第八十話 アイアニル砦へ侵攻 その三
≪アイロス王国軍 トリステン視点≫
ソートマス王国軍が、いよいよアイアニル砦に攻め込んでくると予想されたその日。
アイアニル砦に国王陛下が近衛騎士を連れだってやって来ると言う知らせが届き、俺達は慌てて迎え入れる準備に取り掛かった。
何故この時に国王陛下が!?
軍団長達に降伏を勧めている話が国王陛下の元に届き、俺を裁きに来たのか?
他の軍団長達も心配そうな表情で俺を見ている。
裁かれても仕方が無いのは百も承知だが、俺に処罰を下すためだけに危険な戦場に国王陛下が来るとは思えない。
国王陛下がどの様な思惑で危険なアイアニル砦に来るにせよ、俺は堂々と迎え入れるだけだな。
国王陛下を乗せた馬車と近衛騎士団が到着し、現状を説明する為に会議室へと集まった。
「国王陛下、危険なアイアニル砦にお越しくださり、アイロス王国軍を代表して感謝いたします」
カールハインツが国王陛下に挨拶をしたところで、国王陛下はそれを手で制していた。
「よい、今は無駄な挨拶をしている時ではない。
戦いを前にして皆に知らせておく。
我がこの地に参ったのは、アイアニル砦を使い戦いに参戦するため。
アイアニル砦は皆も知っての通り魔法が一切効かぬが、ただそれだけではない。
アイアニル砦は巨大な魔道具であり、王族である我にしか使うことが出来ない特別な力を秘めておる。
皆が心配している魔法使いは、我とアイアニル砦の力で滅ぼしてくれようぞ!」
国王陛下は一瞬俺の方を見て、心配するなと言うような視線を投げかけてくれた。
全てお見通しと言う事だな。
国王陛下が魔法使いを倒してくれればこちらの敗北は無い。
最後まで国王陛下とアイロス王国の為戦わなくてはな。
俺は戦いに向けての準備に向かう事にした。
≪アイロス王国軍 ノルベール国王視点≫
我はノルベール・フォーレ・アイロス。
アイロス王国は建国以来最大の危機を招いておる。
その危機を招いたのは貴族達の暴走であったが、それを止められぬ我の責任でもある。
まさか、あのような魔法使いが現れようとは誰も思わぬことでもあった。
その魔法使いに対し、アイロス王国軍が手も足もでぬ状況では降伏せざるを得ないのも理解できる。
しかし、アイロス王国軍は切り札があるのを知らぬから致し方なし。
その切り札とは、今アイロス王国軍が駐留しているアイアニル砦の事で、王族にのみ受け継がれて来た魔道具である。
我がその魔道具を使用し、敵魔法使いを排除してくれよう!
「お前たちはここで待て、これより先は王族しか入れぬ神域なのだ」
我はアイアニル砦に着き、中央にある塔の最上階へと続く扉の前に立ち、扉の封印を解除する。
「我はアイロス王国国王ノルベール・フォーレ・アイロスである。
アイロス王家の安寧とアイロス王国を守護するため、封印されし力を我に貸し与え給え!」
扉が開き、我が中に入ると扉が閉じて浮遊感に包まれた後、再び扉が開いた。
扉を出た先は広い空間となっており、我はその中央にある黒い腰ほどの高さの四角い柱の前に移動した。
四角い柱の上に我が手を置くと、アイアニル砦と我が一体となる。
今の我はアイアニル砦の全ての状況を把握できる。
そして、アイアニル砦の兵器も使用可能だ。
「ふむ、あれが敵魔法使いか…なるほど、恐ろしい魔法を使って来るものよな。
だが、このアイアニル砦には魔法は一切効かぬ!
我が領土を侵した罪、命を持って償うがよい!」
我は兵器を起動し、敵魔法使いの排除へと向かった。
≪エルレイ視点≫
「エルレイ様、城壁が動いています!」
大きな玉を落として門を壊そうと上空に上っていると、抱きかかえているリゼから報告を受けて下を見た。
城壁が動いたと言うより、城壁の一部が立ち上がったと言った方が正確だろう。
「あれは、ゴーレムか?」
「分かりかねますが、ルリアお嬢様が危険です!」
「そうだ!」
『ルリア、城壁から離れろ!』
『えっ!?』
ルリアは俺が落とす大きな玉を待ち構えていたため、正面を見ていなかった。
「リゼ、しっかり掴まっていろ!」
「はい!」
俺はリゼをしっかりと抱きとめ、ルリアに向けて急降下した!
間に合ってくれ!
しかし、城壁から動き出したゴーレムの方が早く、ルリアにその拳が迫る!
「ルリアァ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
ルリアが逃げ出そうとしていたが間に合わず、ゴーレムの拳で殴り飛ばされてしまった!
ルリア無事でいてくれ!
まだ治癒魔法を掛けられる間合いでは無い!
くそっ!俺がもっと訓練をしていれば!後悔の念に捕らわれるが、今はとにかく急いでルリアの救助に向かわないと!
「エルレイ様、避けて!」
「あっ!」
ルリアを救う事しか考えていなかったため、ゴーレムの事を失念していた!
ゴーレムの手に握られていた剣が俺に迫って来ている!
俺は体をひねり剣を躱そうとした!
「ぐあっ!」
ゴーレムの剣がかすり右足に激痛が走るが、それよりルリアの事が心配だ!
剣がかすったお陰で体勢を崩してしまったが、ルリアとはもう目の前だ!
そう思った途端、俺に掛っていた魔法が全て効果を無くし、きりもみしながら地面に叩きつけられる事になってしまった!
上空から急降下していたが、剣がかすった事で落下の威力が多少なりとも減少していたのが幸いだったのだろう。
体中を打ち付けて動けないが、死んではいない様だ…。
「ル…ルリア…」
顔だけ上げて、ルリアを確認する。
ルリアの体が微かに動いているから死んではいない様だ…。
今から治癒魔法を掛けてやるからな…。
ルリアとの距離は十五メートルほど離れていたが構うものか!
出来る出来ないではない!やるんだ!
俺は魔力を込め、ルリアに治癒魔法を掛けた…。
効果があったかは不明だが、今出来る事はこれしか無い!
もう一度ルリアに治癒魔法を掛けようとした所で、俺は意識を失った…。
≪リゼ視点≫
「エルレイ様、避けて!」
私が注意を怠ったせいで、エルレイ様が傷付かれてしまった!
その上、エルレイ様が落ちる際に私はエルレイ様から手を離してしまい、お守りする事も出来なかった…。
私は何とか着地する事に成功したが、着地の衝撃で足を痛めてしまった。
しかし、そんな事は気にしてはいられない!
エルレイ様とルリアお嬢様をお守りしないと!
今まさに動き出した城壁、エルレイ様がゴーレムと言っていた物が、エルレイ様を踏みつぶそうとしていた!
「加速!」
エルレイ様からは使用するなと言われていた能力ですが、エルレイ様とルリアお嬢様をお守りするためには躊躇致しません!
ゴーレムの足でエルレイ様が完全に見えなくなった所で、エルレイ様を抱き上げて救出いたしました!
敵はエルレイ様を完全に潰したと確信した事でしょう!
そして次に、ルリアお嬢様も同じ様にゴーレムが踏みつぶそうとした所で救出いたしました!
これで少しは時間が稼げると思います!
エルレイ様とルリアお嬢様を両脇に抱きかかえて走るのは非常に辛く、痛めた足が悲鳴を上げておりますが、泣き言を言っている場合ではありません!
私は全力で足を動かし二人を遠ざけなければなりません!
「フォグ!」
私の身長が隠れるくらいの高さの霧を発生させながら、敵との距離を離します!
そして能力の限界を迎え、私の速度は元に戻りました。
『ロゼ、エルレイ様とルリアお嬢様が負傷しました!すぐに迎えに来て!』
『分かりました、すぐ行きます!』
私の息は上がってしまい、もう走る事が出来ません。
エルレイ様とルリアお嬢様を地面に寝かせて、ロゼを待つ間お二人に治癒魔法を掛けました。
ルリアお嬢様は殴られたせいでしょう…お美しいお顔が赤く腫れあがっております。
エルレイ様に見られる前にお顔だけは、私の魔法で元に戻して差し上げる事が出来ました。
エルレイ様は全身打撲に加えて右足を失っております…。
魔法が未熟な私では右足を元に戻して差し上げる事は出来ませんが、出来る限り治療致しました。
お二人共息をしていらっしゃるので安心致しましたが、目を覚まして下さいません。
一刻も早くリリーお嬢様の所にお連れして治癒して頂かないと!
ロゼが到着するまで一瞬の気を許す事無く、お二人をお守りしなくてはなりません!
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