第八十一話 アイアニル砦へ侵攻 その四

≪アイロス王国軍 ノルベール国王視点≫

「何ともあっけない物だの。所詮魔法使いなど我の敵では無かった!」

アイアニル砦に張り付いておった魔法使いを倒すと、城壁に居た兵士達から我を賞賛する声が聞こえて来た。

どれ、兵士達に応えてやらぬとな。

我は城壁の兵士達の方向へと向き右手を上げると、ゴーレムも振り返って剣を持った右手を上げた。

我はアイアニル砦の中央の塔内におるのだが、ゴーレムとは魔術的に繋がっており、我の動きがそのままゴーレムの動きとなる。

我の巧みな剣さばきを皆に見せる前に敵が死んでしまったのは残念だが、まだ敵は沢山残っておるからの。

魔法使いだけ倒すつもりであったが、ついでにソートマス王国軍も蹴散らしてくれようぞ!

ゴーレムでソートマス王国軍を蹴散らそうと振り返ってみると、霧が足元に発生してソートマス王国軍が見えなくなっておった。

ソートマス王国軍が苦し紛れに霧を発生させたようだが、そう長くは持つまい

しかし、足元が見えぬまま進むのは危険だの。

ゴーレムが転んでしまっては、後で皆に笑われてしまう。

今頃ソートマス王国軍は慌てて撤退しておるのだろうが、ゴーレムの移動速度であれば霧が晴れてから追いつくのも容易だ。

暫し待つことにするかの…。


≪エルレイ視点≫

「エルレイ様…エルレイ様…」

近くで俺の名前を呼びながら泣いている女性の声が聞こえて来た…。

この声はどこかで聞いたことがあるような…。

もやがかかったような思考が徐々に覚醒されて行くにつれて…俺の名前を呼ぶ声がリゼの物だと分かり始めた…。

「痛っ!」

右足から激痛が走り一気に目が覚めた!

「エルレイ様!まだどこか痛い所がございますか?!」

目を開けると、涙を流したリゼの顔が俺を心配そうにのぞき込んでいた。

「っ!ルリア!ルリアは無事か!?」

俺がなぜ意識を失っていたのかを思い出しリゼに尋ねると、リゼが俺の右隣に視線を向けたので俺も顔を横に向けた。

「ルリアお嬢様は無事ですが、意識はまだ戻っておりません…」

「そうか…良かった…」

ルリアが無事だと聞いて安心した…。

ルリアの寝ている横顔は穏やかで、呼吸も安定しているみたいだ。

リゼが治癒魔法をかけてくれたのだろう、ルリアの見える所に傷は一つも無い。

そう言えば、リゼも俺と一緒に地面に落ちたのではないのか?

リゼの方に視線を移すと、全身泥で汚れていてメイド服にはかなりの血が付いていた!


「リゼ!リゼは無事なのか!?まだ痛い所があるようであれば今から治療するぞ!」

「いいえ、私は大丈夫です。それよりエルレイ様の右足は私では元通りにすることが出来ませんでした…」

リゼが申し訳なさそうに俺の足に視線を向けていた。

右足を意識した途端、再び激痛が走って来た!

なるほど、右足の膝から下が無くなっていれば、泣き叫びたいほどの痛みに襲われても仕方がない。

だが、俺なんかよりルリアとリゼの治療が先だ。


「リゼ、治癒魔法をかけるからな」

「はい、ですがルリアお嬢様を先にお願いします」

「いいや、ルリアはリリーに任せた方が良いだろう」

ルリアも心配だが、メイド服に大量の血が付いているリゼの治療を優先した方が良いと判断した。

リゼの手を握り魔力を確認すると…やはり体の中に相当な傷や骨折がある事が判明した。

リゼの治癒魔法では表面の傷くらいしか治せないから仕方がない。

この戦争の準備に際して、リゼには攻撃魔法を優先して覚えて貰っていた。

リゼもその事を希望していたし、治癒魔法は俺とリリーが使えるのでその様な判断をしたのだが、やはり優先するべきは治癒魔法であったと後悔した…。

俺は魔力を込め、リゼの治療に集中する…。

「エルレイ様、ありがとうございます」

「いや、リゼすまなかった」

リゼは俺の謝罪に対して首を傾げていたが、今は説明している暇は無い。

リゼから手を離し、ルリアの手を握って様態を確認する…。

全身を強く打っていて骨折が多く、ルリアが気を失っていなかったら痛みで泣き叫んでいただろう…。

そんなルリアは見たくは無いので、全力を込めてルリアの治療をした!

俺の油断が招いた結果だ…。

ルリアの命が無事だったのが唯一の救いだが、一つ間違えるとルリアは死んでいた事だろう。

どうして俺は短慮なんだ!自分の愚かさに苛立ちを覚える。

魔法が効かないだけの砦だと決め込み、相手の反撃を考慮していなかった報いだ…。

相手の反撃を考え、ルリアを城壁から離しておけばこうはならなかった…。

しかし、今は後悔している時ではない。

もう一度ルリアの魔力を確認し、無事に治療が出来たことを確認した。

しかし、リリーにもう一度治癒魔法を掛けて貰った方が良いだろう。

俺の治癒魔法だけでは不安が残るからな。


ルリアとリゼの治療が終わり、一安心した所で失われた足の痛みが襲って来た!

だが、リゼに心配かけない為にも歯を食いしばって痛みを堪え、自分自身に治癒魔法を掛けた…。

骨が出来、筋肉が骨に付けられ、皮膚が覆って行くのを見ていて気持ちいい物では無いが、失われた部位が魔法で元通りになるのを確認できたのは良かったのかもしれない。

魔法で死者蘇生は出来ないが、失われた部位組成は出来ると分かってはいたが、体験したのはこれが初めての事だった。

貴重な体験が出来たと喜ぶべきなのだろうが、もう二度とこんな痛みを味わいたくは無いと思った…。

俺は立ち上がり、元に戻った右足の状態を確認する。

問題なさそうだ。


「エルレイ様、ルリアお嬢様!」

丁度その時、ロゼが上空から霧をかき分けて現れた。

「ロゼいい所に来てくれた。ルリアを直ぐにリリーの所に連れて行って治療して貰ってくれ!」

「承知しました!エルレイ様の傷は大丈夫なのでしょうか?」

「僕は自分で治療したから問題無い!それよりルリアを頼む!」

「はい、お任せを!」

ロゼはルリアを大切に抱え上げると、ルリアに衝撃が伝わらないようにゆっくりと浮かび上がり、リリーの元へと飛んで行ってくれた。


「エルレイ様は戻られないのでしょうか?」

俺がロゼとルリアを見送ったのを疑問に思ったリゼが尋ねて来た。

リゼからすると、俺も一緒にロゼについて行くと思ったのだろう。

右足を失うほどの大けがを負ったのだから当然の事だな。

しかし、失態を放置したまま逃げ出す訳にはいかない。

まだあのゴーレム以外に仕掛けが残っている可能性があり、それを全てさらけ出させて破壊しなくては、俺の後に攻め込む軍に多大な被害が出てしまう。

「僕はあのゴーレムを倒す!

ゴーレムを倒さないと、ソートマス王国軍に多大な被害が及ぶ事になるからな。

すまないが、リゼは一人でリリー達の所に戻ってくれ」

「いいえ、私はエルレイ様にご一緒させて頂きます!」

「危険だぞ!」

「承知しております。本来ならお止めしなくてはならないのですが、エルレイ様は私が止めても聞きていただけませんよね?」

「うん、すまない…。リゼ、一緒に来てくれるか?」

「はい、何処までもお供させて頂きます!」

ゴーレムに勝てるか不安があり、リゼには着いて来て欲しくは無かったが、リゼの真っすぐ俺を見て来る目を見ていると説得は不可能に思えた。

それに、リゼが傍に居てくれた方が冷静に行動する事が出来るのは間違いない。

俺一人だと間違いなく頭に血が上って、ルリア以上に破壊してしまう恐れがあったし、冷静な判断が出来ずに死ぬ可能性も高いからな。

「リゼ、霧を解いてくれ」

「はい、承知しました」

俺達を守るために霧を出してくれていたリゼの機転に感謝し、リゼをしっかりと抱き上げてゴーレムを倒すために飛び立っていった!

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