第八十二話 アイアニル砦へ侵攻 その五

リゼが霧を解除し、俺がリゼを抱きかかえて上空に飛び立った事でゴーレムが俺に気が付いたみたいだ。

リゼに倒すと言ったが、まだ明確に倒す算段が整っている訳では無い。

ゴーレムはアイアニル砦と同じ素材で作られている様だから、魔法を吸収するのは予想できる。

ゴーレムは五メートル程の身長があり、幸いな事に動きはそこまで早くなさそうだ。

あの大きさで空を飛ぶとは思えないが、一応飛んで来る事も想定していた方が良いだろう。

俺はゴーレムに接近して、すれ違いざまに魔法を撃ち込み即座に離脱した。

やはり魔法は吸収されてしまうな。

となると、物理攻撃に頼らざるを得ないが、動いているゴーレムに大きな玉を落として当てるのは無理だろう。

どうにかしてゴーレムの動きを止めないといけないが…。

ゴーレムは周囲を飛び回る俺に対して、剣を振り回して斬りかかって来ている。

飛び道具は持っていないのか?

それならば楽でいいのだが、切り札は最後まで隠しておくのが定石だよな。

ゴーレムの動きに細心の注意を払って攻撃を避けながら、攻略方法を考えて行く…。


「エルレイ様、ゴーレムを倒す手立てはあるのでしょうか?」

俺がゴーレムに対して手も足も出ない状況を心配して、リゼが尋ねて来た。

「うーん、門を壊すのと同じ手段しか無いんだけれど、ゴーレムの動きを止めない事には無理なんだよね…。

リゼは何か良い手段を思い浮かばないかな?」

「そうですね…」

リゼもゴーレムの動きを注視しつつ策を考えてくれている…。

「あっ!エルレイ様、落とし穴を掘って埋めてしまうと言うのはどうでしょう?」

「あのゴーレムが入る落とし穴を掘るとなると、飛行魔法が疎かになりそうだ…。

しかし、落とし穴か…」

「そうですね…」

リゼの考えてくれた案は悪くはない。

ゴーレムを埋めなくとも、転ばせる事が出来ればいいのではないか?

あの大きさだ、一度転べば起き上がるのにも時間が掛るかも知れない。

「よし!リゼの案を試して見よう!」

「よろしいのでしょうか?」

「うん、大きな穴は作れないけれど、ゴーレムの足が入るくらいの穴なら簡単に作れる。

リゼは、激しい雨を降らせてくれないかな?」

「雨を出しょうか?」

「雨でゴーレムの視界を遮ると同時に、地面を湿らせて滑りやすくしてもらいたいんだ」

「承知しました!スコール!」

リゼに俺の考えている事が伝わり、ゴーレムの周囲に激しい雨を降らせてくれた。

俺はゴーレムの攻撃を躱しつつ、少し離れた場所に穴を掘った。

穴には直ぐにリゼが降らせた雨水が溜まり、その存在を隠してくれる。

雨で視界が悪い中、ゴーレムも必死に俺に剣で攻撃し続けて来る。

そしてゴーレムが動けば、雨で湿った地面がぬかるんで行っている。


俺の予想通り、雨は吸収されないみたいだな…。

水属性魔法の中で、水に関する幾つかの魔法は実際の水を作り出す。

他の魔法、例えば地属性魔法の土壁を作る魔法などは、魔法に込めた魔力が無くなれば土壁は消えて無くなってしまう。

しかし、水を作り出したりする魔法だと、魔法に込めた魔力が無くなったとしても作り出された水が消える事は無い。

多分、魔法で作り出した飲み水を飲んでも魔法に込められた魔力が消えれば意味が無くなり、雨を降らせて乾いた大地を潤したとしても効果が無くなって意味が無くなるからだとと思う。

誰が魔法を作り出したのかは不明だが、よく考えられていると感心する。

今回の場合も、リゼが作り出した雨はゴーレムの表面を濡らしていて、吸収されてはいない。

温度を下げて凍らせる事も可能かもしれないが、表面を凍らせたところで動きが止まる事は無いだろうし、地面を凍らせたとしても、重さで氷が割れるだけだろう。


俺は地面を滑りやすくする為、ゴーレムを誘導する様に飛び回って歩かせ続けた。

「エルレイ様、そろそろよろしいのでは無いでしょうか?」

「そうだね。ゴーレムが上手く転んでくれた後は急上昇して玉を落とすから、しっかり掴まっていてくれ」

「はい!」

リゼは俺の首に回している手に力を込め、ギュッとしがみついて来た。

リゼの柔らかい胸の感触と良い香りが気になるが、今はゴーレムに集中しなくてはならない!

気を引き締め、ゴーレムを穴の場所へと注意深く移動させていった…。


「よし!」

ゴーレムの左足が穴にはまり、ゴーレムはバランスを崩して前のめりになったが、右足を大きく前に出して踏ん張り堪えてしまった!

「あぁ~」

リゼの落胆したため息が零れた…。

しかし次の瞬間、前に出した右足がぬかるんだ地面で滑り、ゴーレムは仰向けに倒れてくれた!

「エルレイ様、今です!」

「うん!」

俺は急上昇し、収納魔法から大きな玉を一つ取り出して風の魔法で玉を包み込んで加速させた!

「頼むから避けるなよ!」

俺は祈るような声を上げ、玉がゴーレムに当たるように魔法を操作し続けた。


ドガンッ!

低く大きな音が鳴り響き、俺が落とした大きな玉がゴーレムのお腹部分に命中した!

「よし!」

玉は割れてしまったが、威力は申し分ないだろう。

「エルレイ様、まだまだ落としましょう!」

当たった事を喜んでいる場合では無いな。

リゼに言われた通り、二個目、三個目の玉をゴーレムに向けて落として行った。

大きな玉を十個落とした所で、ゴーレムの様子を窺って見る。

「動いて無いよな?」

「そうですが、油断大敵です」

ゴーレムは玉を受けた衝撃で、地面に完全に埋まっている。

と言うより、玉が上に乗っていて見える場所が無いと言った方が正しいな…。

残りの玉も全部当てた方が良いか迷う所だが、ゴーレムが一体だけとは限らない。

ゴーレムが起き上がろうとしない限り、温存しておいた方が良いだろう…。


≪アイロス王国軍 ノルベール国王視点≫

霧が晴れた途端、倒したはずの魔法使いが飛び出て来た。

「まぁよい。また叩き落してくれる!」

ゴーレムの剣を構え、魔法使いを迎え撃つ!

「とう!!やっ!はっ!」

我の剣はまだまだ衰えてはおらぬな!

アイロス王家の者は、男女問わず幼い事から剣術を習得する義務がある。

表向きは王族として皆の規範となるためとなっておるが、本来の目的はこのゴーレムを操るためである。

ゴーレムは操る者の動きをそのまま反映する。

故に剣術を習得し、今の我の様にアイロス王国を脅かす者をゴーレムを使って排除するのである。

しかし、飛び回る魔法使いはコバエの様に捕らえがたい。

幾ら剣の達人と言えども、素早く飛び回るコバエを斬り裂くのは至難の技であろう。

我も剣術を極めてはおるが、王座につき三十数年の月日の間剣を持つ事は無かった。

それ故に、コバエに当たらぬのも致し方なし。


魔法使いの方は苦し紛れの魔法を撃ち込んできておるが、このゴーレムを含むアイアニル砦は魔法を全て吸収し、魔道具としてのアイアニル砦の力となる。

ゴーレムを動かすためには莫大な魔力が必要となる。

普段は大気中の魔力を吸収し、緊急時に起動できるようになっておるが、それでもゴーレムの活動時間は限られたものとなる。

後二時間ほどでゴーレムは使用不可能になってしまうが、魔法使いがどんどん魔法を使ってくれればその時間も増えると言うものだ。

いつまでも魔法使いと戯れておるわけにはいかぬが、我の剣は一向に当たらぬ…。

魔法使いを無視し、ソートマス王国軍を蹴散らした方が利口な判断だろう。

そう思った折、魔法使いが我の視線を遮るかのように大量の雨を降らせおった。

「小癪な!」

やはり、魔法使いから先に倒さねばならぬか!

剣を振り回すも一向に当たりはせぬ…。

雨に濡れた地面は滑りやすくなっており、これが魔法使いの狙いだと気付いた時には足を取られてしまっておった。

何とか堪えたものの、滑って仰向けになってしまった!


ゴーレムと我は一心同体、故に離れた場所にいる我も寝ころぶ事になる。

「早く起き上がらねば!」

起き上がろうとするが、ゴーレムの方は滑って起き上がる事が出来ぬ。

「むっ、何か降って来ておる!」

降りしきる雨の中、巨大な何かがゴーレムに向けて落ちて来ておった!

「ぐほっ!」

ゴーレムの腹にそれが命中し、我の腹にも衝撃が伝わって来た!

ゴーレムの感覚は我と共有しておるが故に、ゴーレムに与えられた衝撃も我に伝わって来る。

これが唯一の弱点なのだが、魔法が効かぬゴーレムに衝撃を与えられるものなどありはしない!

そう知らされておったが、そうでは無かったのだな…。

次々と我に衝撃が伝わって来て、我はいつしか痛みで意識を失っておった…。

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