑顔で答え、俺の首に回している手に力を込めたのを確認して、アイアニル砦に侵入して行った。


侵入の際に城壁からは魔法で攻撃されたが、リゼが相殺してくれた。

「そう言えば、城壁の上からは魔法が撃てるんだな」

「そうですね。部分的に魔法が使える場所があるのかも知れません」

俺達が城壁に撃ち込んだ魔法は吸収されるのに、城壁にいる敵魔法使いが放つ魔法は吸収されない。

詳しく調べれば攻略する方法も見つかるかもしれないが、今はその時間が無いな。

俺は城壁の上を素通りし、アイアニル砦内の上空に侵入して行った。


砦内にはグリバス砦とは違い大勢の敵兵が配置され、ソートマス王国軍を迎え撃つ準備をしている様子だ。

そして、城壁から報告があったのだろう。

俺に目掛けて地上から、そして上空に飛び上がって来た魔法使い達から一斉に魔法が放たれて来る!

「高度を上げる!リゼは飛んで来た魔法使いを撃ち落としてくれ!」

「はい!」

流石に地上と上空の両方から攻撃を受けては障壁が持たないので、地上からの攻撃が届かない所まで急上昇する事にした。

俺を追いかけて来た魔法使い達はリゼが撃ち落としてくれているから、俺は守りに徹するだけでいい。

結構な高さまで上昇したので、アイアニル砦の全体像が見えてきた。

兵舎や厩舎などの幾つかある建物の中に、異色の塔が中央にそびえ立っていた。

城壁と同じ黒色をしている事から、あの塔も魔法が効かない事は想像できる。

そしてあの塔こそが、ゴーレムを操っていた場所なのでは無いだろうか?

地下にあれば特定は出来ないが、他に黒色の建物は存在しない。

とにかく、あの塔は破壊した方が良さそうだ。


「リゼ、中央の塔に玉を当てて破壊する。少しの間防御を頼む」

「承知しました!」

塔の真上に移動し、収納魔法から大きな玉を取り出して風魔法で包み込んで落とす。

大きな玉は加速して落ちて行き、塔に突き刺さるような形で命中した!

「お見事です!」

大きな玉は塔に当たって砕け散ってしまったが、塔も玉が当たった衝撃で上部は崩れていた。

「続けて落とす」

俺はゴーレムと同じように、五個の玉を塔に落として破壊して行った。

大きな玉は残り五個となってしまったが、塔の破壊には成功した。


「他に怪しい建物は無いよな?」

「恐らく、あの大きな建物から指令を出したりしているのでは無いでしょうか?」

「そうだな…残りの玉が五個しか無い。ゴーレムが出て来た時に取って置きたいから、あれは魔法で壊す事にしよう」

「はい、承知しました」

俺は高度を落としながら、指令室があると思われる大きな建物の近くへと降下して行った。


≪アイロス王国軍 トリステン視点≫

国王陛下が、兵士達の間で沈黙の塔と呼ばれている、アイアニル砦の中央にある入り口の無い塔へと入って行った。

国王陛下からの説明では王族のみ入る事が許されている塔で、このアイアニル砦の仕掛けを作動させる事が可能だと言う事だった。

その仕掛けの説明は無かったが、魔法使いの少年達がアイアニル砦に攻め込んで来た所で判明した。


「報告します。城壁の一部が巨大な人型となって動き出し、少年と少女の魔法使いを叩き落して踏みつぶしたとの事です!」

アイアニル砦の指令室からは城壁の外を見る事は出来ないが、伝令からの報告によると国王陛下が仕掛けを使って魔法使いの少年を倒したとの事だった。

指令室に集まっていた者達から歓声が起こった。

あっけない幕切れに俺も喜んだが、その後の報告でまだ終わっていないのだと確信した。


「地上近くに霧が発生し、何も見えなくなったとの事です!」

魔法使いは五人居た筈だ。

そのうちの二人を倒したのだとしても、三人残っている。

俺は報告を密にするよう指示を出し、続報を待った…。


「霧が消え、少年の魔法使いがメイドを抱き上げて、巨大な人型と交戦を開始しました!」

グリバス砦で見た少年は生きていたという事か…。

メイドを抱えて戦場に来る者など他にいないだろうからな。

続けざまに来る報告は、あまり良い物では無かった…。

国王陛下が操る仕掛けの攻撃は一向に魔法使いの少年には当たらず、魔法使いの少年の方が色々仕掛けている様子。

そしてついに、国王陛下の操る仕掛けが倒され、上空から岩を続けざまに落とされて仕掛けが動かなくなったとの事だった。

先程まで歓声を上げていた者達も沈黙し静かになった…。


「国王陛下から何か連絡は無いのか?」

「ありません」

塔に入った国王陛下からは一切の連絡もなく状況がつかめない。

まだ仕掛けはあるのか、それとも仕掛けは一つのみだったのか、それが分かれば軍としてどの様に動けばいいか判断できるのを…。

しかし、国王陛下からの連絡を待っている余裕は無い。

カールハインツの判断に委ねる事にする。


「カールハインツ、どう動く?」

「魔法師団を動かし、敵魔法使いの殲滅を行う!」

「それは無謀だ!」

「それしか方法があるまい!国王陛下自ら戦っておられるのに我々が何もしない訳にはいかんだろ!」

「そ、それはそうだが…」

俺はエレマー砦に攻め込んだ際、大勢の魔法使いが成す術もなく一方的にやられたのをの当たりにしている。

カールハインツにはその事は報告済みだが、国王陛下が戦場に立っている以上俺達も戦うしか道は無いのか…。


「少年の魔法使いが城壁を越え、砦上空に攻め込んできました!」

「魔法師団で迎撃せよ!第三、第四軍団は門の守りに付き、第一、第二軍団は国王陛下の守備に勤めよ!」

「「「「はっ!」」」」

カールハインツから命令が下され、俺達は持ち場へ向かう事となった。


指令室のある建物から外に出ると、魔法師団と少年の魔法使いとの間で戦闘が開始されていた。

「状況は?」

「はっ、魔法師団の被害は甚大!一方敵魔法使いは無傷の模様」

「そうか…俺達は国王陛下の守護だが、リンジョンは部隊を率いて、負傷した魔法師団の回収と治療を行え!」

「はっ!」

「残りは上空からの魔法攻撃に備えて、沈黙の塔周辺に散開!」


国王陛下の守りに付いたが、俺達では少年の魔法使いに対抗できる手段を持ち合わせてはいない。

上空を見上げると味方魔法師団の姿はすでに無く、小さく見える少年の魔法使いの姿だけ確認出来た。

そして上空から、先程報告のあった岩が落とされて来て沈黙の塔に命中した!

「全員沈黙の塔から離れよ!」

国王陛下の救出に向かいたいが、中に入る手段を俺達は持ってはいない上に、壊された塔の破片が周囲に落下して来て近寄れない。

沈黙の塔を守護していた近衛騎士たちも命からがら逃げだして来ていた。


「国王陛下…」

俺達はただ、沈黙の塔が破壊されて行くのを見ている事しか出来なかった…。

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